
エルサレム:イスラエルの議会選挙が火曜日に行われたが、出口調査では、この2年間で4回目の方向の定まらない結果が示され、ベンジャミン・ネタニヤフ首相の今後も不透明なまま、政局の混迷も継続する見込みとなった。
イスラエルの主要な3つのテレビ局が行った出口調査では、ネタニヤフ首相と彼に同調する宗教的・民族主義的勢力と反ネタニヤフ陣営のいずれもが、政権樹立に必要な過半数の議席の獲得に及ばなかった。この結果により、今年の後半に、前例の無い5回連続となる総選挙が行われる可能性が浮上した。
今回の総選挙は世論を二分するネタニヤフ首相のリーダーシップの在り様に対する国民投票の様相を帯びていた。出口調査の結果では、現在の国内の分断の解消の目途が立たず、いくつもの派閥に分かれた複数政党の並立する議会となることが明らかとなった。
出口調査の結果は、また、西岸地区への入植を支持しパレスチナ側との和平交渉における譲歩に反対するという、イスラエルの有権者の継続的な右傾化を示した。この傾向は、反アラブを掲げた超国家主義的な宗教政党の健闘ぶりによって一際鮮明となった。
方向性が示されなかった3回の選挙を経て、ネタニヤフ首相は、今回の選挙で決定的な勝利を収めることで、彼本来の伝統的な超正統派ユダヤ教思想を基盤として、強硬派民族主義の支持者たちと共に政権を確立し、汚職疑惑をかわすことを望んでいた。
ネタニヤフ首相は、支持者たちに向けた演説を控え目な態度で行い、「素晴らしい成果」を誇ったものの、勝利を宣言することはなかった。
その代わり、ネタニヤフ首相は、対立陣営へ歩み寄り、さらなる選挙を避けるための「安定した政府」の成立を呼びかけた。
「いかなる状況下にあろうとも、イスラエルにおいて新たな選挙、5回目の選挙を行ってはなりません」と、ネタニヤフ首相は述べた。「安定した政府を確立すべき時なのです」。
水曜日午前の段階で更新された、2つのテレビ局による出口調査の結果は、議席が2つの勢力間で均等に分割される可能性が高いことを示していた。3つ目のテレビ局は、ネタニヤフ首相側が1議席だけリードすると見込んでいた。
過去、出口調査は不正確であることが多かった。今後数日で明らかとなるはずの最終結果では、勢力の均衡がいずれかの方向に傾くことも有り得る。出口調査の結果通りの最終結果となったとしても、ネタニヤフ首相側と対立勢力側が1つにまとまって連立政権を樹立するという保証は無い。
「3つの可能性の内のいずれかということになります。ネタニヤフ首相が率いる政権、ネタニヤフ首相を野党に追いやって政治変革を目指す連立政権、そして、5回目の総選挙までの暫定政権です」と、イスラエル民主主義研究所のヨハン・プレスナー所長は言った。
いくつもの右翼政党がネタニヤフ首相と連立することは決してないと確言した。ネタニヤフ首相のかつての盟友であり後に同首相を激しく批判するようになったナフタリ・ベネット氏は、選挙期間中、どちらの陣営を支持することも拒否した。
ベネット氏は、非妥協的な民族主義の思想をネタニヤフ首相と共有しており、最終的には首相側の陣営に参加する可能性が高いと見られている。しかし、同氏は、ネタニヤフ首相と対立する勢力との共闘の可能性も、これまでのところは、否定していない。
支持者に対する演説で、ベネット氏はいずれの側にも与しないと言った。同氏は、右翼的な価値観の拡大と浸透に尽力することを明言したが、ネタニヤフ首相のリーダーシップの在り様を、婉曲的な表現を用いて、批判した。
「今が癒しの時なのです」と、ベネット氏は言った。「過去の規範はもう容認できません」。同氏は、イスラエルを、「我田引水的なリーダーシップではなく的確な施策の出来る専門家的なリーダーシップ」によって運営することを企図していると述べた。
ベネット氏は、ネタニヤフ首相を相手に、国務大臣職や首相職の委譲を含む権力共有の取り決めといった要求を突きつけて、強い態度での交渉を行う意思を示している。
さらには、ベネット氏側の支持者には、超正統派ユダヤ主義の2政党と、指導者が公然と人種差別的かつ同性愛嫌悪的である「敬虔なシオニスト」党が含まれている。特に、これらの政党の1つの指導者であるイタミール・ベン=グバー氏は、反アラブの人種差別的思想により米国からテロリストグループ認定を受けたカハ党のリーダーで、1990年にニューヨークで暗殺された故ラビ・メイル・カハネ氏の晩年の弟子である。
こうした政党との関係を強めることは、特に米国の新大統領であるバイデン氏の政権と良好な関係を築きたいネタニヤフ首相にとって、対外的に不都合な状況を招く可能性が高い。
