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正当なリーダー不在のまま続くレバノンの人々による抵抗運動

ベイルートの外務・海外移住者省の外で旗を掲げ警官と向かい合って立つ抗議運動参加者 (ロイター)
ベイルートの外務・海外移住者省の外で旗を掲げ警官と向かい合って立つ抗議運動参加者 (ロイター)

レバノンの前途はどうなるのだろうか?これは非常に答えにくい問いだ。どうしたらレバノンは街の人々の要求と現実の折り合いを付けることができるのだろう?国際社会はどうすればレバノンを完全な崩壊から救えるのだろうか?世界銀行の地域担当幹部は先週レバノン大統領と会談し、深刻な現状を伝えた。レバノン人の30%にものぼる人々が貧困の中で暮らしており、直ちに改革が実施されなければこの数字はすぐにでも50%に跳ね上がるだろう。

レバノンには機能するインフラストラクチャーが存在せず、国は基本的なサービスを供給する能力がない。にもかかわらず従来からの政治エリートは手中に握っている権力を手放す気はない。問題は街の人々も代替案を持たないということだ。彼らは要求を突きつけることはできるが、その要求は解決策をもたらすものではなく、解決策を実行に移すものでもない。

抗議運動はリーダー的な存在を持たない — デモ隊は自然発生した少人数のグループから成り、支配階層のエリートたちはデモを深刻に受け止めてはいない。政治指導者らは運動が消えてなくなるか、あるいは2015年から2016年にかけての「Talaat Rihatkon (お前たちは臭う) 」運動のように消える前に政治化することに期待をかけている。

しかし今回の運動は以前のものとは異なっている。今回の運動には新しい共同体的な意識を見ることができる。レバノンの人々はついに現在のシステムは機能しないということに気付いたのだ。さらに重要なのは彼らは皆が同じ船に乗っていることに気がついているということだ。彼らは「kullun yaani kullun」つまり「全員は全員」と唱えている。全ての政治家を非難することで彼らは共に立ち、連帯して腐敗に立ち向かっている。デモ隊に入り込んで運動を崩壊させたり抗議運動参加者を脅したりする少数のちんぴらを除き腐敗した政治エリートらを支持する者は国内にはいない。

ただ、街の人々は今、新たな問題を抱えている。それは代表性の問題である。もちろん人々が繰り返し退陣を要求している従来の選出議会がもはや正当性を失っているのは明らかだ。しかしそれなら人々の真に正当な代表者はいったい誰なのだろう?今のところ正当な代表者を出せるような枠組みはない。誰でも自分は人々の代表だと主張できるような状況で、それに対するチェック機能も異議申し立て機能もない。現状分かっているのは、実際には人々と何のつながりもないにもかかわらず勢いに乗じて街の人々の正当な代表者だと主張する日和見主義者が大勢いることだ。

全ての権力が消滅したら— 例えば大統領が辞任し議会と首相も同様にしたら— 国家はどのように統治され、改革はどのように実施されるのか?どのように移行が進めば、大衆を代表し国を愛するクリーンな新政治エリートが形成されるのだろうか?早期に選挙が行われても現在の代表者らに取って代わる信頼できる人々がいなかったらどんな結果が待っているのだろう?また今と全く同じような状況になってしまうかもしれない。

現陣営はレバノン国民の信頼を失ったばかりではなく国際社会の信頼も失っている。

だから政府に対する国際的支持がどこにも見受けられないのだ。誰も腐敗国家を助けようとはしていない。サード・ハリリ首相が辞任した時それに反対する声はフランス以外のどこからも上がらなかった。国際社会に対して政府を代表する人物であったハリリ氏の辞任に対する沈黙は、現行の体制が国際的な支持を失っていることの証左である。

土曜日にレバノン銀行協会トップが声明を出し、預金者の預金は安全でパニックになる必要はないと述べた。にもかかわらず誰もが金融危機へのカウントダウンに入っている。格付け会社ムーディーズはレバノンの格付けを低クオリティで債務不履行のリスクが非常に高いことを意味するCaa2に引き下げた。現行体制を支持してドルをレバノン中央銀行に投じレバノンポンドを支えようとする友好国はない。

以前述べたように、人々の支持を集めている唯一の組織は軍である。アメリカ国務省は先週引き続きレバノン軍を支持することを約束した。抗議運動に対処した際に軍が見せた規律は素晴らしいものだった。2つの超名門教育機関ベイルート・アメリカン大学とセント・ジョセフ大学それぞれの学長ファドゥロ・フリ氏とサリム・ダカッシュ氏は共同声明を出し、レバノン治安維持軍の行動を支持することを表明し彼らへの感謝の意を示した。

しかし、軍は統治することはできない。軍が作る評議会による統治はレバノンの文化や伝統とは相容れないからだ。現在の政治家の系譜から遮断された技術官僚から成る政府が改革を実施し新たな議員選挙に向けて国をリードしていくのが考えられるベストな選択だろう。しかしこの非常な難局にあっては、軍が一定の権限を持ち国際社会の支持を得ながら政府とそのメンバーを守り、彼らが旧体制への恐れから及び腰になるのを防いでいくことは必要だろう。

ダニア・コレイラト・ハティブ博士はロビー活動を中心としたアメリカ-アラブ関係の専門家である。エクセター大学で政治学博士号を取得。ベイルート・アメリカン大学のイッサム・ファレス公共政策・国際情勢研究所と提携して研究を行う研究者である。

 

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