ナイル川の争い

大エチオピア・ルネッサンス・ダム貯水による
エジプトへの影響

2020年7月に撮影されたこの青ナイル川の衛星写真では、大エチオピア再生ダムの後方で水が貯まり始めているのを見て取ることができる。今夏、ダムの後方の広大な貯水池の貯水作業が本格的に始まる。(Maxar Technologies/AFP)

2020年7月に撮影されたこの青ナイル川の衛星写真では、大エチオピア再生ダムの後方で水が貯まり始めているのを見て取ることができる。今夏、ダムの後方の広大な貯水池の貯水作業が本格的に始まる。(Maxar Technologies/AFP)

「エチオピアは多くを望んでいるわけではありません……長年に渡り、エチオピアの人々は悲惨な貧困状態から抜け出すための、この資源を利用する権利を奪われてきました」
エチオピア国際連合常駐代表テイ・アツケ・セラシー閣下(2020年6月29日)
「我々はエチオピアの発展する権利およびエネルギー需要をサポートしていますが、エチオピアにもエジプトの水需要への理解を求めています。それは我々エジプト国民の命と同じなのです。大げさではありません」
エジプト水資源・灌漑担当大臣モハメド・アブデル・アティ博士閣下、2020年10月18日の第3回カイロ・ウォーター・ウィーク会議にて。
「ダムは多くの利益をもたらします……しかしこの利益を現実化するには、拘束力のある合意に達する必要があります……それがない限り、我々は常にエチオピアの言いなりになってしまうでしょう。今日は水を分けてもらえても、明日には閉鎖されてしまう」
スーダン首相アブダラ・ハムドク氏(2021年5月6日)

この夏、エジプトはナイル川の支配を失うだろう。

エジプトにとって淡水の主な源である青ナイル川に、エチオピアがアフリカ最大のダムを建設するという驚きの計画を発表して10年以上が経つ。

当時、社会的、政治的大変革の最中にあったエジプトの混乱に紛れるかのように、ダム建設はすぐさま開始された。

それ以来、古代よりエチオピア高原から流れ出るこの命の水に依存し、それによって作り上げられてきた国家エジプトに、実存する脅威として不気味な展望をもたらすこととなった。

「どんな展開であれエジプトは苦しむことになります」

世界最大の人工水域の1つであるナセル湖は、エジプトが1960年から1970年の間、アスワンハイダムを建設した際に造成された。(Shutterstock)

世界最大の人工水域の1つであるナセル湖は、エジプトが1960年から1970年の間、アスワンハイダムを建設した際に造成された。(Shutterstock)

そしてその展望はついに現実味を帯びてきた。賛否両論であった水力発電の大エチオピア·ルネサンス·ダム(GERD)建設はほぼ終了し、今にも始まる今夏の雨を期待し仕上がったこの貯水池に、性急に水が貯められようとしている。

エジプトにとって、国家の歴史、経済、精神的な支えとして流れるナイル川以上に大切なものはない。5世紀のギリシャ人歴史学者ヘロドトスが考察したように、この国は「ナイル川の賜物」なのだ。この強大な川の豊かさにより、エジプト文明はその川沿いに定着した。季節的な洪水がもたらす豊かな沈泥がナイルデルタの大地を毎年肥沃に回復させ、それによって栄えてきたのだ。

「ナイル川がなくては、国は成り立ちません」

ナイル川は、エジプトのすぐ南の隣国、スーダンのハルツームで合流する白ナイル川と青ナイル川を2つの主な支流としている。そのうち青ナイル川はエチオピアにあるタナ湖を水源としており、スーダンを通りエジプトに流れる水の80%の源である。

「ナイルの花嫁」ことソハーグで働く農民たち。エジプトの農業は完全にナイル川の水に依存している。(Shutterstock)

「ナイルの花嫁」ことソハーグで働く農民たち。エジプトの農業は完全にナイル川の水に依存している。(Shutterstock)

この10年以上激しく続けられた議論や、エチオピア、エジプト、スーダンが巨大水力発電ダムの貯水法や管理への合意が導き出せなかったことなど、今となってはもはや過去のものだ。直近かつ重大な問題は、どれだけ短期間でエチオピアが貯水池を満たしていくかということだ。

