
タレク・アリ・アフマド
ロンドン:6月18日に行われたイラン大統領選でイブラヒム・ライシ氏の勝利が公表されると、世界はすぐに、この選挙結果がアラブ地域に及ぼす影響に注意を向けた。アラブ地域では、イランの代理民兵組織や先進兵器によって長年テロが起こされ、内政への影響力が築かれてきた。
ライシ氏は超保守派として知られているが、中東の専門家で元CIA高官のノーマン・ルール氏は、60歳の聖職者であるライシ氏が政権を握っても、イランの外交政策の範囲や方向性はほとんど変わらないと考えている。
「イブラヒム・ライシ氏が当選したということは、イランが新世代の指導部へと移行しているということだ。新世代の指導部は強硬路線を取り、中東で攻撃的な政策を継続するだろう」。同氏はアラブニュースの特別インタビューでこう語った。
ルール氏はよく分かっているはずだ。同氏は34年間、CIAで中東を担当した後、「反過激主義プロジェクト」と「統一反核イラン」の上級顧問を務めている。イラン政府は、国外に力を誇示する手段として、アラブ世界の代理勢力への支援を継続する、と同氏は予想している。
「イランの中東の代理勢力である(イエメンの)フーシ派、カタイブ・ヒズボラ、その他のイラクの民兵組織、シリアの民兵、レバノンのヒズボラは、イラン政府から引き続き強力な支援を受けるだろう」と同氏は述べた。
ライシ氏は21日、大統領選での圧勝後の最初の発言の中で、核合意をめぐる新たな協議の一環として、イランの弾道ミサイル計画や地域の民兵組織への支援について何らかの交渉を行う可能性を否定した。「交渉はできない」と同氏は述べた。
ライシ氏は今回の選挙で、投票総数(2890万票)の約62%の票を獲得した。投票率は同国史上最低だった。影響力のあるイラン護憲評議会は、許容できる候補者を確実に勝たせるために、候補者リストに入念に手を加えていた。
しかしイランの新大統領は、強い信任を得ていても、実際にはイランの外交・軍事政策をほとんど統制できない。なぜならイスラム革命防衛隊(IRGC)や、海外作戦を担当するコッズ部隊の活動を厳しく指揮しているのは、最高指導者アリ・ハメネイ師だからだ。
なので、イスラム法学者だったライシ氏が、より穏健な前任者ハッサン・ロウハニ氏から大統領の座を引き継げば、ライシ氏はそのまま「イデオロギー的により一貫して、こうした取り組みを支持する」だろう。ルール氏はそう話した。
1979年に起きたイスラム革命の父であるアヤトラ・ルホラ・ホメイニ師が作り出した強硬なイデオロギー、ヴェラーヤテ・ファギーフ(イスラム法学者の統治)を確実に維持するのが、新大統領の真の力だろう。
「ライシ氏が大統領の座に就いているので、強硬派の当事者、特に元IRGC隊員をイラン政府のさまざまな部門に置く機会を同氏は得る。そうすれば、現最高指導者が他界したときに、引き続き強硬路線を取る政権に確実に、より円滑に移行できる。その政権は、ライシ氏が比較的若いため、あと2、30年続く可能性がある」とルール氏は述べた。
人権活動家から「テヘランの虐殺者」と呼ばれているライシ氏は、血塗られた過去を後悔していない。ハメネイ師に目を掛けられているライシ氏は、過去30年間に数万人の反体制派の処刑を命じたと非難されている。イランの活動家らはまた、ライシ氏が1980年代に下級検事でありながら「死の委員会」の委員長を務めていたと主張している。死の委員会は1988年に、殺害された政治犯を共同墓地に埋めた。
ライシ氏が大統領に選出されたことは、反体制派や抗議行動に対するさらなる弾圧が計画されていることを示しているのかもしれない。
「いつかイランの人々は我慢の限界に達したという判断をするかもしれないが、その時には血が流れることになると思う」とルール氏は述べた。「イランの治安部隊はそれを抑え込むだろう」
「だが、イランの人々には同情せざるを得ない。国境のすぐそばで、こうした驚くべきプラスの変化が起きているときに、こんな体制に耐えなければならないのだから」
