
ロイター通信、宇都宮、日本
3月に行われたホンダのサプライヤー向けの2日間の会合で、八郷隆弘代表取締役社長は警鐘を鳴らした。
会合に出席した2人の参加者によると、宇都宮のホテル東日本で、八郷氏は、日本の自動車メーカーが一連の多大な費用を伴うリコールやその他の品質上の過失により危機に直面しており、新たな道を模索する必要があると語った。
ホンダの3人の内部関係者によると、それ以来、八郷氏は独立した研究開発(R&D)部門を社内に取込み、上級管理職の一部を削減するなどして、意思決定を集中化する改革に黙々と取り組んでいるという。
来年初めに発表される予定である改革は、電気時代に向けた自動車の開発に迫られているこのときに、ホンダが自動車の設計方法を簡素化し、エンジニアリングリソースをより効果的に使用することを意図していると、情報筋は語った。
「数十年前、ローカリゼーション...は流行語であり、ホンダの技術センターの独立はイノベーションの重要な推進力でした」と、現在サプライヤーの1つの社長を務めるホンダの元幹部は語り、「そういう時代は終わりました」と言う。
情報筋によると、八郷氏は、株式会社本田技術研究所を本田技研工業株式会社に統合することにより、技術者が購買、製造、品質保証、販売およびマーケティングといった主要部門とより緊密に連携できるようにする準備を整えたという。
「ホンダは、自動車ビジネスを強化し、次世代のモビリティ技術の到来に備えて改革を実行することが、当社の最も重要な管理タスクであると考えています。これが最優先事項です。」と、ホンダの広報担当者は、計画に関する質問に答えて語った。
1980年代および1990年代の大半は、ホンダという名前は、デトロイトの米国の大手自動車メーカー3社の経営者を恐れさせた。それは、彼らがその低コストで効率が良く、よくできた車に匹敵することができないという単純な理由であった。
しかし、2014年以降、エアバッグ、スライドドア、エンジンなどの部品の問題に関連したリコールが相次いで発生し、品質と効率性のベンチマークとしてのホンダの地位は深刻なダメージを受け、この品質危機は利益にも打撃を与えている。
ホンダの内部関係者5人によると、品質の欠陥により、そのグローバルな自動車事業の営業利益率は2パーセントから3パーセントに圧縮され、より大きなライバルが提携関係を構築し、体質強化のため業務をオーバーホールしている中、策略を用いる余地を少なくしている。
これは、ホンダの二輪事業がすでに研究開発部門を社内に吸収し、13.9%の営業利益率を達成しているのとは好対照である。
中国と並んでホンダの2つの主要な自動車市場の1つである米国における車両の信頼性に関する J.D. Powerの研究では、ホンダは2015年に5位、2002年には最高の4位にランクされていたのが、今年は18位に陥落した。
「私たちが現在行っているこうした動きは、最終的な運命を決定することになるでしょう。すなわち、10年から15年先も独立したプレーヤーとして生き残れるかどうかという」とホンダの情報筋はロイターに語った。
ホンダの自動車事業に関するインタラクティブなグラフィックについては以下を参照:https://tmsnrt.rs/35UnuNr
「異常なまでの複雑さ」
東京の北、宇都宮にあってホンダが開発の大半を行っている技術センターのシニアエンジニアは、問題の原因は、その車両の範囲と関連するすべてのエンジニアリングプロセスの「異常なまでの複雑さ」にあると言う。
「品質は悪化しています」とエンジニアは言う。 「ホンダは、グローバルモデルに数多くの種類、オプション、派生商品を揃えているのに加え、あまりにも多くの地域モデルを作りすぎてきました。」
「それはすべて私たちの利益を食い尽くしてしまいます。」
たとえば、米国では、ホンダの2020アコードセダンには、3つのハイブリッドを含む13のバージョンがある。ライバルであるGMのマリブには5つのバージョンがあるが、ハイブリッドモデルはない。
宇都宮での2日間の会合で、八郷氏と調達担当マネージャーは、サプライヤーに対しホンダがその車の範囲を大幅に削減し、モデルの種類とオプションを簡略化するの支援するよう要請した。
会合に出席した2人およびホンダがプレゼンテーションに使用したスライドによると、 彼らは、エンジンやトランスミッションからドアハンドル、バックミラー、さらにはノブやスイッチにいたるまで、より一般的な部品を使用するようサプライヤーに求めた。
