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暗殺者の教義:ジョン・ボルトン氏殺害計画はイラン体制のDNAに組み込まれていた

IRGCによる最近の暗殺計画の標的にされたことが明らかとなった、(左から)ジョン・ボルトン氏、マイク・ポンペオ氏、アデル・アル・ジュベイル氏。(AFP写真)
IRGCによる最近の暗殺計画の標的にされたことが明らかとなった、(左から)ジョン・ボルトン氏、マイク・ポンペオ氏、アデル・アル・ジュベイル氏。(AFP写真)
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12 Aug 2022 08:08:12 GMT9
12 Aug 2022 08:08:12 GMT9
  • 2011年、イランの工作員は同様に(当時サウジ大使だった)アデル・アル・ジュベイル氏をワシントンD.C.で殺害しようと企てた
  • 米司法省が先日IRGCによるボルトン氏とポンペオ氏の殺害計画を暴露したことで、イランによる国外テロの長い歴史が掘り起こされた

ルーカス・チャップマン、ラワン・ラドワン

カーミシュリー、シリア/ジェッダ:この1年間、米国の首都ワシントンD.C.の通りで、市民のあずかり知らぬうちに一人の暗殺者がターゲットを追跡していたと主張されている。狙われたのは米政府の元高官で、もし殺害が実行されていれば世界を震撼させ、西側に対する報復の象徴となっていただろう。

米司法省は水曜日、ジョン・ボルトン氏の殺害を計画したとして一人のイラン国民を正式に訴追した。計画は失敗に終わったという。同氏はブッシュ政権とトランプ政権のもとで国家安全保障担当大統領補佐官を務めた人物だ。

シャフラム・プルサフィ容疑者は嘱託殺人遂行の目的で州間商業施設を利用した罪や、テロリストに対する物質的支援の提供および提供未遂の罪に問われている。

FBIによるシャフラム・プルサフィ容疑者「指名手配」の告知。(AFP)

司法省の訴追状によると、プルサフィ容疑者は米国内で犯罪者を雇って30万ドルと引き換えにワシントンD.C.かメリーランド州で殺害を実行させようとした。2021年11月9日、同容疑者は秘密情報提供者と接触した。

FBIによると、プルサフィ容疑者はイランのイスラム革命防衛隊(IRGC)の隊員である。IRGCはサウジアラビア、バーレーン、米国からテロ組織に指定されている。同容疑者はIRGCの精鋭部隊「コッズ部隊」のために行動していた。まだ身柄は拘束されておらず、武装して危険な状態であると考えられる。

イラン外務省のナセル・カナニ報道官は、イラン政府がボルトン氏殺害を計画したことを強く否定し、その主張には「根拠がない」とした。しかし、同国体制が国外の批判者や反体制派を標的にしてきた長い歴史は、無実の主張が嘘であることを示している。

1979年のイラン革命以降、同国政府は世界中の反体制派イラン人や外国高官に対して暗殺や攻撃を実行してきた。直近の殺害計画が明るみに出てもイラン情勢の専門家モハメド・アル・スラミ博士が驚かなかったのはそのためだ。

国際イラン研究所(Rasanah)の創設者で所長の同博士はアラブニュースに対し、「イランは数十年間この戦略に従っている」と語る。「同国体制は世界中で暗殺作戦を二十数回以上成功させている」

王朝時代最後の首相だったシャープール・バフティヤール氏を殺害した罪で収監されていたフランスのポワシーの刑務所を去る、イランの工作員アリ・ヴァキリ・ラッド(中央)。2010年5月18日。(AFP)

1979年以降、イラン政府とつながりがあるとされる人物が、フランス、米国、オーストリア、スイス、イギリス、ドイツ、オランダ、アルバニア、タイ、デンマーク、トルコなど十数ヶ国以上で、反体制派や反対勢力の人物に対して攻撃を実行してきた。また、航空機ハイジャックや政府機関・軍事施設の爆破なども世界中で行っている。

