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上村大使:サウジアラビア—日本の関係強化には教育がカギ

「サウジアラビアと日本の近代史には類似点が見られます」と語る上村大使。
「サウジアラビアと日本の近代史には類似点が見られます」と語る上村大使。
上村大使によると、日本でメディアを通して得られるサウジアラビアの情報はまだ限定的だという。
上村大使によると、日本でメディアを通して得られるサウジアラビアの情報はまだ限定的だという。
「過去1世紀におけるサウジ—日本の二国間関係は、主に石油貿易とビジネス取引とともに発展してきました。」と上村司大使。
「過去1世紀におけるサウジ—日本の二国間関係は、主に石油貿易とビジネス取引とともに発展してきました。」と上村司大使。
19 Nov 2019 10:11:46 GMT9

アレキサンダー・ウッドマン

10月22日、195か国から集まった5,000人に上る公賓や要人らが、何千人もの日本国民とともに徳仁天皇の即位礼正殿の儀に参列した。この盛大な儀式の前夜に、東京でアラブニュース日本語版が立ち上げられた。この2つの出来事は、日本—アラブ関係の新しい時代の象徴として捉えられた。

この関係は、戦略、ビジネス、文化、そして貿易協定に根差したものだ。日本は原油の85%を湾岸協力会議(GCC)加盟国から輸入しており、また日本からも様々な製品がGCC加盟国に輸出されている。政治的、外交的関係が強化するなか、一般国民同士の関係については、まだまだ成長の余地がある。

日本語版立ち上げと時を同じくして、アラブニュースはYouGovと協力して「アラブ人から見る日本」というパンアラブ調査を行った。調査対象者は22か国の国籍にわたる3,033人のアラビア語を母国語とする人々で、その結果からはビジネスや貿易関係、和平・提携の様々な面や、日本の文化、社会、地理に関するアラブ人の認識が浮き彫りとなった。

調査結果を発表するイベントのスピーチで、上村司在サウジアラビア日本大使は、「(アラブニュースの)立ち上げは、国民同士の理解、共有、思いやりという新たな時代の誕生を歴史に刻むでしょう」と述べた。その後、上村大使とサウジ—日本関係の様々な局面と、それらが将来もたらすものについて話し合った。

Q: サウジアラビア王国と日本の歴史について学んでいると、「伝統」という単語が多く出てきます。伝統の価値や重要性、そしてそれが両国にとって何を意味するかについてお話いただけますか。

上村大使:サウジアラビアの方々に日本についてお聞きすると、「ハイテク」、「アニメ」、「スシ」という言葉をよく耳にします。世界における日本の知名度という点でこれらが貢献したことは否定しません。しかし、サウジアラビアの方々には独特の歴史や伝統を持つ日本をもっと知って頂きたいと思っています。日本の近代化は150年前、当時封建制度の下に暮らしていた日本人の結束を強め、欧米の力に対抗できる近代国家の確立という目的に向けて協同させるため、明治時代の政府が始めました。日本人は欧米の技術やシステムを外国人から学び、日本に取り入れました。サウジアラビアと日本の近代史にも似ている点が見られます。両国は将来の道標となる共通の教訓を共有しています。日本はこのような改革を支持おり、サウジアラビアも自国の伝統や社会に沿った形で発展を遂げられることを願っています。

Q: 「調和」を意味する日本の教育モデルである「和」では、個人ではなく社会での役割に対する協力や尊敬が求められます。大使として、派遣された国との二国間関係において、どのようにこの「和」を構築されていますか。

上村大使:「和」というのは日本の伝統的な倫理で、「平和」、「対立のない状態」、「調和」などいくつもの意味を持っています。7世紀の伝説の人物、聖徳太子の言葉に「和を以て貴しとなす」とあります。日本人は幼少期よりこの道徳を学びます。自分の利益だけでなく、他人のために尽くすということを学び、自分勝手な行動を避けるように教えられます。外国人に対して日本人が見せる礼儀正しさは、アラブ諸国を含め色々な国の方々に称賛されます。「和」は確かに他国との良好かつ信頼できる関係の構築の基礎となります。この概念は対立を避け、許す心を育て、争いが起こった場合には和解を促すための思考モデルとなり得ます。

Q: 2005年には日本とサウジアラビアの国交樹立50周年となりました。100周年記念に向けての展望をお聞かせください。サウジアラビアと日本は、どの分野で強力な連携と調和の道を開拓できるとお考えですか。

