
ウバイ・シャーバンダル
ワシントンD.C.:1983年10月下旬のある朝、当時はまだあまり知られていなかったヒズボラというテロリスト集団のメンバーが運転する2台の自爆トラックがベイルートの米海兵隊兵舎に突っ込み、米軍兵士241名、フランス軍兵士58名、民間人6名が死亡する事件が起きた。
イランのイスラム革命防衛隊が武装化させ、資金提供し、教化したヒズボラは、イスラム共和国の地域的野望を推進し、その影響力を拡大し、イデオロギーを輸出するために組織された。
前述のテロ以降、ヒズボラはレバノンの社会、経済、政治のあらゆる側面に触手を伸ばしてきた。その影響力と権力は、イスラム聖戦機構として知られる特別部隊を通じて海外にも広がっている。
最近では、ヒズボラは数千人の戦闘員をシリアに送り込んでバッシャール・アサド政権を支えているが、シリアの民間人に対して民族浄化やその他の戦争犯罪を犯しているとして非難されている。
2019年10月にレバノンの支配階級に対する大規模な抗議デモが発生した際、ヒズボラの武装集団は平和的なデモ参加者たちに攻撃を加えた。今年10月には、ヒズボラの過激派が銃を持つ身元不明のグループと衝突し、ベイルートの路上で同様の暴力シーンを繰り広げた。
ヒズボラは地域全体で、ヒズボラの指導者ハッサン・ナスラッラー氏を賞賛する、テロリストのフーシ派民兵を支持するイエメン人(右)といった、イランから資金援助を受けるグループのサポートを受けている。(AFP/ファイルフォト)
ヒズボラの支持者たちは、2020年8月4日に発生したベイルート港爆発事故の独立犯罪調査団を率いる判事の解任を求めて、司法省庁舎の外で抗議活動を行っていたが、銃撃を受け、路上の銃撃戦へと発展した。
過去のテロ事件に関与した疑いがあるヒズボラは、爆発の原因である大量の硝酸アンモニウムの隠し場所にも関係している可能性がある。捜査当局は同グループと密接な関係にあることが知られる元政府高官の尋問を望んでいるが、これはヒズボラにとって直接的な脅威だ。
ヒズボラによる暴力事件のほとんどの場合、レバノン軍はただ傍観していたか、重装備でよく訓練された同グループの過激派に立ち向かえなかったかのどちらかだった。
数百発の精密誘導弾や、数千発の短・中距離地対地ロケット弾といった強力な兵器を持つヒズボラは、レバノンの武装組織の中で群を抜いており、最も危険な存在である。
ヒズボラに関する国連事務総長の最近の報告書は、国連安全保障理事会決議1559にある、長年叫ばれてきた同グループの武装解除要求を繰り返した。
同報告書は、「ヒズボラによる法的枠組み外での軍備の維持や、シリア・アラブ共和国への関与は、レバノンの多数の人々によって非難され続けており、これらの問題は国内情勢を不安定化する要因、また民主主義を損なうものとみなされている」と述べている。
「多くのレバノン人はこうした武器が存在し続けることを、それらが政治目的でレバノン国内で使用されるという暗黙の脅威ととらえている」
2021年10月14日、首都ベイルートの南部郊外にあるタヨーネ地区で、ヒズボラやアマル運動の支持者によるデモに続いて発生した衝突の際に、自宅から避難する民間人たち。(AFP/ファイルフォト)
こうした懸念には十分な根拠がある。ヒズボラの指導者、ハッサン・ナスラッラー氏は最近行った演説の中で、10万人の戦闘員を集めたと主張し、ベイルート港の爆破調査を非難した。
ヒズボラが「国家の中の国家」を創り出していることは、レバノンの政治経済や外交上の地位に悪影響を及ぼしており、同国を貧しくし、孤立させている。しかし、特にイランの庇護を受けていることと、欧米諸国が団結した対策を確立できていない現状では、ヒズボラの武装解除の可否について専門家の間で意見が分かれている。
民主主義防衛財団のレバノン専門家であるトニー・バドラン氏はアラブニュースに、「国連がヒズボラの武装解除を要求する決議を採択しても、米国が中心となって何十億ドルもの税金を投入した手段のどれも、同グループの武装解除を達成し得るものではありませんでした。私が言うのは、レバノン軍とレバノンに駐留する国連レバノン暫定軍のことです」と語った。
「アメリカがいくらレバノン軍の『能力』や『プロ意識』を高めたところで、彼らがヒズボラに対抗して行動することはありません。こうしたことは無関係です。問題となっているのは政治秩序だからです」
「例えば、ヒズボラは政府です。レバノン軍はその政府に従います。どんな政府も、ヒズボラが参加していない政府でさえ、同グループに対抗する行動を承認することはありません。それがレバノンのシステムの構造上の特徴です。アメリカが何十億ドル投じようと、それは変わりません」
実際、アナリストたちは、ヒズボラが主要な軍事・金融機関に寄生していると指摘している。米財務省は最近、同グループに財務省やレバノンの金融部門へのアクセスを許可したとして、元財務大臣に対する制裁を発動した。
国防の専門家たちは、欧米諸国がレバノン軍に供給する援助のかなりの部分が、実際にはヒズボラの財源になっていると考えており、レバノンとイスラエルの国境に駐留する国連レバノン暫定軍、つまり国連の平和維持軍も、ヒズボラの支配力を強めているに過ぎないと見ている。
