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イラクのハシドシャービーがイランの外交政策の手先になったいきさつ

2017年にアルビルの米領事館の外でイラクのクルド人がデモを行った際に、ハシドシャービーを非難する内容のプラカードの隣に立つ警備員。(資料/AFP)
2017年にアルビルの米領事館の外でイラクのクルド人がデモを行った際に、ハシドシャービーを非難する内容のプラカードの隣に立つ警備員。(資料/AFP)
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15 Jun 2021 02:06:01 GMT9
15 Jun 2021 02:06:01 GMT9
  • 主にシーア派民兵組織で構成されるこの寄せ集め集団は、2014年6月にイラクをISILから防衛するために結成された
  • アナリストによると、これまでの代理ネットワークへの投資を前提に、イランがハシドの支配権を手放す可能性は低い

ポール・イドン

イラク・クルディスタン、エルビル発:その黄色い旗がISILとの戦闘に初めて登場して以来、7年の歳月が経過した。ISILとは、2014年にイラク北部とシリア東部の帯状地域を掌握した過激派グループのことだ。2014年にISILがモスルを含むイラク北部の大半を攻略した後に、ハシドシャービー(人民動員隊)は大アヤトラ・アリ・シスターニの動員の呼びかけに応じたことで、多くのイラク国民から称賛を受けた。

以来、主にシーア派民兵組織で構成されるこの傘下組織は、もっと不気味な大義を掲げるようになった。先月、ハシドの戦闘部隊がイラクの政治活動の中心地であるバグダッドのグリーンゾーンで力を誇示して、民選の国家指導者から西部アンバル県で逮捕されたイランに近いハシド司令官カシム・ムスレー氏の解放を勝ち取った。

ムスレー氏は残忍な指揮官という評判が定まっている。2019年後半に、主に若い年齢層の何千人ものイラク人がバグダッド中心部で、組織的な腐敗と自国の問題にイランが影響を及ぼすことに抗議を表明した。

数日間の抗議の後、ハシド部隊の者と信じられているが、狙撃手が近くの屋上から数十人を殺害した。ムスレー氏とそのイラン人スポンサーはこの殺害命令に関与したと考えられている。ムスレー氏が最近逮捕されたのは、南部の宗教都市カルバラーで5月9日に著名な活動家イハブ・アル・ワズ二氏が殺害された事件に関連してのことだ。

「イランが背後で支える民兵組織が法の支配の及ばない領域で作戦を実行する力を備えていることに、多くのイラク人活動家が反対の声を挙げている。そのため、民兵組織が自分たちの権力を抑え込もうと活動する人ならだれでも黙らせてしまいたいと考えるのは自然なことだ」と、RANE社の子会社ストラトフォーの中東・北アフリカ地域担当アナリストのエミリー・ホーソーン氏がアラブニュースに語った。

独立系の中東研究者カイル・オートン氏は、腐敗防止を求める抗議者たちへの最悪の残虐行為の背後に、イランが支配するイラク国内の民兵組織がいたと考えている。「社会レベルあるいは地理レベルの空間を支配する力と、政治領域の支配力において、ハシドの方がイラク治安部隊より強力なのはかなり明らかだ。政治領域の支配力というのは、主要官庁の支配や、議会での拒否権行使を効果的に実行できる勢力の確保を通じてのものだ」と、アラブニュースに語った。

ハシドはISILがモスルを占領した後の2014年6月に、イラクをISILから防衛するために結成された。

2018年にハシドシャービー傘下の30ほどの民兵組織が正式にイラク治安部隊に組み入れられ、給料を支払われることになった。ハシドはファタハ連合を通じてイラク議会で大きなプレゼンスを確保しており、議会の全議席数329に対して40議席以上を占めている。

地上戦闘では、ハシド部隊はアンバルのアインアルアサード空軍基地や、さらにはイラク・クルディスタンのエルビル国際空港にも、繰り返し攻撃を行っている。どちらもアメリカ軍部隊やアメリカ兵が駐在している。バグダッドのグリーンゾーンにある米国大使館も何度も攻撃対象になっている。

2017年8月にハシドシャービーの兵士はモスル西方のタルアファル空港の周囲に結集し、地元民兵組織と米国主導連合の支援を受けてイラク軍とともに進撃し、この都市からISILを放逐した。(資料/AFP)

これらの攻撃の大半は短射程ロケットによるものだったが、最近では爆弾を搭載した攻撃ドローンが使用されており、組織の戦闘能力が向上しているのは明らかだ。

ブログ『イラクに関する物思い』の著者ジョエル・ウィング氏は、「これらの作戦の動機は課題の合成だ。ハシド部隊もイランも、アメリカ軍にイラクから出ていってほしいと願っている。そのような事態が起こったら、双方にとって大勝利だろう」とアラブニュースに語った。

イランにとってみれば、イラク民兵組織による代理攻撃は「(イランの)核開発プログラムと制裁に関して米国に圧力をかける」一つの方法だ。

ハシド傘下の多彩な部隊には困惑する。穏健な人物にして外国からの干渉の反対者とイラクで広くみなされているアリ・シスターニ師に忠誠を誓う民兵組織も含まれている。俗にスンニ・ハシドといわれる、部族の防衛部隊まで含まれている。