ホンダの問題は主として、2015年に八郷氏が引き継ぐ前の非常に積極的な拡大に起因している。ホンダは、シビック、アコード、CR-Vスポーツユーティリティ車(SUV)などのいわゆるグローバルモデルに加えて、現在、世界の自動車販売の40%を占める多くの地域モデルを開発した。
これには、中国のCriderセダン、東南アジアのBrioとMobilio、現在インドでも販売されているラテンアメリカのWR-V、米国のPilot SUV、および日本の軽自動車であるNシリーズが含まれる。
売上の60%を占める同社のグローバルモデルには、1982年からホンダで働きエンジニアとして経験を重ねてきた八郷氏が不要な製品デリバティブと呼ぶところの数多くのオプション機器や装備品が付属している。
地域モデルの数の急激な増大は、意図しない結果をもたらした。すなわち、エンジニアリングがより複雑になり、仕事量が増大したため、品質が低下し、莫大な費用を伴うリコールが発生した、と2人の会社関係者は述べている。
タカタのエアバッグ危機の影響は2017年までにほぼ収まったが、ホンダは2017年3月までの12か月間で製品保証のために5,200億円(48億ドル)を、またここ2年間にそれぞれ4,500億円を留保している。
タカタの大惨事が起きる前の4年間には、製品保証引当金の額は1,710億円から2,740億円の範囲であったが、2016年3月までの1年間では7,270億円に急増した。
たとえば、2018年、ホンダは中国で約60万台の車をリコールした。寒い天候下で運転すると6つのモデルのエンジンに沈殿物がたまるというのが理由である。一方、米国ではミニバンであるオデッセイのスライドドアが車両の移動中に開き始めるという理由でリコールが行われた。
「母船に戻る」
八郷氏は5月の記者会見でいくつかの問題にフラグを立て、2025年までにグローバルモデルのデリバティブ製品の3分の2を削除し、ホンダが地域ごとに異なった色、モデルの種類、オプションの作成に熱を上げてきたこれまでのやり方を捨て去る意向を示した。
彼は、エンジニアの作業量を約3分の1削減し、ホンダの技術部門が将来の車の技術研究を行うための時間とリソースを作り出すことを目指していると言う。
八郷氏とホンダの重役陣が公に議論していないのは、品質と効率性の向上を推進するために計画された構造改革のことで、主なターゲットとなるのはその研究開発部門である、と3人の会社関係者は語った。
地域モデルの拡大に関連した品質問題とエンジニアリングの仕事量に加え、新技術の出現により、ホンダの大規模な支出を伴う技術部門がより一体として活動することが必要となっている、と2人の情報筋は述べている。
「多くの点で、ホンダの技術部門は大学の研究室のような役割を果たしてきましたが、過去にはそれでは問題ありませんでした」と元ホンダの幹部でサプライヤーの1人は語る。
ホンダの東京本社に意思決定者を配置することにより、研究開発部門が資本と人材をより経済的に活用することが期待される。
ホンダの研究開発およびエンジニアリング部門は、今会計年度に8,600億円、収益見込みの5.5%を支出すると予想されている。売上高が2倍のトヨタは、テクノロジーに1.1兆円、世界の売上高の3.7%を支出することが見込まれている。
2人の会社関係者は、八郷氏が株式会社本田技術研究所のトップマネージメントの役職を廃止することを検討しており、おそらくその一部は本田技研工業株式会社内の部門の管理職になるのではないかと述べている。
ある情報筋は、その目的は「会社の断片化し地方に分散された意思決定の権限を東京の母船に集中させること」であると語った。
エンジニアによると、ホンダは内部品質目標を導入しており、世界的なリコール台数を2017年の600万台という危機的レベルから今後数年間で3分の2削減することを目指している。
2日間にわたるサプライヤーとの会合では、八郷がビジネスについて語ったことは明らかだ。
ホンダの幹部は、名指しすることは避けて、模範的な製品開発プロジェクトと悪いプロジェクトについて議論したので、何か学ぶことがあったはずである。ホンダの小さなサプライヤーのコミュニティでは誰について言及しているかはかなり明らかであり、彼らは不満であったろう、と会合に参加したあるサプライヤーは語った。
そうしたことから、2日目にゴルフを取りやめた人もいた。