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欧州にとってモロッコが再生可能エネルギーにおける最良パートナーとして浮上している理由

専門家は太陽光発電を、モロッコの低開発地域のための実行可能なソリューションと見ている。(AFP)
専門家は太陽光発電を、モロッコの低開発地域のための実行可能なソリューションと見ている。(AFP)
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09 Aug 2023 11:08:09 GMT9
09 Aug 2023 11:08:09 GMT9
  • モロッコは2030年までに国内消費電力の52%を再生可能エネルギーで発電することを計画している
  • EUは、モロッコの「グリーンエネルギー」移行を支援するための6億8860万ドル相当のプログラムの実施を約束している

ジュバ、南スーダン:この夏、北半球を襲っている激しい猛暑は、持続可能なエネルギーソリューションの必要性をはっきりと思い出させる。そんな中で朗報がある。あるアラブ国家が、エネルギー不足の欧州に太陽光発電電力を供給し得る国として自国を位置づけているのだ。

モロッコは、年間を通して降り注ぐ日光、インフラプロジェクトに適した広大な土地、EUからの数百万ユーロの開発資金を活用して、力強い太陽光エネルギー部門を作り上げてきた。

欧州のエネルギー危機は、地球温暖化・気候変動という課題への取り組みの緊急性と相まって、クリーンで再生可能な新しいエネルギー源を求める努力を促進してきた。

欧州の玄関口に位置し、2030年までに国内消費電力の52%を再生可能エネルギーで発電するという野心的な計画を掲げているモロッコは、有望なエネルギーパートナーとして浮上している。

そのビジョンは、同国の太陽光発電電力の大部分を海底ケーブルを通して欧州に輸出するというものだ。このイニシアティブは、欧州のクリーンエネルギー移行を支えつつ自国の開発目標実現に寄与する可能性を秘めている。

EUは今年、モロッコの「グリーンエネルギー」移行の支援、不規則移住対策、そして社会保障・気候政策・行政機関などの重要分野の主要な改革の促進を目的とした6億2400万ユーロ(6億8860万ドル)相当のプログラムの実施を約束した。

モロッコは未開発の可能性を莫大に秘めているが、再生可能エネルギー発電能力を拡大するうえで課題に直面している。同国は現在、国内消費エネルギーの90%を輸入に依存しており、その大半は化石燃料だ。

太陽光発電や風力発電を増やすことで、経済成長を刺激し、待望の雇用を創出し、化石燃料価格の変動から国をデカップルさせることができる可能性がある。(AFP/ファイル)

モロッコの2030年目標を達成するには、再生可能エネルギー移行だけで推定520億ドルという多額の投資が必要だ。

国際機関はモロッコに協力的で、再生可能エネルギー部門の成長のための資金支援を提供してきたが、民間投資の経路から官僚的ボトルネックを除去することが必要不可欠である。

さらに言えば、この地域による再生可能エネルギー導入に対しては、大規模なインフラプロジェクトや乾燥地域での水消費量増加が環境に与える影響を懸念する人々からの批判もある。

モロッコが、欧州への電力輸出が可能なクリーンエネルギーハブになるというビジョンを掲げることで、他の国々が見習うべき前例を作ったことに議論の余地はない。

地中海連合のグラメノス・マストロジェニ上級副事務総長はアラブニュースに対し次のように語る。「再生可能エネルギーに対するモロッコの野心は、欧州と同国の両方にとってウィンウィンな提案を提示している」

「歴史的には、エネルギーは常に国家や主権の問題とみなされてきた。しかし今は、気候変動により全く新しい考え方が求められている。システムを機能させるためには地域協力という観点で考え始める必要がある」

モロッコは、太陽光エネルギー開発を優先している唯一のアラブ国家ではない。湾岸諸国も再生可能エネルギーへの移行を加速するべく、国内エネルギー需要の石油・天然ガスへの依存度を低減するための野心的なインフラプロジェクトを立ち上げている。

サウジアラビアは2030年までに太陽光発電の総発電能力を大幅に拡大することを目指している。同国の具体的な開発計画としては、50億ドル規模の水素プラントを含むスマートシティNEOMや、400メガワットの太陽光発電能力を備え、これまでで世界最大となるオフグリッド蓄電プロジェクトを含むレッド・シー・プロジェクトがある。

欧州と北アフリカは、断片化された市場、大きな経済格差、不均一な人口動態パターンを特徴としているため、気候変動がもたらし得る悪影響は誇張し過ぎることはない。

マストロジェニ氏は、これらの課題を克服するための解決策はエネルギー市場の統合にあると見ている。それにより、地域内でエネルギー安全保障やマクロ経済的利点を共有できる可能性があるからだ。

「地域でエネルギー生産を統合することの大きなメリットの一つは、力強い経済成長を刺激できる点です」と同氏は言う。

太陽光発電や風力発電を増やすことで、経済成長を刺激し、待望の雇用を創出し、化石燃料価格の変動から国をデカップルさせることができる可能性がある。

欧州にとっては、モロッコからのクリーンエネルギー調達は、エネルギー調達先を多角化し化石燃料への依存度を低減するための実行可能なソリューションとなる。ウクライナ紛争に関連したエネルギー危機の後は特にそうだ。