イラン核兵器抵抗連合の政策担当者ジェイソン・ブロツキー氏はアラブニュースに対し、「米国の情報コミュニティーによる世界脅威評価は長年、イランがこのような作戦のために米国内にネットワークを構築しようとしていると警告してきた」と語る。

同氏は、「このような作戦はショッキングではあるが、意外ではない。イスラム革命開始の頃にまで遡る長い歴史があるのだ」と言い、1980年にイラン亡命者であり米国のイラン大使館の元公報官であったアリ・アクバル・タバタバイ氏がメリーランド州で暗殺された事件に言及した。

ブロツキー氏は、2011年に米司法省が、当時サウジ大使だったアデル・アル・ジュベイル氏に対する嘱託殺人を計画したとして2人のイラン国民(そのうち1人はコッズ部隊の司令官)を訴追したことを指摘する。

FBIの調査により、容疑者の1人でありイランと米国の二重国籍者であるマンスール・アルバブシアル容疑者に対してコッズ部隊の既知の銀行口座から送金が行われたこと、また暗殺の報酬が150万ドルであったことが明らかになった。

2011年の司法省の訴追状にはこうある。「コッズ部隊は、テロ攻撃、暗殺、拉致などの公にできない秘密作戦を国外で遂行する部隊であり、イラクでの多国籍軍に対する攻撃を支援したとされている」

当時のエリック・ホルダー司法長官はこう付け加えている。「本日公開される訴追状は、イラン政府の諸派閥が米国本土において外国の大使を爆発物で暗殺するという恐るべき計画を指揮したことを明るみに出すものだ」

マンスール・アルバブシアル容疑者は、当時駐米サウジ大使だったアデル・アル・ジュベイル氏の暗殺を計画したとして2013年に米国の法廷で判決を受けた。(ツイッター写真)

メキシコの麻薬カルテルを雇ってアル・ジュベイル氏を暗殺させようとしたこの企ては、計画が杜撰だったことや、技能の高くない工作員を使ったことで、最終的に失敗に終わった。テキサス州で中古車セールスマンをしていたアルバブシアル容疑者は、2013年に懲役25年の判決を受けた。アル・ジュベイル氏は現在サウジの外交担当国務相を務めている。

サウジの政治アナリストで国際関係学者のハムダン・アル・シェリ博士はアラブニュースに対し、「イランは、合理的疑いの余地なく、国際テロを支援している」と語る。

「工作員や代理軍隊を通してそれを行い、地域内外に混乱を作り出している。米国の高官や軍事基地も攻撃しており、今や地域だけでなく米国にとっても脅威となっている」

イランが行っているとされるこのような攻撃の対象は政治家だけに限られない。イラン系米国人ジャーナリストで女性権利活動家のマシ・アリネジャド氏は、昨年7月の拉致計画の標的となった。つい先月、ニューヨークの同氏の自宅の外で、銃弾が装填されたAK47ライフルを持った男が逮捕された。

ブロツキー氏によると、アリネジャド氏の拉致計画には、国際的な精鋭部隊であるコッズ部隊ではなく、イランの情報工作員が直接関与していた。

イラン系米国人ジャーナリストで女性権利活動家のマシ・アリネジャド氏は、イランによる昨年の拉致計画の標的となった。(AFPファイル)

「IRGCのコッズ部隊だけが米国本土の米国国民に危害を加える作戦を試みているわけではない。イラン情報省もそのような作戦を遂行している」という。「このことは、イラン体制内の様々な部分が米国に侵入しようとしていることを示している。これは間違いなく懸念すべき事態だ」

元米国務長官のマイク・ポンペオ氏に近い情報筋がCNNに語ったところでは、イランによる直近の殺害計画のターゲットはボルトン氏だけではなかった。プルサフィ容疑者が第三者を通して暗殺を試みた2人のうちの1人はポンペオ氏であり、同氏暗殺の報酬は100万ドルだったという。

米国の政府高官や市民を標的としたイランの計画は、2020年1月1日にIRGCコッズ部隊のガセム・ソレイマニ司令官が殺害されたことを受けたものだ。この事件以降、イラン政府や軍部の高官は同司令官の殺害に対する報復を誓っていた。

