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サウジアラビアのヴィーガン料理人オラ・カヤル氏、1さじずつ食の革命に挑む

植物製アイスクリーム「ナバティ」創業者のオラ・カヤル氏。(写真:アラブニュース、アリ・カマジ)
植物製アイスクリーム「ナバティ」創業者のオラ・カヤル氏。(写真:アラブニュース、アリ・カマジ)
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03 May 2023 01:05:26 GMT9
03 May 2023 01:05:26 GMT9

ジェッダ:ヴィーガン料理人のオラ・カヤル氏は、2つの学位を持ち3ヶ国語を話すサウジアラビア人で、30歳になるまでに、ヨーロッパのミシュラン3つ星のレストランで修行を積んだだけでなく、米国で植物由来のアイスクリーム事業を成功させるに至った。

現在、カヤル氏は自身の知識と持続可能性への情熱を故郷のジェッダに持ち帰り、食の革命と健康的な食生活のパラダイスの構築を夢見ている。

フロリダのマイアミに新型コロナ禍発生の6か月前に、カヤル氏はナバティという初の店舗をオープンし、様々な制約の中、何とか営業を継続してきた。カヤル氏は、現在、第2番目の店舗をジェッダで開こうとしている。

「ナバティという店名にしたのは、私のルーツを表したかったからです。このナバティというブランドを始めたのはサウジアラビア国内ではありませんでした。なので、アラブ世界との繋がりや、私の出身、そして私が世界に提供しようとしている思いを店名に込めたかったのです」と、カヤル氏はアラブニュースに語った。

数か月前にサウジアラビアに完全帰国して以来、カヤル氏はジェッダで人気のあるスペースで期間限定店舗を開いている。

子供のころのケーキ作りからヨーロッパのミシュランの星付きレストランでの修業まで、オラ・カヤル氏の料理の旅は、ヴィーガンのアイスクリームブランド「ナバティ」として実を結んだ。カヤル氏は、このヴィーガンのアイスクリームを通して、持続可能で植物中心の食生活の提案というメッセージを広めようとしている。(写真:アラブニュース、アリ・カマジ)

「私が帰郷して活動開始するのに、ハイイ・ジャミールのホームグロウンマーケットが適した場所であるように思えました。サウジアラビアのアーティストたちの中心であるような場所が私の希望でした。ハイイ・ジャミールは、同じ思いを持った人たちが、互いに学び、協力する拠点です」と、カヤル氏は語った。

カシューとココナッツをベースとしたカヤル氏のアイスクリームには、メープルシロップとココナッツシュガーで甘味がつけられており、カロリー控えめでありながら贅沢な一品だ。精糖やグルテン、大豆は使用されておらず、天然由来の食材のみが使われており、栄養豊富でしかも美味なのである。澱粉や乳化剤を用いないようにしているため、カヤル氏のアイスクリームは温度にやや敏感だ。

「とはいえ、人生において良いことというのは、ご存じの通り待つ価値のあることです。なので、このアイスクリームの利点は、溶かさずに長い距離を持ち歩き出来ることです。ただ、冷凍庫から出してから食べるまでに少し待たなければならないのは、些細ながらも欠点かもしれません」と、カヤル氏はアラブニュースに語った。「このアイスクリームからは忍耐を学べます」

子供のころのケーキ作りからヨーロッパのミシュランの星付きレストランでの修業まで、オラ・カヤル氏の料理の旅は、ヴィーガンのアイスクリームブランド「ナバティ」として実を結んだ。カヤル氏は、このヴィーガンのアイスクリームを通して、持続可能で植物中心の食生活の提案というメッセージを広めようとしている。(写真:アラブニュース、アリ・カマジ)

不健康な食習慣の見直しは、カヤル氏の目標の一部に過ぎない。彼女の取り組みには利点がもう一つあるのだ。

「2型糖尿病のお客様が何人かおられて、私のアイスクリームを1人前完食しても血糖値調節をする必要が無かったと知らせてくれました」と、カヤル氏は語った。「私のアイスクリームは糖尿病の患者さんたちにも向いているのです。言うまでもなく、大量に食べることはお勧めしません。人生で大切なのはバランスだということです」

