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緑の巨人、デジタル化へ

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09 May 2023 07:05:51 GMT9
09 May 2023 07:05:51 GMT9

「遅くとも為さざるにまさる」、ロンドンを拠点とする姉妹紙「アッシャルク ・アルアウサット」が待望のデジタル化をついに果たしたことはこの一言に尽きるのではないだろうか。

とはいえ、我々2紙を所有するSRMGによるこの巨額投資は驚くことに当たらない。SRMGがデジタル化の導入という戦略的決定を過去2年間に下したからというだけではなく、アッシャルク ・アルアウサット紙にとってテクノロジーは馴染みのあるものだからでもある。

伝説的な出版者であるヒシャムとモハメド・アリのハフェズ兄弟によって設立されたアッシャルク ・アルアウサット紙は、アラビア語新聞の中でも独自の地位を確立するに至った。実際のところ、同紙は常にアラブ世界における「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」であり続けている。政財界のリーダーたちにとって必読の新聞であり、世界のほぼどこであってもアラブ人ビジネス旅行者たちの心強い仲間なのだ。

1980年代には、アッシャルク ・アルアウサット紙は、4大陸で衛星経由の印刷を行った初の新聞となった。これは、出版界では、真に画期的なことだった。その当時技術の最先端を走っていた日本の人々が、このサウジアラビアの驚異をロンドンまで見学にやってきたほどだった。

そして、この技術革新への投資により、同紙は、「地表面の70%は水で覆われ、残りはアッシャルク ・アルアウサット紙がカバーしている」というその最初のスローガンと名実一体となったのだ。

その後、マーガレット・サッチャー政権下の労働組合が力を持っていた英国の報道業界が、技術の変化に抵抗しストライキを行う中、アッシャルク ・アルアウサット紙は英国でもアラブ世界でも、DTPを導入した最初の新聞の1つとなった。アップルのマッキントッシュコンピューターがペンや紙、タイプライターに置き換わり、アラブ人のジャーナリストたちは最先端技術を他の同業者たちよりもずっと早く使用できるようになったのだった。

200年代初頭には、アッシャルク ・アルアウサット紙はアラビア語新聞で初めてフルカラー化し(それまではカラー印刷は雑誌類に限定されていたのだ)、「違いはすべて色にあり」と題された大規模な広告キャンペーンが行われた。広告のティーザーは、モノクロの兵士が登場し、やがてカラー化すると国連平和維持軍であることが明らかになるというものだった。

記憶にある限り古くから私の実家ではアッシャルク ・アルアウサット紙が信奉され愛読されていたのに加えて、私は2004年から2009年まで同紙のロンドン本社で仕事をする機会に恵まれた。週刊のメディア欄を起ち上げた編集者として、ブロードバンドの普及やスマートフォンの隆盛、ソーシャルメディアの発明といった、今日に至るまで出版界全域に影響を与え続けている大変化を報道を通して記録出来たことは私にとって幸運だった。

SRMG経営陣の功績ではあるが、アッシャルク ・アルアウサット紙にとってテクノロジーは元々馴染みのあるものだった。

ファイサル J. アッバス

悲しいことに、私が転職し自己変革の途に就いた直後(やがて私はウェブに特化したメディアであるハフィントン・ポストで英語記事を執筆するようになっていた)、アッシャルク ・アルアウサット紙は(様々な理由により)完全なデジタル化に踏み切れなくなっていた。

旧来の印刷市場の衰退が継続し、デジタル化された競合企業が急増する中、品位と専門的技術、そして洞察力を備えたこの「緑の巨人」は、デジタルの領域ではその能力を十全に発揮出来ていないかのようにすら見受けられた。

そうしたわけで、日曜日に発表されたように、ベテランジャーナリストのガッサン・シャルベル現編集長(彼自身も巨人だ)の権限の強化によりこの巨人の覚醒を優先した事は、SRMGの現在の経営陣の功績である。

6年前の就任以来、シャルベル編集長がアッシャルク ・アルアウサット紙の紙面に磨きをかけ、新しい血を導入してきたことに異論の余地はない。とはいえ、再デザインと新たなデジタル方式での運用は、大規模な投資と、出先での閲覧が増え没頭して読むことが減った読者に内容を確実に届けるために必須だという確信がなければ出来るものではない。

もちろん、私が本稿でデザインとテクノロジーに焦点を置いている理由は、アッシャルク ・アルアウサット紙ではその編集の誠実さが一目瞭然だからだ。他の新聞と同様に些細な失敗もあったものの、過去45年間にアッシャルク ・アルアウサット紙が生成してきた非常に多くの世界独占記事、勇気ある報道記事、洞察に満ちたオピニオン記事を否定できる者はいない。

現在のガッサン編集長に加えて、アッシャルク ・アルアウサット紙はサウジアラビア / アラブ世界の報道界における生きた伝説を2人輩出している。2001年に史上初のアラビア語の電子新聞である「エラフ」を創刊したオスマン・アルオメール氏と、アルアラビヤ・ニュース・チャンネルを10年間運営して成功に導いたアブドゥルラーマン・アルラシド氏である。

さらには、アッシャルク ・アルアウサット紙からは2人のサウジアラビアのメディア相が出ている。アデル・アルトライフィ博士(2015 – 2017)と現在のサルマン・アルドサリ大臣である。その他にも、同紙は、アラブ地域で、文筆家やTVキャスター、他の主要な新聞や出版物の編集者を輩出していることは言うまでもない。

真実もあれば虚偽もある、あらゆる種類の報道内容の氾濫に見舞われ、偏見が常態となってしまっている現在、アラビア語による質の高い報道は以前にも増して必要とされている。

この必要性は、世界人口の3.5%がアラビア語を話すのにも関わらず上位1千万のサイトの内アラビア語のものは1.1%に過ぎないことを考え合わせると、さらに重要となってくる。

アッシャルク ・アルアウサット紙は印刷媒体において常に質の高い報道を行ってきた。そして、現在はオンラインでも質の高い報道を行うようになったのだ!

  • ファイサル J. アッバスはアラブニュースの編集長である。
    Twitter: @FaisalJAbbas
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