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北アフリカの気候変動が農業と政治的安定を引き起こす

チュニジア北部の町テストゥール。後退する貯水池の水位を眺めるシディサレムダムの従業員。(AFP)
チュニジア北部の町テストゥール。後退する貯水池の水位を眺めるシディサレムダムの従業員。(AFP)
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16 Nov 2021 07:11:26 GMT9
16 Nov 2021 07:11:26 GMT9

チュニジア、シディサレム:チュニジアのオリーブ農家アリ・フィレリ氏は、乾燥した彼の畑を見渡しながら、乾いた埃のような土の塊を手で握り潰した。

「水がない以上、私の土地でできることはなにもありません」と彼はいう。

フィレリ氏は、北アフリカ地域の長期にわたる厳しい干ばつによって追い詰められている多くの農民の一人である。

「父と一緒に農業を始めた頃は、いつも雨が降っていたし、井戸を掘ればそこには水がありました」と、北部の都市ケルアン近郊で約22ヘクタールの土地を耕している54歳の彼は語る。

「しかし、この10年間は常に水不足です。毎年、水位が3〜4メートルも下がっています」

フィレリ氏は、AFP通信にオリーブの果樹園を見せてくれた。オリーブの収穫時期は近づいており、小さくしなびた実をつけているものもあるが、残りは枯れてしまっている。

彼によると、過去10年間で、彼の所有していたオリーブの木1,000本の約半分が干ばつで枯れてしまったという。

この国の水危機は、首都チュニスを含む約300万人のチュニジア人に水を供給しているシディサレム貯水池を見れば一目瞭然である。

長年の干ばつにより、貯水池の水位は極端に低下しており、この地域の将来にとって不吉な兆候となっている。

貯水池の水面は、2018年の洪水でできた高水位から15メートルも下がっている。エンジニアのチェリフ・ゲスミ氏は、ダムで働いていた10年間で「恐ろしいほどの気候変動」を目の当たりにしているという。

「今日の状況は本当に危機的です」と彼は語る。

「2018年の洪水以降、ほとんど雨は降っていません。私たちは、その時の水を今も使っているのです」

8月にチュニジアが摂氏48度(華氏118度)を超える記録的な暑さに見舞われたとき、貯水池は蒸発だけで1日あたり20万立方メートルの水を失ったと彼は語る。

10月下旬の大雨にもかかわらず、ダムの集水域ではほとんど雨が降らず、今週の公式発表によると、現在の貯水率は17%にとどまっている。

チュニジアの近隣諸国も同様の問題に直面している。世界資源研究所(WRI)によると、アルジェリア、リビア、モロッコ、チュニジアの北アフリカ諸国は、世界で最も水不足の深刻な30カ国に含まれている。

このような状況は、この地域の不安定な社会的政治的バランスを崩すような社会的変化を引き起こす可能性があると、専門家は警告している。

フィレリ氏の畑では、冬用の小麦や大麦をまく計画も延期せざるを得ない。

彼はこれらの状況が引き起こす連鎖反応について語る。収穫量が少ないと、農家は借金を重ね、季節労働者の雇用も減り、現在の18%の失業率に加えて、多くの人が国を離れることになってしまう。

「息子は『父さん、チュニスかどこかで仕事を探したほうがいいのかな。このままだと僕はここでの将来がない』と言っています」

チュニジアが直面している問題は、北アフリカ全体に及んでいる。

オレゴン州立大学で地理学を研究するアーロン・ウルフ教授は「北アフリカ全体の水位は、地下水の過剰な汲み上げと降水量の不足が相まって低下しています」と語る。

リビアでは、独裁者ムアンマル・カダフィ大佐の時代に作られた巨大なシステム「リビア大人工河川(Man Made River)」が、南部の砂漠にある有限の帯水層から「化石水」を沿岸都市に汲み上げるために使われていると、教授は説明する。

8月に大規模な森林火災が発生したアルジェリアでは、貴重な飲料水が定期的に灌漑(かんがい)や産業用途に使用されている。

また、モロッコでは、干ばつが「農業生産に大きな影響を与えている」と経済省が発表している。

首都ラバトのモハメド・サディキ農相は議会で、降雨量が昨年よりも84%減少していると述べている。

ウルフ教授は、干ばつの影響は地方にとどまらず、国境を越えた移住を引き起こしていると指摘している。

「地方の水問題を解決することは、すべての関係者の利益になります」と彼はいう。

「干ばつは、農村部の人々が支援のない都市部に移住、結果として政治的緊張を悪化させるなど、政治的不安定につながるあらゆることを引き起こします」

チュニジア環境省の水計画責任者であるハマディ・ハバイエブ氏は、降雨量の減少と人口の増加が重なると、2050年には一人当たりに供給される水は「はるかに少なくなる」と述べている。

「チュニジアは適応する必要があります」と彼は語る。

そして同氏はこう強調している。「チュニジアの農業には未来があります。ただし、水不足や気候変動に対応できるような、非常に特殊な作物に移行する必要があるでしょう」

しかしフィレリ氏にとっては、どのような解決策をとっても、彼のビジネス、そして20歳の息子の農業人生を救うには遅すぎるかもしれない。

「畑は諦めて、首都か、他の場所に行こうと考えています」

「水がなく、雨も降らない状況でここに留まる意味はありません。ここを出れば、少なくとも私の子供たちは別の未来を見つけることができるでしょう」

AFP

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