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湾岸諸国による調停が、黒海の穀物合意を救うかもしれない

穀物合意の更新を想像することは不可能ではないが、まずは複数の明確な障害を克服しなければならない(File/AFP)
穀物合意の更新を想像することは不可能ではないが、まずは複数の明確な障害を克服しなければならない(File/AFP)
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14 Sep 2023 02:09:49 GMT9
14 Sep 2023 02:09:49 GMT9

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が先週ソチで会談し、黒海穀物イニシアティブに関する話し合いを行った。黒海穀物イニシアティブは国連の仲介により、ロシアとウクライナの戦争中にウクライナが世界の飢餓との闘いを支援する目的で穀物の輸出を行うことを認めた合意である。7月にロシアがこのイニシアティブから撤退したことで、この件は地政学的文脈において極めて重要な存在となった。しかしながら、重要な交渉人たちの人間性も大きな役割を果たしているなかで、ある意味で食料安全保障はこの合意に関連する複数の問題のひとつになったにすぎない。今回の対話の重要な違いは何なのか、そして合意が更新される見込みはあるのだろうか。

ソチで行われたプーチンとエルドアン両氏による会談は、6月にエルドアン氏が僅差で再選を果たして以来初であり、両氏の間では約1年ぶりの密談となった。ロシア政府はこの会談の具体的な内容について発表を行わず、対話の内容には「二国間の互恵的協力」と「喫緊の国際問題」が含まれたとする声明にとどまった。エルドアン氏は会談の内容について穀物合意に直接言及し、今後も交渉において重要な役割を担っていく意思がある旨を繰り返した。トルコは食料価格の高騰に対して特に脆弱な多くの国(中東および北アフリカを含む)と地理的に近いため、トルコ政府にとってこの問題は人道のみならず安全保障問題でもある。

この会談は両首脳にとって通常状態への復帰を意味するものだったのだろうか。この会談でプーチン氏は、ロシアが1カ月につき最大で100万トンの穀物をトルコに供給し、それをトルコが特に必要性の高い国々に輸出するという提案を行ったと報じられている。さらに、カタールがこうした活動の財務面において中心的役割を担うことが予想された。

穀物合意の更新を想像することは不可能ではないが、まずは複数の明確な障害を克服しなければならない

ダイアナ・ガリーヴァ博士

最近カタール政府はウクライナ戦争関連の人道支援への関与を深めており、ウクライナにおける健康、地雷除去、教育の支援に1億ドルの拠出を行うなどしている。この支援に関しては、7月に行われたカタールの首相と外相を兼任するシェイク・ムハンマド・ビン・アブドルラフマン・アール・サーニー氏と、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の会談で話し合いが行われた。ゼレンスキー氏の10点平和計画に関する話し合いに加え、両氏はウクライナの将来的な再建と黒海の穀物回廊へのカタールの投資についても話し合った。

カタールは平和調停の取り組みにあたって、この問題を中立の調停国として扱うという意思を示したサウジアラビアおよびUAEと同じ道筋を辿っている。

2022年9月、サウジアラビアとトルコの支援により、ロシアとウクライナは英国、米国、モロッコからの国外ボランティアを含めた約300人の捕虜交換を行った。そしてつい先月には、サウジアラビアがジェッダで首脳会談を開催し、ウクライナの領土保全に関するさらなる対話を呼びかけた。サウジアラビアは2月にもウクライナへの4億ドルの人道支援をとりまとめた。この支援の内訳は、1億ドル分の人道支援、3億ドル分のエネルギー資源という形となっている。

穀物合意の再交渉は、その他の障害への解決策を見出すための並行的な外交努力に繋がる可能性がある

ダイアナ・ガリーヴァ博士

UAEも人道支援の提供や、さらなる捕虜交換の支援に対して積極的な関心を示している。昨年10月にサンクトペテルブルクを訪問したUAEの大統領を務めるシェイク・ムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン殿下は、ウクライナとロシアの調停を申し出たと報じられている。今回の戦争期間中、UAE政府はウクライナに対して常に人道支援の提供を行ってきた。まさに先週も、UAEはウクライナの医療セクター支援を目的として救急車23台を積んだ船を送っている。UAEは支援プログラムの一環として、2022年10月に行った1億ドルの人道支援に加え、ウクライナに合計50台の救急車を提供することを目標に掲げている。

穀物合意の更新を想像することは不可能ではないが、まずは複数の明確な障害を克服しなければならない。この合意はトルコ、そして潜在的には国連も関与して実現する可能性はあるが、両陣営が関与しない解決策は想像し難い。しかしながら、ロシアは自国からの穀物輸出を促すため、この合意に自ら条件を付け足そうとする可能性が高い。さらに、この合意への資金援助や実行支援のため、新たに外部のアクターが引き入れられる可能性もある。そうなった場合、その役割を担うのは湾岸諸国になる可能性が最も高い。

穀物合意はこの戦争における唯一の厄介な問題というわけではなく、再交渉がその他の障害への解決策を見出すための並行的な外交努力に繋がる可能性はある。ウクライナの人々(と西側諸国)が外交によってウクライナ再建への明確なプランがもたらされることを願っているのは明らかであり、ウクライナ政府にとっては湾岸諸国のパートナーたちによる統一戦略によりインフラ再建への資金援助が実現する可能性もある。こういった取り組みは、湾岸諸国が協力することで成功の可能性が大きく高まるだろう。彼らは既に、他の世界のアクターに比べて優れた結果を出せることを示しているのだから。

  • ダイアナ・ガリーヴァ博士はオックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジの元アカデミック・ビジター(20192022)。Twitter@Dr_GaleevaDiana
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