王国 vsカプタゴン
アラブ世界広域で生活を破壊する麻薬へのサウジアラビアの戦い
2022年4月、ラマダン中のある木曜の晩。サウジアラビア東部の都市サフワの自宅で、日没後の食事の席に着く4人家族。
だが、イフタール料理(ラマダン中の日没後に取る1日で最初の食事)を楽しむ代わりに、夫妻と幼い息子、娘は残虐にも焼き殺された。犯人は男性親族で、彼らを部屋に閉じ込めると家に火を放った。
地元メディアの報道では、20代の犯人にも火が燃え移ったが、彼は「父親と母親、小さな子供たちが確実に迫った死から助けを求める声には耳を貸さなかった」
後に、犯人はメタンフェタミンの影響下にあったことが明らかになった。メタンフェタミンは産業規模でサウジアラビア国内に密輸され、若者の間に広まっている錠剤に含まれている危険で依存性のある化学物質の1つで、錠剤は多くの場合、「カプタゴン」という商品名で知られている。
複数の要因が組み合わさり、サウジアラビアはまがいもののカプタゴンの製造・密輸業者にとってナンバー1の市場となっており、未曽有の社会的・公衆衛生上の危機をもたらしている。
今回のアラブ・ニュースの調査が明らかにしたように、毒薬の主な供給源はならず者国家シリアである。同国は、レバノンの民兵組織ヒズボラ(イランの後ろ盾がある)など悪質な勢力の支援と幇助を受けている。
カプタゴンの特徴は2つの半月をあしらったロゴで、ここからアラブ世界では「アブ・ヒラライン」(「2つの三日月の父親」の意)という俗称をもつ。錠剤は製造が容易で、簡単に手に入り、比較的低価格である。
過去6年間で、サウジ当局は6億錠のカプタゴンを国境で押収したが、さらに数億錠が国内に入り、街中で流通している。
サフワで起きた悲劇では、罪もない家族が薬物依症存患者の危険な習慣に対して生命と言う対価を支払う羽目になった。この事件はサウジアラビアが薬物との戦争の最中にあるということを思い起こさせる暗い警告である。
この戦争の前線はサウジのすべての国境であり、港や空港である。戦死者は病院と依存症患者の治療施設で生じる。そして、敵の名はカプタゴンだ。
失われ、再び見いだされた命
リヤド出身の41歳、4人の子供の父親である「ワリード」は幸運な部類だった。
彼は14年間カプタゴンに依存していた。その間、自分と家族が陥った絶望的な状況から逃れようと、一度ならず自殺を図った。
しかしここ2年の間、彼は「タバコ・薬物コントロールのためのKafa協会」が首都で運営するリハビリ施設でカプタゴン依存症の治療を受けてきた。
ワリードによると、カプタゴンは「人生に大きな被害をもたらした」ものの、援助と支援のおかげで「生まれ変わることができた」という。
無論、ワリードは偽名だが、彼は本名を伏せるという条件でアラブニュースに対し、自分の経験を語ることに同意した。カプタゴンを試してみたいという誘惑にかられる人々への警告として役立つと考えたからである。
また彼の体験談は、子供を持つ親たちへの教訓ともなる。
「私のカプタゴン依存は学校時代、9年生の時に始まりました」と彼は話す。
「クラスの友人が試しにと1錠くれました。飲めば勉強がはかどり、試験に余裕で合格できると言って」
「その日から、小遣いを貯めてはその友人に渡し、カプタゴンを買ってもらうようになりました…依存症になる頃には、非常に頻繁に買っていました」
学校を卒業すると、ワリードは民間企業で働き始めたが、カプタゴンを止めることはできなかった。
「毎月、給料の一部をカプタゴンに使っていました。そのうちに、薬物依存の症状で仕事に支障が出るようになり、解雇されました」
職を失っても、彼は目が覚めず、錠剤を摂取し続けた。「家の貴重品を持ち出し、見つけられるだけのカプタゴンを買うために売るようになりました」
ワリードは1日3錠飲む習慣だったが、これは高くついた。「入る月給を家に入れず、薬に使うようになったのです」
「この麻薬を買い続け、孤立を深めました」
ワリードがカプタゴンを試してみたいという誘惑にかられる若者に伝えたいメッセージは単純だ。
「カプタゴンは魔法の薬ではありません」と彼は話す。
「その効果は恐ろしいものです。人々を社会から隔絶して奇妙な仕方で、何の生産性もないものとします。
カプタゴンは超人的な力など与えてくれません。心身ともに疲弊し、経済的に苦しくなるだけです」
薬物依存によって、「信仰も失いました。祈ることもできず、ただ部屋に閉じこもっていたのです」
「社会から隔絶し、精神状態が悪化してゆきました」
カプタゴンによって、家族との関係にもひびが入った。
「依存によって私は孤立し、家族は苦しみ、両親は心を痛めました。盗みまでするようになったのです…家族を裏切り、困窮した状態で放置しました」
「子供や妻に話しかけられても、攻撃的な態度を取っていました。両親に対しても意地悪く攻撃的になり、問題を解決しようとしてくれても、家から出て行けと言っていました」
ワリードは明らかに恥を感じていたが、同時に自分と家族が薬物依存のために失った年月に向き合おうと決意し、愛する人たちに与えた苦痛について率直に語っている。
「家族に対し暴力的に振舞うようになりました。妻と子供を虐待し、しばしば両親に逆らいました」
「家族にも、知り合いにもひどい態度を取りました。ひどい人間でした。カプタゴンが私を変えてしまったのです」
ワリードは恥辱に苦しみ、もし薬物所持で捕まったらどうなるだろうという恐怖を抱えて生きていた。
常に怯え、孤立した状態で、「何度か自殺を図りました」と彼は認めた。
「カプタゴンを断とうとして多くの解決策を探りましたが、すべて無駄でした。14年間苦しんだ末に、Kafaのリハビリ施設に出会ったのです」
