



David Romano Missouri、アメリカ/ Najia Houssari ベイルート
シリアは、ロシアの会社と4年間の石油・ガス探査契約を、レバノンが所有を主張する地中海で署名した。新たな協定の下で探査される2つのブロックは、レバノンの北部国境沿いのエネルギー探査の対象とされている沿岸地域と重複している。今までのところ、レバノンの激しい憤りは、その不在によってかえって目立っている。
そう遠い昔ではない、立場が逆転していた時のことを想像する。2011年、レバノンはその海上の国境を定め、その3年後には、北部のブロックNo.1の石油・ガス会社に入札を申し出た。正当性の有無にかかわらず、シリアは、レバノンの国境策定を承認せず、抗議する形で応じた。
2つの反応間の際立った差異は、7年を隔て、レバノンの野党に通じた。
「レバノン公式当局はこの問題についていかなる立場をとるのか」と、未来運動議員連合のRola Tabsh議員は問うた。「この疑わしい昏睡状態はどうしたことか。私たちは南側からの、すなわち敵(イスラエル)からの侵害に備えてきたが、それは北側から、すなわち兄弟のように親愛なる国からやってきたのだ。」
同様の懸念が、元大臣でレバノン軍団現メンバーのRichard Kouyoumjianから発せられた。彼はこう述べた。「政府と関係省庁には主権を有する地位と明確な説明を有することが求められている。」
彼は「南側の国境策定の交渉を再開し、シリアの連座を終結させ、私たちの資金と石油という財産を強奪する」ことを呼びかけた。
南側では、イスラエルの国境線とレバノンの国境線が対立しており、国連後援でアメリカ仲介の間接的な交渉が長引いている。レバノンとイスラエル間の争いと交渉は10年以上前から今まで持続している。
ヒズボラは、親イランのシーア派武装組織で政党であるが、この問題をめぐるイスラエルとの間接的な交渉にさえ賛成しているようではなく、しぶしぶ彼らに応じた。イスラエルとの海上の国境の紛争の解決は、石油・ガス会社をその海域に招致するレバノンの能力にとって重要である。
ヒズボラは、もしレバノンが交渉の拒絶によって海底油田やガス鉱床を開発しそこなうならば、ヒズボラは責めを負うことになるということを理解していた。しかし、ヒズボラはなお海上の国境問題を、ヒズボラが抱えるレバノンのイスラエルとの地上の国境紛争にリンクさせようとした。
イスラエルは2000年にレバノンから完全に撤退したが、ヒズボラはシェバー・ファームズとして知られる一区画の土地もまたレバノンの一部であり、いまだにイスラエルによって占拠されていると主張している。国連はシェバー・ファームズの所有権をシリアにあるとしたが、この問題はヒズボラに、イスラエルとの紛争を維持する口実と、他のすべてのレバノンの民兵組織が武装解除してからかなり経っても武装を維持し続ける理由を与えている。
ヒズボラ―そして2008年からそれが大規模に統制しているレバノン国家―は、イスラエルにまつわる自国の利益を守ることが声高であることを証明した。それゆえ、政府が北部のシリアの侵犯についていまだに言葉を発していないことは、多くのレバノン人たちに、興味をそそる以上のことであると印象付けた。
ロシアの会社とのシリアの契約は、レバノンが所有権を主張する少なくとも750平方キロメートルの海域を含む。もしイスラエルやキプロスに匹敵する地中海油田やガス鉱床がレバノン沖合に存在するならば、それらからの潜在的収益は、レバノンを現在の財政難から救うのに大いに役立ちうる。
大金が懸かっているように見えるが、イスラエルとの国境に接している当のレバノンのリーダーは、自分の権利のために戦うことに大変かたくなであるように見え、シリアの侵犯を止めるために何もしていない。レバノン政府は、ヒズボラに強く支配されており、沈黙を保っている。
理想的には、アナリストによると、レバノンはシリアに対して行使可能な手段を用いて異議を唱えなければならない。
「それはシリア人の駐レバノン大使を通してであるか、あるいは、レバノン外務大臣のシリア訪問であるかもしれない」と、レバノンと中東のエネルギー問題のエキスパートであるMarc Ayoubはアラブニュースに語った。
