Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter
  • Home
  • サウジアラビア
  • サウジアラビアの紅海プロジェクトが「持続可能性の新しい国際基準」を設定=CEO

サウジアラビアの紅海プロジェクトが「持続可能性の新しい国際基準」を設定=CEO

26 Oct 2019 10:10:55 GMT9

フランク・ケイン

  • サウジアラビア西海岸に「素晴らしい地」を開発して、世界の珊瑚を守る計画について、ジョン・パガーノ氏が語る
  • 「ビジョン2030に対するサウジアラビアの若者の情熱と熱意には、目を見張るものがありました」と紅海開発会社(Red Sea Development Co)のCEOは言う

ドバイ:ジョン・パガーノ氏は世界中のメガプロジェクトに携わってきたが、「これほど将来のサウジアラビアへの影響力が大きいものはありませんでした」と話す。

「これ」とは、同氏がCEOを務める紅海開発会社のことだ。サウジアラビア北西部のNEOMに建設される未来的な大都市や、「Qiddiya」レジャー・リゾートと並び、石油依存からの脱却を目指すビジョン2030の戦略における主要な取り組みの一つである。

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が西海岸に惚れ込み、頻繁に訪れたのは青春期のことだ。西海岸の2つの町、アル・ワジュとアムルージの間には、2万8000平方kmにわたって珊瑚礁、群島、峡谷、火山など、自然の絶景が広がっている。しかし、紅海プロジェクトが特別な存在であるとパガーノ氏は述べる理由は、それだけではない。

カナダ出身のパガーノ氏の話によれば、飛行機を操縦する早期リタイア生活を送っていたところ、サウジアラビア政府から打診があり、紅海プロジェクトを運営するオファーを「売り込まれた」という。「ビジョン2030に対するサウジアラビアの若者の情熱と熱意には、目を見張るものがあり、私自身も心躍らされました。国の変革に立ち会えれば、とても面白そうだと思いました」と同氏は語る。

観光・レジャー産業の振興は、変革の主なテーマの一つだ。現在、サウジアラビアの国内総生産(GDP)の3〜4%を占める同セクターは、ハッジとウムラの巡礼に伴う宗教ツーリズム収入が大きな割合を占める。世界的に、観光収入はGDPの10%を占めており、労働人口の10%は観光業に従事している。

紅海プロジェクトは将来的に、サウジアラビア経済に対して6300億円の波及効果を及ぼし、国内で7万人の直接的・間接的雇用を創出することが見込まれている。

「観光業と観光セクターをほぼゼロの状態から発展させることで、経済多様化のプロセスを支え、それに対し貢献することができるのは、大きなチャンスといえます」とパガーノ氏は語る。

観光プロジェクトであるのは確かだが、観光業と大きく異なる点もある。当然、パッケージ旅行やコスタクルーズ風のビーチ遊びは除外される。パガーノ氏側近の言葉を借りれば「紅海のクラブメッド」にはならないという。「ドバイになることは目指していません」と同氏は言う。

略歴

出身地 - 1959年、トロント生まれ

 

教育 - トロント大学で機械工学の理学士を取得

職歴

  • カナリー・ワーフ・コントラクターズ(ロンドン)- マネージング・ディレクター
  • Baha Mar Development Company(バハマ)- 社長
  • カナリー・ワーフ・グループ(ロンドン)- マネージング・ディレクター
  • Old Fort Capital Investments(ロンドン)- プリンシパル
  • 紅海開発会社 - CEO

「ラグジュアリーツーリズムの観光地として、持続可能性の新しい世界基準を設定することになります」とパガーノ氏は言う。「できるだけ沢山作り、可能な限り稼ぐのが狙いではありません。将来の世代のために、観光資源を保護するのが狙いです」

世界市場で最も成長率の高いセグメントであるラグジュアリーツーリズムでは、裕福な観光客たちが、他では見られない体験のためなら、大金を支払うこともいとわない。特別感を持たせるため、訪問客の数を制限する予定だ。地域に点在する90の島々のうち開発されるのは22島だけで、完工予定の2030年における年間訪問者数は100万人に制限される。

生態系に対する重要性が特に高いとみなされている9つの島については、全く手を加えず、来島を注意深く管理する予定だ。そのうちの一つであるAl-Waqqadi島も、観光地としては最適に思えたが、希少種のウミガメ、タイマイの繁殖地であることが判明した。「結局、開発しないと伝えました。これは、開発と自然保護を両立できることを示しています」とパガーノ氏は言う。

珊瑚について聞かれたパガーノ氏は、興奮した口調でこう答える。「世界中で珊瑚礁が死に絶えつつありますが、世界で4番目の規模を持つここの珊瑚礁は健康に育っています。その理由を探っているところです。キング・アブドゥッラー科学技術大学(KAUST)と密接に協力して、珊瑚の成長について実験を行い、この地域の珊瑚に固有のDNAについて解明することを試みています」