これらのグループの存在は、国内的にも海外の眼からもこの組織がより多様で正統性が備わっているように見せかけるものだ。オートン氏は、「実際は『人民戦線』戦術だ。すべてのグループはイランのイスラム革命防衛隊(IRGC)の支配下にあって依存している」と述べている。

アナリストによると、正面から見ると凝った名称や頭字語になっているが、その背後でイランがより効果的で多彩な準軍事組織を支援している。ウィング氏は、「ハシド内の最強部隊はいずれも親イランだ」と述べて、バドル旅団、アサイブ・アフル・ハック、カタイブ・ヒズボラの名前を挙げた。

カタイブ・ヒズボラのアブー・​マフディー・アル=ムハンディス司令官、バグダッド国際空港でイランのガーセム・ソレイマニ司令官の脇で殺害された。(資料/AFP)

だが、イラクにおけるイランの政策は一部後退している。2020年1月に米国はIRGCの海外部門コッズ部隊のガーセム・ソレイマニ司令官をドローン攻撃で殺害した。ソレイマニ氏はイラクや、その他レバノンからシリア、イエメンに至る中東全域におけるイランの政策を立案していた。

伝えられるところでは、カタイブ・ヒズボラのアブー・​マフディー・アル=ムハンディス司令官は、バグダッド国際空港から車で移動中にソレイマニ氏の脇で殺害された。

5月のロイターの報道では、イランは民兵組織による代理に関する戦略を変更した。イランは定評のある大規模組織に依拠するのではなく、より忠誠心の高い小規模エリート組織を設立して、高度の訓練を施してこの地域でのイランの指示を実行させるように方針を変更した。

「この戦略転換によって、イランもカタイブ・ヒズボラのような定評のある組織も、関連性があるとみられる小規模組織が攻撃を実行したときに、まことしやかにその関連を否定できることになる。カタイブ・ヒズボラのようなよく知られている組織が享受しているバグダッドでの政治的立場を守りたいという願望を示唆している」と、ストラトフォーのアナリストであるホーソーン氏がアラブニュースに語った。

ウィング氏もオートン氏も、小規模部隊へ移行によって、まことしやかな否定を通して継続的支配が隠蔽されると考えている。ウィング氏は、「現時点では、イランがこれらの分派の支配権を再確立しようとしているのか、それともハシド部隊が生み出したすべての新戦線組織を支援するだけで、イラク駐留米国人をターゲットにした攻撃の責任を否定しようとしているのか、明らかではない」と述べている。

ソレイマニ氏の死によって、イランのさまざまな権力中枢が多様な利害や目的を実験する可能性がある。権力中枢は、中東全域に及ぶイランの代理民兵組織を設立して訓練を施すコッズ部隊から、イラン外務省まで多岐にわたる。

ウィング氏は、「イラク国内の同盟組織をどのように用いるかに関して、それらの権力中枢間での完全な合意には至っていないと伝えられている。ハシド部隊でさえ一時期、イラク国内でのレジスタンスの統率者としての地位を巡って内部の各組織があい争った。その一環として攻撃も実行された」とアラブニュースに語った。

オートン氏は、イランが1980年代のレバノンでの際と同じモデルを採用しているとみなしている。当時イランはかつて同国で支配的だったシーア派民兵組織のアマルからヒズボラを分離させた。「その一部はまったく架空の存在で、オンライン上で最近の攻撃の実行者であると主張しているだけなのだが、そのようなそれぞれの場所での『新たな』疑似組織ないし戦線を活用するのは、イスラム革命を現地の条件に合わせて落とし込むプロセスの最新バージョンにすぎない」

ソレイマニ氏の殺害後にこの取り組みは再び軌道に乗ったと見られている。ハシドは中東北部の広大な領域で支配権の拡大に成功を収めつつあるようだ。バグダッドでごく最近起こった民兵と中央政府との衝突の中心にいる人物ムスレー氏は、伝統的にスンニ派の牙城であるアンバルのハシド指導者だ。

ハシドの戦士は隣国シリアでの戦闘に参加して、イランがダマスカスのアサド政権を支えるのを助けた。ハシドの組織はイランが武器をイラクからシリアへと陸路輸送するのに貢献できることも証明した。

カタイブ・ヒズボラなどの組織は独自の密輸ルートを持っているだけでなく、イラク北部のアンバルやニーナワーにおけるシリアとの重要な国境地点を支配してもいる。「これらの組織は人や物を意のままに行き来させることができる」と、ウィング氏は準軍事組織の名前を挙げてアラブニュースに語った。

とはいえ、イランはイスラエル空軍の攻撃リスクに対応するために戦術変更を強いられている。イラク経由でシリアの代理民兵組織にミサイルを輸出するのではなく、装備を小さくバラバラにして顧問団と一緒に送り届けるようになっている。この方がはるかに見つかりにくい。

これらのネットワークへのこれまでの投資を前提に、アナリストはイランがその支配を放棄することには懐疑的だ。たとえそれが自国経済の救済となる制裁の大規模緩和を含む、米国始め欧米の大国との包括的核交渉の要素であるとしてもだ。

オートン氏は、「イランはイラクの民兵組織、ヒズボラ、フーシ派のいずれも絶対に『切り捨て』ないだろう。切り捨てることなどできないからだ。これらの組織は革命の有機的な一部で、不可欠の存在だ」とアラブニュースに語った。

「したがって、核交渉においてなんらかの方法でイランに『代理』の取引を持ちかけても、交渉のスタート地点にはなり得ない」

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