ワリードのような経験は、カプタゴン常習者には珍しい話ではない。2022年の学術誌「依存症看護」に掲載された研究にもそれは示されている。この研究では、過去6か月以内にカプタゴンを使用したことのある17歳から22歳までのヨルダン人大学生10名を対象に聞き取りを行い、カプタゴンの錠剤が学業や私生活上のストレス緩和のために広く用いられていることが明らかになった。
「最初のうち、カプタゴン摂取により被験者たちはコントロール感を得て…いたが、問題が解決することはなかった」。時が経つにつれ、学生たちは「ストレスの増加、授業を欠席するなどの生活の乱れを経験し、社会的に孤立していった」
被験者たちは「最終的に地域社会の助けを求めたが、これは薬物濫用への偏見から困難なことであった」
有難いことに、サウジアラビアの依存症患者はKafaのような団体が提供する支援に頼る機会に恵まれている。
リハビリ施設に入院中、ワリードと周囲の人々は、家族向けに回復途中の依存症患者を支えるためのスキルを提供し支援するガイダンスを含め、「人生を変えるような」いくつかのプログラムに出会った。
ワリードによれば、彼が自分を正常な状態に戻してくれたことに対してまず感謝すべきなのは、長く苦しんできた彼の妻である。
「神と27カ月を過ごしたこの施設に感謝します。また、辛抱強くリハビリ施設を探し続け、Kafaの家族向けカウンセリングを見つけてくれた妻にも感謝しています」
「妻が彼らに連絡を取り、一緒に来るようにと言われました。その通りにしたことで、回復への道のりが始まりました」
ワリードによると、この施設が人生を再建するための基盤となってくれた。
「Kafaの専門職員に助けを求めると、いつでも支えてくれました。夜中に電話してもです。彼らは家まで来て、何をすべきで何を避けるべきか教えてくれました」
施設では、ワリードは様々な教育的社会復帰プログラムに登録することができた。「再発防止や社会への復帰、地域社会での振舞い方、職場復帰の方法などです」
そこで受けた治療のおかげで、彼は「家族への償いの仕方と前へ進む正しい道」を学ぶことができたという。
Kafaによるリハビリは、「人生を取り戻すチャンスを与えてくれました」
「奇跡の」ドラッグ
フェネチリン(商品名「カプタゴン」)は1961年にドイツで開発された薬で、小児の注意欠陥多動性障害、うつ病、ナルコレプシーなどの様々な症状に対する治療薬として使用された。
フェネチリンは、中枢神経刺激薬であるアンフェタミンと、気管支拡張薬として知られるカフェイン類似物質であるテオフィリンが結合した物質である。
テオフィリンは単体だと肺の気道を弛緩させ拡げる作用があるため、喘息やその他の肺疾患の症状を緩和するのに使用される。しかし、アンフェタミンとテオフィリンが化学結合すると、いわゆる「コドラッグ」であるフェネチリンができる。フェネチリンが体内で代謝されると、アンフェタミン単体よりも早く作用する精神刺激薬となる。
当初カプタゴンは奇跡の薬と見なされ、約20年間合法的に処方されていた。しかし1980年代になると、依存性があることや複数の好ましくない副作用を引き起こす可能性があることを示す証拠が増え、世界中の医療当局によって禁止された。
リヤドにあるKafaで医療責任者を務めるガッサン・アスフール氏によると、カプタゴンは「神経系を刺激し、脳を含む重要な器官に影響を与える」
「脳卒中、記憶障害、神経損傷、聴覚・視覚・感覚の幻覚などを引き起こす」
「また、心臓血管の健康に悪影響を与え、心拍数・血圧の上昇や肝臓・腎臓の機能損傷の原因となる」
カプタゴン使用者には、無気力、睡眠不足、食欲抑制による栄養不良、かすみ目、呼吸困難、不整脈、胃腸症状などの様々な問題が生じる。
しかし、精神状態に影響を与える「向精神薬」であるカプタゴンは、不安、極度の抑鬱、焦燥感、易刺激性、怒りの感情などの混乱や気分変動を引き起こすことも明らかになっている。
さらに問題なのが、カプタゴン使用者は痛みや恐怖に無関心になったり危険な無敵感を感じたりする場合もあるという点だ。このような作用から、ダーイシュや中東のその他のテロ組織の歩兵がカプタゴンを使用していると言われている。
自転車競技やサッカーなどのスポーツにおけるドーピング目的の使用を含む中毒・乱用の蔓延を示す証拠が増えていた1981年、カプタゴンは米食品医薬品局によって禁止された。
1986年、世界保健機関が1971年の「向精神薬に関する条約」(サウジアラビアは1975年から加盟)のもとでフェネチリンを規制薬物に指定し、カプタゴンはついに非合法薬になった。それ以降、カプタゴンは世界のどこでも合法的には製造・販売・処方されていない。
しかし裏の世界では犯罪組織が金儲けのチャンスを見出し、間もなく偽造カプタゴンが中東やその他の地域で出回るようになった。
使用者と販売者
サウジアラビア国家麻薬取締委員会の事務局長で、反薬物・防止担当補佐官のアブデレラ・モハメド・アル・シャリフ氏は、2015年のインタビューで、王国の麻薬使用者の大半は12~22歳の年齢層で、大多数がカプタゴンを選択していると述べた。
サウジアラビアの偽造薬物との戦いという現象は、世界中の研究者の注目を集めた。たとえば2016年、ギリシャの法中毒学者の研究グループは、サウジアラビアで薬物問題の治療を受けている患者の4人に3人が「アンフェタミン中毒で、ほとんどがカプタゴンという薬の中毒である」と報告した。
この薬物は、「Basic & Clinical Pharmacology & Toxicology(基礎・臨床 薬理学及び毒性学)」誌に掲載された論文の中で、中東全域で、「期末試験前に眠くならないために」学生によって、「体重を減らすために」女性によって食欲を減退させる薬として、そして単に気晴らしの高揚感を求める富裕層によって使われていると研究者は結論づけている。
