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アメリカはなぜ中東の信用を失ったのか

2021年9月3日にフィラデルフィアに到着したエアフォースワンを降りるアメリカのジョー・バイデン大統領。タリバンに降伏したアメリカは、中東の同盟国に対する信頼を失った。(AFP)
2021年9月3日にフィラデルフィアに到着したエアフォースワンを降りるアメリカのジョー・バイデン大統領。タリバンに降伏したアメリカは、中東の同盟国に対する信頼を失った。(AFP)
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05 Sep 2021 08:09:29 GMT9
05 Sep 2021 08:09:29 GMT9

米軍がアフガニスタンから慌てて撤退したが、その余波が落ち着くまでにはしばらく時間がかかるだろう。まして、必ず失敗する運命にあった国家建設プロジェクトにかけられた多額の費用を考えればなおさらだ。しかし、20年に及んだ冒険のあっけない幕引きは、アラブのほぼ全域に影響を与えるはずだ。

第二次世界大戦以降、何十年にもわたって外交政策の主要な焦点となってきたこの地域で、弱体化したアメリカが今後影響力を行使することはより困難になるだろう。この地域でアメリカが保っていたささやかな権威は、今やはがれ落ちてしまった。

アフガニスタンでの失敗は、脆く紛争が起こりやすい地域に任務の範囲を超えて留まり、他国の運命を翻弄しただけに止まらない。アフガニスタン、そしてその延長線上にあったイラクの現在の状況は、壊滅的なハードパワーと、紛争後の混乱の中での国づくりをはじめとするソフトパワーを発揮することで、決定的な世界的テロ対策キャンペーンを行おうとした結果を表している。この戦争は、当初の目的のために人員、軍需品、資金を投入するだけに止まらなかった。”対テロ戦争”は、これらの地域へのアメリカの永続的なコミットメント、そして、民主化の理想を追求するためなら何をしても構わないということをはっきりと示したのだ。

そしてすべてが、あの慌ただしく混沌としたカブールからの撤退で幕を閉じた。

手にあまる災難と化し、利益も見込めなくなったあの状況を見れば、すでに風前の灯だったと考える者もいるだろう。そう考える者にとっては、アメリカの撤退は時間の問題だった。必要だったのは、政治的なきっかけだけだった。

もちろん、評論家やコラムニストは異論を唱えるだろう。いずれにせよ、バイデン大統領による運命の決断のタイミングは、政治的な立場によっては常に議論の対象となるだろう。議論の余地がないのは、中国とロシアの激化する対立と利己的な侵略によって急速に情勢が変化しつつあるこの地域に、不吉な空気が漂っていることだ。

アメリカの信頼性が失われることで、アルカイダやダーイシュが再び台頭してくるのではないかと、バイデン氏を批判するのも無理はない。また一見穏健派に生まれ変わったタリバンが、融和的な態度や二枚舌外交を駆使して、イランのような予想だにしない協力者を得るようになるのではないかと心配する人もいる。

アメリカが中東で保っていたささやかな権威は、今やはがれ落ちてしまった。

ハフェド・アル・グウェル

アラブのその他の地域からすれば、アフガニスタン侵攻は決してゼロサム・ゲームではなかった、必要だったのはアメリカの撤退ではなく、永続的な自立戦略であった。イランの核開発を抑制するために復活した共同包括行動計画(JCPOA)が最後の砦となっている今、もはやアメリカが約束を守るとは信じられなくなったパートナー国からの支持と協力を得ることは、アメリカにとって困難になるだろう。

大統領の熱弁や、米国主催の首脳会談を見ても、パートナー国はもはや、米国から長期的な利益を得られるとは思えなくなっているのだ。米国を信頼するには、議会選挙や大統領選挙の前にどういった外交政策をとれば、政治的利益を最大限得られるかを見極めるしかない。

しかし、アフガニスタンからの撤退や、国内の問題解決のために海外での注目度を下げることを、アメリカ国民はおおむね支持している。こうした現実は、国務省の課題を複雑にしている。特に、「米国のリーダーシップは多国間の関わりを促進し、パートナー国、同盟国、敵対国を説得して、戦争をするのではなく話し合うようにすべきだ」というバイデン・ブリンケンの考えに基く部分に関してだ。

最も忠実な同盟国ですら、次の選挙を過ぎても米国のコミットメントが長く続くことを確信できなければ、残念ながら米国はそこまでだ。そうすれば中東や北アフリカにおける平和の実現、テロとの戦い、そして地域統合のための努力が水の泡だ。

例えばマグレブでは、モロッコとアルジェリアが西サハラをめぐって対立し、北アフリカやサヘル地域の支配権を争っている。両国とも米国との結びつきが強い。マグレブにおけるアルカイダやダーイシュの分派を封じ込め、リビアからサハラ以南の過激派グループへの人身売買や、武器の流れを介してテロリズムに資金を供給するネットワークを破壊するための、頼れる同盟国なのである。しかし現在、モロッコとアルジェリアは再び対立しており、仲介役であるアメリカの存在がなければ、共通の脅威に対する協力関係は崩壊するだろう。

同様にリビアでも、米国主導の取り組みにより平和の構築や、対立する利害関係者間での対話の動きが生まれていた。しかし、12月の選挙が実現しなかったり、内戦が避けられない状態になったりした場合、米国は介入しようとはしないだろう。結局のところバイデン大統領は、自分が当事者として関わった2011年のNATOによる誤った介入の結果起こったような、10年に及ぶ紛争を避けたいと考えているのだ。

これと同じことが、スーダンやソマリア、レバント、湾岸地域でも繰り返されている。これらの地域で、米国の強固な利益は急速に失われつつあるようだ。サウジアラビア、イラク、ヨルダン、アラブ首長国連邦は、核合意の復活に向けてイランをなだめるために、米国が何百人もの軍隊、航空機、防空システムを撤退させ、プレゼンスを縮小するのを受け入れなければならない。

驚くべきことにバイデン政権は、多くのアメリカ人が関心を失いうんざりしているにもかかわらず、アメリカが中東に建設的に再関与するための焦点として、JCPOAの再燃に期待している。イブラヒム・ライシの署名が得られれば、国内ではアフガニスタン問題で守勢に立たされている政権にとって、一定の評価を得られるかもしれない。しかし諸外国は、アメリカがアフガニスタン撤退の汚名をどれだけ返上できるかに注目している。

結局のところ、アメリカが中東に関してどれだけのことから手を引くとしても受け入れざるを得ない地域の人々は、ますます不信感を募らせることになる。彼らにとってその先にあるのは、20年間の高くついた失敗によって汚された暗い未来であり、世界を取り締まることにもはや関心のない遠くのアメリカという新しい現実なのだ。

  • ハフェド・アル・グウェル氏は、ジョン・ホプキンス大学高等国際関係大学院外交政策研究所の上級研究員。Twitter@HafedAlGhwell
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