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首相の辞任で新たな政情不安に直面するイラク

1日、イラク議会はアーディル・アブドゥルマフディ首相の辞任を承認した。(AFP)
1日、イラク議会はアーディル・アブドゥルマフディ首相の辞任を承認した。(AFP)
05 Dec 2019 09:12:01 GMT9

1日、イラク議会は緊急会議を開催し、アーディル・アブドゥルマフディ首相の辞任を承認した。10月下旬以来、同国では抗議デモが行われてきた。大アヤトラのアリー・スィースターニーが政府の対応は「明らかな誤り」であると批判し、その数時間後、アブドゥルマフディ首相が辞任を申し出た。

アリー・スィースターニーの批判は、11月28日にナーシリーヤとバスラで約60人のデモ参加者が死亡し、ナジャフのイラン領事館が放火されたことを受けて行われた。

デモ発生当初、政府が大規模な武力行使により鎮圧を図ったことで、デモはバグダッドをはじめイラク南部の主要都市に広がった。あるデモ参加者は、「飢え、屈辱、裏切り、そして大量虐殺」がデモの引き金になったと語った。

10月から11月にかけての国民の怒りと政府による暴力の対立により400人が死亡、数千人が負傷した。コメンテーターのハリス・ハサンはこのデモを「イラクの現代史における最大の草の根運動だ」と評した。

政府指導部は、国民の怒りを抑えるために様々な手段を試みてきた。11月1日、バルハム・サリフ大統領は早急な改革が必要であることを認め、国民的な対話を呼びかけた。その後アブドゥルマフディ首相は雇用と政府事業改善を公約に掲げた17点計画を発表した。その後11月18日、死者数が増加の一途をたどる中、議会の議員連合は新たな選挙法、内閣再編、汚職に対応するための特別裁判所の設置をはじめとする広範囲にわたる改革に合意した。

だが政治家たちに対する信用は低く、彼らの公約は何の影響ももたらさなかった。市民は現在の指導者たちが関わらない急進的な政治的変化を求めた。

若者の25%が失業中である同国において、当初の要求は雇用と経済状況の改善だった。しかしこれまでの抗議とは異なり今回の抗議は急激な拡大を見せ、汚職が蔓延し政治家の間で贈収賄が行われる制度的な問題や、セクト主義の割り当てによる権力の集中などといった統治構造全体に対する抗議活動へと変化していった。

そしてデモ参加者たちは汚職に対する司法の厳格な判断やセクト主義の終焉、また現在では特定の候補者ではなく政党に票が集まる現行の「名簿」システムに代わる、直接的な選挙区ベースの選挙を要求してきた。

デモの大部分はイラクのシーア派地域で行われ、カルバラーおよびナジャフのイラン領事館が標的となるなど、激しい反イラン感情が渦巻いてきた。デモ参加者らはイランが既存のシステムの主要な支持基盤であり、政府の構成や役人の任命に影響を及ぼし、イラン政府に忠誠を誓う民兵によってイラクの国家権力を脅かしていると見ている。

今のところ、国民はアブドゥルマフディの辞任に対して心を動かされておらず、選挙法の大幅な変更を主張している

タルミズ・アーマド

デモ参加者らは、親イランの民兵が国民の意思を暴力的に抑圧するために利用されてきたと考えている。イラクではゴドス軍の司令官であるガーセム・ソレイマーニー、さらに最近ではアリー・ハーメネイー最高指導者までもがデモに対して厳しい姿勢で臨むことを呼びかけており、多数の死者を出してきた。

イラン側は、米国やイスラエル、湾岸諸国、さらにはISISやバアス党など、外部のプレーヤーがデモを煽動しているのではないかと批判してきた。しかしデモの要求は国外からの影響を受けない真の主権を持つイラクのリーダーシップであり、イランの批判の根拠は薄い。

アブドゥルマフディ首相の辞任は混乱を引き起こした。今後の段階に関する様々なルールは複雑に入り組んでおり、次に何が起きるのかを誰もわかっていないように見える。議会が新首相を任命するか、そうでなければ選挙が行われるまでは暫定内閣の代表を大統領が務めることになる。このプロセスには数週間が必要とされ、デモ参加者は忍耐力を試されることになるだろう。

また、これは複数の複雑な憲法上の問題を引き起こすことにもなるだろう。今のところ、国民はアブドゥルマフディの辞任に対して心を動かされておらず、選挙法の大幅な変更を主張している。彼らの主張には、国連の監督下での選挙区ベースの直接選挙、その後の新議会における幅広い制度的改革が含まれており、セクト主義の割り当てや既存の序列が内包する汚職の撲滅などを訴えている。一部では、既存の議会制度の代わりに大統領制を求める声も上がっている。

どちらの変革も厳しい課題に直面している。既存の政党であるシーア派、スンナ派共に既存の制度の下で繁栄しており、急進的な変化には反対の姿勢を示す可能性が高い。さらにシーア派グループは大統領制を求める一方、スンナ派は現行制度の維持を望んでいる。クルド人は、現在の自治に関連する独自の便益を維持したいと考えており、いずれにせよ変化は望まないだろう。

さらに、米国とイランという外部のプレーヤーの存在もある。米国はイラクに対してほとんど興味を持っていないと見る向きもある。マイク・ペンス副大統領は11月23日にイラクを訪問したが、彼が降り立ったのはバグダッドではなくクルド人自治区の首都であるアルビールだった。一方でイランはイラクに対して強い関わりを持つと共に同国に莫大な資産を保持しており、荷物をまとめて去っていくということはないだろう。

イラクにとって、この冬は寒く悲惨なものになり、さらなる血が流されることになるかもしれない。

タルミズ・アーマド は作家であり、インドの元サウジアラビア、オマーン、UAE大使。彼はインドのプネーにあるシンビオシス・インターナショナル大学で国際研究の Ram Sathe Chairを務めている。

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