ハマスによるイスラエル民間人に対するテロ攻撃を受けてガザ地区で戦争の恐怖が展開しているが、イスラエル北部とそのレバノンとの国境も忘れてはならない。ここでの最大の疑問は、「イランの代理組織ヒズボラは参戦するのか」というものだ。この紛争がどのように展開していくかについては誰も答えを持ち合わせていない。しかし、一つだけ確かなことがある。それは、ヒズボラは決してハマスの下の副司令官としては働かないだろうということだ。現地での作戦のリーダーシップを持てないのであれば、また唯一の「交渉者」となれないのであれば、この戦争に全面的には参戦しないはずだ。「交渉者」はヒズボラが受け入れるであろう唯一の象徴的立場であるが、実際にはムッラーらの利益を反映している。
(この一連の出来事が引き起こされる確率や現実的な決定要因を全て無視して)手短に言えば、ヒズボラはいわゆる「抵抗」の代弁者になることを必要とするだろうということだ。それはまた、イスラム革命防衛隊の(直接的ではないにせよ)より広範な関与を意味する。そうなれば二正面以上の戦争となるだろう。レバノンにとって再びの大惨事となるはずだ。
今日の世界に目をやると、ウクライナの戦争、アルメニアとアゼルバイジャンの間の情勢、シリア北部の情勢など、地政学的変化と不安定な状況が目につく。であるから、ヒズボラが今回の紛争に参戦する行動を取れば、2006年の戦争が予行演習のように思われるようになるだろう。これまでのところ、ヒズボラによるロケット弾発射はハマスを支持するという合図であり、紛争に参戦する真の意図はない。(イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が米国のジョー・バイデン大統領に伝えたように)イスラエルがガザ地区に侵攻するまではそのような状況が続くと、ほとんどのアナリストは予想している。侵攻が実行されれば、ヒズボラが第二戦線を開く可能性は高まるだろう。
ヒズボラが今回の紛争に参戦する行動を取れば、2006年の戦争が予行演習のように思われるようになるだろう
ハーリド・アブー・ザフル
もしそうなれば、2006年の戦争が状況の展開についてのケーススタディーとなる。当時は、ハッサン・ナスラッラー師は自身とヒズボラをガザ地区とレバノンの2戦線の統一司令官として明確に位置づけていた。発言者として、そして人質に関する交渉を行う者としてである。そのような位置づけが促したイスラエルの反応でレバノンは破壊された。実際、イスラエルは一つの当事者(特にイラン)がそれら2つの役割を引き受けることを拒否した。そういうわけで、レバノンは今日までこれらの行動の代償を払っているのだ。
今のところ、ガザ地区の戦争はレバノンの国内政治に直接影響を与えるに留まっている。実際、数日前にオートバイに乗ったヒズボラメンバーらが有名なキリスト教徒地区に乗り込んだが、誰もがそのメッセージを理解した。ヒズボラはレバノンを(シリア内戦に引きずり込んだように)今回の紛争に引きずり込むべきではないと明言する声が多く上がっていることへの警告として彼らはやって来たのだ。こうした声がレバノン全体で反響していることが2006年との大きな違いである。ヒズボラは国内の支持の多くを失ったのだ。
レバノン国民は地域紛争に引きずり込まれたくないと思っている。彼らは生きたいのだ。より正確に言えば、ただ生き延びたいのだ。レバノン国民のほとんどは、アラブ和平イニシアティブが進むべき道だったのであり、地域に安定をもたらすことができたはずだと思っている。だからこそ、彼らは今回の戦争の代理人になりたくないのだ。もしヒズボラが第二戦線を開けば、間違いなくイランに交渉カードを与えることになる。ヒズボラはレバノンではなくイランの利益のために行動するだろうということだ。しかし、戦争による荒廃という代償を払うことになるのは全てのレバノン国民である。今日、これらの代理戦争の代償を最も多く払っているのはレバントの人々だ。
レバノンはこの戦争に引きずり込まれるのだろうか。レバノン国民は再び苦しむことになるのだろうか。今回は、国民はそれを受け入れておらず、大きく明確に声を上げている。しかし、彼らが今の状況に対して同情を感じていないということではない。深刻な歴史的経緯や現在のデリケートな地政学的状況を考慮すれば、レバノン国民は十分な透明性のもとで、(特にイランのために)外国の紛争における代理人となることを断固として拒否すべきだ。レバノンは重い代償をあまりにも長く払ってきたのだから。
レバノンが外国勢力の代理人として利用されることを許せば、達成される唯一の成果は破壊である
ハーリド・アブー・ザフル
レバノンの歴史は外国からの干渉によって特徴づけられてきた。それが、他国の利益のための壊滅的な戦争を引き起こしてきた。それほど昔まで遡らなくとも、悲惨な帰結をもたらしたレバノン内戦があった。もうそろそろ、何らかの勢力がこの国の主権と独立を毀損するのを許さないようにすべきだ。レバノンが外国勢力の代理人として利用されることを許せば、達成される唯一の成果は破壊である。自由の戦いは存在しない。名誉もない。あるのは死と破壊だけだ。イランもヒズボラもそれを知っている。
それゆえ、レバノン国民はそのような関与に断固として反対しなければならない。我々は他国のために十分に苦しみ、宗派間虐殺、壊滅的な経済状況、恐るべき人道的コストなどで代償を払ってきたのだから。我々はその傷からもほとんど癒えていない。それどころか、その傷口は今も大きく開いている。我々は、ヒズボラがレバノン全体を戦争に関与させることに対し、はっきり「ノー」と言う必要がある。
この小さな国における代理ゲームに終止符を打つべき時だ。それがレバノンの未来に対する明確かつ差し迫った危険だからである。ヒズボラはこの国を紛争に引きずり込むだけでなく、宗派間の分断を深め、国の結束を妨げてきた。だからこそ、レバノン国民は結束して、この国の安全、主権、経済的安定を守るため、あらゆる代理組織を拒否しなければならない。