ジェッダのヴィーガン業界では新人のカヤル氏だが、彼女の物語は数十年前に始まった。

カヤル氏が人生で初めて焼いたのは箱型のケーキだった。彼女はまだ8歳ほどだった。そのケーキを一口食べた父親は、「これは酷い」と言った。

カヤル氏はその酷評を受け流し、パンや焼き菓子の世界を掘り下げて行く原動力にした。彼女は、家族に伝わるレシピの勉強を始めた。カヤル氏の叔母は、焼き菓子の名人として知られていたのだ。そして、カヤル氏はデザートのデータベースを構築し始めた。すぐに、彼女は易々と焼き菓子を作れるようになった。しかし、カヤル氏は決して目標を忘れなかった。

天然由来の食材のみが使われているナバティのアイスクリームは、カシューとココナッツをベースとしており、メープルシロップとココナッツシュガーで甘味がつけられている。 (Instagram/nabatiicecream)

カヤル氏は、料理がコミュニケーションの一種であることに最初から気づいていた。彼女には、それが自分にとって自己表現の方法であることが子供の時から分かっていたのだ。

「私が好きなのは、料理がテーブルに並んで、皆が最初の10分か15分の間ただ静かに食事を楽しんでいる時です」と、カヤル氏は語る。

カヤル氏の現在の食習慣は幼少期よりも洗練されたかもしれないが、彼女は子供のころから既に動物由来の食品をほとんど食べなかった。

私は、植物性食品が食の未来だとと本気で信じています。動物由来の食品の摂取が身体に絶対に悪いと言っているわけではありません。しかし、私たちが動物性食品を消費している速度、そしてその品質に問題があると私は思っています。

オラ・カヤル、シェフ (サウジアラビア)

「私は偏食が激しかったのです。幼少期に卵のアレルギーがありました。卵を1個か2個使っているだけのケーキならまだ大丈夫でしたが、卵1個分の料理を消化することは無理でした。卵は私には消化し辛く、摂取出来なかったのです」と、カヤル氏は語った。

このアレルギーが理由で、マヨネーズや卵ベースの多くの料理は、当然のことながら、カヤル氏の食事の皿から取り除かれなければならなかった。

それでも、カヤル氏は料理の世界でキャリアを積みたいと考えていた。しかし、彼女を愛する祖父はそれを断念するよう説得を試みた。彼は、成績優秀で賞状を持ち帰る孫に、もっと現実的な道を進むよう強く勧めたのだ。カヤル氏の祖父は、カヤル氏に大きな期待を寄せており、彼女は銀行に職を得るのではないかと考えていた。

天然由来の食材のみが使われているナバティのアイスクリームは、カシューとココナッツをベースとしており、メープルシロップとココナッツシュガーで甘味がつけられている。 (Instagram/nabatiicecream)

カヤル氏は16歳の時にサウジアラビアを離れ、スイスの全寮制の女子校に入学した。卒業後、祖父の意向を尊重して、彼女は地元のビジネススクールに入学した。

カヤル氏は2年間の集中講座を修了した。このビジネススクールで、彼女は、ビジネスの分析方法を学び、コアビジネスを長く維持するために必要なことは何かを理解したのだった。コースワークの一環として、学生たちはビジネスプロジェクトを案出し、それをやり通さなければならなかった。

彼女は自身のビジネスプロジェクトにレストラン経営を選択した。

天然由来の食材のみが使われているナバティのアイスクリームは、カシューとココナッツをベースとしており、メープルシロップとココナッツシュガーで甘味がつけられている。 (Instagram/nabatiicecream)

