
ナジャ・フーサリ
ベイルート:レバノンのミシェル・アウン大統領がバチカン訪問中にヒズボラを擁護したことで、キリスト教徒の怒りを買うこととなった。
アウン大統領はイタリアの新聞『ラ・レプブリカ』の取材を受け、ヒズボラの武力はレバノンの治安に「全く影響がない」と述べ「イスラエルの占領に対する抵抗」はテロ行為でないと発言した。
大統領発言を受け、キリスト教マロン派のビシャーラ・ブトロス・アル・ライ総主教は、レバノンでは中立の姿勢が重要との見解をあらためて表明した。
レバノンの最高位キリスト教聖職者であるアル・ライ総主教は、23日にレバノンのテレビ局MTVで、レバノンは紛争の種ではなく、その国益は中立の姿勢を保つことにあると述べた。中立を貫くからこそ、レバノンはイスラエルや他の敵対勢力から国を守り主権を維持できているのだ、と総主教は述べた。
ネット上では怒りの声が上がり、ヒズボラの武力が以前「キリスト教徒の防衛ではなく、攻撃に使用された」事件の画像が拡散された。
ラフィク・ハリーリ元首相、パイロットのサメル・ハンナ氏、ヒズボラと敵対していたハシェム・スレイマン氏とルクマン・スリム氏の暗殺事件などの画像だ。
ネットユーザーたちは、18カ月に渡る政治危機が制御不能となり2008年5月7日にヒズボラ民兵と親政府スンニ派との間で軍事衝突に至った事件を引き合いに出した。
また、昨年10月にベイルートのタユネ地区にてヒズボラとアマル運動、身元不明の銃を持った男たちと武装勢力との間で起きた衝突事件に言及する声もあった。
ネットユーザーたちは、バチカンでの大統領発言は国民の声を代表したものではないと述べ、ヒズボラが「アラブ連盟や湾岸協力理事会を含む世界各国からテロ組織認定を受けている」点を指摘し、大統領を非難した。
23日午前、北レバノン県トリポリ市では主にスンニ派の若者たち数名が「イランによる占領」を拒否する反イランスローガンを街の壁に書いた。若者たちの行動は動画撮影されてSNSに投稿された。
アウン大統領は今週初めに「キリスト教徒は健在」とのスローガンを掲げバチカンを訪問したが、特にキリスト教マロン派内部では動揺が走った。マロン派関係者の1人は、若いキリスト教徒が国外に逃れており、キリスト教徒が設立した産業部門や機関が崩壊していることに対し、総主教が説教で「常に警告していた」点を指摘した。
バチカンが出した声明では、フランシスコ教皇とアウン大統領の会談についてのみ触れられ「レバノンが直面している深刻な社会経済問題と避難民の置かれた状況」が強調されている。
レバノンに世界中から援助が寄せられ、次期総選挙の円滑な実施を望むとし、レバノンに暮らす「多種多様な宗派間の平和的共存関係を促進するため、必要な改革が実施される」よう期待すると述べられている。
さらに、ベイルート港爆発事件に対して「正義の裁きを強く求める」と声明にはある。
ヒズボラとその支持者に関するメッセージでは「バチカンとアル・ライ総主教の間には、ヒズボラに対する見解の相違がある」ことを暗に伝えようとした跡がある。
議会会派「強い共和国」の幹部を務めるファディ・カラム元議員はこう述べた。「アウン大統領がバチカンを訪問し発言した狙いは、ヒズボラの免罪でした。ヒズボラはレバノンのキリスト教徒を守る存在だと述べましたが、これは妄言です。レバノンに対する侮辱であり、完全に事実と反するものです」
カラム元議員はアラブニュースにこう語った。「ヒズボラとアウン大統領は手を組んでレバノンを崩壊させ地獄に導いたのです。アウン大統領の妄言は訂正しておく必要があります」
カラム元議員は、バチカンとアル・ライ総主教の間で見解の相違はないと述べ、バチカン側はアウン大統領の発言内容を認めておらず「声明の結びの部分は、レバノンのアイデンティティに焦点を当てたものです」と述べた。
こう付け加えた。「アウン大統領はヒズボラを免罪しようとしたのです。5月15日の次期総選挙で、義理の息子で自由愛国運動の党首を務めるジブラーン・バシール氏が、次期大統領に選出されるのが狙いなのです」
「それこそが、今回のバチカン訪問の目的だったのです。しかし、アウン大統領のヒズボラ免罪は失敗しました。そもそも無理な話ですから。大統領の発言は、もはや洋の東西を問わず、政界からも財界からも相手にされていません」