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ディルイーヤ:壊れやすくも「可能性のその先を永続的に思い起こさせる」

英国の作家ロバート・レイシーは、ディルイーヤを「砂地のポンペイ」と呼び、「可能性の広がりを永遠に思い起こさせる場所」だと記している。(提供写真)
英国の作家ロバート・レイシーは、ディルイーヤを「砂地のポンペイ」と呼び、「可能性の広がりを永遠に思い起こさせる場所」だと記している。(提供写真)
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23 Sep 2021 01:09:02 GMT9
23 Sep 2021 01:09:02 GMT9

エファレム・ コッセイフィ 

ニューヨーク:建築家のメイ・シャエル氏は、ディルイーヤが250年も存続しているという事実に感嘆している。この遺跡は、何世紀にもわたりワディ・ハニファの峡谷に隠されていたため、人間の干渉による破壊的な影響を免れたのではないだろうか。

泥レンガの家と城壁からなるこのオアシスでは、厳しい砂漠の真っただ中にある他の歴史的遺産に比べて、少し気候が穏やかなのだろうか。あるいは、環境にほとんど害を与えず、地域の生態系の自然な能力と調和していた古代の泥レンガによる建築方法は、現代の建築技術よりも回復力に優れているのだろうか?

国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産センターのアラブ諸国ユニット責任者であるシャエル氏は、「砂漠の環境で繁栄した完全に均質な都市集落が残っている例は、ほとんどありません。その意味で、ディルイーヤは非常に珍しい存在です」と語る。

リヤドに向かって南に伸びる細い峡谷であるワディ・ハニファの両側に、大部分がアドビ(泥レンガ)で作られた旧市街の遺跡がある。1818年にオスマン・トルコ軍の侵攻によって都市が破壊された後、ディルイーヤの住民は、かつての首都の遺跡を残したままリヤドに移住した。

イギリス人著述家のロバート・レイシー氏は、ディルイーヤを「砂に埋もれたポンペイ」と呼び、「可能性のその先を永続的に思い起こさせる」と表現する。ディルイーヤは、峡谷を見下ろす丘の上に建てられた3つの地区に分かれている。ユネスコの世界遺産に登録されているアル・トライフ地区は、3つの地区の中で最も高い岬に位置しており、下方にある地区へは徒歩で簡単にアクセスできるようになっている。

都市は一世紀以上の間忘れられていたが、1900年代半ばになると、家族が少しずつ戻ってきて、新しい泥レンガの家を建てるようになった。

「この都市は、元来アドビという非常にデリケートな素材で建てられており、常にメンテナンスや保護が必要だったにもかかわらず、全体として元の都市形態や構造的な完全性をほぼ維持しています」とシャエル氏は語る。

世界遺産に登録されるためには、歴史を物語るのに十分な遺構があり、「重要性を物理的に説明できる必要がある」と彼女は説明する。

「(ディルイーヤの)構成要素のほとんどが残っているので、都市計画が分かります。人々がここでどんな生活をしていたのか、どのように環境と関わり、環境に合わせて建築していたのか、理解できるようになっています。ディルイーヤでは、全体像が見えるのです」。

世界遺産に登録されるということは、その遺跡が世界にとって普遍的な重要性と価値を持つことを意味する。アル・トライフ地区の人類にとっての価値とは何だろうか?世界は同地区の歴史から何を学べるのだろうか?

「まず、アル・トライフ地区の城塞は、オアシス内の多くの宮殿からなる、多様で要塞化された都市の成り立ちを代表するものです。アラビア半島中心部だけで発展した特有のナジュド建築・装飾様式の優れた例と言えます」。

「アル・トライフ地区は、幾何学的な装飾のセンスが際立つだけでなく、主要な宮殿群にアドビを使用するなど、環境に合わせた建築方法が採られていたことを示します」。

つまり、常に過酷な自然の力に立ち向かっていた人々が、数少ない入手可能な資源である泥を利用して、独創的かつ革新的な方法で極端な砂漠気候に対応し、快適な生活環境を作り出したというわけである。泥レンガに加えて、土台となる石灰岩や椰子の木など、入手しやすい天然資源が活用されていた。ナジュド様式の建築家は、泥を使った下塗り、石の柱、幾何学的なモチーフを描いた木製のまぐさなども利用していた。

ナジュド様式の町の伝統的な特徴には、密集した都市構造、狭い道路、中庭を備えた建物、自然に温度を調節するための厚い壁などがある。

「ディルイーヤの全体的な構造は、砂漠での生活を反映したものです。この地域に人が住み着くことができたのは、土地に利用できる自然資源があったからです」。

「この町はオアシス内の集落です。オアシスは常に、水、生命、一種の生物多様性を提供できる、非常に特別な場所なのです」。

アル・トライフ地区が世界遺産に登録された際にユネスコに提出した資料によると、同地域の格子状の乾燥した峡谷は、地質学的に湿潤な時代に削られて形成されたという。その結果、谷の地下の一部では永久的に水位が保たれており、井戸を掘って利用できるようになっていた。

