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シリアめぐるトルコとロシアの緊張はいよいよ大詰め

エルドアン大統領は次の重要な一手を迫られている。シリア政府およびその背後にひかえるロシアと手を結ぶか、あるいは戦争だ。後者の場合、トルコはロシアから疎外されることになりかねない。(AFP)
エルドアン大統領は次の重要な一手を迫られている。シリア政府およびその背後にひかえるロシアと手を結ぶか、あるいは戦争だ。後者の場合、トルコはロシアから疎外されることになりかねない。(AFP)
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28 Feb 2020 08:02:59 GMT9
28 Feb 2020 08:02:59 GMT9

対シリア外交においても目を引いたところだが、トルコ一流の瀬戸際外交も今やその真価を消尽した。エルドアン大統領は次の重要な一手をすぐにも決めねばならない。シリア政府およびその背後にひかえるロシアと手を結ぶか、あるいは戦争だ。後者の場合、トルコは、政治・軍事・エネルギー・経済で提携するロシアから疎外されることになりかねない。

先月起きた一連の出来事から、トルコとロシアがシリアの未来について相当異なったシナリオを描いていることが露呈する両国間の溝の深さは確かなものとなった。この間、空と陸でそれぞれロシアとイランの支援を受けたシリア政権軍は、イドリブを中心とする広範な地域でいくつもの町村を奪還するという顕著な進展を見せた。1月26日にはマアッラト・アン=ヌウマーン、2月6日にはイドリブ市から僅々10キロのサラキブを占拠している。特に、アレッポ-ダマスカス間を結ぶM5幹線道路とアレッポ-ラタキア間を結ぶM4幹線道路の交わるサラキブを手中に収めたことから、この2本の経済の大動脈がふたたび機能する環境は整った。とはいえ、27日にはトルコ支援の反体制派がサラキブ奪還を発表してはいる。

トルコの設置した監視哨は現在、そのいくつかがシリア軍によって包囲されている。散発的な小競り合いからトルコ兵16人が今月に入って死亡している。過去2か月で100万人近くのシリア人が避難を余儀なくされ、身の安全を求めてトルコ国境へと駆け込んだ。

目下、トルコを利する戦いの過半は「シリア国家軍(SNA)」が担っている。これは古参の反体制組織である自由シリア軍を糾合して組み上げた組織で、トルコの支援を受け現地のトルコ系・アラブ系の戦闘員が増員されている。トルコ軍はまたイドリブにいる過激派勢力とも緊密に連携しているとされ、中でも特に「シャーム解放委員会(HTS)」「国民解放戦線(NLF)」が挙げられる。HTSは現在イドリブをほぼ掌握しているとされ、NLFと手を取り、シリア政権軍への反撃など現地戦闘を主導しているという。

プーチン氏の反応はにべもなかった。見解の相違の責任はずばりトルコにあると難じ、アサド政権への支持を鮮明にする声明を出したのだ。

タルミーズ・アフマド

シリア北部におけるトルコの権益の中核をあらわすのがHTSとの結び付きであり、またこれが原因となってアサド政権・ロシアとの紛争にもつながっている。2018年のソチ合意について言えば、トルコは、過激派戦闘員らを「中道派」から分離し中道派をSNAに糾合、シリアとロシアが過激派と闘いイドリブ奪回ができる道を開くことで合意していた。が、18か月経った今もトルコはこれを達成できていない。トルコ出資の「中道派」組織への加入をHTSは拒絶、あくまで理念に拘泥しての玉砕を望んだ。こうなると、シリア・ロシア側も袋小路を打破するため戦端を開く決定を下さざるをえない。

トルコとしては権益を失いかねぬ痛手だ。イドリブに反体制派戦闘員らがいてくれるおかげで、トルコがシリア北部に留まりつづけるのになくてはならぬ銃砲類も供与されるし、シリア国内のクルド人らも掌握でき、将来的にシリア国内で政治秩序を構築する上でも影響力を及ぼせる立場を維持できるのだ。その一方でシリア政府もロシア政府も過激派は蛇蝎のように嫌い、シリアの国土保全を確保する上でトルコ軍は撤退すべきと主張している。

へだたりを埋め事態の深刻化を避ける外交努力が二つながらおこなわれていただけに、目立つのが地上戦だ。2月18日にモスクワでおこなわれた対話が最も重要である。その際ロシアは合意の原則をいくつか示している。それは次のようなことだ。シリア・トルコ国境に15キロにわたる緩衝地帯を設ける。イドリブおよびアフリーンにおいてトルコの配下にある地域にロシアの検問所を設ける。ロシアとトルコの共同管理の下で交通を差配しM5およびM4幹線道路を再開通すること。

この案はトルコが蹴った。飲めば領土上の利得をすべて奪われかねないからだ。トルコは代案として、この間おこなわれた戦闘でシリア軍が占拠した地域すべてを明け渡すことを求めた。トルコ政府は現在イドリブ周辺に約1万人のトルコ兵を投入、シリア軍に対峙させている。この結果、シリア軍とトルコ軍が直接鍔迫り合いを演じる段階に入っている。

緊張が激化するこうしたなかでエルドアン氏はなお瀬戸際外交を続けている。同氏は2月初めにウクライナを訪問、ロシアによるクリミア占領を非難し、ウクライナ政府への軍事支援を申し出た。そうかと思うとヴラジーミル・プーチン氏にも宥和的な電話をかけている。さらにはドナルド・トランプ米大統領にも電話し、イドリブに関してマイク・ポンペオ国務長官の支持表明を引き出した。エルドアン氏はパトリオットミサイルまでも求めたもののこれは叶わなかった。米国はシリア紛争への加担を拒否しているからだ。

プーチン氏の反応はにべもなかった。見解の相違はずばりトルコのせいだと難じ、アサド政権への支持を鮮明にする声明を出したのだ。ロシアはまたシリア国内のクルド人勢力にも手を伸ばした。ユーフラテス川東岸のクルド人根拠地に対し昨年10月、トランプ氏がトルコの放埒な軍事介入を許したことからクルド側は米政権に裏切られた思いを抱いている。ロシアの肩入れもあり、クルド人勢力もアサド政権とのつながりに否定的でなくなったような様相だ。

この先どう動くかについてはいくつか憶測が出ている。全面戦争。トルコが西側、ことにも米側支持に激変すること。あるいは、先週のロシア案に大幅に寄り添った妥協案の調整。エルドアン氏は、今月末までにトルコ側監視哨周辺からシリア軍が撤退することを求めるといった、なお闘志盛んな声明も出しているが、同時に制空権がないことも認めている。値千金のロシアとの紐帯をトルコがふいにするとは思えない。おそらく、多少なりとトルコにとっての利得が透けるような形でトルコの顔を立てる方策が求められているといったところだろう。トルコによるリビア進出と東地中海のトルコ利権といったものにロシアが異を唱えない、といったことなどが考えられる。

いずれにせよこの数日のうちに今回のいざこざがどう結果するかは明らかとなろう。

  • タルミーズ・アフマド氏は著作家。インドの駐サウジアラビア大使・駐オマーン大使・駐UAE大使を歴任した。インド・プネーにあるシンビオーシス国際大学教授として国際問題研究ラム・サーテ講座を担当する。
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