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アル=バグダディの死でテロ遺族の「煮えたぎった怒り」収まる

イスラム国指導者、アブ・バクル・アル=バグダディの死亡を伝えるニュースを観るイラク人の若者。2019年10月27日、イラク・ナジャフにて。(ロイター)
イスラム国指導者、アブ・バクル・アル=バグダディの死亡を伝えるニュースを観るイラク人の若者。2019年10月27日、イラク・ナジャフにて。(ロイター)
29 Oct 2019 03:10:12 GMT9

スィラージ・ワハブ / メネクシェ・トキアイ

  • 拘束か死かを迫られたアル=バグダディは後者を選び、自爆ベストを起爆した
  • イスラム国指導者の殺害で果たした役割をめぐっては、多数の国と集団が名乗りを上げている

ジッダ/アンカラ:米軍特殊部隊が分乗した8機の武装ヘリがイラク西部のアンバール県を飛び立ち、夜空の下、低空飛行でシリア北部に急行した。

目的地はトルコ国境から5km、イドリブのすぐ北にあるバリシャという村。ターゲットはイスラム国の創立者兼指導者、アブ・バクル・アル=バグダディだ。世界一のお尋ね者テロリストとして、2500万ドルの懸賞金が掛けられていた。

危険度の高い戦闘であった。米軍機の眼下に広がる地域では、アサド政権、ロシア、イラン、トルコに加え、重武装を施した数々の過激派民兵など、混沌を極めるシリア内戦で対峙する各軍事勢力がひしめき合っているのみならず、過激派民兵の多くはアルカイダとも繫がりを持つ。

一方、空域を支配するのはロシアであり、ロシア政府とトルコ政府は米軍の作戦実行について事前に通告を受けていた。武装ヘリとそれに随伴する無人攻撃機は、損傷を受けることなく目的地に達した。

そこで初めて地上砲火を受けた編隊は、上空からの圧倒的な火力によって素早くこれを鎮圧した。

その瞬間までバリシャの潜伏場所で眠りについていたバグダディは、過去48時間をそこで過ごしており、身の危険は感じていなかったはずだ。だが米軍特殊部隊が外壁を爆破して敷地に突入し、追い詰められたバグダディは、全てが終わったことを悟った。

自爆ベストを着用したバグダディは米軍兵士と追跡犬に追い立てられ、行き止まりのトンネルに3人の子供とともに逃げ込んだ。

拘束か死かを迫られたバグダディは後者を選び、自爆ベストを起爆した。巻き添えになった無実の3人の命は、バグダディとその信奉者が生んだ数千人もの犠牲者に加わった。

ワシントンDCのホワイトハウス・シチュエーションルームでは、ドナルド・トランプ米大統領がリアルタイム映像を介して作戦の進行を見守っていた。政府高官や安全保障顧問、軍幹部らが同席していた。作戦を終えた米軍部隊が基地に無事帰還すると、トランプ大統領はこうツイートした「今とても重大なことが起きました!」

確かにその通りだ。この作戦で果たした役割をめぐっては、多数の政府や人物が続々と名乗りを上げており、バグダディ殺害の意義の大きさを物語っている。

バグダディの居場所について重要な情報を提供したとシリア北部で語るのは、シリア民主軍(SDF)のクルド人戦士たちだ。

シリア民主軍のマズロム・アブディ司令官によれば、5ヶ月にわたる「地上部隊の連携と正確な監視活動」を踏まえた共同作戦が実行されたという。司令官はこれを「見事で歴史的な」共同諜報作戦と呼んだ。

イラク政府高官によれば、イラク西部で米軍の爆撃によってバグダディの側近が殺害されたことを受け、重要な情報がもたらされたという。逮捕された側近の妻がイスラム国指導者の居場所に関する重要な情報源になったことに加え、イラク当局に逮捕されたバグダディの義理の兄弟も、さらなる情報を提供していた。

トルコ国防省はこう発表している。「トルコ政府はイドリブでの米軍の作戦に先立ち、米軍と担当者間で情報を交換し連携を取っていました」

「今後もテロリズムに対抗するため、それがどのような形態や主義であれ、友人・同盟国との協力を進めていきます。テロ指導者を一人残らず殲滅する時です」

アル=バグダディの主な来歴

  • 2010年4月:アブ・バクル・アル=バグダディがイスラム国の指導者に就任
  • 2013年4月:バグダディが新しい組織名を発表
  • 2014年1月:イスラム国がイラク・ファルージャとシリア・ラッカを占領
  • 2014年6月9日〜11日:イスラム国がイラク・モスルとティクリートを占領
  • 2014年6月29日:バクダディがイラクとシリアの領土に対し「カリフ国」を宣言
  • 2014年7月4日:バグダディがモスルの「光のモスク」で初めて公に姿を現す
  • 2014年8月:イスラム国がイラク・シンジャールを占領。ヤズィーディー教徒の虐殺を開始
  • 2014年8月:米国がイラクのイスラム国を標的とする限定的爆撃を実施
  • 2016年6月26日:イラク軍がファルージャ解放を宣言
  • 2017年6月6日:米軍の支援を受けたクルド人主導のシリア民主軍が、ラッカ解放へ向け攻撃を開始
  • 2017年10月17日:シリア民主軍がラッカを完全に掌握
  • 2018年8月23日:バグダディが信奉者に戦いの継続を促す録音音声を公表
  • 2019年10月27日:米軍がシリア北西部で急襲作戦を行い、トランプ大統領がバグダディの死亡を宣言

トランプ大統領は日曜日の発言で、自称「カリフ国」の絶頂期に処刑されその様子を撮影された、数多くの犠牲者に対して哀悼の意を表した。その遺族たちはバグダディ死亡の知らせに素早い反応を見せている。

「バグダディを発見してくれた大統領と勇敢な兵士たちに感謝しています」と語るのは、息子のジェームズ氏が犠牲になったダイアン・フォレー氏だ。「これによってテロ組織の復活が阻止され、拘束された戦闘員たちが法の裁きを受けることを祈っています」

ヨルダン空軍パイロット、ムアズ・カサースベ氏が搭乗するF-16戦闘機が2014年12月にシリアで墜落し、イスラム国の火刑に遭い命を失ったが、その父親であるサフィ・アル=カサースベ氏はこう述べている。「私にとってもイスラム諸国にとっても祝福です。このテロリストの独裁者は、イスラム教をテロの宗教として喧伝し、イメージを傷付けました。イスラム教は、あの卑怯者のような罪を犯す宗教ではありません」

「自分の手で殺すチャンスがあればよかったのですが、ともあれ彼が殺害されたというニュースを聞いて、私の中で煮えたぎっていた怒りを収めることはできました」

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