






レベッカ・アン・プロクター
リヤド:「新たな地平を切り開いて私たちを取り囲む芸術の様相を理解し、それに基づき地元で作られるクリエイティブコンテンツやサウジアラビアの芸術シーンをより豊かなものにできればと思います」と、Miskのリーム・スルタンCEOはMisk Artに関して述べた。Misk Artは、サウジアラビア内外のクリエイティブアートを専門に扱う芸術祭である。
Misk Artには地元及び海外のギャラリーが集結し、アート展示、ワークショップ、及び講演がフェア形式で実施される。その目的は、地元のアーティストを支援し、クリエイティビティーが持つ力を地元の人々に伝えていくことである。
第3回目を迎えた今回のMisk Artは「Experiment 0.3」と題され、批評と研究を通して実験的試みを行うことによっていかにクリエイティビティーが促進され地元の芸術シーンが活気付くのかが焦点となっている。
10月29日から11月2日にかけて、約50,000人の来場者がリヤドのアル=ヤスミン地区にあるキング・ファハド通りに設置された仮設会場に足を運んだ。
会場では、アート区画、数多くの特別展、アートイスタレーション、及び大胆なアイデアを試せる野外のノース・イースト・ゾーンなど、イニシアチブの各セクション別に250人を超えるアーティストの作品が展示された。
Misk Art 2019には、ジェッダを拠点とするHafez GalleryとAthr Gallery、リヤドのMono Gallery、エジプトのGallery Misr、リヤドを拠点とするHewar Art Gallery、バーレーンのマナーマのElla Art Gallery、リヤドのPalette Gallery、ジェッダを拠点とするNesma Art Gallery、リヤドのSharqia Arts、そして同じくリヤドの6th Sense Galleryなどの15ギャラリーが参加した。
Misk ArtはMisk Art Instituteが企画している。Misk Art Instituteは2017年に、アートとMisk財団の支援を受けて活動しているアーティストを支えるプラットフォームとして、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子によって創設された。
Misk Art 2019では4つの展示と約100のワークショップが開催された。また彫刻シンポジウムは2回目の開催となり、14ヶ国の彫刻家に今回のためだけに特別にコミッションされた計21作品が展示された。
「全ては、実験的な試みを見ていただくというイベントのテーマに基づいて選定しました」とスルタンは語る。「さらに、有名アーティストによる委員会を発足させ、私たちの監督のもと、作品、アーティスト、ワークショップ、及び展示の選定を手伝ってもらいました」
同イベントの目玉のインスタレーションの1つは、アーティストのアブドゥッラー・アルオトマンの「Tin Farm」(2019)で、たくさんの枯れ木をアルミホイルで覆った作品だ。この作品では、木に見る自然現象を通して共同性と個別性のコンセプトの探求が試みられている。
「『Tin Farm』には数え切れないほどの木が使われていて、静脈中の酸素が凍結している多くの人々のように、どれもそれぞれ異なっています」とアルオトマンは言う。「アルミホイルをかぶせた木を展示するのは、これらの木の枝が天にまで伸びるような明晰夢ないし芸術上の空想状態に導くためです」
「どの2つを取っても異なる指紋のように、どの木も、どの枝も、どの草も、そこにはそれ固有のざわめきを宿しているのです」
「実験的な試みを行うと、可能性を発見できます。実験することによって、自分自身のクリエイティブな魂、自分にしかない偽りのない声と繋がりを持てるのです。アートの様々な領域を探検し、見知らぬ道に足を踏み出し、全てのルールを破ってみましょう!」と、今年のテーマに関するステートメントにはある。
スルタンによると、極めて重要だったのは、「研究と体験というコンセプトを様々なアート分野で深めること」だったとのことだ。
「Land, Medium, Idea」では、アーティスト兼キュレーターのモアス・アルオフィによって3つの区画が作られ、それぞれで陸、素材、及び思考に関する探求が試みられた。
「3つの部屋を設置しました。そのうち1つでは、いかにGoogleマップによってサウジアラビアを探検することができるようになったのか、そしてこのツールに触れることでいかに訪問者はサウジアラビアで自分だけの場所を見つけられるかを、来場者に提示しています」とアルオフィは言う。
