
この週末、富裕な民主主義国からなる先進7カ国(G7)の首脳たちは、中国の「切り離し(デカップリング)」ではなく、「リスク低減(デリスキング)」を誓った。このアプローチには、中国に強硬に出すぎるのは問題だという欧州と日本の懸念が反映されていると、当局者や専門家は語っている。
ジョー・バイデン米大統領などG7首脳は21日、広島市で開催された3日間の首脳会議を終えた。首脳たちは「経済的威圧」を巡って中国に狙いを定め、半導体から鉱物に至るまであらゆるものについて、世界第2位の経済大国・中国でのエクスポージャーを減らすことを表明した。
広島サミットに向けた準備段階で、G7諸国間の意見の相違が表面化した。米国は対象を絞った対中投資規制を求めた。ドイツ、フランス、日本はいずれも、自国経済へ影響を考慮し、より慎重な姿勢をとった。
先月、エマニュエル・マクロン仏大統領が北京を訪問し、米国への依存度を引き下げるよう欧州連合に呼びかけたことで、見解の相違が注目を集めた。
だが、G7コミュニケの文言は現実主義の観点から抑制され、首脳たちは、「中国の経済的進歩や発展を阻止する」ことを求めず、各国が国益に沿った取り組みをおこなうと表明した。
「米国の対中投資規制などの問題で、G7諸国間に意見の相違がある」と、匿名を条件に日本政府関係者が述べた。
サミットではそうした相違を超えてメッセージを発信できたと、その関係者は述べた。
G7諸国間の協議が続けられ、コミュニケの文言が「若干よりバランスのとれたものになった」と、フランスの大統領府関係者は述べている。
「今回のG7で伝えたかったメッセージの核心は、中国はパートナーであり、私たちを補完し、体制面でのライバルであるという欧州の立場であり、そのすべてをG7の文言に組み入れることができた」と同関係者は述べた。
反中ワークショップ
米国のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官は広島で記者団に対し、米国はG7諸国との「十分な協議」を受けて、対外投資規制に関する独自のアプローチを策定すると述べた。
中国はこの発言を非難し、主催国である日本の大使を呼び出し、抗議を行った。国家が支援し、その見解を代弁する『環球時報』は22日、G7を「反中ワークショップ」と称した。
これとは別に、中国は21日、米マイクロン・テクノロジー社が主要国内産業向けにメモリーチップを販売するのを禁止すると発表した。さらなる緊張が生まれる兆しかもしれない。
公共政策シンクタンクであるマクドナルド・ローリエ研究所のディレクター、ジョナサン・バークシャー・ミラー氏は、「G7が中国問題に関する何らかの合意形成を推し進める上で、リスク低減のアプローチが最も容易だったと思う」と述べた。
「文言の変化は、米国の同盟国が、中国と経済的に深く関わることのリスクを理解しながらも、経済関係を完全に断ち切るのは非現実だと認識していることを示している」
アジアで唯一のG7国である日本は、中国が報復してきた場合に失うものが大きいといえるだろう。IMFのデータによると、昨年、中国本土は日本にとって最大の輸出市場であり、最大の輸入元だった。輸出額は1450億ドル、輸入額は1890億ドルだ。
コミュニケの発表後、首脳たちが直接発言する際にはたいていの場合、中国について慎重な言葉遣いをしていた。
バイデン氏は中国との雪解けが「ごく近い」と予想していると述べ、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、リスクの高いエクスポージャーを徐々に減らしても、中国への大規模投資が継続されることをG7諸国は保証すると述べた。
バイデン氏は、「リスク低減」は米国が必要な製品をどの1カ国にも依存しないようにすることを目指すものだ、とも述べた。
キヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦研究主幹は、「難しい、問題が多い、実現不可能という理由で、どの国もデカップリングを望んでいない」と述べた。
「安全保障上問題になる製造技術やその他の技術が中国に流れないようにするために最善を尽くすということだ」
中国がリスク低減とデカップリングを区別するかどうかという問題もある。
「デカップリングではなくリスク低減であるという見解に中国が満足する可能性は低い」と宮家氏は述べた。
ロイター