「アスワン・ハイ・ダムは病人のようになってしまうでしょう」

満水となった場合、GERDの貯水池は740億立方メートル(74BCM)もの水を蓄えることになる。現在毎年エジプトがナイル川から得る水量が550億立方メートル、それはその約半分に近い量だ。もしあまりにも急激に貯水された場合、エジプト、例えばカイロは水を奪われ、全ての重要な農業部門は壊滅的となり、経済は破壊され、食料不足、何百万人もの失業者を生み出す結果になるという。また、ナセル湖の水が顕著に減少した場合、アスワン·ハイ·ダムの水力発電タービンが生む電気の量も激減する恐れがある。

エジプトは、自国とスーダンへのインパクトを和らげるため、エチオピアに少なくとも12年、年間降水量によっては20年をかけて貯水池を満たしていくよう求めてきた。

一方エチオピアは、GERD貯水池をすぐにでも満たし、投資した40億ドルのリターンを得ることに必死だ。季節的な雨の量によるが、5年から7年を見込んでいる。

「エジプトには最低限の流水量の保証が必要です」

この夏、エジプトはナイル川の支配を失うだろう。

エジプトにとって淡水の主な源である青ナイル川に、エチオピアがアフリカ最大のダムを建設するという驚きの計画を発表して10年以上が経つ。

当時、社会的、政治的大変革の最中にあったエジプトの混乱に紛れるかのように、ダム建設はすぐさま開始された。

それ以来、古代よりエチオピア高原から流れ出るこの命の水に依存し、それによって作り上げられてきた国家エジプトに、実存する脅威として不気味な展望をもたらすこととなった。

「どんな展開であれエジプトは苦しむことになります」

世界最大の人工水域の1つであるナセル湖は、エジプトが1960年から1970年の間、アスワンハイダムを建設した際に造成された。(Getty Images)

世界最大の人工水域の1つであるナセル湖は、エジプトが1960年から1970年の間、アスワンハイダムを建設した際に造成された。(Getty Images)

そしてその展望はついに現実味を帯びてきた。賛否両論であった水力発電の大エチオピア·ルネサンス·ダム(GERD)建設はほぼ終了し、今にも始まる今夏の雨を期待し仕上がったこの貯水池に、性急に水が貯められようとしている。

エジプトにとって、国家の歴史、経済、精神的な支えとして流れるナイル川以上に大切なものはない。5世紀のギリシャ人歴史学者ヘロドトスが考察したように、この国は「ナイル川の賜物」なのだ。この強大な川の豊かさにより、エジプト文明はその川沿いに定着した。季節的な洪水がもたらす豊かな沈泥がナイルデルタの大地を毎年肥沃に回復させ、それによって栄えてきたのだ。

「ナイル川がなくては、国は成り立ちません」

ナイル川は、エジプトのすぐ南の隣国、スーダンのハルツームで合流する白ナイル川と青ナイル川を2つの主な支流としている。そのうち青ナイル川はエチオピアにあるタナ湖を水源としており、スーダンを通りエジプトに流れる水の80%の源である。

「ナイルの花嫁」ことソハーグで働く農民たち。エジプトの農業は完全にナイル川の水に依存している。(Shutterstock)

「ナイルの花嫁」ことソハーグで働く農民たち。エジプトの農業は完全にナイル川の水に依存している。(Shutterstock)

この10年以上激しく続けられた議論や、エチオピア、エジプト、スーダンが巨大水力発電ダムの貯水法や管理への合意が導き出せなかったことなど、今となってはもはや過去のものだ。直近かつ重大な問題は、どれだけ短期間でエチオピアが貯水池を満たしていくかということだ。

「アスワン・ハイ・ダムは病人のようになってしまうでしょう」

満水となった場合、GERDの貯水池は740億立方メートル(74BCM)もの水を蓄えることになる。現在毎年エジプトがナイル川から得る水量が550億立方メートル、それはその約半分に近い量だ。もしあまりにも急激に貯水された場合、エジプト、例えばカイロは水を奪われ、全ての重要な農業部門は壊滅的となり、経済は破壊され、食料不足、何百万人もの失業者を生み出す結果になるという。また、ナセル湖の水が顕著に減少した場合、アスワン·ハイ·ダムの水力発電タービンが生む電気の量も激減する恐れがある。

