シカゴ:米国のジャーナリズム専門家64人が、ニューヨーク・タイムズ紙が掲載した、10月7日のテロ事件におけるパレスチナ人のイスラエル市民に対する性的暴力を非難する記事への懸念を表明し、見直しを要求する書簡に署名し、同紙上層部へ送った。
それは「言葉なき叫び:10月7日の性的暴力」という見出しの記事に関するもので、 昨年12月28日付の一面に掲載された。
ニューヨーク・タイムズ社のアーサー・G・サルツバーガー会長に宛てられ、ジョセフ・カーン編集長とフィリップ・パン編集長にCCされた書簡では、キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒を含むジャーナリズムの専門家たちが、この記事の「外部レビュー」を要求している。
この報道は、イスラエル政府がハマスの攻撃に対する約7ヶ月間の軍事的対応の残忍さへの批判に対抗するために、様々な報道機関が行った報道の一つである。 この間、34,000人以上のパレスチナ人が殺され、ガザの家屋、企業、学校、モスク、教会、病院のほとんどが破壊され、100万人以上が避難し、その多くが飢饉に直面している。
アラブニュースが入手した書簡のコピーは、「タイムズ紙の編集幹部は……その報道の編集プロセスについて提起された重要で厄介な疑問に対して沈黙を守っている 」と述べている。
さらにこう続く: 「私たちは、この不作為がタイムズ紙自身を傷つけるだけでなく、紛争地帯で働くアメリカ人記者やパレスチナ人記者(ジャーナリスト保護委員会の報告によれば、この紛争でこれまでに約100人が殺害されている)を含むジャーナリストを積極的に危険にさらしていると考えている」
リッチモンド大学のジャーナリズム教授で、元戦争特派員であり、この書簡の筆者の一人であるシャハン・ムフティ氏は、アラブニュースに対し、ニューヨーク・タイムズ紙は、記事中の疑惑を裏付ける証拠を調査・確認するための十分な努力を怠った、と語った。
「問題は、ニューヨーク・タイムズ紙がもはや批判に応えず、間違いを認めていないことです。同紙はアメリカで最も影響力のある出版物のひとつであり、その記事は全米の小さな新聞社によって再掲載されます」、と彼は指摘した。
は、10月7日にハマスによって加えられた恐ろしい性的暴力を暴露している。イスラエル政府は今週、親イスラエル活動家シェリル・サンドバーグが制作したドキュメンタリー『沈黙の前の叫び』を公開した。この映画は、”10月7日にハマスによって加えられた恐ろしい性的暴力を暴露する” という。その中には、”ノバフェスティバルとイスラエル・コミュニティの生存者たちが悲惨な体験談を語る インタビュー”や、”解放された人質、生存者、第一応答者からのこれまで聞かされなかった目撃証言 “が含まれている。
在米イスラエル領事館が配布した宣伝資料の中で、このドキュメンタリーのプロデューサーはこう述べている: 「ノヴァ・ミュージック・フェスティバルや他のイスラエルの町での攻撃の間、女性や少女たちはレイプ、暴行、切断にさらされた。解放された人質は、ガザでイスラエルの捕虜たちが性的暴行を受けていたことを明らかにしている」
批評家たちは、主流メディア組織が10月7日にイスラエル政府や親イスラエル活動家たちによってなされた性的暴力に関する検証されていない申し立てを繰り返していると非難しており、米国内の反パレスチナ感情を煽り、イスラエルの軍事的対応を正当化するための意図的な試みだと主張する者もいる。
このような話によって、アメリカのいくつかの地域では、警察や治安当局が親パレスチナ派のデモを取り締まるようになり、デモ参加者の中にユダヤ人がいるにもかかわらず、「反ユダヤ主義者」として非難するようになったという指摘もある。
例えば、ニューヨークのエリック・アダムス市長は、ガザでの戦争に反対する最近の大学キャンパスでの学生たちの抗議行動は、「外部の扇動者」によって「画策」されたものだと、証拠も示さずに主張した。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、自国のガザ軍事作戦に対する抗議は反ユダヤ主義的なものだと述べている。
イサカ・カレッジのロイ・H・パーク・スクール・オブ・コミュニケーションでジャーナリズムを教える元准教授ジェフ・コーエン氏は、アラブニュースに対し、ニューヨーク・タイムズの記事は「欠陥がある」としながらも、ガザにおけるイスラエルの復讐に対する「支持を得る上で大きな影響力を持っている」と語った。
彼はこう続けた: 「イスラエルの復讐は、何万人もの市民の命を奪った。だからこそ、多くのジャーナリズムやメディアの教授たちが、何が間違っていたのかについて独立した調査を求めているのです」。
「あの(ニューヨーク・タイムズ紙の)記事は、バイデン大統領が宣伝した『ハマスが赤ん坊を斬首した』という作り話など、他の怪しげな、あるいは誇張された報道とともに、戦争への熱気を燃え上がらせています」