2020年、中国の南昌大学の研究者は、サウジアラビア東部州の現役大学生と元大学生に聞き取り調査を行った。そして「薬物が王国に密輸されると、各地域のさまざまなレベルの売人に渡る」ことがわかった。
それぞれの売人が「自分なりの方法で」薬物を宣伝し、販売していると、2021年5月に雑誌「Crime, Law, and Social Change(犯罪、法律、社会変動)」に掲載された論文「イスラムのベールの陰の薬物:サウジアラビアの若者についての一考察」に書かれている。「ある者は学校の前で若者に近づき、ある者は自宅で客を待ち、ある者は行商人のように海岸で薬物使用者を見つけようとする」
ある22歳の学部生は研究者たちに、当局は邪悪なマフィア風の「オメルタ」(沈黙の掟)と闘っていると話した。
「麻薬密売は収入源なので、密売人はそれを守るために全力を尽くしています」と彼は研究者に語っている。
「麻薬の密売は、王国では死刑の対象ですが、それでも密売をする人はいます。つまり、彼らには、それが極めて重要なのです。だから、麻薬の密売や売買を見たら、目をつぶって黙っていればいい。殺されるかもしれないのだから」
薬物の「一般人」使用者は学生だけではない。レバノンのベカー高原にあるバールベックの町の25歳の男性は、匿名を条件に、シリアとの間で燃料を輸送する運転手として働いていた4年前に、どうやってカプタゴンを服用し始めたかをアラブニュースに語っている。
「薬を飲んでいるときはいつも注意深くなって、主に夜間に時間がかかる仕事でも目がさえているよ。活動的になり、運転中に居眠りすることもないだろう」
一緒に働いていたトラック運転手たちは皆、カプタゴンを服用しるので、「ずっと起きていられる」と彼は言った。…彼らはコーヒーを入れてから薬を配る…「シリア人が”ほら、これを試してごらんよ”と言って(薬を)差し出すのさ。それが気持ちよかったから、買い始めたんだ」
「トラックの運転手を見つけたら、間違いなく使用者だね」
現在、職を失ったこの男性は、危険性を承知でカプタゴンを使い続けている。
「仕事をやめた後も、飲み続けていた」と彼は言った。「友人と一緒にただぶらぶらしたりして一晩中起きているだろう、だから、楽しみに飲んでしまうんだ」
薬を手に入れるのは簡単だと彼は言った。「バールベックの誰かに電話して、自分の居場所を教えると、場所を教えてくれて、頼んだものをそこに受け取りに行くんだ」
製造、そして偽造
「ヘロインやコカインのような薬物とは異なり、市販されている一般的な家庭用化学薬品や溶剤を使って合成覚せい剤(フェネチリンなど)を製造することは比較的容易である」
ジェッダ大学、保健省、内務省のサウジアラビアの研究者たちは、2020年6月に学術誌『Annals of Clinical Nutrition』に発表された論文「Study of adulterants and dilutants in some seized Captagon-type stimulants(押収されたカプタゴン系覚せい剤中の不純物および希釈剤に関する研究)」にそう記す。
心配なのは、この薬の作り方が「インターネットで簡単に手に入る」ことだ、と共著者6人は付け加えている。
アンフェタミンなど特定の薬物の製造に必要な原料は「前駆体薬」と呼ばれ、2000年代後半になると、この原料が大量に世界規模で取引されていることが当局により摘発され始めた。
例えば、2008年から2011年にかけて、BMKとしても知られるアンフェタミン前駆体フェニルアセトンが、ヨルダンとイラクに大量に、表向きは洗浄剤や消毒剤の製造用として合法的に輸入されたと欧州麻薬・薬物中毒監視センターは報告している。
2010年、国際麻薬統制委員会は、「西アジアの多くの国でカプタゴンの大量押収が報告されているように、この輸入BMKの一部が不正なアンフェタミン合成に使われ、カプタゴンとして販売されている可能性がある」と指摘した。
それはカプタゴンとして販売されるかもしれない。だが多くの場合は、元の薬物と化学的に遠縁の関係にあるに過ぎない。
1992年以来、トルコ、セルビア、レバノン、イエメン、イラク、ヨルダン、サウジアラビアなどの国々で、二つの半月のマークが付いた多数の錠剤の輸入品の化学分析が行われてきた。
ジャザン大学薬物乱用・毒物研究センターの研究者が2020年に『サウジ・ファーマシューティカル・ジャーナル』に発表した論文にあるように、アンフェタミン、あるいはそのより強力な派生物であるメタンフェタミンだけが、様々な濃度で、他の添加物に混じって見つかることは多い。オリジナルのカプタゴンの主要成分であるフェネチリンについては、多くの場合、痕跡がない。
この不確実性が、偽造カプタゴンの使用者にとって隠れた危険性を生み出しているのである。彼らは自分が何を飲み込んでいるのか知らないのだ。
例えば、メタンフェタミンを知らず知らずのうちに摂取しているとしたら、その原料であるアンフェタミンよりもはるかに強力かつ、中枢神経系への作用が長く続く薬物を摂取していることになる。こうした作用は、サフワ市のラマダンの悲劇があまりにも残酷に示したように、破壊的なものとなりうる。
さらに気がかりなのは、サウジアラビアで人々の生活を破壊している同じ薬物が、地域内外の暴力を助長し、そのための資金源となっているということだ。
合成麻薬によって作られた勇気
ダーイシュ戦闘員らがカプタゴン(フェネチリン)を使用しているという話は、2015年9月にBBCアラビア放送のドキュメンタリー番組『シリアの戦争ドラッグ』で初めて取り上げられた。
インタビューを受けた戦闘員は「カプタゴンを使用すると、恐怖心が消えた」と述べた。
また、別の者は「眠れないし、目を閉じることさえできない」、「何をしようとやめられない」と語った。
