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アラブ世界が静観する中、TikTokに包囲網が迫る?

TikTokの消費者プライバシー・データセキュリティ対策や子供への影響について米下院エネルギー・商業委員会の公聴会で証言する周受資CEO。2023年3月23日。(AFP)
TikTokの消費者プライバシー・データセキュリティ対策や子供への影響について米下院エネルギー・商業委員会の公聴会で証言する周受資CEO。2023年3月23日。(AFP)
米下院エネルギー・商業委員会の公聴会での証言に臨むTikTokの周受資CEO。2023年3月23日、ワシントンD.C.。(Getty Images、AFP経由)
米下院エネルギー・商業委員会の公聴会での証言に臨むTikTokの周受資CEO。2023年3月23日、ワシントンD.C.。(Getty Images、AFP経由)
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25 Mar 2023 01:03:30 GMT9
25 Mar 2023 01:03:30 GMT9
  • MENA地域において影響力を高めるTikTokの影響や帰結が世界的に懸念されているが、CEOが米議会公聴会で証言した後、解答より疑問の方が多くなっている。
  • 疑問への解答を求めて世界が見守る中、米議会公聴会で証言したTikTokのCEOは安全保障上の懸念をめぐって集中砲火を浴び、苦境に立たされた

ザイラ・ラクパトワラ、タレク・アリ・アフマド

ドバイ/ロンドン:TikTokのCEOによる証言が行われた米議会公聴会は手に汗握るドラマとなった。またもやグローバルテック企業トップが下院エネルギー・商業委員会の前で注目を浴びた形だ。

おそらく世界で最も人気のあるアプリであるTikTokの周受資(ショウ・ジ・チュウ)CEOは、これまでにメタのマーク・ザッカーバーグCEOやツイッターのジャック・ドーシー元CEOなども座った席で集中砲火を浴びた。

周CEOがどのように自らを正当化し、米国のユーザーデータが安全であり保護されていることを保証するかを、世界中の人々が見守った。

米下院エネルギー・商業委員会の前で証言するTikTokの周受資CEOに質問するカット・キャマック下院議員(前列右)。2023年3月23日。(Getty Images/AFP)

TikTokが中国発であることは米国民だけの問題ではなく「世界に影響を与えている」と、デジタル人類学者のジャイルズ・クラウチ氏はアラブニュースに対し語る。

「中国政府はTikTok株を過半数所有していないが、いわゆる『黄金株』を所有しているため、取締役会の議席を持っている」

インドは既にTikTokを完全に禁止している。カナダ、ベルギー、デンマーク、ニュージーランド、台湾、イギリス、米国は政府支給の端末での使用を禁止している。しかし、中東ではまだ全く禁止されていない。

若者の人口が多いサウジアラビアでは、TikTokユーザーは地域で最多の2639万人に上っている。イラクとエジプトのユーザーはどちらも2300万人を超えている。UAEは約600万人だ。

超党派の議員らは5時間にわたり、様々な問題に関して周CEOを追及した。中国共産党がTikTokのユーザーデータにアクセスできるという疑惑や、このアプリのアルゴリズムやコンテンツが若者に有害な影響を与える可能性についての懸念などだ。

委員会が周CEOの回答に不満を抱えたまま公聴会は終わった。周CEOは質問に回答する機会を与えられても「詳細は追ってお知らせします」と答える場面が多く、追及逃れの印象を与えた。

そのような口ごもりや言い逃れは、世界中のユーザーや政府の間で懸念を高めた。公聴会のわずか1日後、フランスは公務員業務用端末でのTikTok利用を禁止することを決定した。

TikTokの中東・北アフリカ(MENA)地域広報担当者はアラブニュースに対し次のように語った。「弊社の周受資CEOは議会からの質問に回答するために準備を整えていましたが、残念ながらその日の公聴会は政治的スタンドプレーに終始しました。プロジェクト・テキサスを通して既に行われている真の解決策が認識されず、業界全体におよぶ若者の安全の問題についても生産的な提言がありませんでした」。会社の回答をそのまま伝えた形だ。

TikTokは昨年、米国のユーザーデータを保護するための15億ドル規模のイニシアティブ「プロジェクト・テキサス」を発表した。年間7億~1兆ドルの費用がかかると推定されているこのプロジェクトは、ユーザーデータのプライバシーリスクやコンテンツ推薦に関する政府の懸念に答えることを目的とするものだ。

公聴会で委員会は周CEOにプロジェクト・テキサスについて質問した。15億ドルの配分について質問する議員もいれば、プロジェクト自体について、またTikTokが本当に米国民のデータを保護できるのかについて懐疑的な姿勢を崩さない議員もいた。

委員会メンバーの全員ではないにしても多くは、TikTokは本質的に中国政府の一部門であると信じているようだった。「中国政府がデータにアクセスしているという証拠を見たことはありません。頼まれたこともありませんし、我々も提供していません」と周CEOは言ったものの、あけすけに不信を口にした議員もいた。

