
ニューヨーク市:米国は、12月8日、国連安全保障理事会がガザ地区における戦闘の停止を要求し、同地区の情勢に対して行動を起こすよう求める国際的な要請を阻んだ。他の14理事国の内、棄権した英国を除く13ヶ国が賛成票を投じた決議案に対して、米国は拒否権を発動した。
安保理に対してガザ地区における人道的停戦を要求するよう求めたアントニオ・グテーレス事務総長の劇的な歎願を初めとする前例の無い国際的な呼びかけの最中、米政府は拒否権を発動した。グテーレス事務総長は、国連憲章で事務総長に与えられている数少ない権限の一つであり極々まれにしか使用されない第99条を発動し、「パレスチナ人全体、そして、この地域の平和と安全にとって取返しのつかない事態を招きかねない」人道的大惨事の回避のためには停戦が必要だと述べた。
国連憲章99条は、「国際の平和及び安全の維持に脅威を与えると事務総長が認めるいかなる問題」にも安全保障理事会の注意を促す権限を国連事務総長に与えている。
アラブ首長国連(UAE)がアラブ諸国を代表して国連に提出した決議案に対する12月8日の採決は、サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハーン外相を初めとするアラブ諸国の閣僚がワシントンでアントニー・ブリンケン国務長官と会談したことを受けて行われた。この会談は、決議案の採決の阻止のために、英国やロシア、フランス、中国と共に安保理の常任理事5ヶ国の1つとして米国が持つ拒否権の行使による決議案の採決の阻止を行わないよう説得するための最後の尽力であった。
米国のロバート・ウッド国連代理大使が、12月8日午前の安保理の事前会合で、「ハマスは恒久的な平和や二国家解決を望んでおらず、この決議案は、次の戦争の種を植え付けるだけの結果となる」との認識により、米国は即時停戦の呼びかけを支持しないと述べていたことから、米国の拒否権発動に意外性は無かった。
ウッド国連代理大使は、人質となっている若い女性たちの解放をハマスが拒否したことが前回の停戦の決裂に結果したことに言及し、「ハマスが行った性的暴力やその他の想像もできない悪行が為された10月7日のテロ襲撃の糾弾をこの安保理が出来なかったことは道徳的に重大な失敗である」との米国の立場を繰り返した。
12月8日に採決が阻止された決議案は、ガザ地区における「即時の人道的停戦」と「すべての人質の迅速な無条件解放、並びに人道的アクセスの確保」を求めていた。
この決議案では、「ガザ地区の壊滅的な人道的状況とパレスチナの民間人の苦難に対する重大な懸念」が示され、「パレスチナとイスラエルの民間人は、国際人道法に基づいて保護されなければならない」事が強調されている。
また、12月8日午前には、グテーレス事務総長は、「人道的な即時停戦、民間人の保護、救命援助の緊急提供を推進するいかなる努力も惜しまない」ことを安保理の理事国に対して呼びかけることもしていた。グテーレス事務総長は、「世界の目、そして歴史の目が注視しています。行動の時です」と付け加えた。
グテーレス事務総長は、ガザ地区における人道支援の仕組みが完全崩壊する危険性が高く、その結果、「社会的秩序が破綻し、エジプトへの集団移住の圧力が高まる」可能性があるとの警告を発していた。同事務総長は、こうした展開が地域全体の安全保障に壊滅的な影響を及ぼし得るとの懸念を語った。
グテーレス事務総長は、ガザ地区の黙示録的な光景を描写した。空、陸、海からの攻撃は激烈で広範囲に及び、「339の教育施設、26の病院、56の医療施設、88のモスク、3つの教会が被弾したとの報告を受けています」と、同事務総長は述べた。
「ガザ地区の住宅の60%以上にあたる約30万戸の家屋やアパートが損壊または破損しています。人口の約85%が自宅からの退避を余儀なくされているのです」
こうした状況により、人道援助の提供は「不可能となってしまいました」と、グテーレス事務総長は付け加え、「ガザ地区の人々は、ピンボールの玉ように転がり続けるよう告げられ、生存のための基本的なものを何一つ持たないまま、南部のさらに小さい区域間で跳ね返され続けるように移動を繰り返しています」と述べた。
