
緊迫するウクライナ情勢を受け、政府は14日、国家安全保障会議(NSC)を首相官邸で開き、対応を協議した。岸田文雄首相は同日の自民党役員会で、ロシアがウクライナに侵攻した場合の制裁の内容について、米国や欧州の関係国と既に調整に入っていると表明。外務省はロシア軍が16日にも侵攻する可能性があるとして、現地の邦人に退避を要請した。
先進7カ国(G7)財務相は14日の共同声明で、ロシアに大規模な経済・金融制裁を科す用意があると警告した。首相はNSCで、有事に備え関係国との調整に万全を期すよう指示。この後の党役員会では「ロシア制裁となった場合の具体的内容を、米国や欧州主要国と調整している」と説明した。
2014年にロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合した際には、クリミア産品の輸入制限やロシア5銀行の日本国内での証券発行禁止を柱とする制裁を発動した。ただ、ロシアに実害はほとんどなかったとされる。当時の安倍政権が日ロ平和条約交渉への悪影響を懸念して、決定的対立を避けた格好だ。
だが、今回のウクライナ侵攻がもたらす国際秩序への影響は当時の比ではないとみられ、外務省幹部は「制裁も前回並みというわけにいかない」と指摘する。ロシアの基幹産業であるエネルギー分野に打撃を与える制裁に踏み込むかが焦点だ。
米欧と完全に足並みをそろえれば、平和条約交渉の一層の停滞は必至。だが、力による現状変更に毅然(きぜん)と対応しなければ、インド太平洋地域で同様の動きを強める中国に付け入る隙を与えかねない。対ロ制裁について、外務省幹部は「もろ刃の剣だ」と判断の難しさを認める。
邦人保護も急を要する事態になってきた。現地の日本大使館は13日、「16日にも侵攻の可能性があるとする報道もある」として、在留邦人に早期出国を促すメールを一斉送信した。外務省によると、現地にはなお約150人の邦人が残る。ひとたび有事となれば、自衛隊機による救出は「リスクが高く困難」(政府関係者)との見方が強い。
松野博一官房長官は14日の記者会見で、近日中に空路での出国が困難になる可能性があるとして即時退避を要請。首都キエフの大使館の体制を縮小する一方、ポーランド国境に近い西部の都市リビウに臨時連絡事務所を開設する方針を示した。
時事通信