上村大使:過去1世紀におけるサウジ—日本の二国間関係は、主に石油貿易とビジネス取引とともに発展してきました。日本は1日当たり100万バレル以上の原油を、日本向けの単一最大原油供給国であるサウジアラビアから輸入しています。 複数の共同プロジェクトや投資プログラムも進められています。同時に、両国はビジネス中心の関係を、より多様性のある戦略的パートナーシップへと転換する努力もしています。ソマリア沖の海賊対策は、政治的対話や協力を示す重要な例です。日本は、より友好的で広範囲の関係を、不可欠なパートナーとしてサウジアラビアと構築すると決意しています。

Q: 広範囲にわたる二国間関係は日本とサウジアラビアの皇室がお互いに尊重していることの印です。両国の強力な皇族が今後も変わらぬ結束を維持・育成するのに必要不可欠な要素は何でしょうか。

上村大使:日本の皇族とサウジアラビアの王族は、何十年にもわたって友好的な関係を保ってきました。例えば、徳仁天皇は皇太子妃と1994年に初めてサウジアラビアを訪問され、その後何度も王国へ足を運ばれています。サルマン国王は過去5年間に2度訪日され、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子も副皇太子として日本に来られています。

明仁天皇は4月30日に退位され、徳仁天皇が即位されました。今後も今まで通りの友好関係が続き、さらに発展することでしょう。

Q: 日・サウジ・ビジョン2030の中で、サウジ政府は日本にPublic Private PartnershipPPP)を実施する重要なパートナーになることを期待しています。日本のPPPセクターで成功していて、サウジアラビアにも導入できるのはどのような分野でしょうか。

上村大使:2017年に二聖モスクの守護者サルマン国王と会談を行いました。その会談で両国は二国間協力と特定のプロジェクトの基本的な方向性をまとめた「日・サウジ・ビジョン2030」を承認しました。これは2016年9月にムハンマド・ビン・サルマン皇太子と安部総理が設立を決定した「日・サウジ・ビジョン2030共同グループ」という政府間対話の枠組みの下に行われた話し合いの成果です。 

日・サウジ提携の新たな羅針盤として、原油依存からの脱却と雇用創出を目指す政府の経済的・社会的青写真であるサウジ・ビジョン2030と、年間GDP600兆円(5.5兆ドル)の達成を目指す日本の成長戦略のシナジーを利用する計画です。このようなシナジーを最大限に引き伸ばすため、両国は多様性、イノベーション、そして日本特有の要素であるソフトバリューの3本柱の下で包括的協力関係を作っていきます。41の日本およびサウジアラビアの省庁、政府系機関が参加する明確なパートナーシップが、9つの優先分野に設置されました。

Q: A.W.日・サウジ・ヘルスケアフォーラム2018が日・サウジ・ビジョン2030年の枠組みの中で開催されました。このフォーラムで両国の医療専門家に対して焦点としたのはどのような分野ですか。

上村大使:両国は日・サウジ・ビジョン2030の一環としてリヤドでそのフォーラムを開催しました。200人以上の糖尿病、腫瘍学、内視鏡検査、緊急・災害医療の専門家が国内外から出席し、それぞれの経験を共有しました。日本からも多くの民間企業が佐中氏、高品質な医療機器を展示しました。フォーラムでは、両国の専門家らが各分野での具体的な協力について話し合いました。さらに、サウジと日本のビジネス代表者らからは、素晴らしいビジネスチャンスが提示されました。医療はサウジアラビアと日本の両国にとって常に重要な課題です。今こそ、両国が一歩前進して、新たな協力関係を築く時だと私は信じています。

Q: 日本大使館がサウジアラビア人学生のために導入・推進している奨学金制度、また逆に日本人学生に対するサウジアラビアの奨学金制度についてお話しいただけますか。

上村大使:サウジアラビアと日本の関係を構築・強化するうえでカギとなる要素が教育であることは間違いありません。日本には文部科学省奨学金という政府の奨学金制度があります。このプログラムでは、若いサウジアラビア人学生、研究者や教員が年に2回日本を訪れ、言語、科学、芸術、ビジネスを学びます。これは日・サウジ・ビジョン2030の枠組みの中の二国間協力の一環です。サウジアラビアもまた、二聖モスクの守護者の海外奨学金プログラムを通して日本を含む海外に若者を送りだすという、素晴らしい機会を提供しています。過去に奨学金プログラムを利用して日本で勉強した人の多くが、サウジや日本の社会の多くの分野の専門家として、積極的かつ立派に活躍しています。