エジプトは、自国とスーダンへのインパクトを和らげるため、エチオピアに少なくとも12年、年間降水量によっては20年をかけて貯水池を満たしていくよう求めてきた。

一方エチオピアは、GERD貯水池をすぐにでも満たし、投資した40億ドルのリターンを得ることに必死だ。季節的な雨の量によるが、5年から7年を見込んでいる。

「エジプトには最低限の流水量の保証が必要です」

貯水池の水は、早く満ちる方向に進んでいる。2020年夏、ダムの16あるうちの2つの電力発電タービンをテストする目的で、貯水池の全容量の6.6%にあたる青ナイル川の年間流量から4.9BCMを貯めた。しかし今年度も性急に貯水池を満たしたいエチオピアは、さらに13.5BCMを貯え、全容量の25%に及ぶ総量まで持ち込みたいとしている。もし貯水が同様の年間スピードで続けられた場合、貯水池は2025年の雨季終わりのほんのあと4年でいっぱいになる計算だ。

「エチオピアの水は中東の石油のようなものです」

エチオピア人にとって、ダムは希望の象徴であり、誇りであり、明るい未来だ。エチオピアの人口1億1200万人の半分は、未だ電気へのアクセスがなく、木材を燃やして熱や調理、灯りに使っている。水力発電ダムが最大限に活用された場合、国の産業化が花開くだけでなく、何百万人もの市民の生活水準を革新的に変え、また電力を地域に送る輸出国となることで、国としても渇望する必要な収益を得ることが可能となる。

このプロジェクトがエチオピア人にとってどれだけ重要であるかは、国がその野心的なプロジェクトに対して国際的な支援を得るのに苦労した際より明確であった。過去に見られたクラウドファンディングなかでも最も目覚ましいものの一つといわれる。何百万人ものエチオピア人が、なけなしの手持ち財産の中からできる限りの投資を、明るい未来を夢見て、くじけずにこの10年間国がダム建設のために発行した国債に対ししてきたのだ。

「人々はこのダムが生活を変えてくれると信じています」

ラリベラのこの女性のように、電気がなく薪に頼っているエチオピアの何百万人もの人々の生活を、ダムは変えることになるだろう。(Getty Images)

ラリベラのこの女性のように、電気がなく薪に頼っているエチオピアの何百万人もの人々の生活を、ダムは変えることになるだろう。(Getty Images)

これは真に、人々のダムなのだ。エチオピアのソーシャルメディアユーザーたちは、この夏のダムの貯水を、歓喜を持ってカウントダウンしようと主張している。ハッシュタグには、”私のダムだ“(ItMyDam)、”貯水を“(FillTheDam)、”エチオピアナイル権利“(EthiopiaNileRights)など様々なものが見られる。

エチオピアのすぐ隣の下流域に位置するスーダンは、ダムから作られる安い電力で利益を守ることができるため、このダムに関してエジプトほどの懸念はない。また、毎年人々の暮らしを乱し農業の可能性を制限する、国にとっては悩ましい壊滅的な洪水のサイクルを終えることができるかもしれないと考えている。水が管理のもと流れるようになることで、スーダンの農家たちは、年間を通して青ナイル川の側面の土地を豊かに開拓することができるようになるはずだ。

上流で膨大な量の水を貯めておけるようになることで、乾燥した年の苦しみを軽減することもできるようになるだろう。エチオピアは、地球の気候変動の影響と思われる壊滅的な干ばつを2008年、2011年、直近で2015年に経験した。

しかし、GERDの運営においてはエチオピアとの合意が不充分であるため、スーダンとしては何があってもおかしくない状況だ。青ナイル川から電力を得ているエジプトのアスワン·ハイ·ダムと同様、GERDからわずか115km下流の、スーダンの依存する水力発電ロセイレス·ダムに対して、どのような影響が起こりうるか定かではない。

2020年9月のスーダンでの洪水では、10万もの家屋が破壊され、100人が亡くなった。青ナイル川の流れを管理することにより、エチオピアのダムはそのような破壊を終わらせることができ得るのだ。(Getty Images)

2020年9月のスーダンでの洪水では、10万もの家屋が破壊され、100人が亡くなった。青ナイル川の流れを管理することにより、エチオピアのダムはそのような破壊を終わらせることができ得るのだ。(Getty Images)