「ワディ・ハニファは、かつて農業を営むのに十分な降雨量があり、特にパームヤシの木や灌漑によるオアシス農業が行われていた希少な場所の一つです。同時に、住人は井戸を掘って地下水をくみ上げ、ラクダや馬などの動物を使って水を運んでいました」と、シャエル氏は語った。

また、都市全体や建築物が比較的手つかずの状態で残っており、歴史的な信憑性が高いことも同遺跡の優れた点の一つだ。

「初期の都市計画がよく保存されており、そのことが道路網からも明確に分かります。過度に積極的な開発が行われた形跡もありません」とシャエル氏は説明する。

都市としての一貫性に加え、アル・トライフ地区では社会的・政治的・精神的・宗教的機能が、物理的な発展と同時に有機的に成長していることが分かる。

「世界遺産委員会でも、このことは登録の条件の一つとして認定されました」。

ユネスコの世界遺産登録基準の一つに、「出来事や生きた伝統、思想や信条、卓越した普遍的意義を持つ芸術作品や文学作品と、直接的または間接的に関連している」必要性があると掲げられています。

アル・トライフ地区の重要性は、アラビア半島の中心に位置するディルイーヤに1744年、第一次サウジ王国が建国され、そこから発展したという歴史に直結していることだ。

2世紀後にサウジアラビア王国が建国され、発祥の地ディルイーヤはその一部となった、アル・トライフ地区がユネスコ世界遺産に登録されてから10年以上経った現在、主要な観光スポットとして人気が高まっている。

観光客は、古い泥レンガの建物跡を散策したり、ナツメヤシの木の下で家族でピクニックをしたり、レストランやコーヒーショップなどの現代的施設の間を通る曲がりくねった蛇のような小道で子供を遊ばせたりできる。

ディルイーヤ・ゲート開発局は、歴史的観光地を「文化と遺産、おもてなし、ショッピング、教育を軸とする世界的なライフスタイル発信地の一つ」に変容させるという非常に野心的な目標を掲げている。

シャエル氏は言う。「ディルイーヤが観光客向けに開放されるのは良いことです。観光客は、歴史や私たち住人の過去を学び、理解するために訪れるのですから。文化は人々を繋げます。ディルイーヤは、人類が共有しているあらゆる感覚を思い出させてくれます」。

しかし、歴史的に重要な土地の多くが、偶発的、意図的、または自然災害の要因を問わず、潜在的な危険に晒されている。そうした中、ディルイーヤを将来世代も楽しめるよう存続・繁栄させていくため、観光客は重要な役割を担う。観光客には、自然保護の重要性や、史跡保護のための取り組みを知ってもらう必要があるとシャエル氏は語る。

「結局、こうした遺跡とは壊れやすい場所なのです。ディルイーヤは脆弱だからこそ、私たち皆が大事にしなければなりません」と彼女は付け加えた。

彼女は、世界遺産の保護責任は、遺産がある国の当局だけにあるのではないと言う。

「世界遺産を保護する責任は、遺産がある国の当局だけにあるのではなく、私たち人類全員が異なるレベルの責任を負っています。この目的で、世界遺産条約は締結されました。これは最も重要なことであり、将来世代にとって重要な遺産を確実に保護・保全するため、国際社会が連帯して責任を負うようにすることが条約の存在意義なのです。

「人類は過去を理解したいという切実な欲求を持っているので、文化遺産は人類の普遍的なアイデンティティの一部を成しています。世界遺産に登録されるのは、まさに保護・保全のためです」。

ディルイーヤが再び注目を浴びることを、サウジアラビア人自身、特に若者ほど喜んでいる人はいないだろう。ディルイーヤ・ゲート開発局が、学生に王国に古くから伝わる物語の伝統を知ってもらおうと、「ラウィ・アル・ディルイーヤ(ディルイーヤの語り部)コンテスト」を開催したところ、25万人以上の中高生がコンテストに登録し、12千件以上の応募があった。

「このような取り組みは非常に重要です」とシャエル氏は語る。「無形文化遺産を念頭に置いた活動や、創造的な文化活動を物理的な場所へとつなげる活動によって、この場所が重要である理由を人々に理解してもらえるようになります」。

「こうした活動は、無形資産をその場所の有形資産と統合する機会を生み、土地との結びつきが強まります。土地へのアイデンティティが生まれ、自分の子供や孫のため、また将来世代のため、この場所を保全する理由を理解できるようになります。こうした思いは、自分の人生において有意義な役割を果たしてくれるかもしれません」。

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