「まるでこの世界を支配しているような、誰にもない力を自分が手にしているかのような気分になった。」
2014年〜2015年のコバニ包囲戦でダーイシュと戦ったクルド系特殊部隊の兵士は、アラブニュースの取材に対し、ダーイッシュ戦闘員らは「残忍な大規模攻撃の前や、自爆攻撃を行う前にカプタゴンを摂取していた」と述べた。
「自爆攻撃の後に、時折、体の一部の近くにカプタゴン錠剤の入った血の付いた小袋が見つかった。」
ダーイシュ戦闘員を捕えたクルディスタン愛国同盟(PUK)部隊は、戦闘員らが麻薬によって「気が狂っている」とわかることが頻繁にあった、と彼は付け加えた。囚人となった者たちは尋問のために対テロ部隊に送られるが、そこでは、彼らがハイの状態から元に戻るのを待って、尋問開始まで最大24時間かかることもしばしばあったという。
「それでも、彼らは精神的には無反応になり、しかし、ほんのわずかな身体的不快感で禁断症状が引き起こされ、ひどく苦しんだ…カプタゴンの効果が消え禁断症状が始まると、彼らはパニックになり、不安感に襲われ、体は震え、看守に薬を求める。」
尋問で戦闘員たちは「攻撃前にカプタゴンを使用したこと、それを家に保管していること、また、拠点には十分な量のカプタゴンがあることを認めた」という。
また、ダーイシュ戦闘員の中には「性奴隷として捕えた女性たちにカプタゴン錠剤を強制摂取させたことも自白したものもいる…彼女たちの体が、肉体的拷問に耐えることができるように」と彼は語った。
2018年6月18日、アメリカ主導の多国籍軍によるダーイシュに対する軍事作戦、生来の決意作戦(OIR)で、シリアのアルタンフ付近で活動していた有志連合が支援する部隊が「ダーイシュの麻薬貯蔵施設」を占拠、破壊したと報告された。その施設には「ダーイシュ戦闘員により頻繁に取引、使用されている違法ドラッグ」のカプタゴン錠剤30万錠を含む、末端価格にして総額140万ドルの麻薬が貯蔵されていた。
OIR は「ダーイシュはイスラムの純潔を装っているが、その犯罪テロリストたちは麻薬常用者で密売人として知られている」と述べ、カプタゴンは「ジハーディスト(聖戦主義者)の薬と呼ばれていた」という。
カプタゴンは、報道で、ダーイシュに影響されたテロリストによるヨーロッパ全域で発生したいくつかの大きなテロ事件とも関係づけられている。2016年7月、フランスのニースでバスティーユ・デイ(パリ祭)で集った群衆にトラックで突っ込み、84名を殺害したテロ事件の実行犯、モハメド・ブレルが使用していた携帯電話の解析により、彼がカプタゴンについて調べていたことが明らかとなっている。
しかしカプタゴンを使用しているのは「ジハーディスト」だけではない。カプタゴンは、サウジアラビアやその周辺地域の若者の間で人気が高まっている。
メイド・イン・シリア
今日、毎年アラビア半島中にあふれる数千万の錠剤の大部分は玄関口すなわちシリアで、バッシャール・アサド大統領政権の積極的関与の下行われている。
10年前にシリア内戦が始まって以来、アラブ地域へのカプタゴン流入量は激増した。世界各国からの制裁で歳入が枯渇したシリア政府はドラッグ製造業に乗り出し、シリア・レバノン国内のイランの支援を受けた武装派組織と協力して産業レベルの量のカプタゴンをサウジアラビアおよび他の湾岸諸国に陸・海・空路で密輸している。
2022年4月にワシントンのシンクタンク、「ニューラインズ戦略・政策研究所」(the New Lines Institute for Strategy and Policy)が発表した報告書によると、戦火で荒廃したシリアは「産業規模の製造の中心地」となった。また、「シリア政府内のメンバーがカプタゴン取引の主要な原動力となっており、閣僚級の共犯者が製造と密輸に関わり、国際的制裁の中で政治的・経済的に生き延びるための手段として取引を用いている」という。
シリア政府は「ヒズボラのような他の武装グループとの地域的協力関係を利用して、カプタゴンの製造・売買における技術や物流面での支援を受けていると考えられる」
同研究所のキャロライン・ローズ・シニアアナリストはアラブニュースに対し、「カプタゴンがアサド政権と非常に近い人々、その一部は政権メンバーの従兄弟など親族によって製造・取引されている」ことは疑いないと述べた。
ローズ氏によると、その中でももっとも注目に値するのは「バッシャール・アサド大統領の弟マーヘル・アサド氏で、第4機甲師団の司令官として薬物の製造と密輸に関わっている」。第4機甲師団の第一の任務は内外の脅威からシリア政権を守ることである。
この話は、トルコを拠点とする匿名のシリア人研究者「クサイ」氏の証言とも符合する。氏はアラブニュースに対し、シリア政府が麻薬取引に関わっていることは国内では公然の秘密であり、「第4機甲師団は深く関与している」と話した。
この師団はシリア・レバノン国境、イラク・ヨルダン国境地帯でシリア政府が支配する検問所で商人や密輸業者から税を徴収するなど、シリアの戦時経済と関連する様々な経済活動に携わっている。「クサイ」氏によると、師団は特にシリア北西部のタルトゥース県にある2つの都市、サフィータとバニヤースでカプタゴン製造に直接関わっている。
「イスラエルに対抗するための秘密の武器庫という名目の、『立入禁止』という看板で地元民が入ることを禁じている兵舎に将校が配置されています」と彼は説明した。
「第4機甲師団内でドラッグの調合役として働いていると認めた化学者の知人が何人もいます」
シリア政府が関与していることから、「ドラッグ取引はほとんど合法的なものになっており、最上層の作戦で、確実に実行されます。ヨーロッパに政権が設立したダミー会社があり、製造の材料はそこから届きます」
「クサイ」氏の話では、これらの原材料はシリアの主要港ラタキアへ運ばれ、「そこから各工場に分配されます」。湾岸諸国に密輸されるカプタゴンの大部分もラタキアから出港する船に積まれる。
