
モハメド・アブ・ザイド
カイロ:モタズ・ザーラン駐米エジプト大使は、アフリカ連合(AU)の仲介の下で進む調停プロセスに対するアメリカ政府の支援を求めている。できるだけ早期に大エチオピア再生ダム(Grand Ethiopian Renaissance Dam:GERD)の貯水や運用に関するルールについて法的拘束力のある合意を結ぶためだ。
ザーラン大使は、合意が成立すれば地域の安全と安定が確保され、関係3カ国(エジプト、スーダン、エチオピア)に対するアメリカの戦略的利益が確保されると述べた。
エチオピアは2011年にダム建設を開始した。長さは1.8㎞におよぶ。しかし、エジプトはダムの稼働によりナイル川からの水の供給が減ることを危惧している。一方、スーダンはダムの安全性や、自国のダムや給水所に流れ込む水量が減ることを懸念している。
アメリカ国防大学で開催されたセミナーで、ザーラン大使は自国の水資源確保についてエジプトに妥協の余地はないと述べた。さらにエチオピアがダムの貯水量や運用に関し単独で管理方針を決めた場合、エジプトの水不足が悪化する可能性があると警鐘を鳴らした。
エチオピアの動き次第では気候変動の悪影響が拡大し抑え込められなくなり、環境・社会・経済面で大規模な損害が生じると述べた。
さらにザーラン大使は、エジプト・スーダン両国のナイル川の水資源を巡る問題は地域住民に多大な影響を与えるため、エチオピア一国に任せるのはあまりにも危険だと述べた。
エジプト・スーダン両政府は、関係3カ国の権益を確保するため法的拘束力のある包括的な合意を結ぶ必要があると主張している。
ザーラン大使は、エチオピアの歴代政権がナイル川の水資源や国内産業に関する問題で、故意にエチオピアの世論を煽ることにより強引な政策を進めてきたと述べた。エチオピア政府の動きは国内の反発を封じ込めるためであり、関係3カ国共通の利益を確保するための歩み寄りを模索する姿勢が見られない。
大使は、昨年ワシントンでの交渉にて解決策が提示されたと述べた。エチオピアが国際法の下で今後のプロジェクトを決定する権利が保証されるだけでなく、ダムから可能な限り効率よく発電できる内容だったという。しかし、エチオピア側は単独行動を選び、合意に調印するための会議を欠席した。国際法に縛られ、ダム計画に関し事前に調整・協議する義務を課されるのを嫌がったためだ。
「今回の動きはエチオピアが様々な近隣諸国に対し一貫してとっている政策の一部です。このためケニアのトゥルカナ湖は消滅の危機に瀕しており、ユネスコ(国連教育科学文化機関)もこの件を認めています」と大使は述べた。「さらに、ソマリアのジュバ川とシャベル川流域の住民にも深刻な被害が出ています」
ザーラン大使は、ナイル川流域でも一方的に身勝手な行動を繰り返すエチオピア政府の姿勢をエジプトは認めるわけにいかず、この件はエジプト国民にとり今後の存亡に関わる問題だと強く述べた。
エジプト・スーダン・エチオピア間のダムをめぐる交渉では、これまでのところ法的拘束力のある合意が成立していない。
4月初旬にコンゴ民主共和国の首都キンシャサで協議が行われた。エジプト・スーダン両政府の代表団がダム稼働によりナイル川とその下流に暮らす住民に対し悪影響が出るとの懸念を表明した。