Q: リヤド国際ブックフェア2017の際、日本大使館の特定の部門が日本文化、書道、折り紙に関する本を展示していました。新しい世代のリテラシーレベルはどのように評価されますか?今日の読者は、読書するときに何に注目しているとお考えですか。

上村大使:私の意見としては、この国だけでなく世界中で、若い世代はビジュアル中心となっていて、SNSに見られるような、視覚的に魅力のある内容に引き付けられるのだと思います。しかし、本の活字より、このような視覚に訴える内容を好む新たな世代にとっても、書道、建築、料理、庭園、武道、茶道などの日本文化は若いサウジアラビア人読者の心に届くと考えます。

日本人は芸術やライフスタイルの中でシンプルさを大事にしており、そこに深い哲学があります。私は、その精神にサウジの読者たちが感銘を受け、興味深いと感じるのだと思います。サウジアラビアと日本はアジアでも全く違う国です。表面上は、両国の文化は大きく違って見えます。しかし、サウジの若い読者たちが伝統、ポップカルチャーの両方の写真集や日本人そして日本文化の精神を示す本を手に取ってページをめくることで認めてくださることに感謝しています。

Q: サウジアラビアでのイフタールのレセプションで、大使は日本の大学の同窓生とその家族を招待されました。両国の関係強化における教育の役割は何でしょうか。そして両国が倣うことのできる、世界的に優秀な教育モデルにはどのようなものがありますか。

上村大使:日本でメディアを通して人々が得られるサウジアラビアの情報はまだまだ限られており、両国間の心理的距離の存在は大きなものです。しかし、日本やサウジアラビアで勉強しているサウジ人学生や日本の大学を出た人々が、両国間の関係を強めることを心から願っています。先進技術、知識、スキルの習得は、彼らが日本で経験することのほんの一部に過ぎません。お互いの歴史、道徳、社会生活を学ぶことも非常に重要で、それこそが王国と日本が今後ユニークで新しい開発モデルを作り出すことを可能にするのだと考えます。 大使館は引き続き、サウジの若者に奨学金プログラムを通して日本に行くことを推奨し、またイフタール・レセプションなどのイベントを通し、現在サウジアラビアに住む日本の大学の卒業生が、同じ経験を持つ仲間とつながる場を提供するつもりです。

Q: 2008年の国際宗教の自由報告書によると、日本には約125,000人のイスラム教徒がいて、そのうち10%は日本人ということです。大使の意見として、社会の中にある異なる文化に対する知識や理解を深める最良の方法はなんですか。それぞれが平和的に共存するにはどのようにすれば良いですか。

上村大使: 日本は礼儀正しく、調和を重んじる国として知られています。この礼儀正しさは、イスラム教を含む、異なる宗教を唱える人々にも向けられます。150年前、日本に革新をもたらした明治維新の際、日本人は海外の技術、社会制度、教育について多くの知識を得ました。また、封建主義の撤廃、より包摂的な社会への変革、そしてすべての人に才能を開花して夢を叶えられる公平な機会を与えることで、近代的な社会を実現しました。その結果、日本人は多様性を受け入れ、宗教的少数派を含む他者から学ぶという基礎とメンタリティを持つようになりました。

Q: 日本はイスラム教徒が少ない国ですが、イスラムコミュニティーのための立派なモスクが多くあります。これは日本の文化的外交と他人への尊敬という点で、どのような意味を持ちますか?

上村大使:日本は来年、2020年東京五輪とパラリンピックを開催します。その準備期間において、外国人を歓迎するという雰囲気が強まっています。開催組織は、イスラム教徒の皆様のために礼拝の施設、モスク、ハラールレストランを増やす計画です。

日本人は好奇心旺盛で誠実、勤勉で礼儀正しい人々です。日本人は、違いを通して学ぶことを目指します。私はサウジ人学生や卒業生が文化外交官となり、サウジ人に日本のことを教えてくれると期待しています。私はまた、大使館の外交官や職員に公私の様々な場においてサウジアラビアを宣伝するよう奨励しています。このような、両国の実生活を知る人々による草の根レベルの活動こそが、宗教、人種、文化の面での少数派を尊敬できる、より包摂的で理解のある社会を作ると信じています。

アレキサンダー・ウッドマンはガルフをベースにする執筆家で、国際保健、国際医療政策開発、多国籍・多文化医療政策、倫理学および国際外交が専門。alexwoodman.ucla@gmail.com.

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