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エルドアン大統領の訪米は成功したが、シリア情勢は不透明

トルコのタイイップ・エルドアン大統領をホワイトハウスで歓待するアメリカのドナルド・トランプ大統領。(ロイター通信)
トルコのタイイップ・エルドアン大統領をホワイトハウスで歓待するアメリカのドナルド・トランプ大統領。(ロイター通信)
21 Nov 2019 10:11:39 GMT9

トルコのレジェプ・タイイップ・エルドアン大統領が、先週のワシントン訪問が成功したと思うのも無理はない。ホスト役のドナルド・トランプ大統領は、自身がエルドアン大統領の「大ファン」だと主張し、「偉大な大統領」と呼んだ。トルコ側がテロリストとするシリアのクルド人勢力のマズルム・コバニ司令官をホワイトハウスに招いたことをエルドアン大統領が公に非難し、シリア領内にいるクルド人勢力への攻撃を停止するよう要求した「屈辱的な」手紙を送り主に返却したと明かしたにもかかわらず、トランプ大統領は冷静だった。

エルドアン大統領のワシントン訪問は「外交上の勝利」とみられている。最も不利な状況の下で首脳会談が行われたからというのが大きい。トランプ政権高官と有力議員数名は、そもそも会談の中止を求めていた。1カ月前に下院がトルコのシリア侵攻を非難する決議案を、354対60票で可決した。一部の議員が、トルコを後ろ盾とするアラブ人勢力がシリア侵攻中に戦争犯罪に関与した可能性があると指摘した。

10月29日に、下院は1915年から1923年までのトルコ軍による「アルメニア人虐殺」をジェノサイド(集団殺害)と認定する拘束力のない決議案も可決したが、エルドアン大統領の訪問後、リンジー・グラハム上院議員は上院での同決議案採択を阻止すると述べた。

トランプ政権内部では、国防省がNATO加盟国トルコに対し怒りを爆発させた。トルコがロシアのS-400ミサイルシステムを購入したのみならず、F-35戦闘機製造プロジェクトから除外される穴埋めにスホーイ35戦闘機を購入する可能性についてロシア政府と協議していたからだ。議会はロシアと蜜月の関係を築きつつあるトルコを罰するため制裁の実施を求めているが、トランプ大統領は頑なに反対している。

ワシントンでの会談成功は、これまでエルドアン大統領が成功してきた中でも最たる例だ。 10月6日にトランプ大統領が米軍にトルコ・シリア国境地帯から撤退するよう指示した後、トルコ軍はわずか2週間でクルド人を追い払い、テルアビヤドからラスアルアインにいたるシリア領土をカバーする、東西120キロ、幅30キロメートルの「安全地帯」を設置した。

その後、トルコはロシア政府からの支持を得た。10月22日にソチで開催されたプーチン・エルドアン両大統領による首脳会談で 、「ソチ覚書」で合意しこの飛び地内での「現状維持」を確認した。これによりロシア政府は、トルコが同地域を占領し「クルド人民防衛隊(YPG)」を排除することを公に認めることとなった。

ワシントンでの会談成功は、これまでエルドアン大統領が成功してきた中でも最たる例だ。

タルミズ・アーマド

この飛び地があることで、トルコは現在国内で受け入れているシリア難民360万人の大部分を移動させることが可能となる。トルコはさらに、現在拘束中の数百名にのぼるイスラム国(IS)の外国人戦闘員を出身国に送還するとしている。

これはすべて、トルコ側の観点からすると「平和の泉作戦」が成功しているということになる。トルコの軍事作戦により数百名のクルド人戦闘員が殺害されたが、同時にこの地域はロシア軍とトルコ軍の共同管理下に置かれることとなり、確実にクルド人の帰還を阻止できることとなる。さらにロシアはYPGの部隊を、マンビジやタルリファトなど現在シリアとロシアが共同管理する地域から追放することでも合意した。

しかし、トルコ政府は調子に乗らないよう注意せねばならない。メヴルート・カヴソグル外相が今週YPGに対するさらなる軍事行動を提案したが、ロシア政府からの反応は鈍いものだった。

最近トルコ軍がうまく事を進めているのも、トランプ大統領がエルドアン大統領を招待するに至った一因だ。おかげで、トランプ大統領は10月23日から停戦が続いているのは 全てアメリカ政府の努力の賜物であると宣言できるからだ。

しかし国務省と国防総省は、トランプ大統領を説得しデイル・エゾールにある油田地帯に500~600名の米軍部隊を引き続き駐留させることに同意させた。油田から得られる収入がシリア政府に流れないようにするためだ。しかし観測筋のほとんどが、トランプ大統領は米軍部隊をシリアから完全撤退させることにこだわっているとみている。

シリアの今後に関する見通しは不透明なままだ。米国政府中枢部は、両大統領がシリアに関する重要な未解決問題について触れるのを止めた:緊密さを増すトルコ・ロシア関係に関するトルコと米国の温度差、クルド人勢力と米国との絆、今後のシリアにおける米軍の駐留。

エルドアン大統領は11月19日に議会演説を行い、トルコはS-400ミサイルシステムの購入を撤回しないとトランプ大統領に断言したと述べた。さらに国防総省は、トルコをF-35製造プロジェクトから除外するのが容易ではないことを認識している。トルコ企業が開発している少なくとも12の重要部品の代替品は見つかっていない。

トルコの侵略に対しトランプ大統領が青信号を出したことで、すでにクルド人の間では米国に対する信頼が完全に失われ、ロシアに目を向ける動きが出ている。ロシア政府はクルド人勢力に対しシリア政府と協力するよう勧めている。トルコが占領した飛び地以外のクルド地域ではシリアとロシアが共同で軍を展開するため、クルド人勢力の安全は高まるというのだ。

ロシアが現在主に取り組んでいるのは、トルコとシリア両政府間の関係を緊密にすることだ。ソチ覚書では、1998年10月のトルコとシリア間のアダナ合意および2010年12月の反テロ協力体制に関する合意を、将来和解する上での基盤として相当重視している。

シリアとトルコがよりを戻すには時間がかかり、相互に衝突することもあると思われる。しかし長期的に見ると、シリア・トルコ・ロシアの3カ国は関係を深めていくこととなる。シリア再建プロジェクトや東地中海地域でのエネルギー資源の共同開発で、共通の利害があるからだ。このシナリオの中に米国の居場所はない。

タルミズ・アーマドは作家であり、かつてサウジアラビア、オマーン、アラブ首長国連邦でインド大使を務めていた。インドのプネ市にあるシンビオシス国際大学で国際関係論を担当し、インド外務大臣を務めた故ラム・サテ氏に関する講義をしている。

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