


アラブニュース
リヤド:多くの人の話では、イエメンの武装勢力フーシ派がアフリカ移民約500人を焼死させた。だが、人権擁護の大物やリベラルな専門家はどこで怒っているのだろうか。これは反語ではなく、真面目に投げ掛けた質問だ。
確かに、世界の怒りが恣意的であるのは、今に始まったことではない。国際社会の誕生、人権運動の初期からそうである。だが、今回のフーシ派による暴力に対する、国際道徳の調停者の役割を主張する人々の、耳に痛いほどの沈黙は、それ自体が不面目なことだ。
フーシ派が市民の安全を無視しているという基準からしても、3月7日にサヌアの拘留センターで起きたことは卑劣だった。センター内での残酷な扱いや強要、劣悪な環境に抗議する移民が行ったストライキを、フーシ派が武力を行使して終わらせた。ジュネーブに拠点を置く「SAM 人権と自由を求める組織」は、生き残った数人へのインタビューに基づいて発表した。
その結論に、 容疑者としていつも名前が挙がるフーシ派が、そっちこそどうなんだと言う余地はなかった。「2021年3月7日、フーシ派が爆破したとみられる爆弾による火災で、拘留センターにいた、エチオピア人を中心とする移民約450人が死傷したことについて、フーシ派は直接的に、一貫して責任がある」
いくつかの独立した地域団体がこの結論に同意した。イエメンの主要な人権団体ムワタナは、火災の原因はフーシ派にあるとし、生存者や犠牲者の親族を、この事件について話させないために恣意的に拘留している、とフーシ派を非難した。
「アンサール・アッラー(フーシ派)は3月7日、過密状態にあるサヌアの拘留施設で、死者を出した火災を起こし、多くのアフリカ移民を死傷させた」とムワタナは声明で発表した。
これとは別に、Women Solidarity Networkは、フーシ派が移民による抗議を鎮圧するために実弾や爆薬を使っていると非難し、国連に対し、そうした脅迫から生存者を保護するよう要求した。
「我々は、国際連合を含む国際組織に対し、入院した移民を保護するよう要請する」と同団体は発表した。
「フーシ派は、黙っていればカードを発行してやると、入院中の移民に約束している、と我々の情報源は注意を呼び掛けた。目撃者から集めた情報によると、フーシ派は子供を含むアフリカからの不法移民を、戦闘員として強制的に徴兵して紛争の前線に送り込むために集めた」
国際的に認められているイエメン政府のムアンマル・イリヤニ情報相は、フーシ派は、今後のメディアや国際的な調査への報告に影響を及ぼすために、生存者とその家族を脅迫していると述べた。
生存者や他の目撃者がフーシ派の支配地域にとどまっていると公正な証言ができない、と同氏は指摘し、国連移住機構(IOM)に対し、フーシ派の圧力から逃れるために彼らを他の場所に避難させるよう求めた。
イエメンの人権運動家で、American Center for Justiceの所長であるAbdurrahman Barman氏は、同組織は、今回の悲劇の原因はフーシ派にあるとし、エチオピア人数百人を拘留センターに押し込み、過密状態にしたとしてフーシ派を非難した生存者数人にインタビューしたと述べた。
フーシ派は、American Center for Justiceの監視員がサヌアの病院にいる生存者を訪問するのを妨害した、と同氏は述べ、生存者の報告により、死者数が200~300人だったことが示されていると付け加えた。
非常に皮肉なことに、サナアで虐殺が起きたのは、昨年、黒人男性ジョージ・フロイドさんが警察に拘束された際に死亡した事件を巡る民事訴訟で、米ミネアポリス市が2700万ドルを支払うことで和解が成立したのとほぼ同時だった。
ミネアポリス市議会は歴史的和解を発表した。審理前に成立した和解としては史上最高額であり、黒人の命は断じて軽視してはならず、警察の有色人種への暴行は終わらせなければならないという強力なメッセージだと言われている。
