
バグダッド:世界の大部分がCOVID-19を恐れているが、イラク人はウイルス自体よりも、このパンデミックによる経済的影響の方をもっと恐れているので、大抵マスクの着用を止めている。
戦争の傷跡を残し、増加する失業者数と深刻化する貧困を抱える国で、国民の大多数は世界的な公衆衛生の危機に構っていられなかったようだ。
バグダッドのある薬局では、たたき売り価格で販売されているにもかかわらず、手術用マスク、透明なフェイスシールド、消毒剤のボトルのパックが山と積まれていた。
このパンデミックが徐々に収束しているという認識が一般に広まっていて、このために人々は無関心になっています」と、首都ザユナ地区の薬局で働くナフェア・フィラスさん(23歳)は語った。
ウイルスとははるかに比べものにならないほど、今や大半のイラク人は、石油収入の急落や、国から支払われる給与や年金の支払いが大幅に遅れることによって生じる経済的苦境の方を注視している。
貧困率は今年、20パーセントから31.7パーセントまで急上昇した、と国連児童基金、ユニセフと世界銀行の最近の共同研究は述べていた。
その一方で、保健省のデータによると、感染率と死亡者数は実際に減少し、こうした望みを与えるような風潮の中で、疫学者たちは説明に苦しんでいるという。
12月12日、30,000人の検査から、陽性反応が検出されたのは約1,000人にすぎず、9月に検出された1日あたり5,000人以上が陽性だった頃から減少していた。1日あたりの死亡者数も、3カ月前に約70人だったのが、16人に減少していた。
イラクは新型コロナウイルスに関しては、心配しなくなっているので、フィラスさんの薬局に入って来る客の大半は、顔を覆うように要請する表示や、入り口にある消毒剤のディスペンサーを無視していた。
珍しくマスクを着用した退役軍人の客は、次のように語った。「私が妻と一緒に街を歩いていて、2人共マスクを着用していると、人々は私たちが何か変なことをしているかのような目で見ます」
イラクは2月、COVID-19の初感染を公式発表し、翌月完全封鎖を課し、空港、国境、学校、政府庁舎、人々のよく集まるあらゆる場所を夏まで閉鎖した。
当局はマスクを着用しない通勤者に50,000ディナール(約35ドル)を科すと発表したが、これが行使されることはほとんどなかった。
同時に政府は、石油価格が急落したために、最悪の財政危機に苦しんできた。
同国は政府職員や年金受給者に予定通りに支払いがもはやできず、家族全員の暮らしが危機に瀕したままだった。
この薬局で、フィラスさんは罰金付きのマスク着用強制に賛成すると語ったが、「この国は罰金を科すことはできないでしょう、とりわけ低所得地域においては無理でしょう」と認めた。「そして、罰金は社会的に弱い立場にある人々を、もっと苦しめることになるでしょう」
バグダッドのある食料雑貨商は、たとえ値引きされたとしても、大家族はマスク、消毒スプレー、その他の衛生用品を買う余裕がどうしてもないと語った。
このような全ての衛生手順を順守するには、資金力が必要となるでしょうが、貧しい人々にあるわけがありません」と、その雑貨商はAFP通信に語った。
それと同時に、貧しい人々を支援する取り組みは、イラクの悪名高い官僚組織によって阻まれている。税関当局の事務作業の遅延により、8月からイラク南部のある港で、約200,000組のマスクと手袋が足止めになっている、と国際赤十字赤新月社連盟の高官が語った。
「これらは、マスクや手袋を買う余裕がない人々を守るためのものです。最も必要としている人々は、多くの人々が密集する場所に暮らしていて、他の人と物理的な距離がとれなかったり、水やせっけんが十分利用できなかったりする人々です」と、その高官は語った。
フィラスさんはこのパンデミックの初期段階で、似たような遅延が発生したことを思い出した。
医療マスクを利用することに熱心だったことで知られるイラク人のグループは、2つしかなかった、とフィラスさんは語った。
1つ目は、治安部隊が発射する催涙ガスから身を守るために、マスクを着用して、昨年街に繰り出した反政府抗議者たちだ。
「私は数百枚のマスクを運び、タハリール広場で配ったものでした」と、フィラスさんは語った。
AFP通信