アラビア湾岸では、サウジアラビアやUAEなどの国々が、テクノロジー、エンターテインメント、気候変動の影響に対処する取り組みなどの分野で躍進している。
「長年この地域を見てきたが、私は今、最も驚異的で印象的な一連の政治的、社会的、経済的、技術的変化を目撃している。イランはこれらの変化のどれにも参加していない」とルール氏は述べた。
「イランの人々はすばらしい歴史を享受しているが、彼らは日ごとに、ますます遅れをとっている。イランは時間のゆがみに閉じ込められている。時代遅れの政治体制から抜け出せていない。進む方向が世界とずれている」
ライシ次期大統領は、イランとサウジアラビアの関係修復を妨げる障害はないと発言しているが、ルール氏は白眼視している。
「イランとサウジアラビアの関係改善を妨げる障害は、イラン製ミサイル・無人機となって姿を現している。それらはサウジアラビアでは毎日のように、罪のない男性や女性、子供に向けて発射されているようだ」と同氏は述べた。イエメンから行われている攻撃に言及した。
「サウジアラビアと湾岸アラブ諸国はイランを攻撃していないのに、イランは常に代理勢力に資金や武器を提供し、訓練を施し、中東全域で罪のない民間人を攻撃している。そのことが大きな障害となっている」
ライシ氏は8月8日に就任する予定だが、この時期は外交的に微妙な時期だ。米国と欧州列強は、イラン核合意としても知られる2015年「共同包括行動計画」を少し変えたものを復活させようとしている。トランプ政権は2018年に「十分強固なものではない」として核合意を離脱した。
改善された新たな合意はイランを無力化し、地域に平穏をもたらす一助になるというのが大方の見方だが、ルール氏は断固反対している。イランが核実験を自制する代わりに対イラン制裁を緩和しても、イランの他の活動を促すだけだ、と同氏は予想している。
「イランの強硬派が核合意に反対する理由はない」と同氏は述べた。「核合意は地域での活動やミサイル活動を制約するものではない。彼らに、こうした活動を支える、安定した資源を提供するのだ」
「私は、イランが地域的な脅威を減らすとは思っていない。シリアの紛争が終わり、イラクが安定すれば、中東の政治力学の性質が変わってくると強く思う。イランは代理勢力を、戦う民兵組織から政治的要素に変えようとしている。イランの中東での活動は、これまでとは違ったものになると思う」
それを実現するために、イランはレバノンの代理勢力への支援を強化する、とルール氏は予想している。
「ヒズボラはレバノンで今後数ヶ月間、とても慎重に事を進める必要がある」と同氏は述べた。「彼らは支配力、影響力、主要省庁に対する彼らの政治的盟友の影響力を維持したいと考えている。しかし彼らは、経済的、政治的意思決定や、罪のないレバノンの人々に強いた苦難に対して責任を負っていると見なされないようにしたいと考えている」
「レバノン人を人質にしているテロ組織や民兵組織に、年間6億~7億ドルが送られていると想像してください。こうした組織への送金は、残念ながら、核合意が締結された後も増えていくだろうが、国際社会には抑制するための選択肢がほとんどない」
ルール氏によると、ライシ氏が大統領に選出されたことで、イエメン内戦の外交的解決の可能性はさらに低くなるという。イランの支援を受ける武装勢力フーシ派が、自分たちの影響力を弱める包括案に応じる可能性は低いからだ。
「私がおおむね悲観的な見方をしているのは、地域の当事者と国連が、フーシ派を外交の場に引き込むために何年も懸命に努力してきたからだ」と同氏は述べた。
「彼らは、決して忘れてはならない当事者であるイエメン政府を通じて、一連の政治的、財政的パッケージをイエメンの人々に提案してきたが、フーシは拒絶してきた」
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