今回の選挙は、世論を二分するネタニヤフ首相のリーダーシップに対する国民投票としての側面が強く、実質的な政策上の争点を欠いていた。
選挙活動中、ネタニヤフ首相は、大きな成功を収めたイスラエルの新型コロナウイルスワクチンの接種キャンペーンを実績として強調した。イスラエル国民930万人分のワクチンの確保のためにネタニヤフ首相が積極的に行動したことは事実で、その後、3ヶ月間で成人人口の約80%への接種が実施された。そのおかげで、政府は、レストランや店舗の営業、そして、空港の運用の選挙日に合わせての再開に漕ぎ着けることが出来たのだった。
ネタニヤフ首相は、また、アラブ諸国と昨年締結した4つの外交的合意を挙げて、国際的な政治家としての自身をイスラエル国民に印象付けようとした。これらの合意は、ネタニヤフ首相にとって非常に親密な協力相手であった当時のドナルド・トランプ大統領の仲介によるものだった。
新型コロナウイルス禍の他の側面において、ネタニヤフ首相は失策続きだったと彼に対抗する陣営は主張している。特に、超正統派ユダヤ教思想の首相支持者たちによるロックダウン規制の無視を容認し、一年の大部分の期間、感染率を高いままにしてしまったことが批判を集めている。
新型コロナウイルス禍により6,000人以上のイスラエル人が死亡し、2桁%の失業率を抱えてイスラエル経済は苦闘している。
反ネタニヤフ首相陣営は、また、首相の汚職裁判に言及し、重大犯罪で起訴されている人物は国家の指導者には相応しくないと主張している。ネタニヤフ首相は、一連のスキャンダルに関連して、詐欺、背任、収賄の罪に問われている。首相は、悪意を持ったメディアと司法制度による魔女狩りであるとして、こうした疑惑を否定している。
ネタニヤフ首相の政治家としての名声すらも最近は揺らぎつつある。イスラエルと公式に外交関係を確立した4カ国の中でも最重要国であるアラブ首長国連邦は、先週、ネタニヤフ首相が同国の訪問を中止せざるを得なくなった後に、同首相の再選の試みのために利用されることを欲しないという明確な公式声明を出した。米国のバイデン政権もこれまでのところネタニヤフ首相とは距離を置いており、これは過去の選挙時にトランプ前大統領から支援を受けていたのと対照的である。
ネタニヤフ首相のリクード党は120議席の議会で30議席以上を占めて最多議席数を有する政党となり、反首相陣営で中道のイェシュ・アティッド党が17議席でそれに次ぐと予想されていた。
残りの議席は、他の約10のより小規模な政党に分割される見込みである。アラブ党や、左翼的で非宗教的な2つの政党、反ネタニヤフ首相の右翼政党などである。
ネタニヤフ首相陣営が53から54議席、反首相陣営が60から61議席を占めると予想されており、残りは前述のベネット氏が掌握すると見られている。
反ネタニヤフ首相陣営には、首相に対する敵意以外には共通点がほとんど無い多様な政党が含まれている。たとえこの陣営が過半数の議席を獲得したとしても、パレスチナ問題やイスラエルにおける宗教の役割といった激しい議論を呼ぶ事案について、イデオロギー上の相違を調整して方向性を示すことは困難になると考えられる。
議席を有していた主要なアラブ系政党が分裂したことも混迷の一因となっている。離党した議員は単独で出馬したが議席を得られなかった模様で、他党と連携して議決に臨む際の貴重な票が失われてしまった。
火曜日の選挙は、ネタニヤフ首相と当時の彼の最大の対立相手が連立に合意し昨年5月に発足した挙国一致内閣が分裂したことが端緒となっている。連立政権は内紛に明け暮れ、12月に予算合意に達することが出来なかった結果、総選挙が行われたのだった。
反首相陣営は、ネタニヤフ首相が訴追を免れるために彼にとってより好都合な議会の成立を期待して混迷を煽っていると同首相を非難している。
選挙結果が明らかとなった後には、象徴的な国家元首であるルーベン・リブリン大統領の言行が注目を集めることになる。
リブリン大統領は、党首たちとの一連の話し合いを経て、政権を樹立する可能性が最も高いと考えられる1人を首相に指名する。この過程では、党派間で熾烈な駆け引きが行われることになると考えられる。
火曜日にエルサレムで投票したリブリン大統領は、政局の混迷は誰にとっても損だと述べた。
「2年間で4回の総選挙を行った結果、民主主義の過程に対する国民の信頼が損ねられてしまった」とリブリン大統領は認めつつもイスラエル国民に投票を呼びかけた。「これが民主主義の唯一の方法なのです」。
AP