「ジョージ・フロイドさんの死は、白熱した社会運動に火を付けた」と、全米黒人地位向上協会の会長兼CEOであるDerrick Johnson氏は昨年6月、ガーディアン紙の論説記事に書いた。「全ての州と世界中で、あらゆる人種、性別、年齢の人々が、過去を捨てて未来をより良いものにするために、激怒し、希望を持って集まり、デモに参加している」
残念ながら、歴史が導くところでは、「あらゆる人種、性別、年齢の人々」が、イエメンでエチオピア人数百人の命が失われたことに「激怒し、希望を持って集まり、デモに参加する」可能性は低い。中東全体での一般市民の怒りの激しさを反映して、ハッシュタグ#HouthiHolocaustがアラビア語のツイッターでトレンドになっているのは、大したことではない。
英国のMichael Aron駐イエメン大使の名誉のために言っておくと、同氏は今回の死亡事件を強く非難しており、直ちに客観的な調査を行うことと、負傷した移民に接触する機会を妨げないことを求めた。
「サヌアの、フーシ派が支配する移民センターで起きた火災にがく然とした」と同氏は12日、Twitterに投稿した。「OHCHRと人道支援組織は、火災現場と負傷者の所に直ちに制限なく行く必要がある。死傷者についての詳しい報告を含んだ、信頼でき、透明性のある独自の調査を行わなければならない」
Aron氏は、火事と人命の損失の責任が誰に、何にあるのかといった細かいことを言わなかった。「拘留センターを過密状態にするなど、フーシ派が移民を非人道的に扱ったことが、今回の人命の損失の原因だ」と同氏は述べた。
アラブニュースと話す中で、イエメンのアッシャルク・アルアウサト紙の編集者Badr Al-Qahtani氏は、国際組織が怒りを抑えていることをイエメンの政治的文脈の中で説明した。移民の死であろうと、民間人の誘拐であろうと、イエメンの広い地域で人道的活動を行っている国連やその他の組織にとっての頭痛の種は同じである。それは、問題を引き起こすフーシ派の能力だ。
Al-Qahtani氏は人道団体に言及し、「彼らはフーシ派を恐れて暮らしている。彼らの生活をより困難にすることができるからだ。戦術は成功している。彼らは安全を第一にしてフーシ派に対処している」と述べた。
「彼らは、サウジアラビアやUAEといった、主権を有する政府や同様の組織とのやり取りでは暴力の脅威に対処する必要がないため、フーシ派に対するアプローチとは異なる付き合い方をしている」
この点についてAl-Qahtani氏は詳しく説明した。「国際機関は、人道的目的を達成するために、フーシ派の支配する地域の問題を対処するときにはいつも慎重だ。サヌアで起きた、死者が出た事件に対する反応は、その証拠だ」
「この事件を、同じ組織のいくつかや、国連が承認したイエメン政府が関わる他の問題と比較せよ。例えば、アデンではアフリカからの移民に関する問題が起きた。同じ組織や活動家が政府に対して強硬な態度を取り、ありとあらゆる要求をした」
「政府は、これらの組織の国際的名声やと評価を考慮してこれらの組織と取り引きし、要求に応じた。これらの組織は常に政府と協力し、何の問題も不安もなく直接政府と取り引きしている」
一方、フーシ派は強硬な手段を取ることをためらわないだろう。「フーシ派は、空港でも、交通機関でも、会社でも、文書のやり取りを遅らせることができる。そのため、組織はフーシに立ち向かうことを望まない。彼らは情報を漏らすかもしれないが、声を上げることはできない」とAl-Qahtaniは述べた。
「国際組織を完全にコントロールすることを目的として最近設立された、フーシ派の機関があることを認識する必要がある。外国政府でさえこの要素を考慮に入れることがある。英国大使が問題について率直に話すときに、どの程度抗議しているかが分かる」
American Center for JusticeのBarman氏は、フーシ派の行動に目をつぶった国際組織と国際社会を遠慮なく批判した。
同氏はサヌアで起きた死亡事件に言及し、「これは凶悪犯罪だ」とアラブニュースに語った。「焼死した移民が白人だったら、世界は大騒ぎしただろう。犯人がフーシ派でなければ、安保理はすぐに招集されていただろう」