


Caline Malek
ドバイ:アル・サウラ。近ごろレバノンでは、北のトリポリやジュニーエから南のサイダやティール、さらにはるか首都ベイルートまで、街頭のいたるところでアラビア語の「革命」という、最もパワフルな一語が響き渡っている。
宗教や宗派を超えた何百万人というレバノン人が、ひとつの旗のもとに団結し、何度も裏切られてきたと彼らが考える政府への不満や失望を訴えている。
1975年の内戦のずっと前から、このような 明らかな国民の団結は、レバノンで目撃されていない。
メディアの多くは、WhatsApp音声通話に日額0.20ドルを課金するという政府の計画を即座に非難したが、レバノンの一般市民は、先週行われたデモの理由がもっと深いところにあると断言する。ちなみに、課金の計画は、あっという間に廃案となった。
「抗議行動の理由がWhatsApp関連の税金でないことは明らかです」と、ケセルワンで抗議行動に参加したFarid Hobeicheさんは語った。
「 理由は何百個もあります。この税金で私たちの堪忍袋の緒は切れました。政府は私たちを食い物にし、とても多くの嘘をついて、貧しい人たちからお金を巻き上げる一方で、腐敗と戦うための策を考えてきませんでした。」
ハイライト
15% - レバノンにおける良好な状態の道路の割合
4番目 – ハイチ、ナイジェリア、イエメンに次ぐ電気の質の悪さ
113 – インフラ整備という点での137か国中のレバノンの順位
26 – 腐敗認識指数。2012年以降、このランキングで180か国中146位に悪化
1997 - レバノンの公立学校がカリキュラムを改定した最後の年
この税金は、先週メシュレフとシューフの森林に大きな被害をもたらした火災による回復不能な損害を背景に浮上した。このときレバノン政府は、消防ヘリを出動させることができなかった。
2009年に政府に寄贈された3機のヘリコプター (シコルスキーS-70) が使用不能であったことが明らかになった。レバノン政府は、これらヘリコプターのメンテナンスに必要な450,000ドルの年間予算を割り当てることができていなかった。
しかし多くのレバノン人にとって、この壊滅的な森林火災は、国民に重税を課す一方で、その国民になんのサービスも提供できない機能不全となった国家の一例にすぎない。信頼性の低い電力システムから世界で最も粗悪な部類に挙げられるインフラ、さらに腐敗が横行する政府まで、レバノン国民は忍耐の限界に達している感がある。
元財務大臣で中央銀行副総裁のNasser Saidi氏は、粗末なガバナンス、健康、教育、環境水準の急激な低下、経済状況と将来への見通しの悪化など、複数の要因が組み合わさった結果、この混乱が生じていると考える。
「レバノンの悲惨指数は36パーセントと高くなっており、これは失業率 (30パーセント) とインフレ率 (6パーセント) の合算で求められます。ナイジェリア、ボスニア、イランといった国と同水準になっています」と、Saidi氏はアラブニュースに語った。
「労働力の半分は、社会保障対象外の非公式経済に従事していると見積もられており、富と所得の配分に高度の不平等が存在すると推定されます。預金者の1パーセントが預金額の50パーセント超を所有しています。」
全般的な経済状況も憂慮すべきである。公的債務は850億ドルに膨らみ、レバノンは世界最大の債務国のひとつとなっており、失業率もいつまでも高いままとなっている。
これと同時に、空気、水質、土壌汚染のレベルが上昇し、生活の質は急降下している。ほとんどのレバノン人は、蔓延する汚染と、彼らが犠牲になっている癌などの生命を脅かす多くの疾患との間に、直接的な関連があることをほぼ確信している。
その一方で政治家たちは、レバノンが石油と天然ガスの鉱床を掘り当てた場合に、誰が最大の分け前を受け取るかという、くだらない論争に明け暮れている。
この容認できない状況がレバノン国民および海外居住者を刺激し、 彼らは「内戦の終結」と呼ぶひとつの大義のために団結している。