また、いくつかの学術論文が懸念を示すように、万が一このダムが悲劇的な失敗であった場合、スーダンが払う代償は大きい。最近のエジプトの土木及び水のエンジニア研究者らが指摘するには、「主要な構造プレートの上に位置し、世界的な断層である」GERD現場での「地盤の不安定性が高いリスク」があるという。その断層周辺のエチオピアでは、マグニチュード6.5以上の地震が20世紀中16回起きている。

ロセイレス·ダムよりさらに250km下流にあるスーダンのセンナール·ダムは、1920年代に灌漑の目的で作られたものだ。エジプトの研究によると、GERDの決壊が発生した場合、結果として起こりうる洪水がセンナール·ダムを浸水し、北はハルツーム市を含む数百kmもの土地を氾濫させるだろうと予想している。

大エチオピア再生ダムの貯水が早ければ早いほど、エジプトは、苦しみが増すことになると恐れている。それでは、エチオピアはどれくらいの速度でダムを貯水すべきだろうか?

大エチオピア再生ダムの貯水が早ければ早いほど、エジプトは、苦しみが増すことになると恐れている。それでは、エチオピアはどれくらいの速度でダムを貯水すべきだろうか?

貯水池の水は、早く満ちる方向に進んでいる。2020年夏、ダムの16あるうちの2つの電力発電タービンをテストする目的で、貯水池の全容量の6.6%にあたる青ナイル川の年間流量から4.9BCMを貯めた。しかし今年度も性急に貯水池を満たしたいエチオピアは、さらに13.5BCMを貯え、全容量の25%に及ぶ総量まで持ち込みたいとしている。もし貯水が同様の年間スピードで続けられた場合、貯水池は2025年の雨季終わりのほんのあと4年でいっぱいになる計算だ。

「エチオピアの水は中東の石油のようなものです」

エチオピア人にとって、ダムは希望の象徴であり、誇りであり、明るい未来だ。エチオピアの人口1億1200万人の半分は、未だ電気へのアクセスがなく、木材を燃やして熱や調理、灯りに使っている。水力発電ダムが最大限に活用された場合、国の産業化が花開くだけでなく、何百万人もの市民の生活水準を革新的に変え、また電力を地域に送る輸出国となることで、国としても渇望する必要な収益を得ることが可能となる。

このプロジェクトがエチオピア人にとってどれだけ重要であるかは、国がその野心的なプロジェクトに対して国際的な支援を得るのに苦労した際より明確であった。過去に見られたクラウドファンディングなかでも最も目覚ましいものの一つといわれ、何百万人ものエチオピア人が、なけなしの手持ち財産の中からできる限りの投資を、明るい未来を夢見て、くじけずにこの10年間国がダム建設のために発行した国債に対ししてきたのだ。

「人々はこのダムが生活を変えてくれると信じています」

ラリベラのこの女性のように、電気がなく薪に頼っているエチオピアの何百万人もの人々の生活を、ダムは変えることになるだろう。(Getty Images)

ラリベラのこの女性のように、電気がなく薪に頼っているエチオピアの何百万人もの人々の生活を、ダムは変えることになるだろう。(Getty Images)

これは真に、人々のダムなのだ。エチオピアのソーシャルメディアユーザーたちは、この夏のダムの貯水を、歓喜を持ってカウントダウンしようと主張している。ハッシュタグには、”私のダムだ“(ItMyDam)、”貯水を“(FillTheDam)、”エチオピアナイル権利“(EthiopiaNileRights)など様々なものが見られる。

エチオピアのすぐ隣の下流域に位置するスーダンは、ダムから作られる安い電力で利益を守ることができるため、このダムに関してエジプトほどの懸念はない。また、毎年人々の暮らしを乱し農業の可能性を制限する、国にとっては悩ましい壊滅的な洪水のサイクルを終えることができるかもしれないと考えている。水が管理のもと流れるようになることで、スーダンの農家たちは、年間を通して青ナイル川の側面の土地を豊かに開拓することができるようになるはずだ。

上流で膨大な量の水を貯めておけるようになることで、乾燥した年の苦しみを軽減することもできるようになるだろう。エチオピアは、地球の気候変動の影響と思われる壊滅的な干ばつを2008年、2011年、直近で2015年に経験した。

