
フランク・ケイン
ドバイ:UAEとユダヤ人ビジネス界の商業的関係のプラグマティックな性質は、ドバイの一つの話によってうまく説明されている。
2000年代初頭、ドバイ国際金融センター(DIFC)の建設中、首長国の指導者らは、この新しいビジネス拠点に国際金融業界最高の頭脳を招きたいと思っていた。
彼らはウォール街有数の有名な所に落ち着いた。名だたる機関だが、それは重大なユダヤ人の遺産を持つ所だった。
その銀行は、DIFCのアンカーテナントになるという魅力的な提案について検討していたが、UAEに移転した場合の、その金融業者の信仰を実践する能力に関して疑問が生じた。
最高レベルの議論の中で妥協が成立した。銀行家が慎重ならば、ドバイは、彼らに私有の別荘を礼拝所として使うことを許めることに問題はないと考えた。
そのようにして、ユダヤ教の礼拝所が誕生した。ドバイの高級住宅街にある別荘で、信心深い人々によって長年使用されてきたが、昨年ようやくその存在が認められた。
その銀行は現在もDIFCの中心的存在で、地域本部を持ち、湾岸諸国全てでビジネスを行っている。
この話はドバイの都市神話の一つだが、UAEとイスラエルの友好協定から期待される、ビジネス上の相互利益がどのようなものであるかを完璧に解説している。
バーレーンの国交正常化の動きも、同様の商業的利益をもたらすとみられる。
UAEとバーレーン両方のビジネス専門家らは、イスラエルとの新たな関係から生まれる可能性のある「平和の配当」を探り始めている。また、イスラエルのカウンターパートがその可能性に目を向けるのが遅れているわけではない。
UAEの起業家で金融の専門家であるSabah Al-Binali氏はアラブニュースに対し、次のように語った。「新たな関係は、やむにやまれぬ、当を得た事例です。UAEは、国内で効果的に利用できる量を上回る金融資本を保有しており、そのために私たちは政府系ファンドを持っています。イスラエルには、世界中から集まった人的資本と独創力のアドバンテージがあります。最適な場所です」
驚くことではないが、金融業界は、アラビア湾とイスラエルの相互の可能性を探った最初の業界の一つだった。
UAEの2大銀行であるエミレーツNBD銀行とファースト・アブダビ銀行の交渉に向けた協約が発表された直後、イスラエルの2大銀行であるレウミ銀行とハポアリム銀行は、幹部らがUAEを訪問するよう手配した。
イスラエルの幹部の一人は「取引の範囲は膨大です」と述べたが、まだ何も発表されていない。
直接的な金融・銀行の関係とは別に、イスラエルの投資家らは、UAEの不動産評価額が住宅用・商業用共に歴史的に低いことを利用することに熱心だと考えてられおり、アラビア湾の住宅ローン市場に関与する可能性もある。
同様に、UAEの2大金融ハブであるDIFCとアブダビ・グローバル・マーケットの関係者らは、このような価値の高い進展の中、銀行・金融部門を支援するプロフェッショナル企業の流入を待ち望んでいる。
法律事務所は、いち早くスタートを切っている。イスラエルとUAEの両方で活動するMydddleton Communicationsで通信事業を運営している、英国を拠点とする幹部であるPaul Jaffa氏は、法律事務所が、未経験の新たな市場に参入したい顧客のために活動する大きな可能性を見出している。
同氏はアラブニュースに対し、「私たちは、いくつかの分野の顧客から多くの問い合わせを既に受けていますが、その全てが、不慣れな環境での新規事業で法的支援を必要としています」と語った。
テルアビブから、別の、弁護士から転身した起業家が伝えたのは、以前は政治がビジネスを非常に困難にしていたイスラエルに、新たな機会を求める熱狂が広がっていることだった。
Noa Mayer氏は次のように語った。「顧客から最初に聞かれる質問は、『いつそちらに行けるのですか?』です。多くの部門の多くのイスラエル企業が熱心で、それが私たち全員にとって有益なものになることを期待しています」
金融部門だけでなく、貿易や商業、実店舗の投資などの物質的世界においても、人々は可能性を見いだしている。
