東京:今年7月に暗殺された安倍晋三元首相の異例の国葬が、日本の国論を二分している。
タカ派の安倍晋三元首相は、戦後最も評価の分かれた指導者の一人だが、与党自民党と超保守的な教団である統一教会との癒着が発覚したことにより、その国葬への反対意見が激しくかき立てられることになった。
岸田文雄首相は、自らが率いる自民党国会議員と旧統一教会との関係や安倍首相にふさわしいとする国葬に関する対応で、ほぼ継続的に政治的失態を演じている。
27日に行われる国葬が、なぜこれほどまでに怒りを買っているのか、その理由を以下に紹介する。
日本で国葬になるのはどんな人物か?
そのルーツは、天皇が国に多大な貢献をした人物を讃えるために行った儀式にある。
日本では戦前、天皇は神として崇められており、国葬で弔われる人たちを公的に追悼することは義務だった。国葬は皇族が中心だったが、真珠湾攻撃を指揮した山本五十六(1943年没)など、政界や軍部の指導者も国葬によって弔われた。
戦後、国葬法は廃止された。戦後の日本で政治家の国葬が行われたのは、1967年に吉田茂元首相が死去したときだけである。吉田氏は、サンフランシスコ平和条約に調印してアメリカによる日本占領を終結させ、連合国との関係を修復した人物だ。
当時、吉田氏の国葬が法的根拠なく行われたとの批判を招いたため、以来政府はその種のイベントの規模を縮小していった。
「国葬は民主主義の精神にはそぐわない」と中央大学教授の歴史学者、宮間純一氏は言う。
なぜ安倍氏は国葬になるのか?
岸田氏は、安倍首相が国葬に値するのは、日本の近代政治史上最も長く首相に在職した指導者であり、その外交、安全保障、経済政策により日本の国際的知名度を高めたからだと言う。岸田氏は、安倍氏が選挙期間中に暗殺されたことに触れて、日本が「民主主義に対する暴力」に決して屈しないという決意を示さなければならないと述べた。
政治評論家らは、安倍氏の国葬を行うのは、安倍氏が率いた保守派に属する自民党議員を喜ばせ、自らの政権基盤を強化するためだと言う。
上智大学の中野晃一教授(比較政治学)は、この葬儀は安倍氏の遺産を粉飾し、旧統一教会に関連したスキャンダルを隠蔽しようとするものだと指摘する。同教会は不適切な勧誘法やビジネス戦術で告発されているが、その容疑を否認している。
なぜそれほどまでに物議を醸すのか?
反対派は、国葬に明確な法的根拠がなく、岸田内閣が一方的に国葬を閣議決定したことを理由に、非民主的な葬儀であると主張している。
安倍氏の反対派は同氏について、日本の戦時中の残虐行為を白紙に戻そうとしたこと、軍事費を増やそうとしたこと、男女の役割についての反動的な見方、独裁的で縁故主義を支持すると見られるリーダーシップなどを想起している。
安倍氏、自民党議員と旧統一教会とのつながりについての詳細が明らかになるにつれ、国葬への抗議の声が高まっている。韓国を拠点とする旧統一教会は、保守的な信条への共通の関心から、自民党議員と親密な関係を築いてきた。
安倍氏殺害の容疑者は、安倍氏および自民党と、容疑者の母親が家の財産のすべてを寄付していたという同教会との深い関係に怒りを募らせていたと報じられている。
安倍氏は、現在では今回のスキャンダルの主要人物と見なされている。自らの祖父であり元首相でもある岸信介氏が、日本に統一教会を根付かせるのに尽力した人物だったからだ。反対派は、安倍氏の国葬を行うことは、旧統一教会と自民党との関係を是認するに等しいと言う。
また、弁護士グループがこの国葬を阻止しようと訴訟を起こしたものの、今月26日に棄却されたと報じられている。
さらに、ある高齢男性が、首相官邸の近くで焼身自殺を図った。国葬への抗議行動だったとみられている。
費用はどれぐらいか?
政府は国葬の費用について、会場確保、警備、交通機関、参列者の宿泊施設のために合わせて約17億円(1,180万ドル)必要だと発表した。反対派は、税金は安倍氏の政策による国民の経済格差拡大への対策など、もっと有意義な目的のために使われるべきだとしている。
岸田首相にはどのような影響があるのか?
1年前に首相に就任し、安定した国民の支持を得ていた岸田氏は、7月の参院選挙で勝利し、最長3年間の政権維持が確実視されていた。
しかし、国葬への対応や、政権与党である自民党と韓国計の旧統一教会との関係をめぐって、支持率が急落している。
自民党の調査では、所属する国会議員の約半数が同教会と関係があることがわかった。岸田氏はすべての関係を解消すると約束したが、多くの日本国民は、同教会が党の政策にどのような影響を及ぼしたのかについて、さらなる説明を求めている。
葬儀はどうなるのか?
参列者は、葬儀の数時間前から東京都心にある武道館に集まり、安倍氏殺害後に強化されたセキュリティチェックを受けることになる。内部での飲食は禁止され、パソコンやカメラの使用は報道陣に限定される。会場周辺では、日本の儀仗隊約1,000人が列をなす。式典は、吉田元首相の国葬時と同様、19発の弔砲で開始される。
岸田氏をはじめとする政府、国会、司法の代表者が弔辞を述べ、安倍昭恵夫人による追悼の辞がそれに続く。会場の外には、一般の弔問客のための献花台が設置される予定だ。
政府は、この葬儀は、人々に安倍首相に対する弔意を強制するためのものではないとしている。しかし、全国47都道府県のほとんどが国旗を半旗にし、黙祷を捧げる予定で、公立学校には圧力がかかる可能性がある。会場付近の住民やオフィスは、交通規制や検問の影響を受けるほか、近隣の学校では休講になるところもある。
一方、国葬の反対派は全国各地で集会を開く。
誰が参列するのか?
米国のカマラ・ハリス副大統領をはじめ、オーストラリア、インド、ベトナム、カンボジア、シンガポールの首脳が出席する予定。岸田氏は、このイベントが 自身の”葬儀外交”を行う機会になると述べている。
政府は先週、外国の要人、日本の国会議員、自治体の首長、ビジネスや文化関連などの分野の代表を含む4,300人が出席すると発表したが、これは招待された6,000人よりも少ない。
主要野党の立憲民主党と日本共産党を含む多くの野党議員は、葬儀を欠席する。自民党の元大臣1人も欠席する。
AP