コーエン氏は、アメリカのメディアは「あまりにも頻繁に……戦争熱を煽ることを目的とした寓話を宣伝してきた」と述べ、その例として、1990年のクウェート侵攻後、イラク兵が保育器から赤ん坊を取り出したという報道を挙げた。この主張は反イラク世論を形成するのに役立ったが、数年後に「デマ」であることが証明された、と彼は付け加えた。
1「0月7日、ハマスが市民に対して恐ろしい残虐行為を行い、いまだに市民の人質をとっています。ジャーナリストは、パレスチナの市民に対するイスラエルの遥かに恐ろしい犯罪についても真実を伝えなければならないように、最小化したり誇張したりすることなく、その真実を伝えなければなりません」
「問題なのは、アメリカの主要ニュースメディアが長年にわたって親イスラエルに偏っていることです。そのバイアスは、研究に次ぐ研究で証明されています。さらに、最近リークされたニューヨーク・タイムズ紙の内部メモには、記者が避けるように指示されている言葉、例えば『パレスチナ』(非常にまれなケースを除いて)、『占領地』(『ガザ、ヨルダン川西岸地区など』と表記するように)、『難民キャンプ』(でなくて、『近隣地区』、あるいは『地域』と表記にすように)といった言葉が記されていた。
リッチモンド大学のジャーナリズム教授であるムフティ氏は、「双方の好戦的な人々は、自分たちのメッセージを拡大して広めようとしている」と述べた。しかし彼は、特にイスラエル当局が、パレスチナ人やアラブ人などの独立系ジャーナリストを標的に殺害するなどして、メディア報道を操作し検閲していると非難し、このことがアメリカ国民に最も大きな影響を与えていると述べた。
「大雑把に言えば、西側のニュースメディアの多く、そして世界のニュースメディアのほとんどが、ガザの現実に接していません。彼らは知らないのです。推測にすぎないのです」
「彼らは皆、テルアビブから報道し、ヘブロンから報道し、ヨルダン川西岸地区から報道しています。実際に戦争がどのようなものかは誰も知らないのです。すべて又聞きなのです」
「ほとんどの情報はイスラエル当局、政府、軍を通して入ってきます。つまり、この戦争に関する情報はすべて、イスラエル、軍、政府のフィルターを通しているのです」
ムフティ氏は、ニューヨーク・タイムズ紙が掲載した記事は、「おそらく戦争の流れを変えたか、少なくとも影響を与えた」と述べた。
「ジョー・バイデン米大統領がガザでのイスラエルの軍事作戦を終わらせるよう働きかけていたときに、正にこの記事が掲載されました。非常に重要な記事でした。偶然にも、です。この記事は急いで発表され、かつ欠陥だらけでした……」
ニューヨーク大学アーサー・L・カーター・ジャーナリズム研究所のモハメド・バッツィ准教授は、アラブニュースに対し、「この記事の “外部レビュー “を要求する書簡は “単純な要求 “だ」と語った。
彼は、「イスラエル軍が許容される軍事的慣行を超えた行動をとり、パレスチナ人の人間性を奪う “ことを可能にする役割を、この記事や他の記事が果たした 」と付け加えた。このような非人間化は10月7日以前にも見られた、とバッツィ氏は言う。
「西側のメディアでは、イスラエルのガザ戦争におけるパレスチナ人に対する同情的な報道は、これらの記事の結果として、はるかに少なくなっているようです」
「34,000人以上のパレスチナ人が犠牲になりましたが、ガザの破壊の本当の規模や本当の数はわかっていません。イスラエルが行ったことの結果として、これは止まらないでしょう」
バッツィ氏は、西側メディアは国際メディアのどのセクションよりもパレスチナ人の非人間化に貢献しており、同時にイスラエルの犠牲者を人間化していると述べた。
「ニューヨーク・タイムズ紙はアメリカのメディア全体に大きな影響力を持っており、他のメディアが追随するようなストーリーやシナリオの “基準 “を設定しています」
バッツィ氏らは、ニューヨーク・タイムズ紙はその記事について「多くの疑問点のほんの一握りしか取り上げておらず、10月7日に起きたことについてより正確な説明をするためにもっと努力する必要がある」と述べた。
ニューヨーク・タイムズ紙の上層部に宛てた書簡にはこう書かれている。 「(12月28日付)記事に漂う最も厄介な疑問のいくつかは、その多くを記名入りで報道したフリーランサー達、特にアナト・シュワルツ氏についてである。 同氏はそれまで『タイムズ』紙で記事を書くまで、日刊紙での報道経験はなかったようである」
シュワルツ氏はイスラエルの ”映画監督で元空軍情報部員 ”とされている。
この記事を記名入りで書いたもう一人の記者は、アダム・セラ氏で、シュワルツ氏のパートナーの甥とのことである。明らかに経験の浅いフリーランサーである。ニューヨーク・タイムズ紙の社員記者で、この記事に名を連ねているのはジェフリー・ゲトルマン氏だけである。
この記事をメディアが精査した結果、「シュワルツとセラの同紙が現地取材の大半を担当し、ゲトルマン氏は構成と執筆に専念していた」ことが判明した。
ニューヨーク・タイムズ紙はアラブニュースのコメント要請に即座に応じなかった。