時として、シリア政府が大規模なドラッグ押収に成功したと発表することもある。2021年11月、フランス通信社(AFP)を含むメディアが「シリアの麻薬取締部隊」が「カプタゴンとして知られるアンフェタミン系覚醒剤2.3トン(約1,400万錠)」を押収したというシリア内務省の主張を報じた。
中東の専門家で、ワシントンDCのアラブセンター非居住特別研究員であるグレゴリー・アフタンディリアン氏によると、このような話はかなり割り引いて受け取る必要がある。
かつてアメリカ国務省および防衛省で中東分析官を務めたアフタンディリアン氏によれば、シリア政府は「二重の戦略を採っています。国際的に正統な政府だと認められたいのです。UAEは政権との外交関係を樹立し、おそらく他のアラブ諸国も追随するでしょう」
「一方では、彼らは『責任ある』政府だと示したい。だが、他方では金儲けもしたいのです。『我々はこれこれの数の密輸業者を逮捕した。製造施設の取り締まりも行っている』と言うことは、良い広報活動になるのです。もちろん、これを信じる人はほとんどいません」
シリアの立場に懐疑的な人々の中には、アメリカの議員も含まれる。2022年9月20日、アメリカ下院はH.R. 6265、「アサド政権による麻薬(カプタゴン)拡散、取引および貯蔵への対抗法」を可決した。この法案は、アメリカ政府に「シリアのバッシャール・アサド政権と関連する麻薬製造と取引、組織を阻止し、破壊するための省庁間の戦略を立てる」ことを要求している。
法案を支持して下院で演説したフレンチ・ヒル下院議員は、「シリアのアサド政権は自国民に対して定期的に戦争犯罪を犯すことに加えて、今や麻薬国家になりつつある」と述べた。また「カプタゴンはすでにヨーロッパに到達しており、アメリカ側に到達するのは時間の問題だ」と付け加えた。
ニューラインズ研究所によると、シリアの隣国レバノンは不可避に「シリアのカプタゴン取引において重要な役割を果たして」おり、「シリア政府とも関係のあるヒズボラ指導者が取引拡大に寄与し、密輸の主要な中継地点」になっている。
レバノン人の売人2人が、匿名を条件にアラブニュースの取材に応じた。彼らはサウジアラビア、エジプトその他の国に薬物を輸送していること、仕入れ先は主に2つのドラッグ工場で、1つはシリアとの国境に近くの町ブリテル、もう1つはシリア西部、レバノンとの国境沿いのクサイルにあることなどを語った。
2人によると、密輸成功の鍵は腐敗である。「政治的保護なしには、この国から薬物を持ち出すことはできない」と1人が話した。「金が物を言う」
2022年12月、レバノンの裁判所が「カプタゴン・キング」として知られる男に、カプタゴン製造と売買の罪で7年の懲役刑を言い渡した。AFPによるとレバノン系シリア人のハッサン・デッコ容疑者は「両国で高いレベルの政治的コネ」を持ち、レバノンのベッカー地方の村から大規模な密輸を指揮していた。
「非道徳的活動」
レバノンの国内治安部隊(ISF)で広報活動を指揮するジョセフ・ムーサレム大佐はアラブニュースに、製造業者、密輸業者、売人すべてにカプタゴンが人気である理由はたった1つ、すなわち収益性に尽きるのだと語った。
「輸送1回で得られる利益は非常に大きいと考えられます」と大佐は説明した。「大麻やマリファナと違って、カプタゴンは2、3ドルで製造でき、その3倍の値段で売れるのです」
大麻やマリファナの製造には「水、農作業、特定の気象条件が必要ですが、カプタゴンはどのような環境下でも製造できます。非常に儲かる商売なのです」
ニューラインズ研究所によると、利幅が非常に大きいため、カプタゴン取引は「中東・地中海地域で急成長する違法ビジネス」となり、2021年だけでシリアに57億ドルの利益をもたらした。
ムーサレム大佐は、2022年の1月から9月までの間だけで、レバノンの国内治安部隊は500万錠以上のカプタゴンを押収したと述べた。
「この状態がいつ終わるのか分かりません」と大佐は言った。「最善を尽くし、すべての人員を動員しています」。治安部隊はカプタゴンとの戦いで「隊員の一部を失った」という。
大佐は続けて、次のように話した。彼らが立ち向かっているのは「非道徳的活動です。レバノン市民、そしてアラブの兄弟姉妹が薬物汚染にさらされるのを許すわけにはいかないのです」
ISFは中東地域の他国の機関と連携してカプタゴンとの戦いに臨んでいる。
「積荷が他国向けの場合、通常湾岸諸国向けのものですが、我々は発送先の国の機関と連携を図ります」とムーサレム氏は説明した。「戦術と情報を共有するのです」
委託販売される一部の薬物は空港を通って運ばれるが、カプタゴンの空輸は「海路・陸路での密輸と比較すると小規模だと考えられています。飛行機では、限られた数の錠剤しか運ぶことができません」
カプタゴン空輸のリスクが浮き彫りになったのは、2015年に他でもない29歳のアブデル・モフセン・ビン・ワリード・ビン・アブドルアジーズ王子が1,000万錠をベイルートからサウジアラビアへ、プライベートジェットで持ち込もうとしてラフィーク・ハリーリ国際空港で逮捕された時である。錠剤は王子の名前とサウジアラビアの紋章が付いた箱に入っていた。
この逮捕劇は王子に「カプタゴン・プリンス」のあだ名と、ベイルートのホベイク拘置所での5年の禁錮刑をもたらした。
匿名を条件にアラブニュースの取材に応じたレバノンの麻薬取締班のメンバーによると、空路であれ陸路・海路であれ、密輸人は「主にレバノン人とシリア人」である。
このメンバーによると、中東地域の港を通じた密輸は「コネのある人物や重要人物」の特権で、「数百万(錠)を、港を通って簡単に輸送できる(が)、閣僚やその他高位の人物による保護なしに、大量の薬物を港から運ぶ方法はない」
