
ドバイ:フランス人シェフのルノー・デュテル氏は、自分がキャリアの中でUAEの華やかな中心地ドバイに来ることになるとは思ってもみなかった。しかし来てみると、この都市が食の都になりつつあることに気づいた。
湾岸地域の金融や観光のハブであるドバイ(フードシーンよりは超高層ビルで知られる)にある高級レストランでの地位をオファーされてから5年間、「リスクを引き受け」てきたことにデュテル氏は満足している。
ドバイのトレードマークである人工島パーム・ジュメイラにあるミシュランの星付きフランス料理レストラン「ステイ」で、スキレットの中のカットロブスターがジュージューと音を立てている傍で彼は、「ドバイはスタート地点にあると思います」と語る。
「しかし、(ドバイは)食事のために訪れる目的地として世界最高の場所の一つになりつつあります」
約1万3000軒のレストランやカフェを誇るドバイの飲食店のいくつかは既に世界的に話題になっている。
昨年、ドバイの11軒のレストランが中東初のミシュランの星を獲得した。今年はより多くのレストランがこの名誉あるクラブに加わった。
ヤニック・アレノ氏のステイなどは2つ星を獲得したが、ミシュラン最高の栄誉である3つ星を獲得したレストランはなかった。
ドバイ政府観光経済局のイッサム・カジム氏は、「ドバイのフードシーンはこの都市を世界で最も多様でダイナミックな食の中心地に変えた」と言う。
アラビア半島東岸に50年前に建国された、7首長国で構成される連邦であるUAEには、他のアラブ諸国のような豊かな食の伝統が存在しない。
肉中心のUAE料理は、現在のイランやインドとの歴史的な貿易関係から強い影響を受けている。
しかし、欧米の伝統食の大半に起こったような「美食化」はUAEでは起こらなかったと、欧州食歴史文化研究所のロイック・ビエナシス氏は指摘する。
ただ、それは「今からでも起こるかもしれない」という。
「政治的意志が役割を果たし得る」。ドバイではその代わりに、地元出身者よりも外国人居住者の方がはるかに多いことから、豊かな文化的混合が独特の食のアイデンティティーを生み出している。
一度に12人の客しか受け入れない、中東料理と日本食のフュージョンを提供する屋上レストラン「ムーンライズ」がその最たる例だ。
ムーンライズのヘッドシェフで共同経営者のソレマン・ハダッド氏は、このレストランの料理は欧州が3分の1、日本が3分の1、アラブが3分の1だと表現する。「でも100%ドバイです」
ドバイでフランス人とシリア人の両親のもとに生まれたハダッド氏は昨年、27歳の若さでミシュランの星を獲得した。
自分の料理はサフランとパイナップルのチャツネにデーツシロップといった要素を組み合わせるなど、ドバイのコスモポリタン精神を反映していると彼は語る。
ビジネスやラグジュアリーの中心地として確立されているドバイは今、アレノ氏や同じくフランス人のピエール・ガニェール氏など、世界有数の料理人たちも惹きつけている。
イギリス人のゴードン・ラムゼイ氏、日本人の松久信幸氏、イタリア人のマッシモ・ボットゥーラ氏なども、ドバイで存在感を示す有名シェフたちの仲間入りを果たしている。
しかし、ドバイは一流の才能を輸入するだけでなく地元のスターの育成も行っていると、世界各地で700軒以上のレストランをレビューしてきたUAEの弁護士で料理ブロガーのハビブ・アル・ムラ氏は指摘する。
「地元で育った新しい若い世代のシェフが出てきています」と彼は言う。「彼らの多くは世界的な評価を得ています」
ドバイのフードシーンの新星にはシェフだけでなく、ヨルダン人の家庭のもとにUAEで生まれ育ったオマール・シハブ氏のようなレストラン経営者もいる。
彼が創業したレストラン「ボカ」は今年のミシュランで、持続可能なガストロノミーを実践するレストランに与えられる「グリーンスター」を獲得した。
シハブ氏は食材の大部分をUAEで仕入れている。これは、食料需要の80%以上を輸入に依存しているこの国においては凄いことだ。
「現実を直視しましょう。私たちは砂漠の中に住んでいるのです」と彼は言う。
AFP