2人の子を持つ母親であるMona Paoliさんには、この抗議行動が大いに心の琴線に触れた。
「ここレバノンでは、普通の生活さえ『許されていない』ので、休日の終わりにはいつも、レバノンから他国へ向かう子供たちに別れのキスをして、見送ることを余儀なくされています」と、Paoliさんはアラブニュースに話した。
「この国の失業率は最高水準であるため、私たちは子供を育てて、彼らを外国へと向かわせています。偶然、若者が仕事を見つけたとしても、2週間以上生活を支えるには十分とは言えない、哀れなほどの給料しかもらえません。」
そして Paoliさんは、「私たちの内戦は30年ほど前に終わりましたが、今でも国民全員分の電力、水道、医療はなく、裏から手を回さなければ、学校や大学にも行けません。私たちの最も基本的な権利は踏みにじられています。満足に食べることさえできない人たちが、暴動を起こすことになるのです」と付け加えた。
学生から教授、薬剤師から医師、従業員から年金受給者まで、レバノン人は同じような疲労感や不公平感をともに味わっている。
「彼らは信じられないほどまとまっています。毎朝6時に、ボランティアがゴミを拾い、清掃し、分別しています。それは美しい団結で、これこそが私たちのレバノンです」と、Paoliさんは語った。
前述のHobeicheさんは、デモの継続からもたらされる結末は、政府が崩壊するか、あるいは何十年にもわたって積み上がってきた深刻な問題に対処するために、政府が全面的な措置を採用するかのいずれかしかないと述べた。
「誰も責任を負おうとしません。私たちには、単なる話し合いではなく、変化をこの目で見る必要があります」と彼は話した。
数か月前にレバノン政府は、米国のマネージメントコンサルティング企業のマッキンゼー・アンド・カンパニーに、同国における経済の悪循環を終息させるための助言を求めた。しかし、マッキンゼーの報告書に関して、何の措置も講じられていないと考えられている。
「ニュースではすべてが報道されるわけではないので、自分のソーシャルメディア・プラットフォームの力を借りて、支援しようとしています」と、Hobeicheさんは話した。
「暴力やタイヤへの放火など、起きている醜いことはメディアの注目を集めています。私がしようとしているのは、国民がどのように平和的に抗議しているかを伝えることです。」
Hobeicheさんの意見に、24歳の市民社会活動家のOleksandra Al-Zahranさんが同調した。Al-Zahranさんは、抗議行動で目撃されるべきである唯一の旗はレバノン国旗であると発言した。愛党心が強い国においては、稀な出来事である。
「人々は街頭に繰り出し、どこに行くつもりもありません」と彼女は語った。
Al-Zahranさんは、自身のインスタグラムページにライブアップデートを投稿し、レバノンのメディアによる描写とは対照的に、実際の状況の説明であると彼女自身が考えるものを提供している。
「メディアは、WhatsApp関連の税金が事の発端であると強調していますが、それは真実ではありません。国民は、腐敗した政府と宗派主義を見限り、変化を望んでいるのです」と彼女は話した。
「仕事はありません。仕事があったとしても月収は約800ドルで、生活していける水準ではありません。私たちは、政治家全員が辞職することを望んでいます。」
Saidi元大臣は、レバノンには、法の支配を確立し、腐敗に対峙し、国内の多くの分断に対処する新たな始まりとともに、政権交代が必要であるという明確なコンセンサスがあると語った。
「大きな権限を有し、超党派の実務専門家で構成され、レバノンの膨大な債務に対処する財政計画などを実行できる新しい政府が生まれるときです」と、Saidi元大臣は述べた。
「新たな選挙によって、新鮮な血と国の新しいビジョンがもたらされるべきです。これは間違いなく困難な戦いであり、さまざまな既存勢力からの反対があることでしょう。しかし、レバノンとその若者の未来は危機に瀕しているのです。