最も興味深く、魅力的なものの一つは、ユダヤ人実業家が伝統的に世界で傑出している、宝石や、金などの商品の分野だ。
ドバイ・ダイヤモンド取引所やドバイ金・商品取引所があるドバイ・マルチ・コモディティ・センター(DMMC)は、イスラエル人・ユダヤ人トレーダーとの既存の関係を強化することを計画している。
DMMCの計画に詳しい人物によると、DMMCが主催する多くのダイヤモンドや金のイベントに参加するために、これまではイスラエル以外のパスポートで空の回り道をしなければならなかった、イスラエルのビジネス関係者との自国の接触を「正常化」する、大きな取り引きがまもなく発表されるという。
「それは私たちにとって非常に大きなものになるでしょう。ついに、ユダヤ人のパートナーと通常のビジネスをすることができます」と一人の幹部は述べた。
部門ごとの機会という点では、イスラエル-アラビア湾の商業の可能性は無限に近いと思われる。エネルギーは、依然としてアラビア湾の、群を抜いて最大の生産物であり、言わずと知れた分野だ。
「ここには豊富な原油とガスがあり、イスラエルではガス産業が成長しています。私たちの専門知識は大いに役立つでしょう」とAl-Binali氏は述べた。
Mayer氏が指摘したように、テクノロジーも協力すべき大きな分野だ。「イスラエルは『スタートアップ国家』として知られており、ドバイは『スマートシティ』だと友人たちは私に言いました。テクノロジー関連のスタートアップとの協力には相互利益の大きなチャンスがあり、実際に、ライフサイエンスやデジタルヘルス、バイオメディカル分野など、最先端のテクノロジー分野のあらゆるベンチャー企業にとって大きなチャンスがあると思います」
武器の販売が世界の一部地域で警鐘を鳴らす可能性のある、高額だが政治的に問題のある防衛分野はともかくとして、イスラエルとアラビア湾が既に専門知識を持つ、サイバーやデジタルといった産業では、協力できる余地はたくさんある。
先進農業も可能性に満ちている。「砂漠に花を咲かせた」国としてのイスラエルのイメージは、国家創設の伝説のおかげである部分が多かったが、イスラエルもアラブ世界も、荒れ果てた土地で農業を最大限に活用するために先進科学技術を開発してきた。協力と意見の交換が増えれば、利益をもたらすだろう。
「誰もが他の人から学ぶことができます」とMayer氏は述べ、観光事業を営利事業および文化交流の媒体として強調した。
イスラエルとアラビア湾の関係改善は、物理的な貿易をはじめ、至る所でビジネス上の利益をもたらしているようだ。
歴史的な、UAEとイスラエルの合意実現に一役買った英国のブレア元首相が設立した 「地球変動のためのトニー・ブレア研究所」は2018年、アラブ湾岸諸国との貿易協定を緩和することで、物・サービスにおいて250億ドルもの追加収入をもたらす可能性がある、と試算した。
イスラエルの大臣は、自国とUAEの間だけでも、国防貿易を含めて40億ドルに達する可能性があると述べた。
バーダー・ロック氏は、テルアビブにあるトニー・ブレア研究所のアナリストで、2018年の報告書をまとめるのに協力した。同氏によると、両国間の完全な自由貿易協定の可能性など、新たな関係の詳細が最終的に決まるまでは、協約の商業的側面を最終的に評価することは難しいという。
「イスラエルは既に、アラブの近隣諸国と多くの製品を取引しています。私たちが行くスーパーには、UAEやバーレーン、さらにはサウジアラビアから入ってきた商品がたくさんあります」
イスラエルの人口の2割がアラブ人で、これらの製品はアラブ人の好みに合っていることを忘れないでください」とロック氏はアラブニュースに語った。
「しかし、これまでは、これらの商品はヨルダンやエジプト、パレスチナの領土を経由して運ばれなければなりませんでした。今では貿易が自由になる予定で、ほとんどの人はそれを強く支持しています。UAEやバーレーン、サウジアラビアなどの国々は、イスラエルからビジネス上の敵とみなされることは一度もありませんでした」