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イランの中東のライバルにとって、ライシ氏の大統領就任はどういう意味を持つのか

イブラヒム・ライシ氏。(AP)
イブラヒム・ライシ氏。(AP)
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05 Jul 2021 08:07:27 GMT9
05 Jul 2021 08:07:27 GMT9

ザイド・M・ベルバジ

イラン護憲評議会は、先月行われた大統領選の候補者592人のうち、7人を除く全員を失格とした。失格者には、同国の最古参の議会議長、副大統領、元大統領が含まれていた。これは、最高指導者による選挙プロセスへの最も極端な干渉だ。

悲惨なパンデミックを経験し、米国による制裁で失業率が上昇し、インフレが高まった後での、今回の選挙は、イランとイランの宗教指導者らにとって大きな節目だった。そのため、自らをアヤトラ、フセイン家のサイイドであると公言するイランのイブラヒム・ライシ司法府代表が選出されたことで、多くの人は、こんな体制側の人物が、イランの若者の課題に対処できるのか、新たな核合意に合意するために必要な譲歩をすることができるのか疑問に思っている。

ドナルド・トランプ前米大統領が、核合意を離脱することでイランの姿勢を和らげたいと考えていたのであれば、1988年に行われた政治犯の集団処刑に関与したとして米国から一個人として制裁を受けている強硬派の選出は、間違いなく米国の本意ではなかったはずだ。

選挙自体は決して単純なものではなかった。1979年の革命以来、最低の投票率だったことに加え、約370万票が誤って、あるいは意図的に無効にされたことで、国民の信頼が著しく欠如していることがよく分かった。最高指導者アリ・ハメネイ師と国営テレビはすぐにこの問題を矮小化しようとし、イランの中東のライバルと西側のライバルによる干渉を非難した。イランは長年、投票率の高さを正当であることのあかしにしてきたので、イランの有権者が一斉に挑戦的になったことに眉を上げただろう。ライシ氏が当選するという結果は、多くの人には最初から分かりきっていたかもしれない。だが、今やそれは現実のものとなっており、イランの中東のライバルや国際社会は、ハメネイ氏が自ら選んだとされる人物といずれ関わらなければならない。

ライシ氏が選挙後の最初の週に行った重要な発言は、ジョー・バイデン米大統領とは会わないというものだった。2015年核合意を再建するために外交努力が続けられている重要な時期にライシ氏が当選した後、この発表が行われたので、関係改善を望んでいる米国政府の多くの人々は間違いなく心配になっただろう。これまでの協議で進展があったにもかかわらず、アントニー・ブリンケン米国国務長官は、協議が長引けば合意は「非常に困難」になるだろうと警告している。

ライシ氏が勝利したことで、国の三権全てを保守派が再び支配することになる。よって、8月3日に発足するライシ政権は、内政・外政の両方で、はるかに強硬なアプローチを取るはずだ。このことは、包括的共同行動計画(JCPOA)、核合意の未来に対するイランのアプローチに明確な影響を与える。革命の指導者たちの中から大統領が選ばれたことで、合意の希望が危うくなったように見えるかもしれないが、特に昨年のインフレ率が約40%だったことを考えると、交渉決裂時の国民の怒りは大きいだろう。ライシ政権は西側諸国と何らかの方法を模索しなければならなくなるだろう。

ライシ次期大統領は、イランが中東の民兵の活動を支援し続けることは「譲れない」と明言している。

ザイド・M・ベルバジ

ライシ氏は「我々の外交政策は、JCPOAに始まりJCPOAに終わるものではない」とはっきり述べているが、現実的にはイラン政府は逃げ道を必要としており、ライシ氏のような強硬派は交渉の中で譲歩することができる。より穏健な人物なら、保守派を怒らせることを恐れてそうすることはできない。選挙では、成長の止まった、イランの革命後の権力構造に若者がかなり愛想を尽かしていることが示された。選挙後、イランが経済再生の希望を持ちたいと思うなら、イラン政府は制裁緩和を求めなければならない。

ライシ氏がイランとアラブ諸国との関係において、よりコミットしていることが判明するかもしれない。ライシ次期大統領は、イランが中東の民兵の活動を支援し続けることは「譲れない」とはっきり述べている。中東の同盟国に、新たなJCPOAはイランを中東でつけあがらせることはないと安心させる大きな仕事を米国はすることになる。

イランとイランの近隣諸国との会議が最近バグダッドとドーハで開かれたのは、ある種の雪解けの兆候だが、ライシ氏の当選により、イランが、革命を広めるという地域的な計画から本当に身を引くかどうかが注目されるだろう。チャタムハウスの中東・北アフリカプログラムの副代表であるサナム・ヴァキル氏は、上級聖職者が当選したことが有利に働く可能性を示唆している。同氏は次のように述べている。「(退任するハッサン・)ロウハニ(大統領)とは異なり、最高指導者や安全保障・情報機関に近いライシ氏は、中東に関しては妥協することができる。彼らはそう見ている。このように見方が変わったことで、双方は、今バグダッドで行われている対話を基に前進することができるだろう」

イラン政府は予測不可能なことで有名で、次期大統領の政策を見定めることは科学的に不可能だ。さらに重要なことには、イラン大統領は国の最高責任者であると見なされるが、実際に意思決定権限を持つのはイランの最高権力者である最高指導者だ。重要な政策決定の場であるイラン最高国家安全保障委員会の委員長は大統領だが、戦略的な問題に関する決定は、総意によって行われることが多く、ハメネイ師の承認を必要とする。したがって、JCPOAに対するイランのアプローチは、新大統領の考え方よりもハメネイ師次第だろう。

イランの中東のライバルについて言えば、バイデン政権がそれらの懸念をどれだけ新たなJCPOAに織り交ぜることができるかが、それらが今後の米国の安全保障上の懸念にとってどれだけ重要かを示す重要なバロメーターになるだろう。

  • ザイド・M・ベルバジ氏は政治評論家で、ロンドンと湾岸協力会議(GCC)の間で個人顧客のアドバイザーを務めている。Twitter: @Moulay_Zaid
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