アンナ・エシュー下院議員は、「実に馬鹿げている」と一蹴した。

しかし、ニュースチャンネル「アル・アラビーヤ」のマムドゥー・アル・ムハイニ氏は最近のコラムの中で次のように主張している。「(TikTokがスパイ活動やプロパガンダに使われているという)主張はどちらも馬鹿げており、決定的な証拠を欠いている。こういった主張はむしろ、単なる政治的脅迫のために使われている。米中の国際的対立の中で中国に譲歩を強いるためだ」

米下院エネルギー・商業委員会の前で証言するTikTokの周受資CEO。2023年3月23日、米連邦議会議事堂。(Getty Images/AFP)

同氏は、「TikTokをめぐる戦争は、米国および欧州と中国の間の競争という背景のもとで行われている。影響力、そして人々の頭や心をめぐる戦争においては、あらゆる武器、非難、口実が使われ得る」としたうえで、このアプリは「(米中の)冷戦の手段として使用されている」と指摘している。

TikTokが米国民を標的にスパイ活動を行う能力についてのFBIと司法省による調査も周CEOの主張にダメージを与えた。親会社のバイトダンスは昨年、自社の社員がTikTokを使用して、このアプリについて取材していた複数の米国人ジャーナリストのIPアドレスを追跡・取得したことを認めた。

しかし、バイトダンスが米国民を標的にスパイ活動を行っているのかというニール・ダン下院議員の質問に対し周CEOは、「スパイ活動という言い方は適切でないと考えます」とあやふやな返答をした。

公聴会の翌日、中国外務省は記者会見を開いた。毛寧(マオ・ニン)報道官は次のように述べた。「中国政府はいかなる企業や個人に対しても、現地の法律に違反する方法で国外にあるデータや情報を収集・提供するよう要求したことはないし、今後もそうすることはない」

「米政府はTikTokが米国の国家安全保障を脅かしているという証拠を提供していないにもかかわらず、有罪であるという仮定に基づいてこの会社を繰り返し攻撃・弾圧している」

「米国は市場経済と公正な競争の原則を尊重し、外国企業の弾圧をやめ、米国で活動する外国企業に対し公平・公正かつ差別的でない開かれた環境を提供すべきだ」

欧米諸国の多くがこの議論に口を挟む一方で、中東諸国は概ね沈黙を守っている。 

サウジアラビアのサイバーセキュリティ専門家アブドゥラー・アル・ジャベール氏は、アラブニュースが以前行ったインタビューの中で、TikTokのデータセキュリティをめぐる懸念はアプリが中国発であること、また中国の規則や規制から来ていると指摘していた。

「フェイスブックやツイッターを使うことはTikTokを使うこととそれほど変わらない」

公聴会の議員らはスパイ活動やデータ収集についてだけでなく、コンテンツ提案・発見のためのTikTokのアルゴリズムをめぐっても周CEOを追及した。影響を受けやすいユーザーへの悪影響が特に問題とされた。議員らは、中国版姉妹アプリDouyinで大規模な検閲が行われているのと対照的に、TikTok上で特定のコンテンツの公開が許可されている理由を尋ねた。

デジタル人類学者のクラウチ氏は次のように語る。「TikTokは子供たちにとって非常に良いものかもしれないが、中国での使われ方は国外での使われ方と非常に異なる。リヤドとドバイの子供たちが見ているものは北京で見られるものとは全く違うのだ」

Douyinでは「コミュニティーのためになる行いをし、お互いに助け合い、非常に社交的になること」を促す「意識を高めるような非常に好ましいコンテンツ」が公開されているという。

しかし他の国では、「彼ら(TikTok)は文字通り若者の心を操るアルゴリズムを使って、心ない、好ましくない、若者の心を動揺させかねないコンテンツが閲覧されるよう仕向けている」

米下院エネルギー・商業委員会の公聴会での証言を終えて立ち去るTikTokの周受資CEO。2023年3月23日、ワシントン。(写真:AP)

周CEOは、TikTokとDouyinのコンテンツが違うのは各国の法律が異なるためだと述べた。この主張はある程度は真実だ。中国政府は国内のプラットフォームに投稿されるコンテンツに対してより厳しい規制を課しているからだ。

クラウチ氏は、「中国は国内では、子供たちが刺激の強いコンテンツを見ないように規制をかけている」と指摘する。しかし、「外国のことは気にしていない。金を稼ぐために進出しているだけだからだ」

危険なコンテンツを含むいくつかの面で、TikTokは他のソーシャルメディア企業(その多くはシリコンバレー発)と非常に良く似ている。この事実については一部の委員会メンバーも認めた。

メタ、ツイッター、グーグルの上級幹部らは議会で証言し、データ、プライバシー、投稿監視をめぐる懸念を払拭しようとしてきた。

しかし、今回の公聴会でダン・クレンショー下院議員が言ったように、どのソーシャルメディア企業も、「風潮やトレンドに影響を与えたり、偽情報キャンペーンを作り出したり、自己破壊的行動を促したり、麻薬カルテルが自由にやり取りして人身売買や麻薬取引を計画するのを意図的に許したりする」ために個人データを収集・利用することができる。

ただ、違う点として、「中国共産党がコントロールしているのはTikTokだけだ」

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