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荒廃した中東諸都市の現実がガザの戦後復興に示唆するもの

2023年11月1日、ガザ地区のパレスチナ難民が避難するジャバリア・キャンプをイスラエルが攻撃した後、破壊状況を確認するパレスチナ人。(AFP)
2023年11月1日、ガザ地区のパレスチナ難民が避難するジャバリア・キャンプをイスラエルが攻撃した後、破壊状況を確認するパレスチナ人。(AFP)
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24 Nov 2023 12:11:35 GMT9
24 Nov 2023 12:11:35 GMT9

ルーカス・チャップマン アリ・アリ

アテネ/エルビル:イスラエルとハマスが合意した人質取引により、ガザでの戦闘が一時的に休止する可能性が出てきた。その中で、パレスチナ自治区の前例のない物理的破壊からの回復の可能性について考える動きが一部で始まっている。

近年、紛争で打撃を受けたアラブ諸都市の経験を振り返るならば、ガザの復興は一筋縄ではいかないだろう。資金調達、リーダーシップ、恒久的な和平の保証といった問題が複雑に絡み合っている。

アラブ世界にとって、再建の労苦は他人事ではない。2017年、イラク北部の都市をダーイシュから奪還する戦いで、モスルの旧市街では8000棟以上の建物が破壊された。シリアのアレッポも同様に、2011年に始まった内戦が続く中、3万5000以上の建造物が破壊されている。

これらの都市には、「破壊」という共通点がある。しかし、その後の復興の程度は、地理的な位置、面積および人口の両方における規模、現在の治安状況、地方・国家政府の行動、あるいは行動の欠如など、複雑な要因の組み合わせにかかっている。

2017年3月9日撮影。2016年12月に政府軍に奪還されたシリア北部の都市アレッポで、甚大な被害を受けた建物を通り過ぎる人々。(AFP)。

たとえば、モスルの多くはいまだ廃墟のままだが、過去6年間は比較的紛争が少なかったため、EUとUAEの支援を受けてユネスコが主導する数百万ドル規模のプロジェクト「モスルの精神を復活(Revive the Spirit of Mosul)」のような再建イニシアティブが実現し、このイラクの象徴的な都市の活性化を目指している。

アレッポも同様の課題に直面している。都市は断片的に再建されているが、かつて反体制派が支配していた東部地域や、北部のクルド人が多数を占める半自治地域の住民は、ダマスカスの中央政府による放置に不満を訴えている。

また、イランに支援された親政府民兵が援助や復興プロセス全体を独占していると訴える住民もいる。

アレッポとモスルの両地域の復興をさらに複雑にしているのは、国連の被害評価の多くが、住宅や居住インフラではなく、文化的・歴史的に重要な建築物のみを対象として実施されているという主張もある。

このため、大規模なユネスコ・プロジェクトや歴史地区再建のための寄付の約束自体は善意によるものであるが、現地の市民の真のニーズはしばしば見過ごされてしまうことになる。

2017年10月20日、ダーイシュの戦闘員からラッカを奪還した後、シリア民主軍(SDF)の戦闘員が、建物の屋上で仲間とともに周囲を見張りながら勝利のジェスチャーを送る。(AFP)

一方、米国が支援するシリア北東部自治政府の下にあるラッカは解放以来比較的安定した治安を享受しており、そのことが復興に役立っている。

ラッカ評議会の副議長であるアブドゥル・サラーム・ハムソルク氏がアラブニュースに提供した情報によると、地元行政当局と国際人道団体の支援により、市内にある528校の学校のうち400校以上が全面的または部分的に再建され、市内の水道網の90%が修復されたという。

しかし、ガザはここ数十年、何度も激しい軍事作戦にさらされてきたため、そのような安定を享受する機会はなかった。

2021年4月21日、イラク北部の都市モスルの旧市街地で、破壊された家屋のがれきの横を歩く少年。ここは、2017年の戦闘でダーイシュの戦闘員によって大きな被害を受けた場所である。(AFP)

民間人の家屋やインフラの再建は、国際救済機関や国連開発計画によってこれまでにも行われてきたが、10月7日に始まった今回の紛争は、その規模において前例のないものだと、パレスチナの弁護士、研究者、人権活動家であるサレハ・アブデル・アティ博士はアラブニュースに語った。

「この継続的な攻撃の間、占領軍は、建物、インフラ、サービス施設、工場、農場、店舗に与えた破壊に加えて、住宅の60%、約25万戸の家屋を完全に、あるいは部分的に破壊した」と彼は述べている。

「復興はもちろん可能だ。しかし、それには包囲を終わらせ、占領を終わらせ、復興プロセスが支配されることを阻止することを目的とした、国際的なビジョンに合意するための国際会議が必要だ」

いまだ砲撃と避難の脅威にさらされている多くのパレスチナ人にとって、今、再建について語るのは時期尚早だろう。数十年続いた包囲と軍事的攻撃の末に、ガザの人々の間に広がっているのは絶望感だ。

「イスラエルの戦争が終わりの見えないまま続いているときに、復興の話をするのは早すぎるだろう」と、アンマンを拠点とするジャーナリストで政治評論家のオサマ・アル=シャリフ氏はアラブニュースに語った。

「イスラエルの侵略の真の目的は依然として不明だ。明らかなのは、イスラエルがガザ市を含むガザ北部の大部分を緩衝地帯にしようとしていることだ。この地域を意図的に大量破壊する、「焦土化作戦」を適用している。ガザ住民は、荒れ地と化した北部に戻ることは許されないかもしれない」

