


ベイルート
海抜3,093mのクルナ・アッサウダー山が、新たな天文台の建設場所として選定された
日本からレバノンに望遠鏡が提供された。これでレバノンが国立の天文台を持つ日も近づいたかもしれない。
2011年、レバノンのノートルダム大学(NDU)で天文学教授を務めるロジャー・ハヤール氏、バッセム・サブラ氏、ジブラーン・マルワン氏の3人は、中東・アフリカ国際天文学連盟(IAU)主催の地域別大会に参加するため、南アフリカに向けて出発した。
教授らは、NDUが実現を希望していたプロジェクトをまとめたポスターを持参した。内容は天文台を建設するというものである。NDUは2010年、セント・ジョセフ大学(USJ)と天文学の修士課程の教育に関する提携合意を締結していた。
ハヤール氏は次のように語る。「私たちは大会会場の壁にポスターを掲げました。すると何時間か後に、日本の国立天文台(NAOJ)で国際関係の責任者をされている天文学教授の関口和寛氏から声をかけていただきました。
レバノンには2つの天文台がある。1つはベイルート・アメリカン大学(AUB)構内のリー天文台、もう1つはベイルート・アラブ大学の構内に設置されている。
「レバノンでは天文学はあまり注目されていませんでした」とハヤール氏は語る。天文学が注目を集めるようになったのは2010年以降とのことだ。「この分野で修士号を取りたいという学生が出てくるようになりました。
「日本からNDUに提供された望遠鏡は、彗星ハンターをしていたアマチュアの方が使われていたものです。日本の五藤光学研究所というプラネタリウムやプラネタリウム関連の機器を製造する会社が1980年代に導入した望遠鏡です。同社のオーナーがその望遠鏡をお住いの県に提供され、公立の天文台に設置されたとのことです」
3年後、同社のオーナーはより先進的な望遠鏡を導入し、古いものは取り外された。NDUとNAOJの間で協力合意が結ばれ、2015年にはミラーとレンズ部分はメンテナンスを経てベイルートに運ばれた。この望遠鏡は現在、同大学の倉庫の1つで保管されている。
NDUの幹部は現在、アル=マクマル山地域の自治体と合意形成を進めている途中である。標高3,093mを誇るレバノン最高峰のクルナ・アッサウダー山が、天文台の建設場所として選定された。
ハヤール氏は次のように語っている。「天文台の建設場所に選ばれた地点は、中東では標高が最も高い地点です。世界の天文台と比較しても、標高では10位か11位に入るのではないでしょうか」
「天文台の建設費は、エネルギー生産費も含めて、推定でも50万ドルに上る可能性があります」
近隣諸国の天文台は、低地に建てられているものばかりだとハヤール氏は言う。
「イスラエルの天文台は、望遠鏡のレンズの大きさやそれに注ぎ込まれた開発技術では優れていますが、標高700mの砂漠地帯に位置しています。レバノンでの建設予定地は、地域でも類を見ない標高を誇ります。イラクとイランには同様に標高が高い場所があり、湾岸協力会議の参加国ではオマーンにも1箇所あります。同様の場所はイエメンにもあり、またひょっとするとモロッコのアトラス山脈にもあるかもしれません」
ハヤール氏は、レバノンで天文台が建設されれば、東と西の世界の架け橋的存在になるかもしれないと考えている。
日本は天体観測の分野で極めて進んでいると同氏は言う。NAOJの予算は5億ドルと見られているが、それに比べてNDUの予算は7,000万ドルすら超えない。
ハヤール氏は次のように付け加える。「国家科学研究委員会(CNRS)の年間予算は500万ドルすら超えません。委員会はこの予算の範囲内でレバノンの全ての科学研究に資金を配分しないといけないのです」
「日本からの贈り物はプライスレスです」とハヤール氏は言う。「日本には、宇宙の研究において主要な役割を果たす宇宙関連機関があります。また日本は先駆者として天文台の規模拡大や技術開発を行っており、数々の発見をしてきました。
東アジア諸国で天文学が発展している背景には、日本にプッシュされているという面も大きいと言えます。そして、かつてエジプトのコッタミア天文台の修復支援を行ったように、日本は今レバノンを支援しています。日本は、1950年代から望遠鏡の修復を行っているのです」
「レバノンには、8人か9人しか天文学者がいません」と同氏は言う。「私たちには、年間毎晩観測を続ける人的エネルギーが不足しています」