
Caline Malek
ドバイ:中国武漢市での発生以来、コロナウイルス(COVID-19)の大流行が、アラブ地域を含む世界各地で第一線で働く医療従事者の心身の健康を著しく損なっている。
だが、広範囲の国民が生活に課された厳しいロックダウンに何か月も耐えるなか、それは一般大衆にとっても苦しく混乱に満ちた期間なのだ。
孤独感や社会的孤立、健康問題や雇用の不安定さが大人たちを苦しめ、以前より心の病を持つ人たちは特に支援を必要としていえる。
加えて、いつもなら外で働いていた時間を家で一日中配偶者やその他の家族と一緒に過ごさなければならなくなり、仕事をしながら子供の面倒をみたり、ひどい場合には家庭内暴力を受けたりすることも多くの人たちにストレスとしてのしかかる。
「COVID-19により、私たちは自分でコントロールできることは実際にはごくわずかしかなく、生活において大切に思っていたことが瞬時に完全に変わってしまうことがあることを身に染みて理解することになりました」と臨床心理士でドバイの精神保健クリニックLightHouse Arabiaの臨床部長であるTara Wyne博士は述べる。
「人々は自分たちの足元のもろさや自らの無力さを痛感しています。人々は様々なことを心配しています。心の平和や正常であること、職、愛する人たちとつながりを持てること、そしてもちろん将来のことです」
強制的な社会的孤立が重なったとき、心の病は人をさらに弱い立場に置きますとWyne氏はいう。
「人々は今まで分かっていたことを突然軽んじるようになりました。夜と昼の別がなくなって、食べ過ぎになり、運動量がますます減少しています」とArab Newsに述べた。
「人々は、あれらの変化やロスに対して様々な方法で自分を甘やかす自己療法を行っています。喫煙や飲酒、長時間テレビを観たり、絶えずニュースを追ったり、買占めに走ったりなどです」
「このような反応は、私たちがいかに決まった日課を大切にし、それが突然変わってしまうとどれだけ喪失感を味わうかを物語っています」
Wyne氏は、そうした反応がいかに不健全であるか、新しい日課を作ることがいかに大切であるかに人々が気づいて、毎日の目標を設定してそれを守るようになるまで時間がかかるだろうと述べる。
「独り暮らしの人々には、必要なときに安心や安らぎ、気晴らしを求めて交流できる人が誰もおらず、孤独が問題になるかもしれません」
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「プライベートな空間をほとんど持てず、ほぼ常に子供たちや配偶者と一緒にいることを強いられることも、非常にきついかもしれません」
チューリヒの大手メンタルヘルスクリニックParacelsus RecoveryのCEOであるMarta Ra博士によれば、人類はパンデミックのために世界規模の緊急事態に置かれており、その影響は長期にわたるだろうという。
結果として、多くの人が無力さや無防備さ、恐れや怒りを感じている。
「そうした感情が人のストレスレベルを上げます。一人閉じこもった場合、ストレスが孤独のインパクトを強めて、根底にある問題を悪化させることがあります。愛する者たちと一緒に閉じこもった場合は、対立の激化として現れることがあります」
そうした問題に対処するには、人々には物事の見方を変え、思いやりをみせ、新しい日常を作ることが求められているとRa氏は語る。
自らの周囲でストレスレベルの上昇が対立を生んだとき、対立が生んだ緊張をほぐす時間を必要としていることを伝える「暗号」を取り入れることが必要だ。
「独りの場合、友人や家族と交流することを日課の一部にするべきです」という。
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身体の健康も、心の健康に大きな影響を及ぼす。「運動や健全な食生活、十分な睡眠の全部が、ストレスに対処して精神的健康を保つための有用なツールです」
専門家は、パンデミック期間が人々の心の健康に悪影響を与えると考えているが、そのような影響を完全に回避することはできないという。
思いどおりにならない場合には、むしろ自分に優しくなって思いやりを持って対処するよう心掛けるべきだ。
「健康的な睡眠や食習慣を含む、自分にとって有効な日課を作るべきです。睡眠と食習慣の両方が人の気持ちに影響するからです」とドバイで活動するメンタルヘルスカウンセラーでカナダ カウンセラー・精神療法協会の会員であるResha Erheim氏は述べる。
