
ニューヨーク:レバノン南部のパレスチナ難民キャンプ、アイン・アル・ヒルウェで7月30日から8月3日にかけて発生した武力衝突とその余波をきっかけに、同キャンプの住民たちの生活状況の悲惨さに改めてスポットライトが当たっている。
国連近東パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のドロシー・クラウス事務局長は10日、今回の暴力がキャンプ住民に与えた影響は「甚大」だとしたうえで、緊急かつ持続的な援助活動を呼びかけた。
また、先日の衝突で約400軒の家屋が破壊され、数百世帯がキャンプ内や近隣地域に避難したと指摘した。3000人以上の子供たちが通うUNRWAの学校施設を含むキャンプ内の重要インフラにも被害が出たという。キャンプ内の一部は今もUNRWAによるアクセスが困難なままだと同事務局長は述べた。
アイン・アル・ヒルウェは、イスラエル建国後の1948年にレバノンに設立された12のパレスチナ難民キャンプの中で最大のものだ。1969年にレバノン当局とパレスチナ解放機構(PLO)との間で合意が結ばれて以来、レバノン軍は概してこれらのキャンプへの立ち入りを避けてきた。
しかし、アイン・アル・ヒルウェで先日、敵対武装勢力間の衝突が発生して少なくとも11人の死者と数十人の負傷者が出たことを受け、一部のレバノン当局者はこれらのキャンプを軍が管理するよう求めている。
約5万人が暮らすアイン・アル・ヒルウェは過去数十年間、派閥間抗争やパレスチナ組織とレバノン軍の衝突を含む多くの暴力事件を経験してきた。
今回の衝突が収まって以降、UNRWAは「キャンプ内の約50%」で必要不可欠なサービスを復旧することができたとクラウス事務局長は述べた。「ゴミを集め、消毒を行い、瓦礫の撤去を開始した」
同事務局長はそう言いつつも、同キャンプ住民の「トラウマと苦悩」の悲惨さを説明した。「今回の衝突により、子どもたちは心に傷を受け、女性たちの髪は白くなった」
また、パレスチナ難民コミュニティーが経験してきたトラウマは数十年にわたる避難と紛争に深く根ざしていると付け加えた。アイン・アル・ヒルウェを含む多くの難民キャンプの住民は、暴力的な衝突や財産の破壊に何度も耐えてきており、それによって心の傷が深まる環境が作り出されているという。
トラウマ的体験は、非感染性疾患の発症率の憂慮すべき高さの一因ともなっている。これは難民が極度のストレスを抱えているためだとクラウス事務局長は述べた。
同事務局長は、キャンプ住民と周辺地域コミュニティーの間の関係が状況をさらに複雑にしているとしたうえで、キャンプ内で発生した衝突が近隣に有害な影響を与えることがあると指摘した。例えばサイダ市は、先日の暴力事件によって夏の観光シーズンのピーク時に閉鎖を余儀なくされたせいで経済的損失を被ったという。
国際通貨基金(IMF)によると、レバノンでは4年前から続いている壊滅的な経済危機により、通貨価値の約98%が失われ、GDPは40%低下し、インフレ率は3桁に達し、中央銀行の外貨準備高の約3分の2が失われた。その結果、人口の大部分が貧困に追い込まれている。
IMFは先月、重要な経済・政治改革の実施を求める声に対して既得権益を持ったレバノン当局が抵抗しているせいで経済危機が悪化していると指摘したうえで、当局による救済措置が行われない状態が続けばこの国は「予測不可能な道」に導かれかねないと警告した。
クラウス事務局長はアラブニュースに対し、この非常に脆弱な環境のせいでパレスチナ難民と受け入れ国の関係がさらにこじれていると指摘する。パレスチナ難民はただでさえ、雇用機会、財産所有権、基本サービスへのアクセスを制限されている。
既に貧困を抱えていた難民は経済危機のせいでますます悲惨な状況に追い込まれ、現在では彼らの約80%が貧困下で暮らしているという。
クラウス事務局長は次のように語る。「レバノン国民の貧困は既に、経済危機以前の2倍以上の水準になっている」
「レバノンに住むパレスチナ人のレジリエンスはレバノン国民よりずっと低くなっている。経済危機が雇用に与える影響は主に、安定した雇用を提供していない部門に及ぶからだ。レバノンに住むパレスチナ人は、社会保障はおろか、正規の雇用契約を結んでいることもほとんどない」
「現在16歳以上の男性の約50%は雇用されておらず、残りは散発的に失業状態にある。そういった困難は全て、彼らの収入や自活能力に反映されている」