しかし、GERDの運営においてはエチオピアとの合意が不充分であるため、スーダンとしては何があってもおかしくない状況だ。青ナイル川から電力を得ているエジプトのアスワン·ハイ·ダムと同様、GERDからわずか115km下流の、スーダンの依存する水力発電ロセイレス·ダムに対して、どのような影響が起こりうるか定かではない。

2020年9月のスーダンでの洪水では、10万もの家屋が破壊され、100人が亡くなった。青ナイル川の流れを管理することにより、エチオピアのダムはそのような破壊を終わらせることができ得るのだ。(Getty Images)

2020年9月のスーダンでの洪水では、10万もの家屋が破壊され、100人が亡くなった。青ナイル川の流れを管理することにより、エチオピアのダムはそのような破壊を終わらせることができ得るのだ。(Getty Images)

また、いくつかの学術論文が懸念を示すように、万が一このダムが悲劇的な失敗であった場合、スーダンが払う代償は大きい。最近のエジプトの土木及び水のエンジニア研究者らが指摘するには、「主要な構造プレートの上に位置し、世界的な断層である」GERD現場での「地盤の不安定性が高いリスク」があるという。その断層周辺のエチオピアでは、マグニチュード6.5以上の地震が20世紀中16回起きている。

ロセイレス·ダムよりさらに250km下流にあるスーダンのセンナール·ダムは、1920年代に灌漑の目的で作られたものだ。エジプトの研究によると、GERDの決壊が発生した場合、結果として起こりうる洪水がセンナール·ダムを浸水し、北はハルツーム市を含む数百kmもの土地を氾濫させるだろうと予想している。

大エチオピア再生ダムの貯水が早ければ早いほど、エジプトは、苦しみが増すことになると恐れている。それでは、エチオピアはどれくらいの速度でダムを貯水すべきだろうか?

大エチオピア再生ダムの貯水が早ければ早いほど、エジプトは、苦しみが増すことになると恐れている。それでは、エチオピアはどれくらいの速度でダムを貯水すべきだろうか?

GERDが示すいくつかの脅威はもっと不明瞭だが、壊滅的な可能性が全くないわけではない。エジプトのナイルデルタは地中海沿岸から平均してほんの1mの海抜であるが、構造プレートが容赦無くすり潰されていることや、デルタに流れ込む沈殿物の年間量が減っていることなどから、ゆっくりと沈んでいる。科学者らは、この沈殿物の減少は、1960年から1970年の間に行われたエジプトのアスワン·ハイ·ダム建設が原因であり、電力発電と水の安定供給の代償として支払われたものだと非難する。しかし最近の研究によると、この問題はGERDの運営が始まれば「深刻に悪化する」と予想されている。

過去10年間で数々の交渉や調停が試みられたものの、ダムがどのように貯水され、運営されるかの重要な問題に関して、この3カ国が同意に至るまでの努力は全て失敗に終わった。

「最大の問題は、下流の国々が現状を維持したがっているということです」

カイロは引き続きエチオピアに対し、実質的に川の支配を握ることは、エジプトが1929年にイギリスと結んだナイル川の水に関する排他的権利を約束する条約や、1959年にエジプトがスーダンと結んだ条約を無視した行動だと主張する。国の発展を加速化し地域での重要なプレーヤーとなる狙いのエチオピアは、現在のナイル川流域を共有する他の9カ国を排除したそのような植民地時代の条約は、現代に通用しないと一掃する。

同意のない断続的な交渉のうちに、紛争の影が不気味に迫り、地域は危険な行き詰まり状態に捕らえられたままだ。2013年6月、図らずもテレビの生放送で、エジプトの政治家グループが当時のムハンマド·モルシ大統領との会議中、軍事的にダムを停止するという選択肢について議論する様子が放映された。提案は、エチオピアの反逆勢力を支援することや、ダムを破壊するための特別部隊を送りこむことなどにまで及んだ。

さらに最近の3月2日、エジプトとスーダンは軍事協力協定に署名し、幾人かのコメンテーターは不吉な進展と解説した。その4日後、エジプトのアブドゥルファッターハ·エルシーシ大統領はハルツームを訪問した際のスピーチで、スーダンやエジプトの利益を無視した「既成事実を強いるような方針や、青ナイル川の一方的措置の拡張制御を拒否する」と発言した。