また、密輸は「2011年に小規模で始まり、2015年までに勢いを増し、今も続いている」という。
トラックで錠剤を輸送する場合、車体または貨物の中に隠すが、「時には密輸業者と運輸会社が協力することもある。会社によっては、積荷に何が隠されているかを承知の上だし、ただ身元や貨物のチェックを行わず、気づかないだけの会社もある」
「どちらの場合も、密輸業者と運送会社双方が逮捕されることになる」
収入増を望む家族など、小規模な密輸業者はしばしば国境で逮捕される。「子供の人形が使われる。赤ん坊が着けたおむつに忍ばせていた例もある」
「家族が乗った小さなトラックで、母親はベールをかぶり、同じくベールをした娘たち、赤ん坊、夫が乗っているのを見ても、普通なら何も思わないだろう。だが、その全員がカプタゴンを隠し持っているのを見つけることもある」
地域の問題
地域内外で、カプタゴン危機に取り組んでいる国はサウジアラビアだけではない。
たとえば2020年7月、イタリア警察はサレルノ港で8,400万錠のカプタゴン錠剤14トンを押収した。錠剤は、委託販売品の紙と歯車が詰まったドラム缶に隠されていた。当局によると、末端価格11億ドル相当のそれらはシリアで製造され、テロリスト集団ダーイシュの資金調達のためにヨーロッパ市場へ輸送されたものだった。
2021年2月、レバノンの税関職員は、タイル製造機の内部に隠されてギリシャとサウジアラビアに向かっていた500万個の錠剤の密輸をベイルート港で阻止した。
2021年5月、イスケンデルンのトルコ税関職員は、アラブ首長国連邦(UAE)に輸送途中だった600万個の錠剤を押収した。11月には、ドバイ税関職員がオマーンとの国境にあるハッタ検問所で、車のトランクに隠されていた8万個のカプタゴン錠剤を見つけ出した。
シリアとサウジアラビアに挟まれたヨルダンは、大半の国々より大きな問題を抱えている。同国は、その原因がシリア南部で活動中のシリア軍と親イラン民兵にあるとして非難している。
「ヨルダンは、この違法取引を食い止めるための戦場になりつつある」と、中東アナリストのグレゴリー・アフタンディリアン氏は2022年9月、アラブセンター・ワシントンDCの政策文書に記した。
「シリアとレバノンからは、カプタゴン錠剤は通常、陸路でヨルダンに密輸され、そこからアラブ湾諸国に運ばれる。だが一部の貨物は、多くが他の製品の中に隠され、空路や海路でも輸送される」
2021年、ヨルダン軍は1,550万個のカプタゴン錠剤を押収したが、2022年の最初の4ヶ月だけで押収量は前年の合計を上回った。国境沿いでシリアとの暴力事件が相次いだ後、ヨルダン軍は交戦規則を変更した。ヨルダン通信社は、2022年1月の大規模な銃撃戦で、警備兵が「雪にまぎれてシリアから国境に入り込もうとした麻薬密輸業者27人と交戦し、殺害した」と報じた。
報告によると、密輸業者は「武装勢力に支援されていた...何人かの密輸業者は負傷し、シリア領土へ逃げ帰った」という。
2022年11月、ヨルダンの治安部隊は1日のうちに、王国全土で24人の売人を逮捕した。12月の別の案件では、シリア人とヨルダン人の2人の男たちが、2021年にシリアからヨルダンへ190万個の錠剤を密輸しようとした罪で長期の実刑判決を言い渡された。
地域内で、この危機を免れている場所はない。イラク当局は昨年12月、大麻、コカイン、500万個のカプタゴン錠剤を含む、自国の国境で押収した6トンの薬物を処分した。
昨年12月、UAEのシャルジャにあるハリド港税関センターは、カプタゴン50万錠を含む142.73kgの薬物を密輸しようとした企てを、5件阻止した。
しかし20年以上にわたり、薬物密売人の主な標的となっているのはサウジアラビアである。国連薬物犯罪事務所への加盟国による定期報告では、2015年から2019年の間にサウジアラビアが押収したアンフェタミン錠の数は地域内でも圧倒的であり、ヨルダン、UAEがそれに続いている。
2019年だけで、王国はおよそ1億4,600万個の押収を報告しており、ヨルダン(2,300万個)、クウェートとレバノン(各400万個)、そしてイラク(60万個)で押収された量を凌駕している。
過去6年にわたり、サウジアラビア当局は、これまで以上に巧妙な手段に訴える密輸業者と知恵比べをしながら、自国の国境で合計6億錠のカプタゴンを押収してきた。そのうち、2021年第1四半期の押収量は、過去2年間分を上回る数だった。
2021年には、1億2,000万個近くの錠剤が押収されている。2022年8月だけで、当局は1度に4500万錠という記録的な密輸を阻止した。
そのような取引が成功するかもしれないという見返りがあるからこそ、密輸業者は今も挑戦を続けるのだ。ザカート・税・税関庁は、カプタゴンの押収について定期的に報告している。
最近の最も大規模な密輸事件の1つは10月にあった。リヤドでパプリカの積荷から約400万個の錠剤が見つかり、首都とジェッダで5人の容疑者が逮捕されたのだ。11月には、リヤドの木造キッチンの板の中から200万錠が見つかり、新たに4人の逮捕につながった。12月には、オマーンとの国境沿いに広がる砂漠地帯「空虚な4分の1」とヨルダンとの境にあるハディサ国境経由で薬物を密輸しようとした2件の試みが阻止され、300万錠近くが押収された。
年が明けても、休息はない。2023年に入って4日目、麻薬取締総局はリヤドで、トラック内の特注コンパートメントに300万個を超える錠剤が隠されているのを発見し、3人のサウジアラビア人を逮捕したと発表した。
国境での戦い
高性能のX線装置、探知犬、そしてその地域一帯の同盟国と共有する情報ネットワークで武装したサウジアラビアが、国境で2021年の第1四半期に押収したカプタゴン錠剤は、過去2年間に押収した分の合計よりも多かった。
