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歴史はギザでつくられる:エジプトのピラミッドと対話する現代アート

ジュオン・トレビザン氏の「立ち上がる体」。(提供/ヒシャム・アル・サイフィ)
ジュオン・トレビザン氏の「立ち上がる体」。(提供/ヒシャム・アル・サイフィ)
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31 Oct 2021 02:10:44 GMT9
31 Oct 2021 02:10:44 GMT9

レベッカ・アン・プロクター

カイロ:古代エジプト人は死を生命の停止ではなく一時的な中断だと考えていた。死は、個人が永遠のいのちと来世に向かう旅の途中にすぎなかった。ギザのピラミッドは、今日にいたるまで人間の創意の偉業として、その記念碑的な水準に驚かされるだけでなく、霊的な場所としての重要性と時を超える魅力で畏敬の念を抱かせる。

10月21日に学際的な芸術団体Art D’Égypteが「永遠は今だ」をオープンし、今週初めにギザのピラミッドは新たな生命を与えられた。11月7日まで開催されているこの展覧会のタイトルは、ピラミッドが長いときを経て、今、 4500年の堂々たる歴史の中で初めて開かれた現代美術展で新たな役割を果たしていることを考えると実にふさわしい。インディペンデントのアート・アドバイザーであるサイモン・ワトソン氏が企画を手掛けたこの展覧会では、スルタン・ビン・ファハド氏、アレクサンドル・ポノマレフ氏、ギーゼラ・コロン氏、ジュオン・トレビザン氏、ロレンソ・クイン氏、JR、モアタズ・ナスル氏、シェリン・ギルギス氏、シュスター + モーズリー、スティーブン・コックス氏ら10人の現代アーティストの作品が展示されている。

ギーゼラ・コロン氏の「永遠の今」。(提供/ヒシャム・アル・サイフィ)

エジプト観光・考古省、外務省、ユネスコの後援の下で開催されたこの展覧会は2016年設立のArt D’Égypteが手掛ける4度目の展覧会である。タハリール広場のエジプト考古学博物館、マニアル宮殿美術館、カイロ歴史地区のアル・ムイズ通りなどでエジプトと他国の現代アートの展示が行われる。

米国のアーティスト、コロン氏の「永遠の今」(2021年)は、今日のアートとユネスコ遺産の対話のあり方を提示している。宇宙から何かを伝えにきたかのような長さ30フィートの金色の楕円形のドームが目を引く。ドームの幾何学的な形状は、エジプト神話の太陽神ラーの輝く球体と「エジプトの象徴と儀式のそこかしこに見られる金の崇高な色彩」を体現しているとコロン氏は説明する。来場者がその光沢のある外面を覗き込むと、自分の姿とピラミッドなどのギザの周辺環境が反射する魔法の瞬間をとらえることができる。

コロン氏は「古代史を背景に現代アート作品を配置するという歴史的な展覧会です」とアラブニュースに語った。


シェリン・ギルギス氏の「ここに私は戻ってきた」。(提供/アマール・アブド・ラッボ)

中東やその他の地域のアーティストたちの現代アートインスタレーション10作品を展示することは容易ではなかったが、Art D’Égypteの創設者でディレクターのナディン・アブデル・ガファー氏は諦めなかった。

「この展覧会の実施の難しさが分かっていたら、怖気づいていたでしょう」とアブデル・ガファー氏はアラブニュースに語った。「考古学者は現代アートにあまり関心がないので、ピラミッドでの展覧会開催を説得するのに時間がかかりました。ピラミッドはエジプトの遺跡であるだけでなく、世界遺産でもあるので、ここにアートを設置することは世界に向けてのメッセージになります。ピラミッドは、現存する古代の唯一無二の奇跡です。これまで、ギザのピラミッドで現代アートの展覧会が開催されたことはありませんでした」