3月末、エジプトの大統領はさらに、「エジプトの水は超えてはいけない一線だ。誰もエジプトから水一滴奪うことはできない」と緊張を高める発言をした。

「影響は乾燥した年にはさらに大きいものになり、関係各国間の協力が必要になるでしょう」

しかし今やダムは現実であり、エジプトやスーダンとの合意に関わらず、エチオピアはこれから訪れる雨季の間に貯水池を満たす誓いのもと、計画を推し進めている。3カ国が早急に合意に至らないのであれば、エジプトとスーダンはこれから現実化するかもしれない最悪の恐怖を見守るより他あまり選択肢は残されてない。

エチオピア人たちは、5月のラマダンの終わりにあるアディスアベバでの祈りで「彼らの」ダムへの支持を表明した。(AFP)

エチオピア人たちは、5月のラマダンの終わりにあるアディスアベバでの祈りで「彼らの」ダムへの支持を表明した。(AFP)

数千万人ものエチオピア人が熱心にダムの満水を待ち望んでいる。青ナイル川が生み出す電力によってもたらされる変革は、石油の豊富な湾岸アラブ諸国の生活がそのブラック·ゴールドの発見によりもたらされたものに匹敵するかもしれない。

ナイル川下流でその水に命や生計を預けるエジプトやスーダンの数千万人もの人々にとっては、これから先はGERDにどれだけ早く水が貯まるのか、また、ダムの運営がどのように行われ、この先数十年の水の流れや、特に免れ得ない干ばつの時期にどのような影響をもたらすかなど、見守る他ない不安な年月が待っている。

「もし状況が破綻すれば、人類全体にとっての重大事態になってしまうでしょう」

GERDが示すいくつかの脅威はもっと不明瞭だが、壊滅的な可能性が全くないわけではない。エジプトのナイルデルタは地中海沿岸から平均してほんの1mの海抜であるが、構造プレートが容赦無くすり潰されていることや、デルタに流れ込む沈殿物の年間量が減っていることなどから、ゆっくりと沈んでいる。科学者らは、この沈殿物の減少は、1960年から1970年の間に行われたエジプトのアスワン·ハイ·ダム建設が原因であり、電力発電と水の安定供給の代償として支払われたものだと非難する。しかし最近の研究によると、この問題はGERDの運営が始まれば「深刻に悪化する」と予想されている。

過去10年間で数々の交渉や調停が試みられたものの、ダムがどのように貯水され、運営されるかの重要な問題に関して、この3カ国が同意に至るまでの努力は全て失敗に終わった。

「最大の問題は、下流の国々が現状を維持したがっているということです」

カイロは引き続きエチオピアに対し、実質的に川の支配を握ることは、エジプトが1929年にイギリスと結んだナイル川の水に関する排他的権利を約束する条約や、1959年にエジプトがスーダンと結んだ条約を無視した行動だと主張する。国の発展を加速化し地域での重要なプレーヤーとなる狙いのエチオピアは、現在のナイル川流域を共有する他の9カ国を排除したそのような植民地時代の条約は、現代に通用しないと一掃する。

同意のない断続的な交渉のうちに、紛争の影が不気味に迫り、地域は危険な行き詰まり状態に捕らえられたままだ。2013年6月、図らずもテレビの生放送で、エジプトの政治家グループが当時のムハンマド·モルシ大統領との会議中、軍事的にダムを停止するという選択肢について議論する様子が放映された。提案は、エチオピアの反逆勢力を支援することや、ダムを破壊するための特別部隊を送りこむことなどにまで及んだ。

さらに最近の3月2日、エジプトとスーダンは軍事協力協定に署名し、幾人かのコメンテーターは不吉な進展と解説した。その4日後、エジプトのアブドゥルファッターハ·エルシーシ大統領はハルツームを訪問した際のスピーチで、スーダンやエジプトの利益を無視した「既成事実を強いるような方針や、青ナイル川の一方的措置の拡張制御を拒否する」と発言した。

3月末、エジプトの大統領はさらに、「エジプトの水は超えてはいけない一線だ。誰もエジプトから水一滴奪うことはできない」と緊張を高める発言をした。

「影響は乾燥した年にはさらに大きいものになり、関係各国間の協力が必要になるでしょう」

しかし今やダムは現実であり、エジプトやスーダンとの合意に関わらず、エチオピアはこれから訪れる雨季の間に貯水池を満たす誓いのもと、計画を推し進めている。3カ国が早急に合意に至らないのであれば、エジプトとスーダンはこれから現実化するかもしれない最悪の恐怖を見守るより他あまり選択肢は残されてない。