「2020年と2021年には、麻薬取締総局、国境警備総局、その他の関係機関との連携と協力により、1億9,000万錠以上のカプタゴンが押収されました」と、ザカート・税・税関庁(ZATCA)の安全保障問題顧問であるマジデ・アル・サビ氏は述べている。
「この連携により麻薬取締総局は、押収した薬物をサウジアラビア内で受け取るはずだった人々を逮捕することができました」と彼は述べた。
ZATCAは過去10年間に、「麻薬類の中でも、シャブ(覚醒剤)、ヘロイン、コカインなどの薬物10万kg以上に加え、7億8,200万錠以上の麻薬」を押収してきたと、アル・サビ氏は述べている。
サウジアラビアの国境警備は容易なことではない。サウジアラビアは8カ国(ヨルダン、イラク、クウェート、カタール、UAE、オマーン、イエメン、そして全長25kmのキング・ファハド・コーズウェイを介してバーレーン)と陸上国境を接しているのだ。そして、アラビア湾に450km、紅海に1,700kmの海岸線があり、アカバ湾の北端から南のイエメン国境まで続いている。
国境検問所はすべて「準備万端」だが、なかには他よりも多くのことが起こる場所もあると、アル・サビ氏は述べている。「ジェッダ・イスラム港、(ヨルダン国境の)アル・ハディーサ港、(湾岸の)ダンマンのキング・アブドルアジーズ港は、密輸の企てに関してはリストのトップに挙げられます」と彼は述べた。
密輸業者は「食料品、電子機器、子どものおもちゃ、鉄など、あらゆる種類と形態を悪用して、サウジアラビアに違法物質を密輸しようとするためにあらゆるものを利用しようとしています」と彼は付け加えた。
「例えば最近は、他の食料品と一緒に出荷されていた玉葱の積み荷の中に隠されていたカプタゴン錠剤の密輸を阻止しました。税関の英雄たちは、そのような密輸を阻止するために常に準備万端なのです」
その英雄たちの中には、リヤドの国立K9センターの男性と犬が含まれている。 彼らは現在、440以上のチームが26の税関で活動しており、さらに地方の空港や港への導入も進んでいる。
カプタゴンの押収の大半は「スペシャリストとK9による並外れたチームワークのおかげです」と、K9センターのシニアトレーナーであるマヘル・ラシッド・アル・フアイシュ氏は述べている。
その男性と犬は「一体であるかのように強い絆で結ばれています。私は当局で過ごした26年間で、K9とそのスペシャリストの間に大きな絆があることに気づきました。調教師は常に自分の犬に愛着を持っており、犬はスペシャリストの行動や性格をよく理解していて、とても忠実なのです」
犬は人間より嗅覚細胞が何百万個も多いおかげで、「感覚面で非常に高度な能力があります。息を吐きながらでも物質や密輸品に反応して検知する能力、視野角が広く周囲をよりよく探索できる能力、そして非常に強い聴覚を備えています」
犬はK9センターで、薬物、爆発物、現金、タバコ、そして生死を問わず人間を検知する訓練を受けている。
国立K9センターのアブドゥラー・アル・サローム所長は、このチームの成功は「1人の人間によるものではなく、むしろシステムによるものであり、我々はこの脅威に十二分に立ち向かうことができます」と述べている。
アル・サローム氏によると、犬は「密輸された現金やタバコだけでなく、5~6種類の薬物と6~7種類の爆発物」を検知するよう訓練されているという。
世界税関機構から優れた地域センターとして認定されている国立K9センターは、「訓練の提供と専門家との専門知識の交換という点で、地域諸国との協力を強化することを目指しています」
アル・サローム氏によると、犬は密輸品を発見することに関して確かな感覚を持っているという。あるとき、K9の一団が陸路の税関でトラックの定期検査を行っていたところ、1頭が列に沿って進まずに真っ直ぐ7台目のトラックに向かっていった。
「そこは荒野の開けた場所だったので、おそらく狼か何かがK9の注意を引いたのだろうと思いました」とアル・サローム氏は述べた。
調教師は犬を1台目のトラックに戻そうとしましたが、再び7台目の車両に向かっていき、「その時、調教師はこの問題をより深刻に受け止めたのです」
そのトラックは捜索され、カプタゴンの錠剤が大量に発見された。
密輸業者は多くの場合、冷酷なギャングであり、一度に何百万個もの錠剤をサウジアラビアに持ち込もうとして、極めて狡猾で時には巧妙な方法を用いる。その多くが摘発されており、2021年1月から2022年8月にかけて、サウジアラビアの税関職員と国境警備隊員が押収したカプタゴンは1億6,000万錠以上になる。
もちろん、どれだけの錠剤がサウジアラビアの街角に出回ったかはわからない。しかし、この薬物が個人、家族、地域社会に恐ろしい被害を及ぼしていることははっきりしている。
カプタゴンにまつわる恐ろしい話は日常茶飯事だが、それだけで使用者が思いとどまることはないようだ。
アラブニュースの取材に匿名で応じたバールベック在住のカプタゴン使用者は、「私の知り合いで、ある晩、カプタゴンを飲みすぎて正気を失った人がいます」と語った。
「彼はぼんやりと街を歩いていて、自分が今どこにいるのか、何をしているのか、誰であるのかさえ、分からなくなっているのです」
「両親と喧嘩して、1日に22錠も飲んだそうです。薬が完全に抜けるまでに1週間かかりましたが、その頃には誰のことも分からなくなっていました。今でも自分のことすら分からないのです」
かけらを拾い集める
国境で薬物を阻止することは、カプタゴンとの戦いの半分に過ぎない。医療専門家も、サウジアラビア各地の専用治療センターでカプタゴンと戦っている。