武装解除の次善策は、単にレバノンとの関係を断ち、外部からの資金援助を全て断ち切って、ヒズボラの収入源を奪うことかもしれない。
「米国は今、ヒズボラ主導の秩序と現状の安定に投資しているのであって、レバノン軍はヒズボラの補助部隊として機能しています」とバドラン氏は言う。「同様に、国連レバノン暫定軍に兵力を提供している国は、現状を維持し、ヒズボラとの衝突を避けようとする動機付けに事欠きません」
「結果として、レバノン軍と国連レバノン暫定軍はヒズボラ武装解除の有効な手段となるにはほど遠く、むしろ、同グループの活動を覆い、支援しているのです」
「ですから、米国にとって唯一意味ある政策とは、この両軍への資金提供の停止です。サウジアラビアは数年前にこのことに気づき、レバノン軍への資金提供を停止しました。レバノンという見かけ上の国家が、ヒズボラによって完全に支配されていることを理解したのです」
アシュラの喪の期間の後に、レバノンのシーア派ヒズボラ運動が主催する行列で軍服を着て武器を携行する少年たち。レバノン南部の都市ナバティエにて。(AFP/ファイルフォト)
ヒズボラを理解することは、イランの地域戦略を理解することだ。ヒズボラはその立場を活用して、レバントのみならずイエメンに至るまで、イランの利益と領土を守ってきた。
そういうわけで、レバノン「国家」は「麻薬取引やマネーロンダリングはもちろん、地域不安定化を前進させる足がかりとして機能してきたのです」とバドラン氏は言う。
ヒズボラは、レバノンで軍備を維持し、特別な役割を持つことは、イスラエルに対抗するために必要だと主張するが、実際には、その軍事的優位性とレバノンの治安組織に対する支配力を利用して大きな金銭的利益を確保している。
アメリカ政府は5月に、ヒズボラの金融会社であるアル・カード・アル・ハッサン社に対する制裁を発動した。サウジアラビアも同社をテロ組織として指定している。
米財務省は最近の報告書で、「ヒズボラの最高レベルの金融組織から実務レベルの個人に至るまで、ヒズボラはレバノンの金融部門を悪用し、すでに悲惨な状況にあるレバノンの財源を流出させ続けている」と述べている。
「アル・カード・アル・ハッサン社は、内務省が付与したNGOライセンスを利用して非政府組織を装い、適切なライセンスの取得や規制当局による監督を逃れながら、ヒズボラを支援する銀行サービスを提供している」
「アル・カード・アル・ハッサン社は、レバノン経済が切実に必要としている国際決済通貨を買い占めることで、ヒズボラが自らの支援基盤を構築し、レバノン国家の安定性を損なうのを許している」
英国の安全保障アナリストであるカイル・オートン氏は、ヒズボラが自発的に武装解除するとは考えていない。ヒズボラはこの地域に対するイランの長期計画の延長線上にあり、レバノン国民の利益よりもイランの意向に従うからだ。
首都ベイルートの南部郊外にあるタヨーネ地区での衝突で、カラシニコフ・アサルトライフルとロケット弾発射装置で狙いを定める、ヒズボラとアマル運動のシーア派戦闘員たち(左から右へ)。(AFP/ファイルフォト)
オートン氏はアラブニュースに対し、「明らかに、ヒズボラが自発的に武器を放棄することは決してありませんし、彼らにそうするよう強制できる者もいません。もちろん国連もできません」と語った。
「実際のところ、ヒズボラの問題を『武装解除』の問題としてとらえるのは、いささか的外れと言えます。問題はヒズボラの武器にではなく、1979年にイランを占領したイスラム革命から派生しているという、その性質にあります」
「ヒズボラを国々をまたぐイスラム革命の不可欠な構成要素と見なせば、イスラム革命防衛隊の地域帝国のための憲兵隊、また増援部隊として彼らが行動していることが分かりますし、ヒズボラに対処する唯一の真の解決策とは、イランのイスラム共和国の排除であることも分かります」
「ヒズボラはレバノン内部の存在ではありませんから、武装解除のメカニズムであれ何であれ、レバノンの枠組みの中で取り扱おうとすれば、必ず失敗します」
レバノンのアナリストで「ヒズボラ: レバノンの神の党による政治経済学(Hezbollah: The Political Economy of Lebanon’s Party of God)」の著者、ジョセフ・ダヘル氏によると、同グループは今もレバノン社会に支持基盤を維持している。
ダヘル氏はアラブニュースに、「同党やヒズボラの議員に対する抗議行動など、コミュニティ内での批判が高まってはいるものの、同党はレバノンのシーア派の人々の間で依然として大きな動員基盤を維持している」と語った。
経済の混乱、通貨の暴落、世界での孤立化により、ヒズボラへの反対を表立って表明するレバノン人が増えているが、同グループは異論を封じ込めるための武力行使を躊躇しない。
ヒズボラの武装解除は困難に思えるかもしれないが、レバノン人は宗派によらず、やはり難しい問題に直面しなければならない。ヒズボラがこのまま処罰されることなくレバノンを弱体化させ続けるなら、同国ははたして主権国家として存続できるのだろうか?
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ツイッター @OS26