ガザの破壊は、入植地の復活という、別の憂慮すべき事態を引き起こす可能性もある。2005年、イスラエルによるガザ撤退の一環として、ガザ内の20以上のイスラエル人入植地が解体され、イスラエル人入植者および軍隊がこの地域から撤退した。

マクサー・テクノロジー(Maxar Technology)が2023年11月1日に公開した衛星画像資料。2023年10月31日のジャバリア難民キャンプの概観(左)と、イスラエルの空爆を受けた後の同キャンプの破壊状況が示されている。(AFP)

イスラエルは入植の再開についての声明を発表しておらず、支持もしていないが、2週間前に米国の『ボイス・オブ・アメリカ』の取材に応じた数人の元ガザ入植者は、敵対行為が終わった後に元の入植地に戻ることを望んでいると述べた。

人質交換取引の一環として一時的な停戦が今後の可能性として浮上している中、戦闘の継続的な終結、または少なくともガザの被災住民に重要な援助を届けるための機会の確保に、かすかな希望が見えてきた。

しかし、持続的な平和が保証されるまでは、次に起こる暴力で再び破壊されるだけの都市に対して、大規模な再建を支持する意欲はほとんどみられない。

実際、この地域から武装集団の影が消えず、そして地域紛争が拡大する可能性がある限り、復興資金を得ることは不可能かもしれない。

アムル・アドリー、ムハンマド・アラービー、イブラヒム・アワド各氏は2021年、カーネギー中東センターに寄稿した、この地域の戦後復興に関する共同エッセイの中で次のように述べている。「復興は、資源の不足、治安の悪化、政治的分断のためにまったく実現しないか、地域や外部の争いを巻き込んだ、別の手段による紛争が継続するだろう」

2023年11月18日土曜日、イスラエル南部から見たガザ地区。破壊された建物の上に掲げられたイスラエル国旗。(AP)

「将来の紛争が都市を再び荒廃させない」という保証がないことは、世界中の多くの破壊された都市の進展を妨げる主な障害のひとつである。

シリアの政治団体の殆どが、シリアの政治的解決を求める2015年の国連決議2254の履行が、あらゆる種類の復興、再建、難民の帰還の前提条件だと主張している。

「ガザが破壊されないためには、そもそも抵抗が存在する理由そのものを完全に解決しなければならない。それは、パレスチナ人民の自由である」と、パレスチナ人作家兼評論家のラムジー・バロウド氏はアラブニュースに語った。

「復興のための建設はまた、将来のイスラエルによる戦争とそれに続く破壊からガザを守るという、もうひとつのプロセスとも関連づけられなければならない」

バロウド氏は、復興の努力を政治化してはならないと警告する。

「イスラエル、米国、そして西側の同盟国は、ガザの復興を、ハマスやイスラム聖戦、その他のパレスチナ組織に対する自分たちの政治的意図と結びつけてはならない」と彼は述べ「すべてを失った人々は、イスラエルの戦争犯罪の犠牲者である一般市民だ」と付け加えた。

2023年11月22日、ガザ地区南部のハーン・ユーニス・セメタリーの集団墓地に遺体を埋葬するパレスチナ人。(AFP)

特に、すべての援助や機材がガザに届くにはまずイスラエル領内を通らなければならないことを考えると、政治的な意図を再建の可能性から取り除くことは非常に困難だ。長期にわたるセメント輸入の禁輸措置は、過去にも修復や再建作業を遅らせてきた。

また、イスラエルはパレスチナ武装勢力の家族の家を懲罰的に取り壊すという慣例もあり、ますます右傾化する同国の政府がガザでの再建努力に貢献する、または容認する意思があるかどうかさえわからない。

「理論的には、攻撃が止まり、国際的な援助が流れ込めば、復興は問題ではない」とアンマン拠点の評論家アル=シャリフ氏は述べている。「何年もかかるかもしれないが、西洋諸国とアラブ諸国は復興計画に貢献するだろう」

潜在的な復興に関連する費用はまだ評価されていないが、莫大なものになることは間違いない。参考までに、国連は2017年、モスルの基本インフラの再建には10億ドルかかると述べている。

国連は今年10月、今回の戦争以前から、ガザはすでに数十億ドル相当の援助を必要としており、同地域は世界で最も高い失業率と64%の食料不安率に苦しんでいると述べた。

ガザへの資金がすでに減少の一途をたどっている中で、復興と開発作業もまた、援助者を必要としている。2008年から2022年にかけて、ガザに提供された援助は20億ドルから5億ドルにまで減少している。

2023年11月22日、ガザ地区南部でイスラエルの空爆を受け、がれきの下を捜索するパレスチナ人。(AFP)

ガザの復興費用をどのように捻出するかについては、いくつかの議論がある。地中海の沖合36キロメートルに位置するガザ海洋ガス田の開発という案も提案されている。

米国務省エネルギー安全保障担当特別大統領調整官アモス・ホッホシュタイン氏は20日にイスラエルを訪問した。これは戦争後、ガザがこの海洋ガス田を開発する可能性を高める動きとなる。

「その可能性を誇張すべきではないが、これは確実にパレスチナ政府の収入源となり、パレスチナの独立したエネルギーシステムを保証することになる」と、ホッホシュタイン氏は19日のインタビューで語った。

政治、アクセス、物資、財政に関するハードルがすべて何とか克服されたとしても、アレッポ、ラッカ、モスルといった都市は、進展がまだ遅々として進まないことを示している。

6年以上が経過しても、これらの都市の大部分は人が住むことのない廃墟のままであり、銃や爆弾が静まった後の再建がいかに困難かを物語っている。

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