しかし、アル・スラミ博士は、イラン体制は報復という意味では完全に失敗しており、地域内外の支持者の間でイメージを貶めてしまったと言う。

同博士はアラブニュースに対し、「ソレイマニ司令官は、イラク、シリア、レバノン、イエメンにおいてIRGC戦闘員を統率するうえで、替えのきく軍事司令官ではなかった。イランの地域部隊の統率にとって大きな損失となった」と語る。イランは、ソレイマニ司令官殺害の報復が完了したとプロパガンダでイラン国民や同国を後ろ盾とする民兵組織に信じさせることができなかったため、暗殺を実行に移すことにしたという。

イランの悪名高いコッズ部隊の元司令官である故ガセム・ソレイマニ少将。(AFP)

ソレイマニ司令官殺害から2年が経った今年1月、イランのイブラヒム・ライシ大統領は、当時のドナルド・ドランプ大統領が攻撃を指示したとして裁判にかけられない場合は、殺害に関与した者たちに報復すると宣言した。

ソレイマニ司令官殺害当時、ポンペオ氏は国務長官を務めており、ボルトン氏はイランの体制転換と米国の核合意離脱の両方を支持していた。

先日の殺害計画暴露は、米国とイランの関係に対する影響はあるか、あるとしたらどの程度かという問題については言及を避けていたとアル・シェリ博士は言う。「1979年11月にアヤトラ・ホメイニ師が米国を『大悪魔』と非難してテヘランの米国大使館の占拠を承認して以来、米国はイランのことを世界で最も過激で非理性的で危険な政権の一つと見なしてきた」

ドナルド・ドランプ大統領(当時)の発言を聞くジョン・ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官(左)とマイク・ポンペオ国務長官(右)。2019年2月7日、ワシントンD.C.。(Getty Images、AFP経由)

同博士はこう問う。ボルトン氏とポンペオ氏の殺害未遂の後でも、「米国はまだイランがウラン濃縮計画を続けるのを許すのか?核兵器能力の獲得を許すのか?」

殺害計画が発覚すると、政治評論家たちはSNSで、イランとの関係に対するバイデン政権のアプローチを批判した。

元国防副次官補(中東担当)のシモーヌ・レディーン氏は、「元米国政府高官の殺害計画があったくらいでは、この政権にイランとの交渉を思いとどまらせることはできない」とツイートした。

元国務省報道官のモーガン・オルタガス氏はツイッター上でこう反応した。「(マイク・ポンペオ氏の)殺害のためにはイラン体制は犠牲を惜しまないことは明らかだ。バイデン政権がイランに対抗するために動かぬ証拠を必要とするからといって、元国務長官を中心とした多数の犠牲者を出す事件が起こるようなことがあってはならない」

反体制派や敵対者を国外で暗殺するイランの大胆な試みの背後には、深刻な結果にはならないという認識があるかもしれないと、アナリストは注意を促す。ブロツキー氏は、イランにとっては米国政府高官暗殺に伴う潜在的な報酬はリスクをはるかに上回っており、それは米国から目に見える反応がないことも一因になっていると指摘する。

「イラン体制に対する政策のレベルでは、米国政府高官に対する攻撃は深刻な結果を招くことになると政府は言っている。攻撃未遂の場合は?今回は元安全保障担当大統領補佐官と元国務長官に対する攻撃未遂だ。大問題だろう」と同氏は言う。

「攻撃未遂があったのに何の反応もないということになれば、サイクルを絶ってイランの計算を変えることはできない」

アル・スラミ博士は今後についてこう語る。「政治的・安全保障的交渉やイランとの約束によってこの好戦的でテロリスト的な行動に対処しない限り、イランの政治体制は地域内外の国や、特に米国やサウジアラビアの高官を標的にし続けるだろう」

「そうしなければ、イランは米国やアラブの高官を標的とした暗殺政策を続けるだろう」

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