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シリアの歴史小説の中で、スタジオジブリ作品が登場人物たちの唯一の慰めとして登場

「As Long As The Lemon Trees Grow」は、シリア系カナダ人作家Zoulfa Katouh氏のデビュー作。(ANJ)
「As Long As The Lemon Trees Grow」は、シリア系カナダ人作家Zoulfa Katouh氏のデビュー作。(ANJ)
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06 Apr 2024 11:04:10 GMT9
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マナール・エルバス

ドバイ:シリア系カナダ人作家、Zoulfa Katouh氏のデビュー作で歴史小説「As Long As The Lemon Trees Grow」は、戦火のシリアで18歳の薬学生Salama KassabとKenan Aljendiが、スタジオジブリの魅惑的な映画と風景の中に安らぎと静寂を見出す物語である。

2011年のシリア革命により学業を中断せざるを得なくなったSalamaは、故郷ホムスの病院で負傷者を助けるボランティアを始める。残された家族は妊娠中の義妹だけで、彼女は必死にシリアを脱出する方法を探そうとする。

冒頭の章では、読者は彼女の戦前の生活を垣間見ることができる。そこでは、さまざまな宮崎駿作品を連想することで、自分の人生に美を見出している。母親が亡くなる前日、1997年のファンタジー映画「もののけ姫」を見ながら会話していたことが、唯一覚えている瞬間のひとつだ。

母親は、彼女の結婚相手にしようとしていた男の子が、コーヒーを飲みに来ることを告げる。そして、義姉がデートのために選んだドレスが、スタジオジブリの「千と千尋の神隠し」の雨でできた海のような色だったと思い出し、魔法のようだったと語る。

第6章で、彼女はこの本の男性主人公Kenanと出会う。彼は偶然にも、母親が紹介したかった男の子で、妹のために主人公が働く病院に迷い込む。

Kenanは、宮崎監督のような物語を再現するアニメーターにずっとなりたかったと明かす。「スタジオジブリは僕の目標なんだ。そこは、アイデアとイマジネーションが爆発する、魔法のように物語が紡がれるんだ場所なんだ」

それ以来、二人は恋に落ち、シリア内戦が起こらなかったら、Salamaは彼女の人生はどうなっていただろうかと空想するようになる。「立ち止まって、1分間だけ、この埃っぽい廊下での私たちの 『かもしれない 』生活を想像することを自分に許した。スタジオジブリの映画を観ているのだと想像して、その世界では、私は彼と冗談を言い合っていて、私は彼がくれた金の指輪を薬指にはめている」と物語のなかで主人公は言う。

「その人生では 」と彼女は続ける。「彼は私のぎこちない発音を笑いながら、日本語の漢字をいくつか教えてくれた。そして、私が正しく発音できるまで辛抱強く、誇らしげにほほえんでくれた」

二人は、スタジオジブリを通して結ばれた絆によって、ゆっくりとお互いの中に慰めを見出し、安心感を得るようになる。彼は彼女に1986年の映画「天空の城ラピュタ」のことを話し、登場人物に自分を重ねて振り返りながら、同作品が、いかに生きる希望を与えてくれたかを語る。

「パズとシータ(映画の登場人物)が飛行船の上に立っていて、空が果てしなく広がっているシーンがあるんだ。ちょうど同じ年頃の子達の物語だった。勇敢になりたいと思った。自分の物語を語りたくなった。生き残って、いつか冒険をすることができるかもしれないと思ったんだ」

この本、特に映画に対する登場人物の考察は、革命や戦争の真っ只中にあっても、人は自分から遠く離れたところに存在するものに、希望を見出すことができる、ということを知らせてくれる。登場人物が、スタジオジブリ作品を愛することを通して、著者はシリアの人々が持つ抵抗感を描き、宮崎監督の映画を自由の象徴として描くことができた。

さらに、登場人物たちが日本のメディアに憧れることを通して、著者は、紛争が続く国に住む人々は犠牲者の統計数ではなく、辛い経験を超越した興味や希望を持つ、現実の個人であることを読者に感じ取らせてくれる。

「私の登場人物たちは悲劇に直面するけれど、ただのトラウマと思わないでほしい。二人は、シリア人を代表しているのです」

本の最後で、二人は結婚し、シリアを離れるために辛い旅をする。カナダに移住し、Kenanは大学に入学してアニメーションを専攻し、宮崎監督のような物語を作るという夢の実現に一歩近づく。

最後には、新居でくつろぎながら「もののけ姫」について語り合い、物語の輪が完成する。

スタジオジブリのほか、著者はこの本を執筆中、竹内まりかや「進撃の巨人」の作曲家、澤野弘之など、さまざまな日本のミュージシャンからインスピレーションを受けたと述べている。

「多くの感動的なシーンは、『進撃の巨人』のサウンドトラックを何度も何度も聴いた結果です。(この本に)サウンドトラックがあるとしたら、竹内まりかの『Horizons』だと思う。スポティファイやユーチューブのストリーミングの半分は、私が聞いてると思います」

本著は、アラブ首長国連邦の日系書店「紀伊国屋書店」によって、2023年のベストフィクションの1冊に選ばれた。また、ウェブサイトでも2,064円で購入でき、サウジアラビア、クウェート、オマーン、バーレーンに配送可能。アマゾンジャパンでは1,939円で購入可能。

著者のウェブサイトでは、本書と同じ設定の短編小説2編が公開されている。彼女の次作は今年発売予定。

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