「私は優等で卒業しました。祖父が欲していた学位を取得したのです。私は、OK、お祖父ちゃんの学位は取った、それでは料理学校に行こうという気持ちでした」

カヤル氏の入学した料理学校は、カリナリー・アーツ・アカデミー・スイスだった。この学校では、学生たちは、数ヶ月に及ぶインターンシップで実践的な経験を積む事を求められる。

彼女の最初のインターンシップ先はスイスのリハビリセンターだった。「一日一個のりんごは医者を遠ざける」ということわざを心に銘じた彼女は、食品を治癒の源とする取り組みを始めた。

リハビリセンターでのインターンシップの最初の3ヶ月、スイスでトップクラスのパティシエがカヤル氏を監督した。しかし、その後、ゴードン・ラムゼイの「悪夢のキッチン」のエピソードから抜け出て来たような新しいシェフと共に彼女は働くことになり、そのおかげで厨房の熱気に耐えるスタミナを身に付けて、インターンを修了し、学校に戻ることが出来たのだという。

次のインターンシップ先は「もう少しお洒落な」場所にしたいとカヤル氏は思った。彼女はスカンジナビアに狙いを絞り、やがてスウェーデンにあるミシュラン3つ星のレストランをインターンシップ先に決めた。

「それは、当時、私が下した最も困難な決断で、最も困難な就業体験でした」と、カヤル氏は言った。

通常午前5時から午後7時まで、時には夜中まで、彼女は働いた。

「本当にとてもとても労働集約的なインターン先でした。最初の2か月間は、毎日、よし、明日辞めよう、勇気を出してやめてしまおうと思っていました。しかし、それでも、私は今まで何も辞めたことが無かったのです。その頃は、何かを辞めるということを理解していませんでした。私は常に完璧主義者でやたらと頑張るタイプなので、大変だからといって辞める事は非常に間違っていると感じました。そこで、そのまま続けたのです」と、カヤル氏は語った。

カヤル氏の意志の強さは報われた。3か月目には、彼女はスター・インターンに昇格した。通常ではインターン期間は2、3ヶ月だが、彼女は8ヶ月間働き続けた。インターン期間の中途で、彼女の担当は変更になった。彼女1人の持ち場だったペイストリーは、彼女の後、新たに3人のインターンが担当することになった。カヤル氏の才能と能力の証しだ。

「ミシュランの星付きレストランの世界で働いた後、そのレストランの働き方や組織、規律、ストレスの多さこそが実際に自分が成長できる環境なのだと確信しました」と、カヤル氏は言った。「私の母は、一度、『貴方がこの仕事を見つけられて本当に嬉しい。成長しているから。いつも貴方の性格に合った仕事は何だろうとずっと思っていた』と、言ってくれました」

卒業後、カヤル氏は「ファーマシー」にヘッドハントされた。「ファーマシー」は、カミラ・ファイドが開業した、ロンドンのヴィーガンレストランの草分けである。カヤル氏が参加した時には、この店を切り盛りしていたシェフたち全員が職を辞していた。それは、彼女が望んでいた食の変革を創出する好機だった。渡されたレシピ通りの料理をしている内に、彼女は「ちょっと待って、これより良いものが出来る。やってみよう」と思うに至った。

ロンドンでの経験を経て、カヤル氏はフロリダのマイアミに拠点を移し、最初のビジネスを立ち上げた。「ナバティ」である。新型コロナ禍の最中も彼女は営業を続けた。前例の無い試練だったが、彼女は多くの貴重な教訓を得ることが出来た。

「ナバティは、基本的には、私のビジネスと料理の学位を完璧にミックスし、今までに学んだことを加えて、実際の行動に移したものです」と、カヤル氏は言った。

サンシャイン・ステートと呼ばれるフロリダで数年間ビジネスを行った後、カヤル氏は店舗を閉めてサウジアラビアの陽光溢れるジェッダに帰郷することを決めた。

「たくさんの人たちにアイスクリームがずっと『私のテーマ』だったのかどうかと尋ねられます。いいえ、実際は、自然とそうなっただけなのです」と、彼女は語った。

「健康的なアイスクリームというものを聞いたことが無い事に、私は気づきました。それが私の使命だと思ったのです。私が、何をするにしても、挑戦することを好むことはお気づきでしょう?」と、彼女はおどけた調子で語った。

