通貨としての円の総合的な実力を示す「実質実効為替レート」が、約52年ぶりの水準に低下した。
1ドル=360円の固定相場制を採用していたニクソン・ショック前の1970年9月以来の低さで、日本経済の低成長を背景に他国と比べ物価が伸び悩む現状を反映する。
同レートの低下は対外的な購買力の弱さを示しており、食料や原油など輸入品の価格高騰を通じて家計や企業に悪影響をもたらしている。
19日に国際決済銀行(BIS)が発表した9月時点の円の実質実効為替レート(2010年=100)は57.95で、70年9月(57.64)以来の低さとなった。ピークだった95年に比べると4割の水準に低下した。
実質実効為替レートは、BISが約60カ国・地域の為替レートや貿易量、物価変動などを考慮して算出している。
ドル円など、特定の2通貨間の為替レートとは異なり、多数の通貨の中で相対的な通貨の実力を測るための指標だ。
自国通貨が他国の通貨や財に対して割高か、割安かを示す。
95年以降は低下基調にある。日銀の黒田東彦総裁は18日の衆院予算委員会で、「わが国の物価上昇率は1990年代半ば以降、長期にわたって貿易相手国より低めに推移していた」と説明した。
52年ぶりの水準に低下したことについて、みずほ銀行の鈴木健吾チーフマーケットストラテジストは「これだけ日本と海外で物価の格差があれば当然の結果だ」と指摘。
その上で「主要各国との経済や金融政策の違い、金利差、貿易収支を考慮すると、円の実力が低下する流れを止めるのは難しく、年内は低下基調をたどるだろう」との見方を示している。
実質実効為替レートの低下は、輸出増加のほかインバウンド(訪日外国人旅行者)需要拡大などの利点がある。
ただ近年、日本企業の多くが海外に生産拠点を移しており、輸出面での恩恵は薄れている。
観光でもどこまで追い風になるか不透明だ。現時点では輸入物価高騰による家計や企業へのダメージが際立っている。
時事通信