北アフリカは歴史的に、欧州への化石燃料の重要な供給国であり、欧州全土の自動車の動力源や家庭の暖房エネルギーを提供してきた。

しかし、持続可能性への移行が緊急に必要とされる中、北アフリカの太陽光・風力発電設備から海底ケーブルで欧州に送電するための新プロジェクトが少なくとも6件検討されている。

その中でも注目に値するプロジェクトは、Xlinks社が主導する、モロッコの大西洋岸からイングランド南部まで2000マイルの海底ケーブルを敷設する計画だ。この野心的な事業は投資家の大きな関心を集めており、イギリスとUAEの投資家が3000万ポンド(3850万ドル)の出資を約束している。

このプロジェクトは多額の費用を必要とするが、イギリスの約700万世帯に電力を供給することで、2035年までに二酸化炭素排出量実質ゼロを実現するという同国の目標に貢献する可能性を秘めている。しかし、エネルギーを単一の供給国のみに依存するべきではないと警告する専門家もいる。

エネルギー経済学者のローラ・エル・カティリ氏は、アフリカの太陽光・風力発電設備を欧州の電力網に完全に接続すれば、より堅固で確実なエネルギー供給を確保できると提案している。

現在数ヶ国が双方向接続の可能性を模索しており、それが実現すれば、欧州の電力網で余剰電力が生じる時期に南に向けて送電することが可能になる。

この提案は、様々な気候パターンを持つ国同士を接続することで、ある国で風力や日光が不足する時期に互いに助け合うことができるという利点を強調している。

この地域ではこれまで再生可能エネルギーを利用する試みは失敗してきたが、北アフリカの豊富な太陽光・風力資源を活用できることの潜在的なメリットはリスクを上回っている。

再生可能エネルギーにおけるモロッコの進歩を明確に示すのが、世界最大の集光型太陽光発電所「ヌール・ワルザザート太陽熱発電所」などのプロジェクトだ。

数千ヘクタールにわたるミラーアレイを誇るこの施設は、太陽光エネルギー利用の変革的可能性を示す例である。

モロッコ南東部の沿岸の町には、別の巨大な再生可能プロジェクト「タルファヤ風力発電所」がある。この種の施設としてはアフリカ最大級のものだ。

より安価でクリーンな電力の可能性が、高い失業率と限られた購買力に苦しむ地域において期待を集めている一方で、約束が果たされるのを今も待っているコミュニティーもある。

800の環境市民団体から成るネットワーク「気候および持続可能な開発のためのモロッコ同盟」の理事であるハジャール・クナムリチ氏は、エネルギー協力に関しては地域の全当事者が公平なメリットに向けて努力すべきだと言う。

同氏はアラブニュースに対し次のように語る。「輸出向けのクリーンエネルギー生産にだけ注力して、国内の人々が享受し得るメリットを置き去りにするのは間違っています。電力へのアクセス、電力貧困との闘い、国内消費向けの再生可能エネルギー生産の経済的メリットなどです」

太陽光は北アフリカにおける実行可能なソリューションであり、発電のための新たな産業パラダイムであると見られている。(AFP/ファイル)

とは言え、異常気象や気温上昇を前にすれば、適応も同じくらい重要だ。天然資源の専門家は、既存の石油・天然ガス生産施設からの二酸化炭素排出量を低減するための回収・貯留技術の重要性を強調している。

さらに、モロッコが従来のエネルギー源から環境にやさしい代替エネルギー源への移行を目指して最先端のソリューションを追求する中、波力発電の試みが急増している。アフリカでは先駆的な取り組みだ。

この種のものとしてはアフリカ大陸で初となるこの野心的な事業は、世界的な注目と関心を集めている。

革新的なエネルギー企業「ウェーブ・ビート」の共同創業者であるモハメド・タハ・エル・オウリアチ氏は、海の潮汐力を利用した発電を可能にする技術を開発した。

同氏はアラブニュースに対し、「弊社の原動力は社会と環境に対する強い責任感です」と語る。「モロッコで進行中のエネルギー移行に大きく貢献するべく努力しています」

大西洋に沿って3100km以上の海岸線を持つモロッコには未開発の波力エネルギーの潜在可能性が広大に広がっており、世界銀行や中東・欧米の個人投資家を含む様々な方面から投資が集まっている。

地中海連合のマストロジェニ氏に言わせれば、再生可能エネルギー源への移行が待ったなしであることのさらなる証拠が必要であるのなら、北半球の焼けつくような猛暑や不安定な気象パターンがそれである。

それこそが、「気候課題に対して適応し、イノベートし、強靭性を高めることへの我々の共通のコミットメントが、気候変動の現実を再形成する力を持っている」理由だと同氏は言う。

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