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アル・スダニ首相の明確な「イラク第一主義」のビジョン

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18 Feb 2024 08:02:02 GMT9
18 Feb 2024 08:02:02 GMT9

地政学的な激動に見舞われ、内紛に束縛されているイラクでは、ムハンマド・シア・アル・スダニ首相のもと、都市や制度だけでなく、国家アイデンティティの構成そのものを再構築しようとしており、重要な岐路に立っていると言える。

ホワイトハウス訪問を控えたアル・スダニ首相の野心は、「イラク第一主義」のビジョンに集約されている。このドクトリンは、エスカレートする外圧と激しい国内分裂を背景に、イラクの主権と自己主張を取り戻すことを目的としている。

このような大胆な取り組みは、安定を取り戻し、変化を渇望する同国において、停滞している歩みを再開しようとする、イラク人の尽きない希望と試みを反映している。

しかし、イラクの現在の方向性や、首相が受け継いだ混乱期を乗り切るための努力、そして今後のワシントン訪問の結果さえも、20年以上もイラクが実現できていない野望を最終的に実現することになるのかどうか、疑問が残る。

外から侵入、代理戦争、国家権力を弱体化させ機能を低下させる根深い政治的分裂など、イラクが直面する多面的な課題を考えれば、今のところ、まだ審判は終わっていない。

一方、アル・スダニ首相の在任期間中、安定化と開発という点では一定の進展が見られたものの、見せかけの主権しかないような国家を統治しようとすることの難しさが明らかになっている。

それにもかかわらず、イラクの現政権は、不透明な米国の姿勢と攻撃的なイランの間に挟まれた無力な「ハンセン病患者」の役割から、より積極的で戦略的な外交へのはっきりとした転換に、躊躇せず着手しようとしている。

イラクと米国の関係は、歴史的に米国とイランの緊張関係に影響された複雑な駆け引きによって特徴づけられてきたが、アル・スダニ首相のもとで変貌を遂げつつある。彼の指導の下、日和見政治の遊び場では全くなく、イラクは国益と主権を優先する戦略的ビジョンの中に外交政策を位置づけようとしている。このアプローチは、この地域におけるイラクの極めて重要な役割と、米国とイランの対立の戦場としてではなく、むしろ米国とイランの力学の橋渡し役として機能する可能性に対する成熟した理解を反映している。

国内では、イラクの政治情勢は依然としてシーア派、スンニ派、クルド人の各派閥からの圧力に晒されおり、どんな指導者にとってもやりにくい難題となっている。イラク国内において、イラクの主権は、政治状況の分断化と武装民兵の影響力によって侵食されている。宗派と民族の分裂は、2003年以降に導入された政治的割り当て制度によって悪化しており、凝集力のある国民的アイデンティティと統一国家のビジョンの発展を妨げている。

武装集団、特にイランと連携する集団は、国家や治安部隊の権威に挑戦し、平然と活動している。統治と開発の状況を改善しようとするアル・スダニ首相の努力は、国益よりも自派の課題を優先するこれらの派閥によって常に損なわれている。

しかし、たとえば米軍撤退に関する協議でのアル・スダニ首相の関与は、いつもの屈服とは対照的に、イラクの利益を前面に押し出すという首相のコミットメントを例証している。米国の反発が予想されるにもかかわらず、自国の声と意見をしっかりと伝える首相の姿勢は、このような対話を乗り切しつつも、イラク第一主義への献身を浮かび上がらせている。

このような協議の結果は、良きにつけ悪しきにつけ、同国の政治、経済、外交政策、安全保障の力学に多大な影響を及ぼすため、短期的な政治的利益のため永続的な改革の遺産が侵食されるのを許すのではなく、イラクの団結と進歩というビジョンをもって対処する必要がある。

選挙政局の混乱は避けられないが、アル・スダニ首相は派閥争いを超越することに集中している。

ハフェド・アル・グエル

2025年後半に予定されている次期議会選挙が迫る中、アル・スダニ政権にとって具体的な成果を挙げることはこれまでにも増して急務だ。選挙政局という不可避の混乱や、絶えず移り変わる政治的連携による制約にもかかわらず、彼は派閥争いを超越することに集中し続けている。

派閥対立が激化しているからといって、国内におけるアル・スダニ首相の影響力を過小評価するのは重大な誤りである。このような分裂は、社会政治構造の深刻な弱点を浮き彫りにするものであり、凝り固まった政治パラダイムに挑戦できるイラク第一主義のビジョンが必要なのである。

このような軋轢がアル・スダニ首相の構想を頓挫させることはないだろう。むしろ、包括的な政府プログラムを実施するための取り組みと同様、イラク第一主義へのコミットメントの度量が試され、証明され続ける試験場となっている。

有意義な改革と開発を通じて、アル・スダニ首相は国家としてのイラクへの信頼を回復し、国家に対する発言力と信頼を実質的に失ったイラク国民を窒息させている社会経済的な有害な状況を逆転させようとしてきた。

より多くの時間と十分な支援があれば、イラク第一主義は、国内外の病巣に対する多方面からの攻めへと発展するだろう。国外に目を向けると、イラクは依然として中立性を主張し、大国や地域の有力者との関係の均衡を図らなければならない。

例えば、外交努力を強化することで、近隣諸国がイラクの主権を侵害することを阻止し、イラクが外国の利益のための戦場となることを許さないという明確なメッセージを送ることができる。

たとえば最近、クルド人武装勢力を追ってトルコ軍が侵入したり、脅威を感じたイランがミサイル攻撃を行ったりしたことは、イラクの主権をあからさまに無視していることを示している。こうした行動は、イラクの領土保全を侵害するだけでなく、イラク政府が外国の侵略から国境と市民を守る能力がないことを浮き彫りにしている。

米軍が駐留しており、イラクを代理戦争の戦場とみなすイランとの緊張関係が続いているため、状況はさらに複雑になっている。このため、より強力で結束力のある外交政策と、有能で主権を行使できる防衛力の整備が必要である。

国内的には、政府は政治・治安制度の改革を優先した包括的な国家建設の努力を続けなければならない。これには、実力主義と国民統合を促進するため、宗派別割当制から脱却することも含まれる。

法の支配を強化し、国家が武力行使を独占できるようにすることは、混乱した国内情勢を再びコントロールするために必要な重要なステップの一つである。さらに、政治改革には権力の分散も含まれるべきであり、それによって社会から疎外されたコミュニティーの不満に対処し、彼らを政治プロセスに組み込むことで、政府に対する国民の失われた信頼を回復させることができる。

アル・スダニ首相がホワイトハウス訪問を控えている現在、失敗の代償は大きく、課題は山積している。しかし、これまでの彼のリーダーシップを見ると、イラク第一主義という明確なビジョンを持って、これらの課題に正面から立ち向かう準備ができていることを示唆している。

今回のワシントン訪問は、イラクが国際舞台で再び力を発揮する好機であるだけでなく、イラクで達成された進歩と、その先にある残りの課題克服の道のりを振り返る機会でもある。

外圧の高まりと内部分裂の深まりを乗り切るための安定した舵取り役として、イラクの主権を取り戻し、国を明るい未来へと導こうとするアル・スダニ首相の努力は、評価と支持に値する。

  • ハフェド・アル・グエル氏は、ワシントンDCに所在するジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院の外国政策研究所シニアフェロー兼北アフリカ・イニシアティブ・エグゼクティブディレクターである。 X: @HafedAlGhwell
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