「調べてみると、紅海の水温と塩分濃度は比較的高いのですが、それでも珊瑚は繁栄しています。理由を探っているところですが、謎の一部は解明できました。その珊瑚を世界中に輸出することで、グーレートバリアリーフや、ひどく傷付いたカリブ海の珊瑚を保護するという構想があります」とパガーノ氏が語る。

プロジェクトの構造には持続可能性も盛り込まれている。太陽光・風力発電による再生可能エネルギーを電力源にして、100%カーボンニュートラルを達成する予定だ。先進技術を活用することで、これまで再生可能エネルギーの障壁となっていたエネルギー貯蔵問題の解決が図られる。パガーノ氏は一例として、太陽光発電を用いて昼間は氷を作り、夜間はそれを冷房に使う計画を引き合いに出し、「技術はあるのですが、誰もこの規模でやってみたことがないのです」と述べる。二酸化炭素貯留のプロセスを促すため、「人工木」を植える計画もある。

パガーノ氏は、KAUSTと共同でもう一つのプロジェクトに携わっている。サウジアラビアで広く用いられている脱塩処理方法は、海水塩分濃度を過度に上昇させており、「Brains for brine」プロジェクトではこの問題の解決を目指している。

しかし、8000室のホテルや空港に加え、1万人のプロジェクト作業員を泊める小さな町を、世界的にも交通量の多い航路の沿岸部に建設するのであれば、それ自体の環境課題も無視できない。

商用航路はプロジェクトの場所から十分離れているし、そもそも大型船舶は水深の浅い珊瑚礁には入ってこられないと、パガーノ氏は言う。ちなみに対談の前の週には、イラン船籍の石油タンカーが紅海に石油を流出させていた。

建設現場での作業量を最小限に抑えるため、サウジアラビア国内の別の場所で作られたプレハブユニットを紅海まで輸送し、島の現場で組み立てと設置が行われる予定になっている。プロジェクトの第1フェーズが完了し、1年目の訪問者数30万人への対応が整う2022年までに、パガーノ氏は3000室の客室を利用できるようにしなければならない。

 

訪問者数の約半数はサウジアラビアとその他の湾岸諸国からの観光客が占め、残りの半数はそれ以外の各国からになると予測されている。なかでもヨーロッパと体験重視のアジア市場からの観光客は、その大半を占めると見られている。

紅海地域の大きな魅力といえば、一年を通して、気温と湿度がアラビア湾を中心とする周辺地域の中では比較的低いという点だ。このおかげで一年中営業することも可能だ。「むしろ南ヨーロッパの気候に近いです」とパガーノ氏は言う。

パガーノ氏は訪問者に対して「豊富な体験」を約束しているが、どのようなリゾートが期待できるのだろうか。「リゾート専用の到着ビザを用意する予定もありましたが、サウジアラビア全土を対象とする観光ビザができたので、必要がなくなりました」と同氏は言う。

ひとたびリゾートに到着した観光客は、ここ以外のサウジアラビアとは違った印象を受けるだろう。リゾートはサウジアラビアにおける「経済特区」として扱われ、社会規範が緩和されるとともに、国外からの訪問者にとっても魅力的な環境が作られるという。

「現時点でアルコールを出す予定はありませんが、それはより大局的な問題であり、私たちが判断するところではありません。しかしアルコールがなくても、世界のムスリム人口を見れば、潜在的な観光客数は15億人にのぼります」とパガーノ氏は語る。

こうした野心を掲げる変革的なプロジェクトには、当然相応の費用がかかる。パガーノ氏は建築・開発費の総額が「数千億円」に及ぶことを認める。これまでは、公的投資基金(Public Investment Fund)が自己資本の全額を投じて費用を負担してきた。

 

そこでパガーノ氏は、2800億円規模の「従来式長期債券」を検討している。橋梁、道路、新設空港などの建設が予定され、矢継ぎ早に契約が交わされる目下進行中の大規模インフラプロジェクト。今月末にリヤドで開催される未来投資イニシアチブ(Future Investment Initiative)では、これに対して新たな出資が約束される。パガーノ氏によれば、こうした資金をプロジェクトは必要としており、来年前半には調達の準備が整うという。

「それに加えて、数多くの投資家に接触し、プロジェクトに引き込むことができないか、可能性を探っています」とパガーノ氏は言う。既にフランスのホテルチェーン、アコーホテルズが参画しており、大手国際ホスピタリティブランドの大半が、多少は関与することになると同氏は見ている。開発地域におけるインフラの建設・運営契約をめぐっては、多数のコンソーシアムを対象に入札が行われている。

こうした取り組みは全て、サウジアラビアで進行中の大きな変革の一環であり、その勢いは止まりそうにない。サウジアラビア政府は2030年までに、年間訪問者数1億人の達成を目指しており、上流階級には紅海地域へ向かい、パガーノ氏が開発中の「素晴らしい地」を堪能してもらう運びだ。

「野心的ですが、実現性は高いです。前例のないビジョンですが、まずは小さな規模からです」とパガーノ氏は締めくくった。

 

特に人気
オススメ

return to top