グテーレス事務総長は、現在ガザ地区に安全な場所は無いと語った。
「UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)が運営する避難所の内、少なくとも88ヶ所が被弾し、270人以上が死亡し、900人以上が負傷しています。避難所は過密で不衛生な状態です。開いた傷口の手当をそこでしているのです。一つのシャワーやトイレを使用するために何百人もの人々が列に何時間も並んでいます」
グテーレス事務総長は、また、飢餓や飢饉の「深刻なリスク」についても警告した。世界食糧計画(WFP)によると、ガザ地区では全世帯の97%,が十分な食糧を確保出来ておらず、WFPの食糧供給も不足しつつある。
グテーレス事務総長は、また、高まり続ける必要性にも関わらずガザ地区の医療制度が崩壊していること、そして、開戦以来少なくとも286人の医療従事者が死亡していることを強調した。
「いくつもの病院が激しい空爆を受けてきました」と、グテーレス事務総長は語った。「36の病院の内、依然として機能しているのは14だけです。その内、3つの病院では、基本的な応急処置を行っていますが、他の病院は部分的な医療サービスしか提供できないでいます」
「避難所の不衛生な状況や食料と水の深刻な不足によって、呼吸感染症や疥癬、黄疸、下痢が増加しています」
「私がこれまで述べてきたことは、すべて前例の無い状況を示しています。私が国連憲章第99条の発動という前例の無い決断を下してでも、安全保障理事会の理事国に人道的大惨事の回避を強く求め、人道的停戦の布告を訴える理由は、このガザ地区の前例の無い状況なのです」
投票に先立って、パレスチナの国連常任オブザーバーであるリヤド・マンスール氏は、理事会メンバーに対して、「(イスラエルの)目的がガザ地区における民族浄化であることを知らないふりを私たちはするべきなのでしょうか?」と問いかけた。
「パレスチナ人を破滅させる事や強制移住させる事に反対であるならば、即時停戦に賛成のはずです」
「どれほど善意に満ちた意図をお持ちであれ、どれほど誠実な努力をなさっているのであれ、今が決定的瞬間なのです。この戦争は、パレスチナ人民の国家を終焉させ、パレスチナ問題を粉砕する取り組みの一環なのです。そのような目的には与しないということであれば、この戦争に反対しなければなりません」
イスラエルのギラッド・エルダン国連常任大使は、安保理の理事国に対して、「停戦を呼びかけることは、ハマスの意図的な残虐行為が許されるという明確なメッセージを発することになります」と語った。
「ハマスは、ガザ地区の住民を人間の盾とし、民間人犠牲者を増加させることによって、国連から停戦要請を引き出そうとしています。ハマスが注意深く作り上げたこのお芝居で、私たちは一役演じたいのでしょうか?」
エルダン国連常任大使は、「もしこの理事会が停戦を望むのであれば、過去2回の停戦を反故にしたハマスに停戦を要求することから始めるべきです」と述べ、ガザの壊滅的な人道状況の責任をハマスに負わせた。
UAEのモハメド・アブシャハブ国連代理大使は、ガザ地区における破壊の規模は、第2次世界対戦中の1945年のドレスデン爆撃をも上回ると安保理で述べた。
「医療施設や医療機器、医療従事者を意図的に標的としたことを、私たちは可能な限り強い言葉で非難します」と、アブシャハブ国連代理大使は述べた。
UAEの決議案の共同発起国である中国の張軍国連常任大使は、この決議案が「国際社会の普遍的な核心を反映したものであり、平和回復に向けた正しい方向性を示しています」と語った。
張軍国連常任大使は、「この人道的惨事は、言葉では表現できないほど大規模なものです…少しでも待ったり行動が遅れれば、さらに多数の死者が出ます。現時点では、停戦だけがこの地域の炎上という大問題の回避方法です」と付け加えた。