「2つ目の区画では、アートの材料として使える様々な素材の探求を試みています。3つ目の部屋はアートと思考の高速カップリングパーティーのようなものです。アーティストと私が5分間コンサルタント役を行うといった感じです。
「来場者が質問でき、議論でき、アートの創造の世界を探検できる場所になっています」
「Flow」と名付けられた別の展示では、サウジアラビアのアーティストであるファハドとタラルが、20世紀後半芸術家のアンディー・ウォーホルとジャン=ミシェル・バスキアの作品に関して探求を行おうと、異なった様式をつなげるような作品を共同制作した成果が展示されている。その究極の目的は、ある芸術家と別の芸術家の境界はどこにあるのか、という問いを投げかけることである。
ひょっとすると、この作品が表しているように、実験的試みとは終わることのないプロセスであり、着想と探求の止まらぬ循環の一部をなしているのかもしれない。
現代カリグラフィーの作品で知られる女性アーティストのルルワ・アル=ホムードがキュレーションした展示である「Contrast in Harmony」でも同様に、対比をなす要素が同時に現れる中でいかに調和を視覚的に表現できるかの探求が試みられている。
「私たちの間の違いからさえも、ある種の平穏な感覚を生み出すことができます」とアル=ホムードは言う。
参加アーティストには、ハラ・アル=ハリファ、ドイツ人アーティストのヴォルフガング・シュティラー、エジプト人のハゼム・エル=メスティカウィー、バーレーン人アーティストのジャマル・アブドゥルラヒーム、シリアのイスマイル・アル=リファなどが名を連ねており、またオプ・アートの生みの親と言われるヴィクトル・ヴァザルリ(1906-1997)のシルクスクリーン版画も展示されている。
コロード・アル=バクルとアブドゥルサラーム・アル=アミリがキュレーションを務めた展示である「Soujorn」では、人生を通して様々な経験や知識がいかに必要かが探求されている。
「経験なく知識を得たり、対話なくアイデアを形作ることは決してできません」とアル=バクルは言う。
私たちの間の違いからさえも、ある種の平穏な感覚を生み出すことができます。
ルルワ・アル=ホムード、アーティスト
「人生の質向上に寄与する要素の1つとして、様々な出会いや経験を糧にして最終的に人間として成長することが挙げられます」
この展示には、Weirdsaudiが音楽を担当したビデオグラファーのタルファ・ビント・ファハドのインスタレーション「Did you capture it?」も展示された。
このビデオ作品では、私たちの人生はいかにインスタグラムの写真を常に撮ろうとする中で形作られているか、そしてそれによって日々の暮らしの中で、より小さく、しかし時にはより重要な側面を見落としているかが探られている。
「Did you capture it?」は、際限なくSNS写真撮影を繰り返す中でしばしば見逃される、そうした瞬間に捧げられている。タルファが暮らしの中の小さな細部を撮影する傍ら、Weirdsaudiも同様にそうした日々の暮らしの中の瞬間の忘れ去られし音を取り戻してくれる音楽を作曲する。
Miskグローバルフォーラムアートのアート作品には、Miskグローバルフォーラム期間中極めて重要な役割が託された。同フォーラムはMisk財団のMiskイニシアチブセンターによって企画され、「Work Reworked」とのイベント名を冠して11月12日から11月14日までリヤドで開催されたものだ。
120ヶ国以上から集まった140人以上の起業家と5,000人の人々を前に、労働の世界での新たなトレンドや変化の探求が試みられることになる。
「Presence」と題された1つ目のアートインスタレーションでは、Misk Art Instituteによってインタラクティブな体験が提示されるという形式が採用されている。その目的は、身体と精神の両方で、人の存在が周囲の世界の知覚にどのような影響を及ぼすかを探求することである。
アーティストのアブドゥル・ハリム・ラドウィによる「Brace」と題された2つ目の作品も、没入型のデジタルエクスペリエンスを提供するものだ。部屋を覆う大きなディスプレースクリーンを用いて、絵の具を塗る感覚が提示されている。
12月には、Misk Art InstituteはTajallatと題されたイニシアチブを企画し、ディルイーヤシーズンに参加予定だ。
4回目となるTajallatでは、サウジアラビア全土から20人のアーティストが招待され、ユネスコの世界遺産にも登録されているアル=トライフ歴史地区を着想の原点としたライブドローイングのショーが行われる。