作品をピラミッドの遠近法の中に配置することで、作品のシルエットや内在する特徴が古代の建造物の形状と融合するという効果的なキュレーション手法が用いられている。

ロサンゼルスを拠点に活動するエジプト人アーティスト、ギルギス氏の作品「ここに私は戻ってきた」(2021年)(タイトルは偉大なドリア・シャフィクの詩から着想を得た)は、流麗なカーブの抽象的なフォルムに2本のロープから2つのスチールディスクがぶら下がってウィンドウに調和している。ギルギス氏のインスタレーションは、まるでこの場所に合わせて作られたかのように、3つのギザのピラミッドを完全に構成の中に収めている。また、エジプトの女性が収穫したジャスミンの香りもあしらわれている。ギルギス氏によると、古代のエジプト人女性と、1950年代に自由を求めて闘ったエジプト人女性を記念するために製作した作品だという。


スルタン・ビン・ファハド氏の「R III」(2021年)。(提供/ヒシャム・アル・サイフィ)

サウジのアーティスト、ファハド氏の「R III」(2021年)は、積み重ねた白い立方体の迷路で、ラムセス3世の象形文字の碑文を表している。この碑文は、サウジアラビア北部で同国の考古学者によって発見されたものだ。近隣のピラミッドの強力な形状に囲まれたファハド氏の立方体は、月明かりの下できらめいて見える。この作品は、エジプトとサウジアラビアの間の歴史的なルーツを掘り下げている。

エジプト人アーティスト、ナスル氏の強烈な作品「バルザク」(2021年)は一連のオールを組み合わせて三角形の回廊を形づくっている。ファラオの魂を天国に運ぶというエジプトの太陽の船に触発されたこの作品で、鑑賞者は、ナスル氏が作った完璧な三角形の枠から遠方のピラミッドを垣間見ることができる。

特に人気が高く感動的なインスタレーションが、アーティストのクイン氏の「トゥギャザー」(2021年)だ。

「この胸に迫る瞬間を永遠に忘れないでしょう」とクイン氏はアラブニュースに語った。「私のアートを古代随一の奇跡の正面に展示できるとは想像もしませんでした。作品『トゥギャザー』はピラミッドと古代エジプトの太陽神ラー、そして私の父の仕事をたたえるために製作しました」。クイン氏は俳優アンソニー・クイン氏の五男だ。


クイン氏の「トゥギャザー」。(提供/ヒシャム・アル・サイフィ)

展示された芸術作品の今後の行き先として、Art D’Égypteは展覧会終了後もエジプトに残す計画を立てている。その場合、「永遠は今だ」はその名とピラミッドの遺産と同じく、比喩的にも物理的にも生きながらえ、着実に時の試練に耐えているピラミッドにおいてつかの間の現代アート展の記憶を伝え続けることになる。

しかし、エジプトのすべての人がこの展覧会に賛成したわけではない。最近では、プロフィールに「ピラミッドをそっとしておいて」と書かれたインスタグラムアカウント@Fartdegypteが短期に1,106人のフォロワーを集め、展覧会に対する厳しい批判を投稿している。古代建造物を侮辱し、このためだけに遠方からやってくる少数のエリートだけが享受する「インスタ映えするバーニングマン」ショーだとして非難している。

モアタズ・ナスル氏の「バルザク」(2021年)。(提供/ヒシャム・アル・サイフィ)


モアタズ・ナスル氏の「バルザク」(2021年)。(提供/ヒシャム・アル・サイフィ)

最新の投稿では「エジプトで、ファレルが、オスマン帝国の国章を身に着けた特権階級のエジプト人と白人に囲まれている未来を想像してみてください。権力と文化が実質的に同じことを意味する未来を。皆さん、そんなに先の話ではないのですよ。今起きていることです。今このときに。未来は今なのです」と述べている。

批判はあるにせよ、今回のように魅力的な参加アーティストたちの現代アート作品の展示は滅多に実現できない。重要なのは、エジプトの不思議に再び世界の目を向けさせ、人類の古い過去と対話することで今なお得られる永遠の美、知識、力を思い出させることだ。

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