
フランク・ケイン
ドバイ:サウジアラビアの公共投資基金(PIF)にとって、4~7月は、その前の3か月に続く忙しさとなった。2020年1~3月ほど劇的ではなかったにせよ、相当に多忙を極めたことに変わりはない。
2020年の第1四半期、PIFは米国や欧州の幅広い優良株に80億ドル近くの投資を行い、世界の株式市場に殴り込みをかけた。
3月前半のグローバル株式市場急落後、いくつかのバーゲンセール割安株が売り出されているのを目にしたPIFは、BP、ボーイング、フェイスブック、シティグループ、バンクオブアメリカといったグローバル・ブランド銘柄の株を素早く購入した。これよりは規模が小さいものの、スターバックスやホテルのオンライン予約サイトであるブッキング・ホールディングスにも資本参入した。
実際に公言されたわけではないが、当時の推測では、PIFがこれらの株をしばらくの間手放すことなはいだろうとされていた。これらはすべて、パンデミック・ロックダウンの初期に経済的打撃を受けはしたものの、長期的な回復の見通しがあると期待される銘柄である。
事実、株式市場の第2四半期の回復力が目覚ましいことから、これらの投資の利食いは正当化されたとPIFが決めてかかったのに間違いはないようだ。
当初の購入の時間枠や価格が分からないため確実には計算ができないが、PIFが第2四半期にこれらの投資から十分なリターンを得、利益を得ることができたのはほぼ間違いないようだ。株式市場は3月の暴落前の状態にほぼ回復している。
PIFは大規模に投資した銘柄についてはすでにその株の大半を売却し、一部の投資からは完全に手を引き、投資グループのバークシャー・ハサウェイやテクノロジー企業のシスコシステムズといったその他の投資についても売却を進めているようだ。これらの事実は、PIFが各四半期終了後に米証券取引委員会(SEC)に提出する必要がある報告書「13F」の開示によって明らかになった。
こうした活動から、パンデミック時代のPIFの戦略についてどんなことが分かるだろうか? ひとつには、それが利益に目を向けている、ということだ。3月に爆買いで参入し、手っ取り早く一儲けしたあと数ヶ月で売りに出た。だがPIFはまた、「トレーダー」精神を育んでいるようにも見える。そしてこの精神が、サウジ王国の国益に寄与する長期的な投資手段としての同機関の役割とも相性が良いようなのだ。結局のところ、サウジアラビアにとって、こうした困難な時期に手っ取り早く現金を稼ぐことより良いことがあるだろうか?
ただ、PIFはこの四半期、株式の売却だけに忙しかったわけではない。上場投資信託(ETF)のいくつかに大型投資も行っていたのだ。これを見ても、PIFの戦略的思考の巧妙さがうかがえる。
ETFは証券取引所で取引される投資ファンドであり、通常の株式のボラティリティに対するヘッジングの一形態とみなされる場合もある。ETFは株式とも、債券とも、あるいは商品(コモディティ)とも連動している。いわば、事実上、ETFは追跡可能ないかなる商品とも連動しているのだ。それに、インデックスを追跡するETFも多い。
第2四半期にPIFが狙ったETFには、不動産、資材、公益事業セクターのものが多く含まれていることから、PIFの投資戦略家は、工業・商業部門としてはかなり基礎的なセクターにおいて回復が急速に進んでいると見ているのではないかということがわかる。
第1四半期に購入した有名株の一部を売却したにもかかわらず、PIFは実際には全体として投資可能な資産への組入比率を高めていた。これには、ETFや3月に取得したSuncorp EnergyやCarnivalといったいくつかの株式の保有高が含まれる。
こうした種類の資産クラスをすべて合わせた保有高の総額は、7月末には111億ドルとなった。第1四半期末の98億ドルからわずかに増加したことになる。
これとは別にPIFが行ったもう1つの多額資金調達活動は、国際銀行団から融資を受けた100億ドルのブリッジローンを返済することだった。このローンは、サウジアラビア基礎産業公社(SABIC)をサウジアラムコに690億ドルで売却するまでの資金調達手段として借り入れたものだ。
これは資産の維持管理としては賢明な手段であり、サウジアラビアが石油価格の減少による予算との数十億ドル分のギャップを埋めるために国際資本市場に参入すると宣言した現在、サウジ王国のソブリンウェルスファンドであるPIFには、これで今年の残りの四半期により多くの柔軟性が与えられることになる。
「危機を決して無駄にしない」というモットーに従って、PIFは良好なグローバル株式市場を利用し、それと同時に、その巧妙なスキルやタイミングの良さを示してみせた。だが、PIFにとっての本当の試練は、金融市場の一部がその輝きを失ったときにやって来ると考えられる。そしてそれはいつ起こってもおかしくない、とアナリストの多くが予想している。