エチオピア人たちは、5月のラマダンの終わりにあるアディスアベバでの祈りで「彼らの」ダムへの支持を表明した。(AFP)

エチオピア人たちは、5月のラマダンの終わりにあるアディスアベバでの祈りで「彼らの」ダムへの支持を表明した。(AFP)

数千万人ものエチオピア人が熱心にダムの満水を待ち望んでいる。青ナイル川が生み出す電力によってもたらされる変革は、石油の豊富な湾岸アラブ諸国の生活がそのブラック·ゴールドの発見によりもたらされたものに匹敵するかもしれない。

ナイル川下流でその水に命や生計を預けるエジプトやスーダンの数千万人もの人々にとっては、これから先はGERDにどれだけ早く水が貯まるのか、また、ダムの運営がどのように行われ、この先数十年の水の流れや、特に免れ得ない干ばつの時期にどのような影響をもたらすかなど、見守る他ない不安な年月が待っている。

「もし状況が破綻すれば、人類全体にとっての重大事態になってしまうでしょう」

「エジプトの水シェアが減少すれば、広大なエリアの農地が放棄され、数百万世帯が散り散りになってしまいます」
カイロ大学教授と工学・農業分野の専門家によるナイル川流域グループ(Nile Basin Group)のレポート(2013年6月)
「ナイル川の流れに対する脅威はエジプト国家の生き残りに対する直接的な脅威なのです……エジプトの水安全保障に対するGERDの影響は大きいと予想されています。破滅的なことにもなりかねません。特に貯水の際には……貯水が平均以下の洪水の周期に合わせて行われる場合、その影響は破滅的なものになります」
ネグム学芸修士その他「大エチオピア再生ダム対アスワン・ハイ・ダム – エジプトの視点」シュプリンガー環境化学ハンドブック(2019年)
「エジプトは既に重大な水不足に直面しています……エチオピアは水力発電計画は無害だと主張していますが、エチオピアのダムの一方的な貯水と操業はすぐにエジプトとスーダン双方の状況を大きく悪化させ、深刻な環境的・社会経済的損害を引き起こすでしょう」
モタズ・ザハラン駐米エジプト大使のフォーリン・ポリシー誌への寄稿(2021年4月29日)
「一滴たりともエジプトの水を奪うことは誰にも許されません。さもなければ、この地域は想像できないほどの不安定な状態に陥るでしょう……いかなる敵対的行動も忌まわしいものです……しかし我々はこの件で影響を受けており、我々の対応が地域全体の安定性に影響するのです」
エジプト大統領アブドゥルファッターハ・エルシーシ氏(2021年3月30日)

エチオピアとエジプトで水位を監視

下のリンクをクリックして、大エチオピア再生ダムの水流と貯水量の毎日の変化と、この変化がエジプトのアスワンハイダムに与える影響を確認してください。

衛星利用ナイル川流域貯水池諮問制度(NiBRAS)は、エジプトの民間人であり環境エンジニアであるHisham Eldardiry氏と、シアトルのワシントン大学の持続可能性研究グループによって共同で開発されました。 ナイル川流域の貯水池運用が、皆の目に見える形での監視をサポートするために開発されたものです。

衛星利用ナイル川流域貯水池諮問制度(NiBRAS)は、エジプトの民間人であり環境エンジニアであるHisham Eldardiry氏と、シアトルのワシントン大学の持続可能性研究グループによって共同で開発されました。 ナイル川流域の貯水池運用が、皆の目に見える形での監視をサポートするために開発されたものです。

クレジット

ライター: Jonathan Gornall
リサーチャー: Jonathan Gornall, Leen Fouad
エディター: Diana Farah
クリエイティブディレクターSimon Khalil
デザイナーOmar Nashashibi, Steve Willard
グラフィック: Douglas Okasaki
ビデオプロデューサー: Mohammed Qenan
ビデオエディター: Nisar Illikkottil
オープニングアニメーション: Google Earth
ピクチャーリサーチャーSheila Mayo
シュミレーション製作: Harold Jacinto
コピーエディター: Akiko Iwata
ソーシャルメディアJad Bitar
プロデューサー: Arkan Aladnani
チーフエディターFaisal J. Abbas