「もしシリアがこの異議申し立てを受け入れることを拒否するならば、レバノンは実施されるだろうあらゆる探査作業に抗議するために、国連に訴えなくてはならない。もしレバノンがこれらのエリアの所有権を証明する文書を提示するならば、レバノンは探査の中止を要請しうる。」
弱い国はもちろん、自国の権利がいつもないがしろにされるのを見ている。ギリシアの哲学者トゥキディデスが2000年以上も前に述べたように、「強き者はできることをし、弱き者はなさねばならないことに苦しむ」。イスラエル国家の力はシリア国家の力をはるかに上回っているから、この説明は不十分であるように見える。イスラエルに対する海の紛争において、ベイルートのリーダーが国連に助けを求めるのは、差し支えないことであった。
多くのレバノン人にとって、この明らかなダブルスタンダードに対する真の説明は明白であるように思われる。つまり、ヒズボラはレバノンの利益よりも自身の利益を追求し、シリアとイランに恩恵を受けているからという説明である。
レバノン国家がヒズボラとその仲間の支配下に留まる限り、レバノンの国益は二の次になる。そのような状況下では、内戦で荒廃したシリアほどの弱い国家でさえ、レバノンを利用することができる。
レバノンの実際の災難は、北部の国境を守るために立ち上がろうとすらしないだろう政府だけではない。昨年の壊滅的なベイルート港の爆発のあとでさえ、ヒズボラはレバノンへの国際的財政救済策を呼び込むために必要な政府の改革を妨害した。
とりわけ、イランとの結びつきが大変強い国と取引する場合には、反イラン制裁と衝突する恐れがあることから、レバノン政府におけるヒズボラの指導的な存在感と影響力は、投資・開発援助を枯渇させている。西洋のテロリストのリスト上におけるヒズボラの存在感は、レバノンの事態をとてつもなく複雑にしている。
それでもなお、ヒズボラ戦士はいまだにアサド政権に味方して、シリア内戦に公然と身を投じている。ヒズボラの顧問がフーシの援助のためイエメンに行っていることもまた周知のことであり、ヒズボラの工作員はキプロス、ジョージア、アルゼンチン、東南アジアなどの各地で様々なテロ計画を実行し続けている。
レバノンの外交政策は、いまやイランやシリアの外交政策に大きく足並みをそろえており、レバノンはアラブ連盟の会合や、地域でのイランの行動をあえて非難するのかどうかという決議に不参加である。アラブ湾岸からの財政支援は、レバノンが国際フォーラムでイランに同調したり、2016年のイランのサウジ大使館襲撃のようなことを糾弾することを拒んだりするたびに干上がっている。
本来ならば、レバノンの各政党はまた、特にシリアを警戒するべきである。レバノンはフランスの植民地主義者が大シリアから不当に切り捨てたシリアの一部であるという見解をもつ、シリアの国家主義者は、長いことレバノンを切望してきた。
1991年にレバノン内戦が終結したあと、シリアは10年以上レバノンを占拠し続けた。その間、シリア人はレバノンに大使館を置くことさえしなかった。シリアの観点からすれば、外国に対して大使館を必要とするのみであり、レバノンはシリアの一部である。
それゆえ、レバノンがその所有権を主張する海域でのシリアの石油・ガス探査に抗議さえしなかったのは、なおさら警戒すべきことであるように見える。もしある国が隣国からの侵犯に反撃しようとしさえしないのならば、自国を持つとはいかなることか。
レバノンの国益という観点からすれば、南方のイスラエルとの緊張状態をほぐし―特に22平方キロメートルのシェバー・ファームズといった取るに足らない問題について―、北方の「兄弟のように親愛なる」シリアに対する原則に基づいた主権の防衛をより強めることが、レバノンの利益になりうる。
もしレバノンの経済状況が良好であるならば、シリアの侵犯に対する事実上の降伏を許せる者もいるかもしれない。しかし残念ながら、レバノンの経済状況は難局に次ぐ難局で傾き続けている。
しかしながら、もしより多くの資源を切望するレバノンが、極めて弱体化したシリア国家に対して申し立てをするために立ち上がることすらできず、それからダマスカスがひとたび力を取り戻したならば、お先真っ暗である。