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「セルフケアが日課の一部になっていなければなりません。運動や達成感・喜びを感じることができる趣味などの活動に打ち込むことがストレスに対処するうえで役に立ちます」
「瞑想や祈祷、熟考などの精神的訓練は回復力を高め、将来や自分ではコントロールできない物事への不安を和らげるのに役立ちます」
また、人生への感謝の気持ちを高めることが幸福度の向上につながるという研究もある。
このような状況におけるErheim氏のアドバイス
「ポジティブな態度を保って、この危機から個人的・普遍的な希望の兆しに目を向けましょう」
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「スキルを共有したり、サービスを提供したり、他の人たちへの支援その他の活動に従事するべきです。その全部が、幸せな気持ちになって、人生に満足を覚えるために役立ちます」
「COVID-19感染者の増加カーブの高まりを抑えるために規制を引き延ばせば、パンデミックの間だけでなく、パンデミック後においても心の健康の問題や暴力の増加が見られると確信しています」
Erheim氏によれば、悲しみやトラウマの集団体験が精神の不安につながる傾向が、すでに複数の情報によって確認されているという。
「心の健康の問題があらゆる層で見つかって、治療を必要とする人が増え、支援を必要とする家庭内暴力の被害者が増えるのではないかと想像しています」と述べる。
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「したがってメンタルヘルス サービスを求める人たちが増加することになり、サービス提供者は患者数の急増に備えなければなりません」
専門家の中には、これほどの大規模な危機は、個人や地域社会、そして世界レベルで、人々が自分たちの生活を振り返るきっかけになることを期待する者もいる。
「パンデミックは、隔離や規則・規制、あらゆる種類の制限が増えることを意味します」とドバイヘルスケアシティの精神医学・セラピーセンターの心理療法士Laurence Moriette氏は述べる。
「どのような影響があるかは、人々の社会経済学的な状況と密接に関係しています。拡大家族や大勢の同僚と同じ場所で密に生活している人々が、最初にそして最大の衛生的問題の影響を受けるでしょう」という。
「GCC加盟国に住んでいる人の多くは地元の人ではなく、仕事がなくなって、何年も帰っていない自国に戻らなければならなかった人たちがいます。だから、彼らは非常に大きな影響を受けます」
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Moriette氏は、ウイルスやその感染、回復や影響についての不確実性が恐れと不安を生み、自然ではあっても時として不条理な思考につながっていると述べた。
「私たちはマスクをしていない人と接触するのを恐れます。他の人たちは潜在的な脅威になります」とMoriette氏はいう。
さらには、スマートフォンやPCなどスクリーンが付いたデバイスを使用する時間が増えるという問題がある。それは家族間の対立や、スマートフォンへの過度の依存、あるいは依存症につながる可能性がある。
「ロックダウンの前に起こっていたことが、ロックダウン中に増幅されています」とMoriette氏はいう。
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しかし、よい面もあると述べる。「他者への配慮や連帯感、感謝の気持ちも広く世界中で表明されています」
「人々が隣人を助け、共通の脅威のために絆が強まっています。独り暮らしの患者には、人とつながっているという感じが強くなったと述べている者がいます」
とはいえ、家庭内の人間関係に緊張が生まれた場合には、根底にある問題を理解した上で、それを回避するか、落ち着きを取り戻したときに解消することが解決策だとMoriette氏は述べる。
「私たちは同じ境遇にあります」と述べる。
「自分を知って成長するよい機会です。日記を付けたり熟考することを学ぶべきです。困難な時期なのだから、あがいても構わないことは忘れないでください」