ラワン・ラドワン
ジェッダ:2年前、新型コロナの初期流行の真っ只中で、世界中のイスラム教徒は聖なる月ラマダンをロックダウン下で祝うことを余儀なくされた。
彼らは、メッカやメディナへの巡礼の機会はおろか、大勢の家族と過ごし、一緒に断食を破るという伝統を楽しむ機会も奪われた。
現在は、集団ワクチン接種のおかげで、ソーシャルディスタンス確保を含む多くの予防措置が緩和され、渡航禁止が解除され、日常生活に平穏な装いが戻りつつある。その結果、世界中の多くのムスリムが、2019年以来初めて、馴染みのある形で再び自由にラマダンを祝うことになる。
イスラム暦で最も神聖な月は、今年は4月1日に始まる予定だ。例年通り、正確な日付は天文学者と顧問からなる委員会が三日月を観測するまで分からない。三日月が確認されると、イスラム教徒は昼間の断食月間に入る。
2019年のラマダン最終日の6月3日、巡礼者たちがメッカの大モスクとメディナの預言者モスクに集まって行ったタラーウィーフの礼拝が、かなり長い間ラマダン期間中の最後の礼拝になるとは誰も予期しなかった。
9ヵ月後の2020年3月11日、世界保健機関は、当初中国の武漢市で発生した新型コロナウイルスが本格的な世界的パンデミックになったと宣言した。世界各国の政府はすぐに、移動や社会的交流の自由に厳しい規制を課すことで対応を開始した。
サウジアラビア保健省は、同年3月2日、同国内で初めて新型コロナの感染が確認されたことを発表した。このサウジアラビア人の患者はイランからバーレーンを経由してキング・ファハド・コーズウェイで移動してきた人物で、直ちに隔離された。
同省は感染管理チームを派遣し、彼が接触したあらゆる人々を追跡して検査を行った。2日後、2人目のサウジアラビア人が新型コロナの検査で陽性となり、まもなく他の多くの国と同様、サウジ全体で新型コロナ感染者が急増し始めた。
3月6日、メッカの大モスクの円形の中庭の写真がSNSで拡散された。いつもはカアバ神殿の周囲を回る白い服をまとった礼拝者らでいっぱいの、「ディッシュ」と呼ばれる中庭は、誰もおらず、活気がなく、静まり返っていた。数人の警備員を除いては完全に無人だった。
その気の滅入るような画像は、急速に深刻化する医療上の緊急事態の深刻さを凝縮しているようにみえた。
サウジアラビアの元教育関係者サナア・アブドゥルハキーム氏(72歳)は、アラブニュースに「あの空っぽの中庭の光景に、現実を突きつけられました」と語った。
「人生で一度もモスクが空っぽなのを見たことがありませんでした。私はメッカのモスクのちょうど真向かいで生まれ、ずっとその近くで暮らしてきました。いつも活気に満ちている場所です。礼拝者がイマームと一体となって祈るときだけ、静寂が訪れるのです」
アブドゥルハキーム氏と彼女の親族は、パンデミックによる制限で、巡礼者を歓迎し食事を提供するという一族の大切な伝統を断ち切らざるを得なくなった。彼女は今年、この慈善活動を再開することを楽しみにしている。
「毎年、息子や孫たちがモスクの屋外の中庭に向かい、温かい食事やデーツ、水、ラバンなどを配ります」と彼女は話す。「皆でお金を出し合い、父親と私が包装の過程を監督します」
「家族ぐるみの活動を2年間経験できず、つらかったです。家族ぐるみの活動となった35年間に及ぶ習慣をどうして断ち切ることなどできるでしょうか?」
今年3月6日、サウジアラビア当局は新型コロナに関する制限のほとんどを解除し、大モスクや預言者モスクを含む公共の場におけるソーシャルディスタンスの確保が不要になったと発表した。
翌日、数百人の巡礼者が集まり、大モスクで早朝の礼拝を共に行い、何ヶ月ぶりかに肩を並べて立つことができた。
「これを待っていました。今回のラマダンでは私たちの儀式と伝統をいつも通り行うことができ、新型コロナについて耳にするのがこれで最後になるよう願っています」とアブドゥルハキーム氏は述べた。
「俯瞰的に見れば、ラマダンを目前に控えた、これ以上ない良いタイミングでした。2年超ぶりに孫に会えます。ラマダンの初日には、また一つ屋根の下にみんなが集まり、家はいっぱいになるでしょう。これは、私たちが知る新型コロナの終わりとなるかもしれません」
サウジアラビア当局は最近、その国の不安定な状況や高い新型コロナ感染率から、これまで高リスク地域とされていた、17カ国との間のフライトの禁止を解除したことも発表している。さらに、サウジのどの入国地点においても、渡航者のワクチン接種の証明書の提示、到着後の隔離、出発前または到着前のPCR検査が不要になった。
サウジのハッジ・ウムラ省は、群衆の数を制御し、トラブルのない巡礼を確保する取り組みの一環として、ウムラの実行や預言者モスクのラウダでの礼拝を希望するムスリムは、引き続き「エアトマルナ(Eatmarna)」または「タワッカルナー(Tawakkalna)」アプリを通じて許可を申請する必要があると発表している。マスクの着用も引き続き義務付けられる。
敬虔なムスリムにとって、ラマダンは断食と祈りの月だが、大勢の家族と長い時間を過ごす機会でもある。しばしば家はきらめく豆電球で装飾され、玄関はランタンで飾られ、リビングやダイニングルームの天井には赤や青のオリエンタルな雰囲気のバナーが吊るされる。ゲストを迎える準備として、伝統的な赤の柄付き布などで、自分の家を完全にラマダン仕様に変身させる家族もいる。
「今年のラマダンは、母が訪れるだけでなく、叔父や従兄弟もエジプトからウムラをしにやってきて、私の家に数日間滞在するので、特別なものになるでしょう」と、ジェッダに住む29歳のサウジのエジプト人で二児の母親、ナジャ・ジャマール氏はアラブニュースに語った。
「今年は母が中心になって、装飾は説明付きで早く届きました。私は、彼らの好きな食べ物を全部買ってきて、最高のサウジ料理でいっぱいの幅広いメニューを用意しました」
「母からの小包の中で一番特別なものは、あらゆるラマダンのグッズが見つかるカイロの旧市街で特別に買ってきてくれたフール(空豆)の伝統的な瓶です」
「それは、ある種のお祭りです。全力でラマダンの飾り付けをしたり、ランタンやデーツ、子供用の飾り付けキットなどラマダンのギフトを贈り合ったりしていない家庭は一つも知りません」
「良い知らせは、新型コロナがまだ脅威であることを忘れさせてくれました。今や些細な心配事になっています。今こそ、恐れずにラマダンを楽しみ、家族と愛を分かち合う時です」
ジャマール氏の叔母で、カイロのサウディア航空を退職したガウダット・ハフェズ氏は、カイロのサイイダ・ザイナブ地区にある有名な販売店のカスタマイズしたランタンで姪を驚かせたいと思っていると語った。
「姪に再会し、故郷の味を届けるのは良いことです」と、彼女はアラブニュースに話す。「与えること、団結、家族の絆の月であり、過去2年間を過去のものとする時です」