カヤル氏がジェッダで取り組んでいることは、私たちの味覚を変え、私たちが自らの身体に与えているものについて意識的になるように地域社会に促すことだ。

「私は、植物性食品が食の未来だとと本気で信じています。動物由来の食品の摂取が身体に絶対に悪いと言っているわけではありません。しかし、私たちが動物性食品を消費している速度、そしてその品質に問題があると私は思っています」と、カヤル氏は語った。

数多くのジェッダの人々がファーストフードを好むようになってきている。他方、カヤル氏は逆のアプローチを取っている。全てをゆっくりと最初から少量だけ作っているのだ。

「これは、困難ですがやりがいのある取り組みです。必ずしも最も安価なビジネスの行い方ではありません。しかし、私はお金儲けのためにアイスクリームを売ろうとしているのではないのです。人々が視点を変える契機を作ろうとしているのです」と、彼女は言った。

カヤル氏のアイスクリームは、パッケージにも、プラスチックを用いず、リサイクル可能な素材を使用しており、完全に生物分解性だ。ロゴは焼き付けで、インクも使わず、いかなる種類の印刷も行っていない。内張りにすらプラスチックを用いていない容器に入ったアイスクリームなのだ。自宅から容器を持参して買いに行けば、5%の割引が受けられる。

カヤル氏は、サウジアラビアの他のレストランとのコラボレーションにも期待している。ビジョン2030は革新と適応の最前線であり、彼女は急速に変化する食の最前線の一翼を担うことを切望しているのだ。

カヤル氏の「クリーン」なプロセスはサウジアラビアにおいて全く新しい取り組みであるため、彼女は、何も人任せに出来ず、全て自らの手で行う必要がある。

「とても高い技術を要するアイスクリームなのです。保存料や増粘安定剤を用いないため、技術的なハードルが上がってしまうのです。材料だけでなく、どのように混合するのかが重要になります。1つの材料を他の1つより先に混合するだけで結果が異なってくるほどです」と、彼女は語った。

期間限定店舗を運営しているカヤル氏の様子からは、彼女のこの仕事への明らかな意気込みが伝わってくる。彼女は既に次の世代を取り込もうとしている。まずは、彼女自身の家族からだ。カヤル氏のゴールは、アイスクリームブランドを確立するだけに留まらず、食生活のパラダイスを構築することにある。

カヤル氏の12歳になる従弟のワリード君も彼女とビジョンを共有している。カヤル氏と一緒に彼が働きたいと言い出したので、彼女は即座に了解した。アイスクリームの盛り付け係としての最初の勤務日、ワリード君は興奮気味にしかし少し緊張して現れた。

「アイスクリームのほとんどは、人工的なのがはっきりと分かります。とても奇妙な味がするのです。しかし、このアイスクリームは本物です。新鮮なのです」と、ワリード君はアラブニュースに語った。

ワリード君は、カヤル氏が他の2人の10代の従妹たちにワリード君の作業トレーニングの手伝いを指示する様子に注意を払った。見習い店員たちは皆、新鮮なアイスクリームを買おうと並ぶお客様たちの短い列から注文を受けた。10代の若者たちはお客様の注文を聞くと、それに従ってアイスクリームを掬い、選択されたトッピングをふったりかけたりした後、計算してお金を受け取った。

カヤル家の10代の若者たちはリズムに乗ってきた。初めは不安気だったワリード君の表情も落ち着いてきた。

「現在はただのアイスクリーム店ですが、その内に本格的なレストランになります。レストランが出来て開業したら、僕は毎日店に出て皆の役に立ちたいと思います」と、ワリード君は嬉しそうな笑顔で言った。その背後には、カヤル氏が誇らしげに立っていた。

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