
ナジャ・フーサリ
ベイルート:10月14日にタヨーネ地区で発生した事件で逮捕された人々の家族と、8月上旬にレバノンのカルデ地区で発生した事件で逮捕された人々の家族は、司法当局の「偏った行動」に憤慨している。
この家族らはここ数日、「ヒズボラとその銃撃犯が両方の事件に関与していることは明らかなのにもかかわらず」、両事件に関してヒズボラ関係者が逮捕されていないこと対し怒りを露わにしている。
両事件で拘束された人々の家族らは、レバノン軍の司法機関が暴力に関与した者を見て見ぬふりをしているのではないか、あるいはヒズボラが国家のあらゆる側面に及ぼす圧力によって政府が揺らいでいるのではないかと疑問を抱いている。
ベイルート南部のカルデ地区では、ヒズボラ幹部のアリ・シブリ氏の葬儀の際に、ヒズボラメンバーと「カルデ地区のアラブ人」と呼ばれるアラブ部族に属する住民との間で武力衝突が発生していた。この衝突により、2名が死亡、複数の民間人が負傷した。
第1軍捜査判事代理のファディ・サワン判事は、2日前にカルデ事件の起訴状を発行し、カルデ地区のアラブ部族の拘留者23人を含む32人の被告を軍事裁判所に送致して裁判にかけた。
しかし、サワン判事は、衝突に関与したヒズボラの関係者をすべて無視した。
サワン氏は、「人々に対する犯罪、殺人、殺人未遂、宗派間抗争の扇動、破壊行為、無許可の戦争兵器の使用を目的とした武装集団の形成」の罪で被告を裁くことを要求した。
ヒズボラのハッサン・ナスラッラー書記長は、カルデ地区で発生した暴力について「殺人未遂行為であり、この虐殺はギャングによって行われた 」と述べた。
ナスラッラー氏は「顔と名前が知られている関係者全員が責任を負うべきだ」と要求した。
家族はナスラッラー氏の主張に強く反発し、「アラブ部族を中傷する前に、情報源を再確認してほしい」と求めた。
カルデ地区で発生した事件で逮捕された人々の家族は、金曜日にカルデの高速道路を封鎖し「アラブ部族だけに焦点を当て、ヒズボラを無視すること」に対し抗議した。
家族らは、「カルデ地区出身の21人の若者がまだ釈放されていないのにもかかわらず、治安機関が使命と住所を把握しているヒズボラ関係者はまだ一人も拘束されていない」と述べ、軍事裁判所の偏った行動に対し怒りを示した。
未来運動の議員であるローラ・アル・タバシュ氏は、「アラブの部族はスケープゴートにはならない。アラブ部族の住宅を襲撃した襲撃犯らはなぜ逮捕されなかったのか?」と述べ、「司法は、国家の目の前で抑圧されている人々に反対する立場を取り、武装した抑圧者の味方をした」と語った。
一方、7人の死者と32人の負傷者を出したタヨーネ地区での事件については、まだ誰も起訴されていない。
レバノン軍に所属する人々を中心とした拘留者の弁護団は、「今回の武力衝突に加わったものの、尋問に召喚されなかった武装した人々を記録した写真や映像」を含む訴状を軍事検察に提出した。
しかし、同弁護団によると、軍事検察は「訴状を決定せず」、「訴状において言及された人物は誰も召喚されていない。訴状に言及された人物は、ヒズボラに所属する派閥「抵抗旅団」のメンバーである」としている。
タヨーネ地区での事件後、ヒズボラのナスラッラー氏は、衝突を開始したのはレバノン軍団であると非難し、レバノン軍団指導者に責任を取らせるよう要求した。
その結果、レバノン軍団党首であるサミール・ジャアジャア氏は、レバノン軍の情報部に証言するよう召喚されたものの、ジャアジャア氏はそれに応じなかった。
拘留者の家族は、軍事裁判所の前で抗議デモを行っている。拘留者の代理人を務める弁護士のアントワーヌ・サード氏は、「アイン・ルマーネはスケープゴートにはならない」と述べ、「裁判官は、本事件に関わったすべての当事者を公平に扱っていない。調査について発表された内容は、現実に起こったことと矛盾している」と指摘した。
かつて州のシュラ評議会の議長をつとめたシュクリ・サーダー判事は、アラブニュースに対しこのように語った。「多くの人が、タヨーネy事件とカルデ事件の裁判を扱っている軍事裁判所に不満を持っている。軍事裁判所は独自に運営されている独立した存在であり、最高裁判事は監督できないとされている。被害者を裁き、加害者を排除することは許されるのだろうか。」
さらにサーダ―氏は、「レバノンの司法は混乱しており、政党や立法機関、行政機関が常に司法に対し圧力をかけている。ベイルート港で発生した爆発事故に関する調査で起きていることがその証拠である。」と述べた。
さらに同氏は、同事件の司法調査官が「被告人、特に政治家や治安当局者への尋問が妨害されている。多くの人が、司法調査官を事件から排除し、機密調査を違法に支配しようとした」と加えた。
さらにサーダ―氏はこのように指摘した。
「多くの人々が軍法司法に影響を与え、圧力をかけようとしていることは明らかである。このような事態を未然に防ぐためには、軍事司法の権限を軍人の裁判のみに限定する必要がある。『テロ行為』を口実に軍法司法の権限を拡大するのは権限乱用である。タヨーネ事件やカルデの事件はテロ行為ではなく、街を徘徊するチンピラ集団による行為であり、これは国家を支配する軍閥の産物である。」
「これらの人々は、法治国家を望んでいるのではなく、司法が侵入した狩りの場を望んでいるのだ。」
アフマド・ファトファト元大臣は、軍の司法機関がヒズボラ過激派の逮捕を避けていることに驚きはないと述べる。
ファトファト氏は、「ヒズボラは、軍事司法を含むすべての国家機関を人質に取り、民事司法も乗っ取ろうとしている。しかし、これに対し民事裁判官らは声を上げており、ベイルート港の爆発事件の捜査を指揮しているタレク・ビタール判事はその一人である」とアラブニュースに語った。
アフマド・ファトファト氏はこのように加えた。「これはかなり以前から起こっていることだ。2008年、セジュードにあるヒズボラの駐留する基地の上空をヘリコプターで飛行中に撃墜され、死亡したパイロットのサメル・ハンナ氏のことを忘れていないだろうか。当時、本件についてヒズボラは手に障害を持つ男性を軍事法廷に送り込み、ヘリコプターを撃墜したのはその男性だと主張した。」
「この男性は後に、ヒズボラから「自分がやった」と言うように法的に命じられていたことを認めた。その場で事件は解決し、ヒズボラが責任を問われることはなかった。」
ファトファト氏はこのように指摘した。「レバノンの一部の政党は、レバノンがイランの占領下にあることを認めようとしない。これらの政党が権力を分け合うことでヒズボラを支援している限り、何も変わらない。ヒズボラはレバノンを支配しているものの、彼らは何の責任も負わない。人々はレバノン政府や大統領を批判し、ヒズボラが危機の根本の原因であることに気づかない。」
さらにファトファト氏はこのように強調した。「ヒズボラに単独で統治させ、責任を負わせるべきだ。レバノン国民は皆、ヒズボラと対立する政治的反対運動に参加すべきであり、そうしてこそヒズボラの真の姿が明らかになるのだ。」
「自由愛国運動やナジーブ・ミカティ首相までもが権力にしがみついている理由がわからない。何のためにそうしているのだろうか?ヒズボラの決定により、すでにレバノン政府が混乱に陥っているため、彼らが新たな政治空白を恐れているとは思えない。」