サウジアラビアは、薬物の密輸と売買に厳しいことで知られている。サウジアラビアの麻薬および向精神薬取締法では、麻薬または向精神薬の密輸・輸入・輸出・製造で有罪となった者は死刑となるが、裁判所の裁量により15年以上の懲役と50回以下の鞭打ちと10万リヤル(26,700ドル)以上の罰金に減刑することが可能である。
初めて薬物の売買を行った者には、15年以下の懲役と10万リヤル以上の罰金と50回以下の鞭打ちが科されるが、再犯の場合は死刑になる可能性がある。政府関係者が薬物取引で有罪となった場合は、25年以下の懲役もしくは死刑に処される。
しかしこの法律は、使用者に関しては極めて進歩的なアプローチをとっており、使用者が「薬物中毒を治療するために指定された診療所」の指示に従う限りにおいて、「治癒を助け、麻薬または向精神薬の使用または中毒を理由に起訴することはできない」と規定している。
リヤドにあるKAFAセンターはそのような施設の1つであり、メッカにあるKAFA喫煙薬物乱用防止協会の子会社である。
KAFAの総責任者であるイブラヒム・ビン・アフマド・アル・ハムダン氏は、「このセンターでは、教育、行動、スキル構築プログラムのほか、さまざまなスキームを通じて中毒患者を回復させるための医療ケアを提供しています」と述べている。
このセンターでは、3段階の治療計画を採用しており、まず、患者の安定を確保するために45日間のプライマリーケアを行います。その後、さまざまなプログラムからなるアフターケアを3カ月間行います」
「最後に、最長2年間の長期ケアを提供して、回復した薬物中毒者の継続的な改善を保証します」
KAFA治療センターが収集したデータによると、中毒患者の大半は男性である。文化的な理由から「この惨劇は女性には蔓延していない」のだ。「それでも、我々はKAFAで、すべての人にサービスを提供しています」
KAFA協会では治療プログラムに加えて、「麻薬の危険性や、中毒になった人々が利用できる支援について教育する」学生向けの啓発プログラムを、さまざまなパートナー団体とともに開催している。
このようなセンターが全国で提供しているこういったサービスは、サウジアラビアのカプタゴン問題と戦うための3つのアプローチの1つである。
「予防が治療に勝ることは誰もが知っています」 とアル・ハムダン氏は述べている。
「特にカプタゴンや麻薬全般の危険性、薬物乱用の危険性について、学校での認識を高めるためのライフスキルに焦点を当てた教育プログラムの提供を通じて、予防と教育の両面において、政府の真の取り組みが行われています」
サウジアラビアでは、「ネブラス」(ビーコン)の傘下にあるサウジアラビア国家薬取締委員会の活動に代表されるように、中毒者に対して処罰よりも治療を優先する傾向がある。同委員会は、中毒者とその家族に対して、専用の中毒カウンセリングセンターなどの幅広いサービスを提供しており、患者と治療提供者を結びつけることができる。
2022年10月、ネブラスは複数の政府機関や民間団体と連携して、薬物乱用との戦いにおける家族の絆の重要性を啓発することで、子どもたちを中毒の危険から守ることを目的とした2週間のキャンペーン「Stay Close(寄り添う)」を開始した。
ネブラスはキャンペーン開始時に「Stay Close」とツイートした。「子どもたちと距離を置くことで、子どもたちの人生を台無しにしないでください。家族の絆とあなたとのコミュニケーションが、子どもたちを薬物の危険と中毒から救うのです」
ネブラスによると、薬物を摂取し始める均年齢は13歳から18歳であり、思春期の薬物乱用の半数以上は、家族が子どもに十分な注意を払わないことが原因であるという。
他の政府機関も中毒対策に乗り出している。2022年11月、サウジアラビア保健省は、精神科病棟がある50の病院で中毒治療のサービス提供を促進するキャンペーンを開始し、入門ワークショップを開催するとともに、患者が最先端の遠隔医療ポータルを介して150以上の病院とつながることができるように、それらの病棟を中東で初めてのサウジアラビアの予約アプリ「Sihhati and Seha Virtual Hospital」とリンクさせた。
保健省によると、中毒治療へのアクセスを容易にし、偏見を減らし、提供されるサービスの質を向上させることが目的だという。さらに、「診療所と入院病棟の両方で、中毒の危険性、合併症、危険因子、再発の原因、離脱症状やそれに伴う精神症状の治療についての認識を高める」という目的もあるという。
KAFAの総責任者であるアル・ハムダン氏は、中毒患者とその家族に希望のメッセージを送っている。
「中毒者は病気であり、助けを必要としているのです」とアル・ハムダン氏は述べている。「そう、中毒者は大勢います。しかし治療センターや病院の努力のおかげで、中毒になっても終わりというわけではありません」
クレジット
執筆と調査:ジョナサン・ゴーナル, レーン・フアド
インタビュー: ナディア・アル・ファウワー, ムハンマド・アル・スラミ
エディター:ダイアナ・ファラー
クリエイティブディレクター:サイモン・カーリル、
オマール・ナシャヒビ
デザイナー: ダグラス・オカサキ, アドル・バスタマンテ
グラフィック:ダグラス・オカサキ
ビデオプロデューサー: ハセニン・ファヘル
ビデオエディター:アリ・ノーリ , アブドルラフマン・ファハド・ビン・シューフブ
ビデオグラファー:フィラス・ハイダル, アブドゥラー・アルジャバル, ジャマル・ビン・マフフース
ピクチャーリサーチャー:シーラ・マイヨ
コピーエディター: 岩田明子
翻訳: チャーベル・メルヒ
英語エディター・タレク・アリ・アフマド
フランス語エディター:ゼニア・ズビボ
ソーシャルメディア:ジャド・ビタール、
ダニエル・ファウンテン
プロデューサー:アルカン・アラドナニ
編集長:ファイサル・J・アッバース